名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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にゃーさん事件編最終話 揺れ動いた善悪

「ノイジーさんが犯行に関わった証拠は、今もこの部屋の中にあります!!」

「ええっ!?」

「なんだって!?」

 皆は口々に驚いている。そこにたたみかけるように、私は叫んだ。

「あの、ロッカーの中にね!」

「は、はは、はっはっはっは!」

 指差す私の姿を見て、ノイジーさんは笑う。

「まさか、ガスバーナーが証拠とは言わないだろうね? ロッカーにカギはかかってない。アカノが勝手に使うことは可能だよ?」

「ええ。バーナーはアカノさんが取り出して使いましたから、共犯を示唆していますが完全な証拠にはなりません」

「なんだ、わかっているじゃないか。そうさ、証拠なんてないんだよ。ザンネンながら、ね」

 高らかに笑う彼女に向けて、私も瞳を閉じ、ニッコリ笑う。

「残念なのはアナタの方よ、エレニカノイジーさん」

「なんだと?」

「惜しかったわね。あと、もう1日だったのに。他にあるのよ、証拠はね!」

「な、なにッ!?」

 たじろぐ彼女。これが、私が示す最後の証拠。

「ジャージですよ」

「えっ、ジャージ……?」

 私の言葉を聞き、全員が首をかしげている。

「はっ! 予備のジャージが、なぜ証拠になる!?」

 笑みを浮かべたまま声を荒げるノイジーさん。

「あのジャージ、アカノさんのですよね?」

 それを聞いたノイジーさんは真顔になった。

「破片を受け取る時に、一緒にバッグへ入れたジャージ。本当は、アカノさんが1人で部室にいる時に持っていってもらうつもりだった。自分のロッカーから彼女のジャージを回収してもらい、証拠を隠滅しようとした。そうですよね?」

 ノイジーさんの顔が青くなっていく。

「さあノイジーさん。ロッカーの中を見せてもらいます。ここのロッカーには、『見られて困るような物は入ってない』んでしたよね?」

 そう言いながらロッカーに近づく。ノイジーさんは、その場でうつむきながら体を震わせていた。

「くっくっく……ふっはっはっは!」

 その顔は、まだ笑っている。

「キング。君の推理には驚いたよ。けど、そのジャージがアカノのだって証明できるのか!?」

 急に大声を上げ、鬼気迫る表情を向けてくるノイジーさん。いよいよ本性が見えてきたようね。

「アカノもアタシも名前は書かない主義なんだ。ジャージの持ち主なんて、見た目でわかるわけがないだろう? どれも同じジャージなんだから!」

「それは簡単よ。穴の空き方を見ればね」

「なに……?」

「アカノさんは、今日新品のジャージを着ていた理由を言っていました。『使ってたジャージがちょこちょこ穴が空いてた』って」

「くっ!? 待て! 勝手に開けるなぁ!!」

 私の腕を掴んでくる。誰から見てもわかるくらい、ノイジーさんは慌てていた。

「やめろ! 部外者が! アタシらの部室を……」

 

「もうやめましょうよノイジーさん!!」

 そんな彼女を止めに入ったのは、マイノーンさんだった。

「ただジャージを確認すればいいだけでしょう!? それがノイジーさんのなら、キングさんの推理はすべて覆るんです。開けましょうよ、ロッカー」

 その静止を聞き、ノイジーさんは力を緩めた。彼女がこれだけ大声を出しているところは初めて見た。

 

「……間違いないわ。このジャージは、アカノさんの物ね」

 ノイジーさんのロッカー内にあったジャージは、いくつも穴が空き、土や泥も被っていた。数日間放置されたジャージのようね。

 

「待ちなさいよ」

 急にドライさんが声を上げ、こちらを向く。

「さっきマイノーンが言ってたことが未解決よ。オペラオーの証言と食い違ったままじゃない」

 彼女はまだ、ノイジーさんが犯人じゃないことに懸けているみたい。

「分けていたのよ。ノイジーさんとアカノさんで」

 私はウララさんへ笑顔を向ける。そして、再び顔を引き締める。

「昨日まで放置されていたジャージは2日分、つまり2着です。それらの中に、にゃーさんの欠片を半分ずつ仕込んでました。その両方をアカノさんへ渡すと、ジャージの膨らみで気づかれてしまう恐れがある。そこで、ノイジーさんはその2着のうち1着を、何も仕込んでいない自分のジャージと入れ替えたのよ」

