「ベリルさん、スズカさんにぶつかったのは、ジルコンさんです。しかし、この事件には、こうなるように仕組んだ『真犯人』がいます」
「し、真犯人だぁ……?」「どういうことでしょう?」「ウソでしょ……?」
保健室が、再びざわついた。
「キング君! この事件は、別の者によって計画されたものだと……!?」
「じゃ、じゃあよ! ジルコンは、そいつにハメられてたってことか!?」
トパーズさんもハヤヒデさんも目を丸くし、動揺している。
「いえ、ジルコンさんはジルコンさんで、自分の意思で犯行に及んだはずです。しかし、この事件には1つだけ、不自然な点があるんです」
ハヤヒデさんは少し考え込み、やがて視線を上げる。
「ベリル君にぶつかったこと……か?」
「その通りです。スズカさんを恨んでいたのなら、わざわざベリルさんへぶつかる必要はない。最初、犯人の目的はスズカさんに濡れ衣を着せることだと思いましたが、そのためだけに友人を危険にさらすのは、変だと思うんです」
「たしかにそうですね」
マンデーさんがうなずきながら言う。
「それに、この足跡の写真を見てください」
私がスマホに写真を表示し、みんなに見せる。
「左から2番目のレーンの足跡は、スズカさんの倒れた近くで右に近づいてるものがあるけど、左には無いの。つまり、ジルコンさんからぶつかりに行ったわけではないわ」
「じゃあ、なんだ? なんでジルコンはベリルにぶつかったんだ?」
トパーズさんは、首をひねっている。
「キングさん、これはつまり……」
マンデーさんは息を呑んだ。
「ええ。ベリルさんがぶつかるように仕組んだ『真犯人』。それは……」
私は、横たわっている1人を指差した。
「被害者であるグランドベリルさん。あなたです」
「えっ……!?」
ベリルさんは、目を見開き、口元を震わせる。
「はあっ!?」
トパーズさんは、大きく口を開け、固まっている。
「ウソでしょ……!?」「ベリルが!?」
マンデーさん、スズカさんも驚いている。
「あ、えっ、ええっ……!?」
ジルコンさんも目を丸くして、ベリルさんの方を見つめる。
「被害者が犯人!? どういう意味だ、キング君!?」
ハヤヒデさんも、声を上げて迫ってきた。案の定、場は混乱してるわね。
「ジルコンさんがベリルさんにぶつかる理由が、どう考えてもありません。先程の言動からも、ジルコンさんはベリルさんにぶつかる意図は無かったと思われます」
ベリルさんに謝る時、『こんなことになるなんて思わなくて』と言っていた。これは、元々スズカさんにだけぶつかるつもりだったから、出てきた言葉でしょう。あれだけ泣いてたのだから、ウソを言える状態じゃなかったと思うし。
「つまり、ベリルさんがジルコンさんにぶつかりに行って、気を失った。これが事件の真相です」
ベリルさんの目が泳ぎ始める。他の人も、戸惑いが隠せないようだ。
「おい、さすがに意味わかんないぞ、キング! ベリルからジルコンにぶつかりに行く理由だって、無いだろうが!」
トパーズさんが地面を踏みつけ、まくし立て続けた。
「ジルコンはたしかに犯人だったから、まあいい。だが、ベリルが真犯人はあり得ない! そんな話を続けるんなら、アタイはアンタを訴えるよ!」
「あり得ない話でもありません。彼女が真犯人だと、辻褄が合うことが多いんです」
ここまでベリルさんと話して感じていた違和感。それらが全て、彼女が真犯人であると証明してくれているのよ。
「まず、保健室でのあなた達との会話です。ベリルさんは、ケガが無いことに対して喜ぶ素振りはなく、曖昧な返事をしていただけでした。また、トパーズさんがスズカさんに謝らせると言っていた時、ベリルさんは目を丸くし、戸惑っているように見えました」
