「ええー!? じゃあバクシンオーさん、壁をこわしちゃったのー!?」
「ぐぬぬ……学級委員長としてあるまじき行為。しかし、犯人は私に間違いありません!!」
驚くウララさんに、頭を抱えるバクシンオーさん。
「キングちゃん! 本当にバクシンオーさんが犯人なの!?」
思わずため息が出てしまう。
「もしそうなら、生徒会が今も調査してるわけないでしょう」
日が傾き、オレンジ色の光が窓から差し込む時間。私達は汚れたジャージを着たまま、廊下にいた。ウララさんが穴のあいた壁を見つけてしまったから。早いところ、寮に帰りたいのに……。
以前、ドトウさんの事件を解決したことで、ウララさんの探偵ブームに拍車がかかってしまった。彼女は空き時間に、学園中を歩き回って事件を探すようになった。昼休みだろうと、トレーニング後だろうと、休日だろうとお構いなし。当然のように私も連れ出された。とはいえ、事件と呼べるようなことはめったに起きない。平和な日が続き、ようやく探偵に飽きかけてきたと思ったら、今回の事件を見つけてしまった。
「またわたしたちで解決しようよ!」
キラキラした笑顔を向けてくるウララさん。
「イヤよ。一流のウマ娘は、トレーニング後の休養も怠らないのよ」
「ええー! きっとキングちゃんならできるよ! いいよね? エアグルーヴさん!」
「協力してくれるというのなら歓迎する。早急な調査のため、多くの者の考えが欲しい」
え、エアグルーヴ先輩まで……。幸い、前回と違って生徒会の人達が仕切っており、目撃者や容疑者が既に集まっている。推理のための土壌は整っている。
「わかりました。やれるだけやってみます」
面倒事は嫌だけれど、関わる以上は手を抜くわけにはいかない。それが一流のウマ娘よ。とにかくまずは、事件について詳しく知らないといけないわ。
「バクシンオーさん、事件当時のことを話してください」
「ハイ! わかりました!」
「今日の1時から3時半頃まで、私は補習を受けていました! マリンストライドさんと2人で受けていたのですが、ストライドさんは3分ほど先に終わり、教室を出ていったのです! クラスで待っていると言われたので、私も補習を終えてここへ向かいました!」
バクシンオーさんの言う通り、この近くに彼女のクラスがある。校舎1階の端にある教室だ。事件は、そこに隣接した廊下で起こった。
「すると、ストライドさんがその……よろしくない本を持って、廊下の奥に立っていたのです! 学級委員長として見逃せないのでバクシンしたのですが、ストライドさんの前で転んでしまいまして。同時に、壁が崩れてしまったのです!!」
廊下突き当りの壁が壊れ、穴があいてしまったわけね。穴からは外が丸見えになっている。向かいのカフェテリアまで見える。これがその穴の様子。なぜか、その穴の形が、バクシンオーさんのシルエットと酷似している。
「私のバクシンが速すぎるあまり、余波で壁を突き破ってしまったのです! ゆえに、穴の形が私ソックリになってしまったのです!」
「そんなわけないでしょうバクシンオーさん!」
思わず声を上げてツッコんでしまった。そもそも、走った余波で壁が壊れるわけがないわ! 誰がどう見てもおかしいのだけれど、なぜかバクシンオーさんは自分がやったと認めてしまっている。
バクシンオーさんは壁にぶつかったわけではない。本当にぶつかったとしても、前髪や耳など柔らかい部位まで再現されるはずがない。というか、まず人型の穴になるとは思えないわね。だけど、この形の穴があいているということは……。
「エアグルーヴ先輩、もしかすると……」
「うむ。大方バクシンオーに罪を着せるために、わざとこの形の穴をあけ、埋めたのだろう」
さすがは先輩。気づいているわね。
穴がこの形になる理由はただ1つ。あらかじめ壁を壊し、バクシンオーさんの形の穴をあけておく。その時に出た破片を穴に埋め込んで、今日まで隠しておいた。これ以外あり得ないわ。
「容疑者の方達は集まっているんですか?」
「ああ。この教室に全員集めてある」
エアグルーヴ先輩は、バクシンオーさんのクラスの教室へ手を向ける。そこには、7人の生徒と2人の大人がいる。
「容疑者は、現場近くに居合わせていた生徒5人だ」
「じゃあ、室内の全員が容疑者じゃないんですね?」
「先生2人は後から現場に駆けつけた証人だ。容疑者から外れる。生徒のうち2人は、お前と同様に手伝いを頼んでいる」