 ドライさんも理解できたようで、口元が震えていた。

「ノイジーさんは破片の入ったアカノさんのジャージを持ち帰った。こうすれば、お互い半分ずつの破片になるから、それほど膨らまないで済んだの」

 オペラオーさんの目撃証言と矛盾しない、この方法で間違いないわ。

「そして、ノイジーさんが今この部室に持ってきたジャージは、今日アカノさんから受け取ったもの。昨日交換したジャージは、今どこにあるのか?」

 私の問いかけ、皆考え込む。最初に口を開いたのは、フジさんだった。

「彼女らの部屋か!」

「その通りです」

 私は説明を続ける。

「返すタイミングについて考えます。まず、昨日の夜は不可能です。破片を包んで隠さなきゃいけないので。今日の授業の合間は? ここで返してもよかったのでしょうけど、わざわざジャージ交換しているのを見られたら疑われる可能性がある。だから、ジャージ交換のシチュエーションも極力自然な状況を選んだのです」

「自然な状況?」

「ランドリーです」

 フジさんも、ああ、と声を漏らした。

「2人が同じ洗濯機でジャージを洗濯して、互いのジャージを取り出し合う。傍から見れば、チームでまとめて洗濯してるだけにしか見えない。今日を過ぎれば、証拠を完全に隠滅することができたんです」

「なるほど。たしかに自然に見えるね」

「これなら、今日アカノさんが新しいジャージを着ていることにも説明がつきます。3着のジャージが使用済みなわけですから。昨日着た1着も、練習までに乾かなかったんでしょう。故に、新品を着たことになります」

 

「まだよ」

 再びドライさんが声を上げる。

「あんたの推理には、まだ穴がある。ノイジーがジャージをすり替えてたなら、マイノーンが気づくはず。他の人がいるのに、ノイジーがすり替えるわけがないわ」

 心が痛むけれど、言い返すしかない。

「ドライさん。それはマイノーンさんに聞いてみましょう。マイノーンさん、昨日部室でノイジーさんはジャージをすり替えていましたか?」

 急に質問され、焦るマイノーンさん。

「わ、私、その時はフクキタルさんのレースを見てて、熱中して、周りは全然見てませんでした。話は聞いてましたけど、何をしていたかまでは、わからなくて……ごめんなさい!」

「えっ……?」

 ドライさんは脱力し、イスに座り込む。

「そう、彼女はスマホを見ていたんです。動画を見ている間、ましてや大好きなフクキタルさんのレースを見ている時に、周りで何が起こっているかを正確に把握はできないでしょう。つまり、ノイジーさんのすり替えは可能です!」

 改めて、私はノイジーさんの前に立つ。

「あなた達の部屋から互いのジャージが出れば、私の推理は証明されます。いかがかしら!ノイジーさん!」

 私の問いかけに、ノイジーさんはただ力なく、その場に座りこんでしまった。

「なんでだよ。なんでこうなっちまうんだ。ノイジーは上手くいくって言ったのに。警察だって誤魔化せるって……!」

 アカノさんは、部屋の隅に縮こまって狼狽している。

「ウソ、本当に、ノイジーが…………」

 メリードライさんも、うつむき黙りこんだ。

「キングさん。あなたの推理はわかりました。アカノさんとノイジーさんが、にゃーさんを壊して盗んだと」

 マイノーンさんが尋ねてくる。

「けど、その動機はなんですか? なぜ、この2人はにゃーさんを盗むなんてことを?」

「それは……それこそなんの証拠もない、憶測しかできません。本人から話してもらう他ないでしょう」

 私は、ノイジーさんへ視線を向ける。

「……オレが、提案したんだ」

 すると、アカノさんが口を開いた。

「オレがノイジーに持ちかけたんだ。ドトウを、なんとかしねえかってさ。全部、話すよ。あれは3日前……」

 