「次に、私達の聞き込みでのことです。彼女は犯人を探したがらず、スズカさんが犯人ではないと思うと話しました」
「これらのことからベリルさんは、誰が悪いとか、誰がぶつかったとか、そういう話になるとは思っていなかったんです。そうなって欲しくなかったから、あなた達の言葉に戸惑った」
ベリルさんは誰かにぶつかりつつ、誰も巻き込みたくなかった。だから、目撃者が少なくなるタイミングで事を起こした。おそらく、ジルコンさんとスズカさんがぶつかったところも見た上で、飛び出したんでしょうね。
「……? 少し待ってくれ、キング君」
ハヤヒデさんが首をかしげている。
「なんでしょう?」
「君の言うことを聞いていると、ベリル君は誰かを悪者にはしたくなかったのか?」
「ええ、そうですけど」
「ベリル君がジルコン君にぶつかりに行ったなら、ジルコン君を犯人だと言うんじゃないか? ベリル君はジルコン君を恨んでたからぶつかったんだろう? 彼女をケガさせるために」
ん? ジルコンさんを恨んでいた? ケガさせるため? そんなことは私、言ってないけど……。
……あー、そういうことね。私の言いたいことが、ちゃんと伝わってなかったんだわ。
「ハヤヒデさん。ベリルさんは、ジルコンさんをケガさせようとして、ぶつかったわけではありません」
この言葉に、ハヤヒデさん以外の人も首をひねる。
「ケガをさせようとしたわけではない? では結局、君は何が言いたいんだ?」
ハヤヒデさんに問われ、頭の中で再確認する。ベリルさんがジルコンさんにぶつかろうとした理由。この理由だけは、憶測で言うしかない。絶対あっている確証はない。けど、やはり私には、これ以外に思いつかない。思わず手が力んだ。握られた内側に少し、湿った感触。知らないうちに手汗をかいていたみたい。でも。
「言おう、キングちゃん!」
隣にいたウララさんの手が、私の手を包む。力が抜け、指が開いていく。そうね、言うしかないわ。その方が良いと思ったからこそ、私達は全部言うって決めたんだもの。深呼吸をして、ゆっくり口を開ける。
「ベリルさんは、自分がケガするためにぶつかったんです」
それを聞いても、みんな固まっていた。その表情から察するに、驚きというよりは、『よくわからない』とか、『なんでそうなるの?』という疑問、呆れのようね。
「自分からケガしたいって、どうやったらそう考えるんだよ?」
トパーズさんからの質問に、「それはね~」と返事をするウララさん。
「ベリルさん、レースをお休みしたくなったんだよね?」
彼女がそう言うと、ベリルさんは目を見開き、小刻みに首を振り始めた。
「ベリルさんは、夏頃から入着すらできなくなってしまった。先月の天皇賞も負けています。負け続けのつらさとプレッシャーに耐え切れず、レースを休む理由が欲しくなった。だから、模擬レース中にぶつかり、ケガをしに行ったんです」
どうして、こういう選択をしてしまったのかはわからない。けど、その気持ちはなんとなくわかる。誰にも、休みたいと言えない、言いたくない気持ちは。
「なるほど。たしかに最近、ベリルは追い詰められている様子でした。そんな中でなら、そのような判断をしてしまっても不思議ではないかもしれません」
マンデーがうなずきながらそう言うが、他の人達はあまり納得していないようで、首をひねったり、困惑した表情を浮かべたりだった。こうなれば、あとはハヤヒデさんが納得するかどうかがカギになるわね。
「キング君。そこまで言うからには、ちゃんと証拠もあるんだろうな?」
「ええ」
真剣な眼差しを向けてくる彼女へうなずき、私はスマホを見せる。
証拠は、これだけしかない。たった1つ。だけど、この推理は間違っていないはず! これが、最後の証拠よ!
