名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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にゃーさん事件編4話 増える謎

「オペラオーさん、昨日ここにいた人物を見ているの!?」

「ああ! 見ているとも!」

 そう言い、オペラオーさんは頭に手を置いた。

「昨日の午後、グラウンドの脇でトップロードさんとオペラをしていてね。3時から4時の間はずっと見ていたよ!」

「本当!? 誰が来ていたの!?」

 身を乗り出して聞く私。怯まず、オペラオーさんは話し始める。

「そう、昨日この窓まで来ていた人物は……」

「来ていた人物は……?」

 

「アカノステップさんだけだ!」

 彼女の言葉を聞き、私は心の中でガッツポーズをとった。これは決定的ね。犯人はアカノステップさんで決まりよ!

 「オペラオーさん、アカノさんは何時頃に来て、どんな様子だったのかしら?」

「ああ、せかさなくとも答えようとも! ボクという太陽の前には、隠れる影さえ存在しないのさ!」

 

「あれは3時30分頃だったよ。ジャージを腕にかけたまま、アカノさん窓の近くまで走ってきたんだ。そして、カーテンが開き誰かが出てきた。何か話しているようだったね。その後に、その誰かがジャージの束を持って来て彼女に渡したんだ。受け取ったアカノさんは、また一目散に駆け出していったよ!」

 おそらく、誰かっていうのはノイジーさんのことね。アカノさん、ノイジーさんの証言とも一致する。それなら、ジャージににゃーさんを入れて運んだのかしら?

「ただ、ジャージの中ににゃーさんは入っていないと思うな。ジャージはかさばっていなかった。2、3着重なっているだけに見えたよ」

 膨らんでいなかった? え? おかしいわ。犯行を行ったのはアカノさんじゃないの?

「オペラオーさん、にゃーさんは見てないのかしら?」

「残念だが、ボクの光すら通さない闇の中に隠れてしまったらしい。彼女がにゃーさんらしき物を持っている場面はなかったよ」

「アカノさんが来る前に、窓の外に置いてあったりは?」

「ああ、何もなかったよ」

「本当に、他に来た人はいなかったの?」

「そうだとも。あまりにも人が来ないと思ったんだ、間違いないよ」

 ウソ……じゃあ、犯行は目撃されてないのね。というより、ずっと見てたオペラオーさんが見てないってどういうこと!? 犯人はどうやってにゃーさんを!?

「それと3時15分頃、あの部屋の窓が開いたのも見たよ。20分には閉まったね。その時にいたのもアカノさんだった。カーテンは閉めていたみたいだけど」

 ああ、マイノーンさんが言っていたことも本当のようね。アカノさんは換気の窓開けをしていた。

「ボクの話は役に立ったかな?」

「ええ、まあ」

「それじゃあボクも失礼するよ。今日はアヤベさんを誘わなければならないからね!」

 そう言って、オペラオーさんは校舎の方へと歩き始めた。結局、余計に謎が増えてしまった。

 

 どうやって犯人はにゃーさんを盗みだしたの? 廊下からは持ち出せない。隠しながら持ち出せるのはメリードライさんだけ。けど、ロッカーの花は本物だった。ドライフラワーは、1週間以上吊り下げておく物。犯行を隠すためにわざわざ用意したの? いえ、それはない。今回の犯行は、ドトウさんがロッカーのカギを外した日、つまり3日前から計画されたはず。そのためにドライフラワーを用意するのは、時系列から逆になる。

 では、バレないように隠しながら出した? オペラオーさんも近くで見ていたわけじゃないから、目を誤魔化すことはできるかもしれない。オペラをしていたんだから、目をつぶったり余所見をする時間はある。すると、部室内の窓付近に置いておいて、ノイジーさんが窓を開けジャージを取りに行く隙に外へ出した? いや、それも不可能ね。窓近くににゃーさんが置いてあれば、絶対に誰かは気づく。何かに隠して置いたとしても、その膨らみが見逃されることはないでしょう。じゃあ、どうやって外に……?