 

―――

 

 

「なあノイジー。なんでアイツだけなんだ……?」

 トレーニングでヘトヘトになったオレは、部室のイスにもたれかかってた。

「なんで直近のレース、ドトウの奴だけ勝ってるんだ? なんで、オレ達は勝てねえ?」

「それは、うむ……」

 ノイジーも、渋い顔をしてた。オレもノイジーも、2、3回負け続けだったからな。

「なんかよ、不公平じゃねえか? アイツばっかりさ。なんかバチが当たってもいいだろ……」

 愚痴をつぶやいてた時、ふと悪魔のささやきが聞こえたんだよ、オレ。

「なあ、オレがアイツ、こらしめちゃダメか?」

「なに……?」

「たとえばよ、大事なもんをぶんどって、壊しちまうとかさ」

 それを聞いて驚いてたよ、ノイジーのやつ。けど、否定されなかった。

「アカノ。彼女、ロッカーのカギを外したんだ。そこから宝物を盗みだすっていうのはどうだい?」

 そんで、今回の事件の計画を話されたんだ。

 

「あ、すみません。電話来てるんで、外で話します」

「おうよ」

 昨日。オレと一緒の時間に上がったマイノーンが電話に出たんだ。チャンスだと思った。準備してすぐに実行できたんだからな。5分あればできるって、ノイジーは言ってたんだ。

「……よし!」

 オレは着替えを素早く済ませた。その後、窓を開け、にゃーさんをバケツに入れてバーナーを点けた。思ったよりすぐに割れた。バラバラにするのに2分ってところか。割り終わったら、すぐにバーナーを戻して、開いたジャージに破片を載せて包んでいった。ノイジーの言った通り、ゴミ箱に1つずつ破片も入れた。だが、あと1個ってところで……。

「開けますよー?」

 マイノーンが急に入ってきたんだ。焦ったぜ。すぐにジャージを畳んで、バケツを抱えた。そんで廊下へ出て、バケツに残った1個の破片を窓から捨てた。

 

 その後、バンブーさんに怒られてから、オレは真っ先に部室へ向かった。予定通り、ノイジーが窓近くで待ってたよ。

「ジャージを忘れた? 2日分?」

「そうなんだ! 頼む、取ってくれ!」

 窓を開け、ノイジーと芝居を打った。すると、ノイジーはロッカーまで行きやがった。

「おい! オレのジャージは机にあるやつだぞ!?」

「え? ああ悪い、それのことか」

 そん時に、ノイジーは自分のロッカーからジャージを取り出したんだ。そして、オレのジャージとすり替えた。

「返すのは明日のランドリーだ」

 窓越しに耳打ちされた。それを聞いて、これも計画のための行動だとわかった。オレはそのままジャージを受け取って、寮まで戻った。

 

 

―――

 

 

「オレが持ちかけなきゃ、ノイジーもこんなことはしなかったんだ。だから、本当はオレのせいだ。オレのせいで、ノイジーまで……!」

 アカノさんの目が潤む。被害者であるドトウさんへの謝罪は無しに、共犯であるノイジーさんのことばかり話す彼女へ、私は怒りを感じていた。しかし、私より前に口を開いたのは……。

「違う。アカノは関係ない。アタシは、アタシの意思でやったんだ」

 ノイジーさんだった。へたりこんだ姿勢のまま、口と目だけを動かして話し始める。

「ドトウは、本格化前にデビューした。信じられなかった。あんなオドオドしてる奴が、本格化を迎えずに勝利していたなんて。アタシやドライだって、初勝利までまる1年かかったんだぞ? それをドトウは、まだ未熟な段階でやってのけたんだ。こんな話があるか? なんでドトウだけなんだ? なんでアタシらはドトウに勝てない? そんなドトウが、なんでアタシらみたいな弱小チームに入ったんだ?」

