名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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にゃーさん事件編2話 にゃーさんの脱出経路は…?

「で、これから何をするの? キングちゃん」

 部室棟へ向かう途中、ウララさんに聞かれる。

「いい、ウララさん? これから私達がやることは2つあるわ」

「2つ? なになにー?」

「1つは、容疑者のアリバイの確認よ」

「おーっ、アリさん確認! 名探偵みたいだね!」

「アリバイよ。チームメイトに聞き込みをして、犯人じゃないって証明する話を聞いていくの」

「へー」

 全員現場にはいるから、厳密にはアリバイ確認とは言わないのかもしれないけど、犯行を行える人物は絞れるはず。けれど、その前にやっておきたいことがある。

「もう1つは、証拠調べよ。これから私達は事件現場に行くわ。事件が起こった場所で、犯人の証拠を探すのよ」

「証拠!? よーし、うららもがんばって探すよ!」

 ウララさんは燃えている。この調子で最後まで持てばいいけれど。

 

 

 

「ドトウさん達、真ん中で話してたらしいわ。どう? ウララさん」

 私達は、玄関中心で向かい合わせになって立っていた。

「うん! 玄関は全部見えるね! 廊下の方は見えないけど」

 ウララさんの言う通り、各部室へつながる廊下の様子は全く見えない。しかし、玄関の幅は5人が横並びになって通れるかどうかってほどで、死角もない。これなら、通った人は全員把握できる。外部犯という線もほぼないでしょう。

「やはり、チームメイトの誰かが犯人でしょうね。ウララさん、廊下を進みましょう」

 突き当りを右に曲がろうとした時に、私は気づいた。

「ここの窓、全部格子がついてるじゃない!」

 廊下の窓は高めの場所にあり、その外側には格子がついている。抜けている部分もない。

「これじゃ、廊下からにゃーさんを外には出せないわね。格子に引っ掛かってしまうもの」

「じゃあ、どうやって外に出すの?」

「……部室の窓からとしか考えられないわ。それを確かめるためにも、部室に行ってみましょう」

 

 

 

「ねえ、キングちゃん」

「なに?」

 部屋の前まで来て、ウララさんがこちらを見る。

「ここってドトウちゃんのチームの部屋なんでしょ?」

「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」

「ドトウちゃんがいないと入れないんじゃないかな? カギ、かかってるんじゃない?」

 ……うっかりしてたわ。スマホをつけてみると、今は午後2時半だった。トレーニングしている子も多いはず。誰もいない部室へ来ても入れない。万が一カギが開いていて入れたとしても、不法侵入になり得る。

「だ、大丈夫よウララさん! きっと中に誰かいるわよ!」

「でも、みんなトレーニングしてないの?」

 こういう時に限って鋭いわね……。

「わ、わからないわ! たまたま今日お休みしてる子がいるかもしれないもの! ノックしましょ!」

 そうこうしているうちにドアが開き、中からウマ娘が顔を覗かせた。

「えっと……見かけない顔だね。うちのチームに用かな?」

「わっ! ドトウちゃんのチームメイトだよね? ウララね、名探偵やってるんだー!」

「名探偵……?」

 ウララさんの発言に、困惑する彼女。

「いえ、探偵ではないんですけど……私達ドトウさんの友人で、にゃーさんの話を聞きに来たんです」

「ああ、そういうことか。立ち話もなんだから、入ってよ」

 彼女は部屋の中へ手招きする。私達はそれに従い中へと入った。

 

 

 

「自己紹介が遅れたね。アタシの名前はエレニカノイジー。一応、このチームにリーダーさ」

 制服姿の彼女は机の上に手を組み、こちらを見つめながら話している。

 エレニカノイジー。灰色がかった長髪で、長身のウマ娘。チームのリーダーで、態度や表情からも優しさが伝わってくる。彼女はドトウさんがチームに編入する際に、歓迎会を企画したらしい。

「にゃーさんの件は、アタシも今朝聞いたよ。まさか、人のロッカーを漁る人がいると思ってなかったから、驚いたな」

 指を顎に当て、宙を見つめながらノイジーは言う。

「で、君達は犯人探しってわけかい?」

「うん! わたしたちで、犯人を見つけるんだ!」

 ウララさんが正直に言ってしまった。もしノイジーさんが犯人なら、この時点で追い返されてしまうかもしれない。しかし、いずれは聞き込みするのだから、遅かれ早かれ明かすことになっていたわ。さあ、どういう反応を見せるかしら……?