 

「キングちゃん、どうしたの? なんか怖いよ?」

「えっ?」

 ウララさんに話しかけられる。どうにも、心配されているみたい。

「ごめんなさい。怒ってるわけじゃないわ」

 とりあえず謝ったが、深まった謎に対して未だに答えは出ない。

「ウララさんは、誰が犯人だと思う?」

「う~ん」

 腕を組み、首をひねるウララさん。

「うららはね、マイノーンちゃんだと思う!」

「意外ね。なんでそう思うの?」

「だって、フクちゃんのことが大好きなんだもん! にゃーさんが欲しかったんじゃないかな?」

 確かに、動機だけ考えればそう思うわね。

「けど、マイノーンさんは1人でいる時間がないわ。盗むことはできないのよ」

「あ、そっかぁ! じゃあ誰だろ……?」

 再び首をかしげるウララさん。まあ、わかるわけないわね。私にも見当がつかないんだもの。

「でもキングちゃん。マイノーンちゃんじゃないなら、犯人はどうしてにゃーさんを盗んだのかな?」

「どうしてって、勝負服を売ればお金になるから……」

 そう言いながら、自分で気づく。犯人の動機は、何? ずっと、売るためだと私は考えていたけど、それ以外にはないの? さっきウララさんが言ったみたいに欲しいからって理由もあり得る。マイノーンさん以外は欲しくないだろうけど……いや、どうかしら? 他の人も欲しかったりするの?

「ねえねえ、キングちゃん」

 声をかけられ、また考え込んでしまったことに気づいた。

「どうしたの?」

 悩んでいることを隠すように答えると、ウララさんは突拍子もないことを口にした。

「もしかして、にゃーさんは逃げちゃったんじゃないかな?」

「はぁ?」

「だって、どこにもいないし、誰も盗めないんでしょー? きっと逃げちゃったんだよ! にゃーさんも猫ちゃんなんでしょー?」

「いい、ウララさん? 招き猫は生き物じゃないのよ」

「えー? でも、猫ちゃんなら窓の隙間でも、ひょいって逃げられるよ?」

 窓の隙間ねぇ。確かに猫なら抜けられるかもしれないけど…………待って。窓の隙間を抜ける? にゃーさんが?

「できるじゃない……」

「え? キングちゃん?」

「あるわ! 廊下の窓からにゃーさんを外に出す方法!」

 私は、これまで犯人はにゃーさんを『盗んだ』と考えていた。けど、もしそうじゃなくて……

 

 犯人がにゃーさんを『壊していた』なら?

 

 だとすれば、あの状況からでも犯行は可能。だって、廊下から外へ出すこともできるわけだし、ジャージやどこかに隠すことだって可能よ。そうと決まれば、早く調べなきゃ!

「ウララさん! 廊下の窓のところ、すぐに行きましょう!」

 

 

 

 私達はすぐに廊下の窓の外側に向かい、何か落ちてないかを調べた。廊下からにゃーさんを外へ出したなら、破片が落ちていてもおかしくない。学園の敷地内なら、ガラスみたいな物が落ちていればすぐにわかるはず。

「……あった! これじゃないかな!?」

 ウララさんが芝の中から何かを拾い上げる。それは、手のひらに収まるほどの茶色いガラス片だった。

「やったわねウララさん! これは証拠になるわ! 他にもあるんじゃないかしら?」

 そう思い探し続けたが、他には何もなかった。見つかったのは、破片が1つだけ。

 妙ね。1つだけなら回収しそびれたとも考えられるけど、逆に言えば他の部分は全部回収されている。ウララさんがすぐに見つけられるようなところで、1つだけ見落とすなんてあり得るのかしら? すると、もしかして……。

 

 犯人は、にゃーさんを分かれさせた?

 

 これなら筋が通るかもしれない。1つだけ見つかっても、決定的な証拠にはなり得ない。ましてや今見つけた破片は茶色。植木鉢の破片だと言い張られれば反論は難しい。だから、ここのは敢えて放置して、他の破片を回収した? それなら、ここと同じように1個だけそのままにしてある場所もあるんじゃないかしら? としたら、他に隠す場所は……。

『このチームの方は、あまりゴミを出さないんですか?』

『ああ、それね。実は今朝集積所まで持っていってしまってね』

 ノイジーさんの言葉を思い出す。ゴミ箱だ。ゴミの量次第だけれど、破片がいくつか入ってるくらいなら、誰にもバレない。集積所まで持っていけば、探されても部室からは見つからない!