 ノイジーさんの眉間にしわが寄っていた。

「意味が分からなかった。気に入らなかった。日に日に憎くなった。そんな時、ドトウはロッカーからカギを外したんだ。その中に、フクキタルさんの招き猫が入っていることも知った。ドトウなんかにふさわしくないって、そう思った」

「それってまさか、私が……!?」

 彼女の話を聞き、マイノーンさんが目を見開き振り向く。ノイジーさんもそれに気づき、目を逸らした。

「だから、アタシが計画した。絶対にバレないと思ってたし、バレても器物損壊と窃盗だ。そんなに重い罪にはならない。冷や冷やしたよ。そんな日に限って、みんな近い時間にトレーニングから上がってきたんだからね」

 言い終わると、ノイジーさんは目をつぶり、自嘲気味に笑う。

「どうせ真っ暗な競技人生だ。つぶれたところで痛くもない」

 そうつぶやき、彼女は大の字で寝転んだ。

「……ノイジーさん」

 私は、そんな彼女に近づく。

「あなたはどうして、リーダーになったのですか?」

「どうしてって……それがどうした?」

 フッと笑うノイジーさん。気にせず私は続ける。

「あなたは、ドライさんを犯人に仕立て上げられるようにしたかった。そうですよね?」

 この言葉に、ドライさんがこちらを向き、目を大きく見開く。驚きからなのか、絶望からなのか、それとも憎悪からなのか。私にはわからない。

「思えば、あなたの発言はずっと変でした。ドライさんへの発言です。最初の聞き込みではあやしいと言っていたのに、花束の件では彼女が犯行をしてないことを示唆してました。なぜでしょう?」

「なぜって、わからないよ、そんなの」

「あなたは、最後まで揺れていたんです。ドライさん以外に犯人を押し付けられないけど、彼女のことを友達として好いていた。彼女を守ろうという思いが、発言をブレさせてしまったんじゃないですか?」

「あっ……」

 そのことに、ノイジーさん自身が驚いていた。

「ドライさんの様子を見ていればわかります。あなたは、彼女の悩みに真摯に向き合っていた。それに他のチームメイトの方も、あなたの容疑を晴らそうとするくらい、あなたを慕っています。そうして人を助けるために、リーダーになったんじゃないですか?」

 ノイジーさんは目を見開いてから、表情を引き締める。そして、ゆっくりと話し始めた。

「……実は1年前、チームのリーダーはアタシじゃなかったんだ。アタシの1個上の先輩。もう引退しちゃったけどね。その頃のアタシ、ずっと勝てなくて。でも、その人はそばにいてくれてさ。心強かったんだ。アタシの悩みも、不安も、全部わかってくれる人で。そういう人になりたいから、次のリーダーに立候補したんだっけなぁ……」

 話している間のノイジーさんは、先程までと異なり、うっすらと笑みを浮かべている。やさしい顔。最初に彼女に会った時のような、穏やかな顔。

「それからすぐ、ドライが入ってきたんだ。彼女は他のメンバーと全然話さなかったけど、アタシは話しかけ続けた。きっと、それはドライも悩んでるからだって、思ったから」

 だんだんと、その顔から笑顔が消えていく。

 

「あのにゃーさんは、ドトウさんにとって、頼れる先輩だったんです」

「……なんだって?」

 私の言葉を聞き、ノイジーさんはこちらへ顔を向けた。

「フクキタルさんによると、チームに入ったばかりの頃のドトウさん、毎日泣いていたそうよ。部室にいるのがつらかったって。でも、部屋に入れるようになったのは、にゃーさんがいたおかげなの。にゃーさんが、フクキタルさんが一緒にいるって思えたから、ここにいることが苦じゃなくなったのよ」