「これは……足跡だな?」
「はい。ベリルさんの通った、1番左をよく見てください」
私は最内レーンの、1番先頭の足跡を指差す。
「ふむ。斜めになっているな。ベリル君が、自ら進行方向を変えているわけか」
「その通りです。よろけて転ぶのであれば、縦向きの足跡になるはず。けど、ベリルさんの足は斜めに向いていた。隣のレーンに進もうとしていた証拠です」
斜めについている足跡。たった1つだけど、1つで充分だわ。
ベリルさんの方を見る。額から汗を垂らし、口は開いたままじっとしている。これは、決まりかしら。
「……ち、違います。私は、飛び出して、い、いません」
口元を震わせているが、じっとこちらを見つめている。そう、否定してくるのね。
「そ、その足跡だけが、証拠なら、わた、私じゃない可能性も、まだ、あります。犯人が、わざとつけた足跡かも、しれま、せんから。ほ、他に、証拠はないんですか!?」
噛みながらも、反論してくるベリルさん。
「はい、証拠は他にありません。犯人がつけた足跡である可能性もあります」
正直に言う他ない。でも、ここで引き下がるわけにもいかない。
「ですが、いいんですか? ジルコンさんはあなたにぶつかったことを、本気で悔いています。それでも、本当のことを言わなくていいんですか?」
私の話を聞いても、ベリルさんの顔は変わらない。こちらに向ける視線は、力強い。
「そ、そんなこと……! 本当のことです。私は、飛び出してなんか……!」
「ふむ……不可解な点はあるが、筋は通っているな。どうだ、グランドベリル君? 君は、自分からジルコン君にぶつかりに行ったのか?」
ハヤヒデさんから聞かれ、体を震わせながら、ベリルさんは首を大きく振った。
「ち、ちがう! ちがうんです! そんなこと、しません、してません……!」
ベリルさんが認めずにいた、その時。
「ベリル……なんでよ……」
突然、部屋の隅にいたジルコンさんがつぶやく。窓から冷たい風が吹き込んでくる。揺れるカーテンの後ろで、彼女はゆったりと立ち上がり、ベッドに飛びついた。
「なんでよ!? なんで自分から私にぶつかったの!? 何がしたいの!?」
声を上げながら、ベリルさんの体を揺さぶるジルコンさん。
「どうして!? どうしてどうして!? ケガしたらどうするつもりだったのよ!? あなた、私達の中で1番強いじゃない!? なんでこんなバカなこと!?」
揺さぶられても、ベリルさんは口を閉ざし続けた。
「スズカなんでしょ……? あの日、スズカに負けたからでしょう? だから私、彼女をハメようと思ったのに! 違うの!?」
さらっと言ったけど、これがジルコンさんの動機のようね。ベリルさんに勝ち、彼女の不調を加速させたスズカさんを許せなかったとか、そんな感じでしょう。逆恨みもいいところだけど、友達と思っての動機ではあるわ。
「何黙ってるの!? 答えてよ! 私達友達でしょう!? 私、ベリルのこと、全然わかんないよ!! ねえ、教えて!! 話してよ!!」
涙でぐちゃぐちゃの顔を近づけるジルコンさん。その鬼気迫る姿は、先程までの悪事がバレて弱々しく泣く姿とは違い、荒々しく、勢いがあった。
しばらく沈黙があった後、急にジルコンさんが尻餅をついた。ベリルさんの腕が前に出ている。彼女がジルコンさんを突き飛ばしたの?