私以外にも協力者がいるようね。だけど、犯人が事前に穴をあけたのなら、近くにいる人だけが容疑者とは思えない。
「ここの人以外の容疑者はいないんですか?」
「それについては、生徒会で調査している。お前達には、この中に犯人がいないか確かめてほしい」
つまり私達の仕事は、現状の容疑者達に犯人がいるのか、吟味することになるのね。
「すでに30分ほど、彼女らを拘束している。できれば早めに聞き込みをして欲しい」
先輩の頼みに、私は首を捻る。聞き込みより前に、現場を調査してしまいたい。
「すみません、エアグルーヴ先輩。まずは現場を見させてもらいたいです」
「わかった、10分以内には済ませてくれ」
10分ね。なら、しっかり見れそうね。先輩の言葉を承諾し、私はウララさんの方を見る。
「バクシンオーさん、大丈夫! ウララたちが真犯人を見つけるからね!」
「いえ、真犯人は私です……私のスピードが速すぎるあまり、こんなぁ……こんなことがぁ……!!」
バクシンオーさんは聞く耳を持たず、拳を頭に当ててグルグルさせている。
「ウララさん、現場を調査しましょう」
彼女の手を引き、私は穴へと近づいた。
改めて、壁の穴を見てみる。室内と外を区切る壁なだけあって、結構分厚い。20センチくらいある。上方を見ると、壁紙がベロンと垂れ下がっている。穴を埋めた後、犯人が隠すために貼ったのね。
「キングちゃん、なんで穴はバクシンオーさんの形なの?」
「誰かが最初から穴をあけてたの。バクシンオーさんを犯人と思わせるためにね」
「えぇー? どうしてそんなことをするの?」
どうしてって……どうしてでしょうね。この形にするのって、かなり手間がかかるはず。それも、人目につく場所の壁でやっている。それでもやったのだから、犯人はバクシンオーさんを相当恨んでいたんでしょう。けど、こんな方法で罪を着せるかしら? 他の悪事をなすりつけてもよかったでしょうに。壁を壊せば容疑者をウマ娘に絞ってしまうし、穴をあけたり埋めたりするところを目撃されるリスクもある。どうして、こんな方法を選んだのかしら?
少し考え込んだけど、その末に1つだけ浮かんだ。穴が元からあいていたら? 誰も気づいてないだけで、元々この壁には穴があいていた。犯人はそれを知っていて、その穴を利用したの。1からあけるよりは手間がかからない。だとしても壁をわざわざ選んだ理由は?
それは、過去に自分で穴をあけたから。当時はうまく隠せていたけど、最近になって穴を隠すのが困難になった。だからその穴を利用し、自分の罪も帳消しにしようとした。これなら筋が通る。その線で考えていきましょう。
「でもすごいねー! こんなにキレイに穴をあけるんだもん! どうやってやったのかな?」
ウララさんの言葉に、私の中でまた疑問が浮かぶ。犯人がこの形の穴を作った方法。細かく形作られているため、素手で行うのは不可能。必ず道具を使ったはず。現場に落ちていればいいけれど。
壁から視線を落とし、床を見る。壁の破片がたくさん散らばっている。現場を保存するのは刑事モノでも鉄則よね。けど、特にあやしいものは……。
「ん? 何かしら、これ」
私はしゃがみ、破片の1つを見る。他の破片と比べて色が薄い。真っ白。周りを見ると、他にも真っ白な破片があった。数は少ないけど、変ね。
「ねえねえ、この破片ツルツルだよ!」
「ちょっとウララさん! 勝手に触っちゃまずいわ!」
「ほら! キングちゃんも触ってみてよ!」
ウララさんに引っ張られ触ると、確かにツルツルしている。これは、コンクリートではないの? 犯人が穴を埋める際に、他の物を利用したとも考えられるわ。明らかに他の破片よりキレイだし、手がかりになりそうね。
今度は穴をくぐり、外へ出てみる。目の前にはカフェテリアがある。近くにプランターが置いてあった。多分、エアグルーヴ先輩達が育てている花ね。こちら側にも破片がたくさん落ちている。手がかりになりそうな物もない。
現状でわかるのはこんなところかしら。ただ、時間も5分ほど余っている。まだ考えてないことを推理してみましょう。
犯人はどうやって事件の時刻に壁を壊したのか。本人が直接殴った? それとも、道具か何かを投げた? 殴ったのなら、一緒にいたマリンストライドさんが見ているはずね。投げたのなら、周辺に証拠が落ちているはずよね。まさか、犯人が持ち去った? どのタイミングで?