 やるせなさと怒りから、口調が強くなってしまう。ノイジーさんは目を見開き、口元を震わせる。そして、またフッと笑った。

「そうか、アタシは。アイツにとってのリーダーを、奪ったのか! あは、あははははは!」

 笑い声とは裏腹に、その瞳から、涙が落ちていく。こらえきれず、腕で両目を覆うノイジーさん。

「ごめん、ごめんな。ドライ、アカノ、マイノーン、ドトウ。アタシはリーダー失格だな……!」

 突然、ドライさんが彼女のもとへ行く。そして、ノイジーさんの手を握った。

「バカ! ノイジーの、バカ……!」

 ドライさんも泣いていた。

「あんたは、賢いと思ってたのに! 信じてたのに……!」

 ボロボロと涙を流す彼女に対して、ノイジーさんもただ泣き続けることしかできなかった。

 こんな姿を見せられると、怒る気分にもなれなかった。先程まで湧いていた怒りが、だんだんと沈んでいく。残った分を、拳で握りしめていた。

 

「みんな、どうして泣いてるの?」

 このムードの中では、さすがのウララさんも戸惑っているみたい。

「犯人って、悪い人なんでしょ? 見つけて、つかまえたら、みんなうれしいんじゃないの?」

 不安そうな顔で聞く彼女に、私はどんな顔を向けていたのかしら。

「いい、ウララさん。世の中、悪い人と善い人がいる。けど、悪いけど善い人もいるの」

「わるいけど、いいひと?」

「そう。誰しも心に、善い心と悪の心、両方を持っているの。今回の事件は、悪の部分が大きくなってしまったから起きたのよ」

「あくのぶぶん?」

「だから、みんな悲しいの。2人の善い部分を知っているから」

 ウララさんは首をかしげている。今はまだ難しい話だったようね。けど、彼女にもいずれ来るかもしれない。善人だと信じた人が、悪事をしていたと知る時が。

「罪を償って学園に帰ってきたら、2人も善い人になるわ」

「そうなの?」

「そうよ。その時は、仲直りできるかしら?」

「……うん! もう悪いことしないなら、うららも仲直りするー!」

 ウララさんに、いつもの笑顔が戻ってきた。

「ねえキングちゃん、招き猫って粘土で作るんでしょ?」

「え?」

 突然来る質問に驚いてしまったが、すぐに答える。

「ええ、まあそんな感じね」

「だったら、みんなでにゃーさん作ろうよ! ウララ、粘土いっぱい持ってくるよ! ドトウちゃんもよろこんで、仲直りしてくれるよ!」

 その言葉に、その場にいた全員が顔を見合わせた。

「ええ、そうね。それがいいわ」

 

 

―――

 

 

 あの後、事件のことは学園の大人にも知らされた。学園から親御さんへと伝えられ、当然、2人からドトウさんへ謝罪もあった。後のことは知らされてないけれど、アカノさんとノイジーさんは3か月の自宅謹慎処分となり、実家へと帰ったらしい。チームからも、籍を外されたんだとか。復帰できたとしても、学園の人からは白い目で見られるでしょうね。

 

 

 

「おっじゃまっしまーす!!」

 ウララさんはいきなり扉を開ける。そこにいたのは、ドトウさんとマイノーンさんだ。2人とも、ただ静かに座っている。カーテンも開けず、電気もついていない。

「暗いわね。どうしたの?」

「あ、キングさん……」

 私の声に、マイノーンさんが気づいた。やっぱり、あの2人がいなくなってしまってから、チームの雰囲気は暗くなっているようだ。

「元気ないねー? ドトウちゃん、にんじん食べる?」

「い、いえ………………」

 ドトウさんも最低限の返事しかしていない。

「ドトウさん、ずっとあんな感じなの?」

「はい。トレーニングにも身が入らないみたいで……」

「そう。無理もないわ。仲間ににゃーさんを壊されたって知れば、誰でもショックを受けるもの。あなたも大丈夫?」

「え? ああ、まあ……」

 会話はしてくれるものの、マイノーンさんも相当参っているみたい。明るいメンバー2人が抜ければ、こうなるのも当然ね。なんとかできないかしら。

「そういえば、メリードライさんはいないのね?」

「あ、今日はトレーナーさんと話をしてから来るそうで……なんでも、発表したいことがあるんだとか……」

「彼女はどんな様子なの?」

「えっと、ずっとトレーニングには来てないです。今日、久しぶりに顔を見ます……」

 やっぱり、事件のことがこたえてそうね。信頼してたノイジーさんが犯人だったのだから、それも仕方がない。

「ドトウちゃん、じゃんけんしよー! じゃんけん、ぽん!」

 ウララさんは1人で手を振り下ろした。ドトウさんは動いていない。

「じゃあさ、しりとりしよー! しりとりの『り』! りんご! はい、ドトウちゃん!」

 またしても、呼びかけに応じないドトウさん。ウララさんも「うーん」と唸り始める。いよいよ打つ手無しか……そう思った時。

 