「ベリル!? 何するの……!?」
「…………わかんないよ」
「えっ……?」
「話したって、わからないよ!!!」
ベリルさんの大声に、場が静まり返る。再び、部屋が冷え込んだ。
「レースで勝てなくなって、どんどん置いていかれて、それでも出るしかなくて、でも出たくなくて!」
張り上がった声。感情を剥き出しにした表情。ベリルさんのそれまでの印象がひっくり返る。
「だけど、みんな『がんばれ』『がんばれ』って言ってきて、それ以外のことは全然言ってくれない!! 何も知らずに、応援してればいいとか思ってたんでしょ!? けど、出たくないって言ったら、走るのをやめてしまったら、今まで積み上げてきたものも、成果も、私自身も、全部崩れちゃうの! 全部! 全部なくなる! 私が私じゃなくなっちゃうの!!」
一通り叫んだ彼女は、前にうつむいた。おそらく誰もが初めて見る光景に、その場にいた全員が、固まっていたと思う。
「でも、みんなを裏切れない……! 裏切りたくない! だから必死にやったのに、結果はダメで、どうしようもなくて……こうするしか、なかったの……! こうする以外、どうしろって言うのよ!?」
再び顔を上げ、周囲へ言い放つ。誰も、何も言えなかった。
「あなた達に話したって、わかるわけない! 『レースで勝ててうらやましい』とか、『次もがんばれ』って言うあなた達なんかに、わかりっこない!! 誰にもわかんないよ!!」
見たこと無い形相で、叫び続けるベリルさん。ジルコンさんは、その言葉に衝撃を受け、固まっている。トパーズさんやマンデーさんは、顔をしかめるだけで、何も言い返さない。
……なんで、誰も、何も言わないのよ? なんで言い返さないの?
何がわかりっこないよ? 何がわかるわけないよ? ふざけないで…………
「ふざけないで!!!」
叫んだ瞬間、みんなの視線が一気に私に向いた。
「バカにしないで! わかるわよ、それくらい!!」
彼女の言い方には、心底腹が立った。
私にだって、ある。もう、レースに出たくないと思っていたことくらい。
それでも出るしかなくて、みっともない姿を晒し続けて。どうしても、勝って、認めさせたかったから。選択肢は無かった。どうしようもなかった。出たくなくても、出るしかなかった。
そんな気持ちがわかるから、私は悩んだ。この事件の真相を、全て明らかにするかどうか。そんな私の思いも知らずに、何を1人で全部わかった気でいるのよ!?
「レースは優しい世界じゃないわ。負けることだって、いえ、思い通りに走ることすらままならないことだってあるのよ! だけど、誰にも逃げたいって言えないことも、やめたいって言いたくないこともわかってる!」
思わず声を荒げてしまう。けれど、言いたいことが止まらない。
「だから、誰にもわかんないなんて、ふざけたこと言わないで!! 話さないと、わかるものだってわからないわよ!!!」
色々言い終わった後、息切れしていた。ベリルさんは私を見たまま固まっている。周りも静まり返り、風だけが吹き抜けていく。
その静寂を破ったのは、ジルコンさんだった。
「ベリル、ごめん!!」
上半身を乗り出して、ベッドの上に伏せた。ベリルさんの足に覆いかぶさるように。
「何もかも、ごめん! ぶつかったのも、さっき色々言ったのも! そんなに思い詰めてるのに、全然気付けなかったことも! あれだけ一緒にいたのに、何もわかってなかった! 本当にごめんなさい!」
「…………え?」
ジルコンさんの様子に、目を丸くしているベリルさん。
「はは、そうだな。驚いたよ……」
乾いた笑いを交え、トパーズさんが話す。
「アタイもわかってなかった。ベリルがそこまでへこんでたなんて思わず、『がんばれ』って言ってた。だから、それはごめん。ついでみたいだが、スズカもすまなかった」
そう言い、2人に向かってゆっくりと頭を下げた。
「そうですね。私も、あなたを理解できていなかった」
今度はマンデーさんが話し始めた。
「心配はしていましたが、それを言葉にしなかったのも事実です。しかし、そう思っていたと知れて、私は嬉しいよ」