「うん。何か協力できることがあれば手を貸すよ」

 あっさりとOKが出た。

「いいんですか? こういうのって、大人がやるものでしょう?」

「そうだけど、学生だけで犯人がわかったりしたら面白そうだし」

 笑って答えるノイジーさん。真面目そうに見えて、結構ノリがいいのかもしれない。

「では、まずはこの部屋を調べてもいいですか?」

「うん、好きに見てっていいよ」

 調査の許可をもらい、私達は部室を見ていくことにした。とは言っても、これといって変な物もなさそうだけど。

 

 まずは窓を確認。この部室の窓は1か所だけで、格子はついていない。それどころか、人がまたいで出入りできるくらい大きい。にゃーさんを移動させるのも簡単ね。もちろん、カーテンはついていた。無ければ着替えられないもの。

「昨日、この窓は閉まっていたんですか?」

「カギも閉まってたよ。途中アタシも開け閉めしたし、間違いないね」

 この証言が本当なら、外部犯の可能性は無くなったわ。

 実際に窓を開け、外を見てみる。下は芝が広がっている。特に何も落ちてはいない。周りを眺めると、グラウンドの脇の辺りまで見えた。小さくドトウさんとフクキタルさんが見える。まだ何かを話しているみたい。

 窓を閉め、次にゴミ箱を調べた。蓋がついているタイプだ。中にはゴミがほとんど入っていない。

「このチームの方は、あまりゴミを出さないんですか?」

「ああ、それね。実は今朝集積所まで持っていってしまってね」

「え? ゴミの回収日って、明後日ですよね?」

「そうなんだけど、明日明後日はチーム全員休みでね。今日のうちに置いておくことにしたんだ。あんまり良くないことだから、秘密にしておいてね?」

 ノイジーさんは両手を合わせ、片目をつぶった。良い心がけではないけれど、いちいち告げ口するのも野暮ね。他の人には黙っておくわ。

 次に調べるところを探していると、私は机の下にあるバッグに気がついた。

「そのバッグは、ノイジーさんのものですか?」

「ああ、そうだよ。中も見ていいよ」

 そう言い、彼女はバッグのチャックを開ける。中には、ノートが数冊入っているだけだった。

「教科書は持ち歩かないんですね」

「うん。極力教室のロッカーに置いておくんだ。復習もそんなにしないしね」

 あっけらかんと言うノイジーさん。

 

「ねえ、見て見て! キングちゃん! ロッカーにフクキタルちゃんがいるよ!」

 ノイジーさんと話していると、ウララさんは開いたロッカーの前ではしゃいでいる。

「ちょっとウララさん! 勝手に覗いたらダメでしょ!」

 私が咄嗟に注意すると、ノイジーさんが笑いながら近づいてくる。

「そこは開きっぱだったし、見られて困る物もないからいいよ」

「え? それじゃあ、あそこはノイジーさんのロッカーなんですか?」

「いや、私のじゃないよ。マイノーンのところさ」

「え、ええ……」

 さらっと言うノイジーさんに私は引いていた。ロッカーに鍵をかけない時点で怪しかったけれど、この部室にプライバシーはないのかしら……。

「見てキングちゃん! ほら!」

 ウララさんが指差す先には、フクキタルさんが写った雑誌があった。ハンガーにかかった制服の下、影になって目立たないところに立てかけて置いてある。

「雑誌? フクキタルさんの特集みたいね。どうしてこれが?」

「マイノーンが憧れてるみたいでね。その雑誌をお守りにしてるんだって。うちのチーム、未勝利の子もいるからね」

 そう言って、ノイジーさんはホワイトボードを指差す。そこには『目標:目指せ! 初勝利!』という文字がでかでかと書いてあった。

「トレーナーさんが書いたんだ。アカノステップとマイノーンは、まだ未勝利なんだ。だから、既にデビューしてる先輩への憧れが強いみたいでね」

「そうなのね……」

 なかなか勝てない時に、目標となる人がいるのはいいことね。

 

「よかったら、他のロッカーも見ていいよ」

「いえ、それはさすがに……」

 断ろうとしたけど、同時にノイジーさんは動き出し、閉まっているロッカーを開けた。

「ここがアタシのロッカー」

「いや、私達覗きに来たわけじゃないので……」

「別にいいって。みんな後から聞けばOKしてくれるからさ」

 さらっと笑って言うノイジーさん。意外と横暴な人かもしれないわ……。

「あれ? ノイジーちゃん、今日もトレーニングしたの?」

 ウララさんが尋ねる。ロッカー内には、ジャージがハンガーにかかっていた。この時間にトレーニングを切り上げるのは、早すぎる。

「いや、今日はトレーニングを休んでるんだ。ちょっと疲れ気味でね」

 なるほど、トレーニングを休んでるのね。けど、ロッカーにジャージがあるのはなぜかしら?