「次はゴミ集積所よ! ウララさん!」

 

 

 

 私達は急いでゴミ集積所まで走った。しかし、その光景を見て驚いた。ゴミ袋は2つしかなかった。間違いなく、あの部室のものね。ひとつひとつ持ち上げてみるも、パンパンの袋の外からでは破片らしき物は見当たらない。

「仕方ないわね……! ドトウさんのためにも!」

 私は、思い切ってゴミ袋を開ける。嫌な臭いが辺りに漂うが、今日だけは気にしない。中のゴミを、少しずつ外へと出していく。

「おぉー! うららもやるー!」

 ウララさんも、他の袋からゴミを取り出し始めた。

 

「あったー!」

 ウララさんが、意気揚々と持ち上げたのは、白く塗装されたガラス片だ。

「こっちもあったわ!」

 私も、袋の奥から白いガラス片を見つけた。数分間ゴミの山をかき分けた末、燃やすゴミと燃やさないゴミ、それぞれの袋から1つずつ見つかった。

「2つだけね。やっぱり、バレないように多くは入れなかったんだわ」

 ただ、どちらもそれなりに大きく、手のひらには収まりきらなかった。多少大きくとも2つの欠片なら、ノイジーさんが気づかなかったのも無理はないわ。

「残りの破片はどこにあるのかしら……」

 にゃーさんの破片の隠し場所。ゴミ箱と廊下の外以外の場所からは見つからなかったのだから、犯人はにゃーさんの大半を持ちだしているはず。いくつかの破片だけなら、ジャージに包んでも周りからはバレないもの。

 そうすると、破片を2回以上に分けて運ぶことになるわ。残りの破片をいっぺんに運んだら、極端じゃないにせよジャージは不自然に膨らむはず。強いて言うなら、アカノさんが持ってたバケツに保管していた、という線ならあり得そうね。

 隠し場所の話に戻りましょう。シンプルに考えれば、自分の部屋かしら? けど、部屋だとしたら同室の子が見てしまう恐れがある。でも、ジャージに包んで置いておけばバレないのかも……?

 とりあえず、部屋にある可能性が高いのなら、あの人に頼む必要がありそうね。

 

 

 

「なるほどね。事情はわかったよ。本人達の了解を得てからだけど、部屋を探してみよう」

「お願いします! 必ず、破片が見つかるはずなんです!」

 私達は、栗東寮の寮長フジキセキさんのもとへ行き、事件について話した。そして、ドトウさんのチームメイトの部屋を探せないか尋ねた。幸い、こちらの話はすぐに飲み込んでもらえた。

 

 けど、しばらく時間を置かないと結果はわからない。私達は待っている間、カフェテリアへ来ていた。

「ぷはー! おいしいね、にんじんジュース!」

 ジュースの味を楽しむウララさんをよそに、私は思い詰めていた。

「部屋から破片が見つかれば、すぐに解決できるのだけれど」

 やはり、部屋に隠し続けるのはリスクがある。私が犯人なら、学園の外で捨てておきたいと思うでしょう。けど、ジャージに包んで持っていくことはない。普通の外出と思わせないと後から疑われる。つまり昨日部室を出てから、一度は自室に帰る。そこでバッグか何かに入れて持っていくわ。昨日今日の彼女達の外出状況、フジさんならわかるかしら。

「ねえキングちゃん、にゃーさんは壊れたの?」

 考え込んでいると、突然ウララさんに声をかけられる。

「え? ええ。欠片が見つかっているんだから、そうなるわ」

「どうやって壊れたのー?」

「どうやってって、素手で殴るか、蹄鉄用のハンマーとかで……」

 続きを言おうとして、言葉に詰まった。犯人は、にゃーさんを拳やハンマーで割った? なら、割れた音がするはずよね。けど、誰からも音に関する証言は出てこなかった。マイノーンさんが、窓を開けた音が聞こえたと言っていたけれど、割れた音は聞こえていない。アカノさんにも犯行は不可能? メリードライさんが犯人なの?

「ハンマーで叩いたの? そんなのこわいよー! もっとやさしい方法はないのー?」

「え、ええっと……」

 他の方法、もっと他に方法はないのかしら? 音を立てずににゃーさんを割る方法。たとえば、薬品を使ってヒビを入れるとか。けど、薬品なんてなかったし、そもそもガラスでできたにゃーさんに、音を立てずヒビを入れる物なんて…………いや、待って。

「……もしかすると」

 ふと、1つの方法が浮かんだ。しかし、やったこともないし、ただの聞きかじった知識。誰かに確認してみないことにはわからない。でもフジさんなら、そういうのにも詳しいかも。ということは……!