「え……え……?」
ベリルさんは、そんな3人の様子に戸惑っている。
「ところで、ベリル君。君は、そのことをトレーナーに話したのか?」
今度はハヤヒデさんが口を挟む。
「君のトレーナーがこのことを知ったら、君を怒るだろう。『なぜ早く言ってくれなかったんだ』と。逆のパターンだが、トレーナーが1人で無茶していた時、私は怒った。君はどうだ? 自分のトレーナーが1人で無理していたら、どう思う?」
「あ、ああ……」
ベリルさんは目を見開いた後、宙を見つめ固まる。
「頼ると迷惑をかけると考えたのかもしれないが、その逆だってある。他人に頼ること、助けを求めることは、決して悪いことじゃないさ」
ハヤヒデさんは優しい笑顔で彼女に語り掛けていた。
「あの、ベリルさん……」
スズカさんがベッドへと歩み寄る。
「私も、レースが怖かったこと、あるわ」
「えっ……!?」
ベリルさんは目を丸くし、体を引いた。
「先月の天皇賞、走り切れるか不安だったの。その、前から足が痛くて。だから、レース中も、一瞬だけ足が止まって、ダメになるかもしれないって思ったわ」
「でも、待ってる人がいるって思い出したの。そしたら、ゴールまで走れたわ。ゴールして、改めて気付いた。たくさんの人達が、私を“光”だと感じているんだって。だから、今は足の治療に専念してるの。みんなと、長く走れるように」
スズカさんの手が、ベリルさんの手の平の上に重なる。
「ベリルさんにも、いると思うわ。あなたを“光”だと感じている人は」
「あっ……!」
ベリルさんが辺りを見回す。顔を上げ、彼女にうなずくトパーズさん。笑みを向けるマンデーさん。そして、もう片方の手を強く握るジルコンさん。彼女達の姿に、口元が震え出していた。
「ね、ベリルさん!」
不意に、ウララさんがベッドに駆け寄った。
「本当のことを言って、よかったでしょ?」
そう言って、ニコッと歯を見せて笑う。それを見て、ベリルさんが堪えていたものが溢れ出した。
「う、うん……うぁぁ……!」
シーツへポロポロと落ちる水滴が、夕日に照らされ様々な色を見せた。その場にいた全員が、穏やかな気持ちで、それを見守っていた。
「ごめんね、ジルコンさん……! ごめんなさい、、スズカさん……!」
謝る彼女を責める人は、誰ひとりとしていなかった。
―――
あの後、4人は予約済みのコースを勝手に使った件で、先生やトレーナーから怒られた。ジルコンさんも、ベリルさんとスズカさんにぶつかったことについて、こっぴどく怒られたようだけど、それ以上のことは特に無い。あの4人も、前と変わらず仲良く過ごしているみたい。ケガ人はいなかったんだし、これくらいで丸く収まってもいいわよね。
―――
事件から1週間後。食堂でウララさんと隣同士で座り、昼食をとっていた時。
「ここ、空いているかな?」
ビワハヤヒデさんがお盆を持ちながら、私の前の席を差す。うなずくと「失礼するよ」と言って座った。
「ハヤヒデさん、どうしたのー?」
ウララさんの質問に、ハヤヒデさんは口の中の物を飲み込んでから答える。
「先日の件では世話になったな。キング君、君の推理は見事だった」
「ありがとうございます」
誇らしい気持ちを胸にしまい、隣を見る。
「けれど私はあくまで助手です。ウララさんがいたから、この事件は解決できたんです」
「えっへん! すごいでしょー!」
胸を張るウララさん。
「ふむ。そうだったか。しかし、キング君、ウララ君」
「な、なんですか……?」
ハヤヒデさんの表情が、急に険しくなる。そして、暗い声色でこう告げられた。
「今後君達は、事件には関わらない方が良い」
その言葉に、胸の中がゾワッとした。
「ど、どうしてです?」
「オペラオー君から聞いたよ。君達は既に2つの事件を解決していたそうだな」
私とウララさんで解決した最初の事件、にゃーさん事件。2つ目のバクシン穴事件。どちらもオペラオーさんが関わっていたわね。
「しかしこれらは本来、生徒会や先生方、あるいは警察が動いて解決すべき問題だ。生徒が解決すべきことではない」