「ああ、そのジャージは予備なんだ。前のチームリーダーの受け売りでね、トレーニング中に服が破けた時のために入れておけってさ。その名残だね」

「へぇ~、最初はノイジーちゃんがリーダーじゃなかったんだね。あっ! これはなに?」

 次にウララさんが指を差した先にあったのは、金属のコップと、金属でできた脚? それと、太い缶があった。

「ああ、それかい? ガスバーナーだよ。そっちはガス缶、OD缶って言うんだ」

 そう言い、ノイジーさんはロッカー内からバーナーを取り出す。机の上に置くとガス缶にチューブをつなぎ、火を点けた。

「うわー! すごーい!」

「ちょっと! 室内だと危険よ!?」

 慌てる私の声と同時に、火が消える。

「あはは、驚かせちゃったね。一瞬だから大丈夫だよ。アタシ、キャンプが趣味でね。自分用のバーナーを持ってるんだ」

 上機嫌に語るノイジーさん。冷やっとしたわ……。

「これは、ドトウの歓迎会の時にも使ったんだけど、それっきり入れっぱだったかぁ……そういえば、最近はキャンプ行けてないなぁ。はぁ……」

 ノイジーさんはため息をつきながら、それらをバッグへとしまう。疲れ気味というのは本当みたいね。

 

「次は、アカノのロッカーだね。はい」

 ノイジーさんはまたいきなりロッカーを開ける。アカノステップさんのものらしい。

「うーん、着替えくらいだね」

 ウララさんも真っ先に中を見ている。私も続けて覗いたけど、あやしい物はなかった。ただ、中にある使い古しの蹄鉄が気になった。なぜか複数ある。

「蹄鉄? アカノさん、ロッカーに集めてるんですか?」

「ああ。使い切った蹄鉄は自室に保管してるみたいだよ。これは努力の結晶だ、ってね。ただこれは、ロッカーに放置しっぱなしだね……後で言っておかなきゃ」

 そう言いながら蹄鉄を取り出し、ノイジーさんは机に置いた。ロッカーに蹄鉄を放置してるってことは、蹄鉄用のハンマーなんかもこの部屋にありそうね。

「残りはメリードライのだけど……彼女のロッカーは開けない方がいいね」

 ノイジーさんは腕を組み、眉間にしわを寄せている。

「え? どうしてです?」

 ここまで遠慮なしに開けてきたというのに、いきなりストップがかかるのはあやしい。

「彼女は少々怒りやすい性格でね。それにロッカーの中は一度見たんだけど、特に何も無かった。多分、今もそうだと思うな」

「そうですか……」

 証言までされてるのだから、別に見る必要もない。怒られてまで見るような物でもないし……というかそもそもロッカー自体見るつもりはなかったのだけれど……。

 

「ひとまず、部室に関してはこんなところかしら」

「どう? キングちゃん、何かわかった?」

「ええ。どうやってにゃーさんを盗んだかは、予想できたわ」

「どうやって盗んだのー?」

 部室の窓からにゃーさんを外へ出すことは可能だとわかった。廊下から出すことができない以上、ここから外へ出したと考えるべきね。そして、犯人は玄関から出て、外に置いたにゃーさんを回収。もしくは、窓から外へ出てにゃーさんを隠した後、玄関から外へ出る。このどちらかでしょう。

「そっか! この部屋の窓から外へ出したんだね! じゃあ、誰が犯人かなー?」

「ええ、そこが問題よ」

 問題は、それが可能なのは誰なのか、ということ。

 ドトウさんの話では、チームメイトが部室にいる時間はほとんど、他の誰かと被っている。これからアリバイを聞いていくけれど、そこで誰が犯人かわかるはずね。

「では、次にノイジーさんのことを質問させてもらいます」

「うん、なんでも聞いてよ」

 私達はイスに座り、彼女と机を挟んで対面した。ここからが正念場ね。

 

「エレニカノイジーさん。あなたが昨日ここにいた時間は何時頃です?」

「えっと……確か、3時20分から40分くらいまでかな」

「長いですね。その間、ここで何をしていたんです?」

「まず、ジャージから制服に着替えたよ。かなり汗かいちゃったから、ちょっと時間がかかったんだ。マイノーンは一緒にいたから、彼女達に聞けばわかるよ。その後は、特になにもせずのんびりしてたんだ。ドライが見てると思うよ」