わからない。現段階では、いろんな可能性が考えられる。これ以上、現場の調査をしても仕方がないわ。
「ここからは聞き込みをしましょう。ウララさんも、気になったことは遠慮なく聞きなさい」
「うん! 聞き込みがんばるぞー!!」
ウララさんは張り切って、教室のドアを開けた。
「はーっはっはっはっは! やはり来たね、キング君! ウララ君!」
教室に入った瞬間、大きな声が教室に響いた。オペラオーさんだ。
「は、はっはっは! しょ、しょうぶですぅぅぅ!」
それに続いて、胸を張るドトウさん。2人は、入り口近くで私達を待っていたらしい。
「あら、あなた達も容疑者なの?」
「いいや! ボク達は容疑者じゃないよ! エアグルーヴ先輩の協力者さ!」
2人も犯人特定の手伝いに来たのね。先輩も手伝う人は多い方がいいと言っていたけれど、オペラオーさん達までいるとは思わなかったわ……。
「キングさん、ウララさん。ぜ、前回は、ありがとうございましたぁ!」
ドトウさんが笑みを浮かべながら頭を下げる。
「ドトウから聞いたよ! にゃーさんを盗んだ犯人を、君達だけで暴くとはね!」
「えへへ! ウララたち、すごいでしょー!」
笑顔で褒めてくるオペラオーさんに、胸を張るウララさん。
「そして、今。前の事件を解決した君達2人と、前の事件に関わったボク達2人がいる。この意味がわかるかい?」
「いみ?」
ウララさんは頭をかしげる。一体、どういうことかしら。疑問に感じていると、オペラオーさんの表情が険しくなる。
「宣戦布告さ。今日はボクも推理する。つまり、君達のリヴァルとなる。覇王の名を持つボクと、キングの名を持つ君。どちらが真の世紀末推理王なのか、勝負だ!」
高らかに宣言するオペラオーさん。推理に勝負も何もないと思うけれど……というか世紀末推理王って何?
「とにかく、ボクは失礼するよ。君達への挨拶も済んだことだし、現場の再調査をしたいのでね」
「あの、がんばってくださいぃぃ!」
そう言い、オペラオーさん達は教室を出ていった。既に聞き込みを終えていたようね。
「オペちゃんとキングちゃん、ライバルになったんだね!」
「別にライバルじゃないわ。でも……」
これでもし私が真実にたどり着けば、私が推理王になるのよね! キングの名がかかっている以上、先を越されるのは許せない。
「絶対に、オペラオーさんよりも先に犯人を見つけましょう!」
「よーし、ウララもがんばるぞー! まずはアルバイト確認だよね!」
それを言うならアリバイよ、ウララさん……。
「あれ? 君達も中等部の子かな?」
私とウララさんに気づき、教壇から近づいてくる女性がいた。えっと、この人は……誰だったかしら?