「戻ってみましょう、ウララさん。フジさんのところへ」

 

 

 

「残念だけど、どの部屋からもにゃーさんの破片は出てこなかったよ」

 フジさんから告げられたのは、証拠は見つからなかったという旨だった。というか、まだ30分も経ってないのにもう終わっていたのね。

「ありがとうございます。フジさん、まだ聞きたいことがあるんですが、お時間は?」

「大丈夫だよ。何か気づいたかい?」

「ドトウさんのチームメイト、昨日何時頃に帰ってきたかわかりますか?」

「ああ、彼女らなら3時4時くらいに帰ってきたかな」

「もしかして、この時間と同じ順番ですか?」

 私は、チームメイトが部室にいた時間帯のメモを見せる。

「……うん、この順番通りだ。どの子も部室を出てから10分以内には帰ってきてるよ」

 やはり、寄り道して破片を処分したわけじゃないのね。

「昨日の夜から今日の朝までで外出した人はいましたか?」

「いや、この中にはいないと思うよ」

 とすれば、昨日の段階では処分していない。持ち出した破片は部屋に置いてあったのね。

「では、今日外出した人は……」

 言いかけて気づく。ノイジーさん以外はトレーニングをしていたし、ノイジーさんも部室にいた。彼女らが外出したかどうかを、フジさんが知っているわけじゃない。それに、フジさんもトレーニングがあったはず。彼女らの状況を、すべて把握してるわけじゃないわ。

「あ、けど気になることがあってね」

 今度は、フジさんの方から話し始める。

「実は今日、ノイジーだけ帰ってきてないんだ」

「帰ってきてない、というと?」

「他のメンバーは授業後に一旦ここへ戻ってきたけど、彼女だけ戻ってないんだ。1人で校門を出たら、そのままどこかへ行ってしまってね。チーム全員で帰ることも多かったし、今日も3人は一緒だったから変だと思ったんだけど……」

 つまり、ノイジーさんだけは昼間の動向がわからない。そして、部屋からもにゃーさんは出てこない。わかってきたわ、今回の事件の全貌が。まだ完璧とは言えないけれど、ここまで見えていれば犯人を追い詰められる!

「フジさん、もう1つ聞きたいことがあります」

「なんだい?」

 

 

 

「……ああ、可能だと思うよ。そのトリック、実演してみようか」

「お願いします! あと、ドトウさんのチームメイトの方を呼んでいただけませんか?」

「わかった。部室に集合するよう言っておくよ」

 フジ寮長は駆け足で寮の階段を上っていった。

 

「キングちゃん、もしかして!」

「ええ。犯人がわかったわ。部室へ行きましょう、ウララさん!」

 




<4話までの事件の概要>
 事件発生:昨日の3時~4時
 3時頃、ドトウさんは部室を出て玄関へ行く。
 そこでタイキさん達と1時間おしゃべりする。
 その間、部室棟を出入りしていたのはチームメイトだけ。
 4時、部室にもう一度戻ると、にゃーさんは無くなっていた。

 犯人はにゃーさんを壊し、外へ持ち出した。
 破片が廊下の窓の外と、ゴミ集積所から見つかった。
 また、ノイジーさんは今日の昼、寮に戻っていない。
 他のチームメイトは、全員一緒に戻ってきた。


<解けていない謎>
・犯人はどうやってにゃーさんを壊した?
・犯人はどうやって多くの破片をバレずに持ち出した?
・残りのにゃーさんの破片はどこにある?


<部屋にいた時間>
3:10~3:20 アカノステップ
3:20~3:35 マイノーン (3:10~20 廊下で電話)
3:20~3:40 エレニカノイジー
3:35~3:45 メリードライ


<部屋で何をしていた?>
 アカノ:着替え、水入り?バケツを部室へ持参
 マイノーン:着替え、スマホで何かを見ていた
 ノイジー:着替え、アカノのジャージを窓から渡す
 ドライ:着替え、花束をジャージに包んで運ぶ?


<部屋にあるもの>
 ガスバーナー、金属コップ、古びた蹄鉄、蹄鉄用ハンマー、フクキタルの雑誌、ドライフラワー、予備のジャージ、ノイジーのバッグ
<現場にあったもの>
 アカノのジャージ2日分、水入り?バケツ、初代にゃーさん(ガラス製)

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