 ドトウさんから聞いた時間と一致してるわね。確か、ノイジーさんが部屋にいる間、マイノーンさんかメリードライさんのどちらかは部屋にいた。ということは、ノイジーさんが何かしていれば、2人から証言が出てくるはずね。

「ちなみに、そのマイノーンさんとメリードライさんは何をしていましたか?」

「え? ドライは着替えてるだけだったよ。マイノーンの方は、着替えた後スマホで何か見てたみたいだったよ」

 スマホ、ねぇ。マイノーンさんも長いと思ってたけど、ノイジーさんと同じで一息ついてただけなのかしら?

 

「ああ、そうそう。さっきアタシ、窓を開け閉めしたって言ったよね?」

 急にノイジーさんから話しかけてきた。

「あの時ね、アカノステップが外から窓をノックしたんだ。窓を開けてみると、ジャージを部屋に忘れたから持って来てくれって。それも2日分」

「えっ!? 2日間置き忘れたんですか!? ジャージを!?」

「みたいなんだ。ロッカーから机に出すとこまでは覚えてたのに、机に忘れたって言うからさ。そのまま持って渡したよ」

「へぇ……」

 アカノステップさん、聞いていた以上にガサツそうね。2日放置したジャージってすごく臭いそうなものだけど、平気だったのかしら……。

「ちなみに、そのアカノさんが来た時間はいつですか?」

「多分、30分頃だね。マイノーンがまだいた時だから」

 なら、マイノーンさんが証言してくれそうね。でも色々と怪しいわ。なんで窓から渡したのかしら? そのまま部室に行ってもいいはずよね。

「なぜ、彼女は部室まで来なかったんですか?」

「さあね。横着な性格だから、面倒だったんだよ」

 まあ、ガサツだからで説明はつくわね。

 アリバイについてはこれくらいでいいかしら。一応、盗みそうな人の心当たりを聞いておきましょうか。

「にゃーさんを盗みそうな人に心当たりありますか?」

「チームメイトの中から、ってことだよね?」

「はい、そうです」

「うーん……メリードライかな。彼女、結構毒を吐くような子でね。ドトウのことも邪険に扱ってたから」

 ノイジーさんは困った表情をしている。メリードライさんに手を焼いているようね。

「ドトウが入ってきた時、歓迎会をしたのは知っているかな?」

「はい」

「あれは私が企画したんだけどね。ドライとドトウが仲良くなるきっかけになればいいなと思って開いたんだ。ただ、ドトウがケーキをひっくり返してしまってね……逆効果になってしまったかもしれない」

「そうだったんですね……」

 ドトウさん、ドジをしがちな印象だったけど、歓迎会でもやってしまったのね……。

 ノイジーさんへの質問は、ひとまずこれでいい。後は、他のチームメイトへの聞き込みを行いたいわね。

 

「ノイジーさん。チームの方はどうしてるんです?」

「みんなトレーニングしてるよ。もうすぐ終わるんじゃないかな。ただ、今日は自主練の日だからバラバラな時間に戻るかな」

 なら、ここで待たせてもらうのがいいわね。

「ああ、この部屋にいて構わないよ。みんなにも話を聞くんだろう?」

「いいんですか?」

「うん。アタシのことは気にしないで。くつろいでってよ」

 お言葉に甘えて、私とウララさんは部室で待つことにした。




<2話までの事件の概要>
 事件発生:昨日の3時~4時
 3時頃、ドトウさんは部室を出て玄関へ行く。
 そこでタイキさん達と1時間おしゃべりする。
 その間、部室棟を出入りしていたのはチームメイトだけ。
 4時、部室にもう一度戻ると、にゃーさんは無くなっていた。

 犯人は部室の窓からにゃーさんを外へ出した?


<部屋にいた時間>
3:10~3:20 アカノステップ
3:10~3:35 マイノーン
3:20~3:40 エレニカノイジー
3:35~3:45 メリードライ


<部屋で何をしていた?>
 アカノ:不明
 マイノーン:不明
 ノイジー:着替え、アカノのジャージを窓から渡す
 ドライ:不明


<部屋にあるもの>
 ガスバーナー、金属コップ、古びた蹄鉄、蹄鉄用ハンマー、フクキタルの雑誌、予備のジャージ、ノイジーのバッグ
<現場にあったもの>
 アカノのジャージ2日分、初代にゃーさん(ガラス製)
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