「知らないのも無理ないわ。関わりがない先生なんて、いちいち覚えないでしょう?」
あっけらかんと言う女性。確か、今年入ったばかりの先生だった気が……。
「はじめまして! わたし、ハルウララ! 名探偵やってるんだ!」
「おお? 探偵さんかぁ、心強いね。アタシは柏田実って言うんだ」
「じゃあ、みのり先生だね! よろしく!」
ニッコリと対応する先生。初対面の人相手にもまったく怯まないわねウララさん……。でも、自己紹介を聞いて全部思い出したわ。
柏田実先生。長身でメガネをかけた、クールビューティーな女性。26歳らしい。美術科の先生で、高等部の授業を担当している。長いスカートと赤いペレー帽がトレードマーク。見たところ、ウララさんみたいな子の相手は慣れているようね。
「中等部のキングヘイローです。柏田先生は、容疑者ではないんですよね?」
「うん。アタシはバクちゃんの担任でね。ここで大きな物音がしたから、3階の美術室から駆けつけてきたのよ。そしたら壁が空いてて、ビックリ。それからは、生徒会の人達に協力してるってわけ。ちゃんと真犯人を見つけてやるんだから!」
なるほど。自分のクラスの生徒がトラブルに巻き込まれたから、解決に動いてるってわけね。良い心がけじゃない。
「正直、仕事が溜まってるから早く美術室に戻りたいんだけどね……ここ1週間残業続きだし……」
先生は頭を抱えた。色々と大変そうね。
「柏田先生。生徒の前でそういうことを話すのは良くないですね」
教室の後ろの方から、男の人が歩いてくる。
「大林先生、聞こえてました?」
柏田先生は青ざめる。
「自分のクラスの生徒が問題を起こしたんですから、もう少し緊張感を持ってくださいよ」
「まだバクちゃんと決まったわけではありませんよ!」
男性の飛ばす嫌味に、反論する柏田先生。この男性は、面識はないけどよく知っているわ。
大林正人先生。壮年の男の先生。髪は短髪で、いつも仏頂面をしているらしい。担当教科は国語で、高等部の授業を受け持っていたはず。厳しいとウワサされてる先生で、一部の生徒からとても嫌われている。中等部の私でもその存在を知っているほどウワサは広まっていた。
「まったく、若いからといって楽をしていては困りますなぁ。あなたがちゃんと生徒に向き合っていれば、今回のようなことはならなかった」
まだ嫌味を言い続ける大林先生。それを聞き、柏田先生も拳を握りしめている。イラ立っているみたいね。
「それは違います!」
急に教室の扉が開き、バクシンオーさんが中に入ってきた。
「柏田先生は、とても良い先生です! 私の絵を褒めてくれます! 『芸術はバクシンだ!』と、バクシンとはなんたるかを理解している方です! しっかり生徒に向き合っています! 失礼しました!」
それだけ熱弁すると、すぐに廊下へ戻っていったバクシンオーさん。柏田先生は驚き、彼女の方を見つめていた。大林先生も、これにはたじろいでいる。私達も聞き込みしないと。
「はじめまして! ハルウララです!」
「キングヘイローです。今回の調査の手伝いをしています」
大林先生にあいさつする。先生もこちらに気づいた。
「そうなのか。早いところ、犯人を見つけて欲しいものだね」
反応が薄い。無愛想というか、傲慢そうというか。さっきの柏田先生への態度といい、あんまり仲良くなれそうにないわ。
「大林先生は、なぜここに?」
「彼女らの補習を見ていてね。特にバクシンオー。あやつの成績は伸びなさすぎるから。今日はみっちりやるつもりだった。合格するまで再テスト、再々テストと続けるつもりだった。やはり、2時間はかかったね」
ああ……この人、成績悪い人にキツくなるタイプの先生なのね。
「それで補習が終わったのはいいんだが、廊下で大きな音がしてな。現場へ駆けつけたんだ。後から柏田先生も降りて来て、2人で周りの子を集めたんだ」
壁が壊れてから現場に来た。だから2人は容疑者じゃないってことね。
「おっと、私も今日中の仕事があるんでした。先に上がらせてもらいます」
そう言い残し、大林先生は足早に教室を出ていった。
「なんなのよアイツ。アタシに全部押し付けて……身勝手だと思わない?」