突き放すような言い方の彼女に、私は反感を持った。
「ハヤヒデさんだって、今回の件は解決しようと動いていたでしょう?」
「迅速な対応が要だと考えたからだ」
「なら、私達だって同じです!」
圧に屈さず、キッパリと答える。
「警察や大人に頼れるなら頼った方がいいかもしれませんけど、私達がやらなきゃいけない時だって、あるはずです!」
「それに、探偵やるの楽しいもん!」
私が声を張ると、つられてウララさんが無邪気に言った。
「楽しい……か」
それだけつぶやき、ハヤヒデさんはため息をつく。
「オペラオー君も、似たようなことを言っていた」
その眉間には、さらにしわが寄っていた。頭に手を置き、首を振っている。
「キング君、ウララ君。ミステリーとは悲劇なんだ。犯罪や悪事を明かせば、必ず負の感情が生まれる。首を突っ込み続ければ、いずれ君達自身がそれに飲み込まれ、不幸になりかねない。これは忠告だ」
鋭い眼差しを向けられる。
「えー? ウララたち、不幸になるのー? そんなことないよ! ハヤヒデさん!」
彼女の言葉に、目を丸くするハヤヒデさん。
「それに、悲しい人がいるなら、ウララたちがハッピーにしちゃおうよ! ね、キングちゃん!」
笑顔でそう言う彼女は、私から見てもまぶしかった。けど、だからこそ不安になるのもわかる。
「ハヤヒデさん。いざとなれば私がついています。ウララさんを悲しませるようなことにはさせません」
「そう言ってもだな……」
まだ頭を抱えているハヤヒデさん。
「いいんじゃないですか? 事件と関わるくらい」
急に別の声がした。そこに立っていたのはホワイトマンデーさんだった。
「私も彼女達の活躍を見てみたいのです。これまで3つの事件を解決した、この2人の推理をね」
そう言いながらこちらへ視線を向け、ニコッと笑う。
「マンデーさん、ウララ達のこと知ってたの~?」
「ええ。探偵さながらに事件を解決したウマ娘2人組がいるというウワサを聞きまして。今回の件で、それがあなた達だと気付きました」
笑みを浮かべながら、ゆっくりと答える彼女が、なぜか不気味に見える。
「キングさん、ウララさん。改めて、先日はありがとうございました。見事な推理、楽しませていただきました」
「え、ええ……」
「今後のご活躍を、期待していますよ? 名探偵さん」
そう言っておじぎした後、マンデーさんは食堂を出ていってしまった。
「ずいぶんと気に入られたみたいだな」
「えへへ~。ウララが名探偵だって!」
ハヤヒデさんがウララさんに微笑む。場の雰囲気が和やかになったものの、私の頭は休まらなかった。
思えば、変装の話を出したのは彼女。実際、その直後にウィッグが見つかった。また、犯人発表の時もやけに落ち着いていたし、話の理解も早かった。何か、何か引っかかる。ホワイトマンデーさん……今後、どこかで会うかもしれないわ。
―――
ある日、寮の廊下を歩いていた時のこと。
「あ、キングちゃん……」
すれ違った友人が、晴れない表情で私に声をかけてくる。
「何?」
「その、聞いたよ。この前のスズカさんのこと」
あの事件の後、彼女と話す機会は無かったから伝えてなかったけど、スズカさん本人が伝えたのかしらね。
「ありがとう、キングちゃん。スズカさんを守ってくれて」
そう言ってくる彼女の顔を、直視できなかった。
「……ええ。どういたしまして」
「うん……」
目線を合わせず答える。お互い、その場から動かない。
「まだ何か用?」
「あ、ううん。それだけ」
「そう」
素っ気ない会話を交わした後、私は部屋を目指し歩き始めた。
あの人のような態度を取っていると自覚している。そんな自分が、少し憎らしい。ベリルさんにはあんなことを言ったけど、私自身、まだ同級生達ときちんと向き合えていない。菊花賞で負け、短距離へと挑む決心はできたけれど、全てを割り切れるわけじゃない。
でも、きっといつか、時間が経った先で、気を許し合える日が来ると信じてるわ。全てをわかり合うことができなくても、また戻れる日が来る。あの4人のように。