「全員いる?」

 声と共にドアを開けて入ってきた、背丈の低いウマ娘。メリードライさんだ。

「あれ? あんたらいたんだ。まあいいや、一緒に聞きなさい」

 私達の方を見て、彼女は言う。最初の時みたいに追い払われるかと思ったけど、以前より態度が軟化している。事件を通して、彼女にも変化があったのね。もっと落ち込んでいるかと思っていたけれど、顔色は良いし、シャキッと立っている。

「あんた達、よく聞きなさい」

 ドライさんはホワイトボードの前に立ち、手を腰に当てる。

「このチームの所属は3人になった。存続ギリギリのところよ。成績が出せなければ、人が増えなければ、あと1か月で解散になるかもしれないわ。だから……」

 

「私がリーダーになる」

 全員、しばらくの間を置いてから、「えっ」とつぶやいた。

「私がリーダーになって、このチームを存続させる」

 ドライさんは、真っ直ぐ前を見つめて宣言する。

「だから、あんた達もチームを存続させられるよう、手伝って」

「て、手伝いって、な、何をすればいいんでしょう……?」

「とにかく勝つの。チームとして、レースでの成績が残せれば、解散は延期させられる。2人が戻ってくるまで、私達で2人の居場所を守るの」

 表情はそのままだが、声に芯が通っていた。今度は、ノイジーさんが彼女を守った分だけ、彼女がノイジーさん達を守ろうとしているのね。

「ドトウ。あんたは今まで通り勝ち星を重ねて。マイノーン、次は絶対勝ちなさい。ここで負けたら、今度こそ終わりよ」

「わ、わかりましたぁ~!」

「いきなり無茶言うなあ……」

 ふと、外から風が吹き、カーテンが舞い上がる。部屋に日の光が入り、窓枠にある小さな招き猫達は顔を覗かせた。ドトウさんとマイノーンさんの表情も、明るくなっているように見えた。

「それじゃ、準備できたらすぐ来なさい。それとドトウ」

「え?」

 ドトウさんの前までドライさんは歩いてきた。

「これ、あんたにあげる」

「え、これって……」

 ドトウさんが手渡されたのは、花束だった。ドライフラワーの。

「その、今までごめん。でも、あんたは仲間だから」

 そう言い残し、一足先に部屋を出るドライさん。受け取ったドトウさんの頬から、光が零れ落ちていた。

 

「すごーい! ドライちゃん、かっこよかったね!」

「ええ、そうね」

 目を輝かせているウララさんを前に、私の口角も上がっていた。

「あの~、キングさん、ウララさん……」

 ドトウさんが私達の前まで近づいてきた。

「この度は、本当にありがとうございました。まだ、お礼言えてなかったので……」

 頭を下げる彼女へ、顔を上げるよう伝える。

「一流の頭脳をもってすれば、この程度の事件は楽勝よ!」

 いつもの調子で言ってしまったが、今回の功労者を思い出した。

「けど、私1人で解決したわけじゃないわ。犯人を特定できたのは、ウララさんのおかげよ」

「えへへ、すごいでしょー! えっへん!」

 満足気な顔で胸を張るウララさん。

「はは、本当にそうですね」

 マイノーンさんも近寄ってくる。

「色々とありがとうございました。まさか、キングさん達で犯人までわかっちゃうなんて! 本当に名探偵みたいでしたよ!」

「マイノーンさん、それは違うわ」

 褒め言葉はうれしいけれど、それは私にふさわしい言葉ではない。

 

 私は息を大きく吸い、胸に手を当てた。

 

「私の名前はキングヘイロー。一流の探偵助手よ」

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