口を尖らせて言う柏田先生。あなたもさっき戻りたいと言っていたけど。
さて、ここからは容疑者に聞き込みをしていこう……と思ったけど、その前に。
「先生、この教室にいる方達を紹介してもらえませんか? 初対面の方もいるので」
「いいよ。誰について聞きたい?」
先生から容疑者について小声で教えてもらった。教室に集められていた容疑者は5人。うち2人は知っていたので、残る3人について聞いた。
「情報、ありがとうございます」
「大変だろうけど、聞き込みがんばってね」
「うん! アリクイ確認がんばるね!」
だから、アリバイ確認よウララさん……。
いよいよ聞き込み開始ね。まずは、バクシンオーさんと一緒にいた彼女から。
「はじめまして。キングヘイローです」
「ハルウララだよ! マリンストライドさん、だよね?」
「え? あ、はい。そうです」
こちらに気づいた彼女は、席を立ち上がる。
マリンストライド。メガネをかけた小柄な栗毛のウマ娘。バクシンオーさんと同じクラスで、彼女とはとても仲が良いらしい。今日も一緒に補習を受けていた。見た目や雰囲気から、どことなくゼンノロブロイさんを連想してしまう。
「ストライドちゃんでもいい?」
「あ、はい! それで大丈夫です! ウララさんに、キングさんですね?」
「うん、そうだよ! アリボウ確認させてもらうね!」
緊張しているのか、キビキビと話すストライドさん。そして、アリバイ確認よウララさん。アリボウって何よ?
「壁が崩れる前からお話しします。大林先生の補習を私が先に終えて、ここの教室に行きました。でも、教室の中を覗いた時に、前の方にバクちゃんの机があるんですけど、その引き出しの中に……」
ストライドさんの言葉が止まる。視線を逸らし、人差し指同士をくっつけモジモジしている。
「い……いかがわしい本が入っていて。その、大人しか見ちゃいけないような」
え? ああ、そういうこと。いわゆるその、セクシーな本が机に入っていたと。バクシンオーさんが『よろしくない本』と言っていたのも、その本のことね。
「キングちゃん、いかがわしいって何?」
「大人になったらわかるわ。ストライドさん、続けてください」
「はい。驚いたんですが、納得できなかったので、私は本を持ったんです。バクちゃんの物なのか、本人に確認しないとって思って。それで、前の扉から廊下に出ました。でも、万が一バクちゃんのものだったら、勝手に持ち出しちゃったらマズいと思って、1分くらいどうしようか迷ってました」
なるほどね。たしかにあのバクシンオーさんが、そんな本を持ってるとは思えないけど。ましてや学校に持ち込むなんて。
「すると、バクちゃんが廊下の向こうから走ってきたんです。それで、私のところにたどり着く前に転んでしまって。前にズコーって感じです。同時に、私の後ろの壁が崩れてしまったんです。その後は先生達が来てくれて、今に至ります。これが、私の見た事件のすべてです」
ストライドさんは話し終えると、ふぅー、と息を漏らす。今の話からすると、ストライドさんの方が壁の近くにいたのね。
「ストライドちゃんは、バクシンオーさんが壁を壊したと思うの?」
「あり得ません! 転んだ衝撃なんて大したものじゃなかったですし、何よりバクちゃんには壊す理由なんてないよ!」
彼女も、バクシンオーさんが犯人だと思っていないようね。
「ストライドさん。これだけ大きな穴があいたなら、外の様子は見えましたか?」
「あ、はい。穴の外に、2人のウマ娘の姿を見ました」
えっ!? 崩れた瞬間、外にいた人物を見てるのね!? 直接壁を殴って壊したなら、その2人のどちらかが犯人ってことになるわ! これは重要な証言よ!
「ストライドちゃん、犯人を見たの!?」
「はい。いえ、犯人かはわからないんですが……あの、そこにいる2人です」
彼女がこっそり指を差した先には、見覚えのあるウマ娘がいた。
「え!? ストライドちゃん、犯人って?」
ウララさんは目をパッチリ見開いていた。私も驚き、息をのむ。次は彼女達に聞いて確かめてみましょう。
「ライスちゃん! ブルボンちゃん!」
ウララさんの方から2人に話しかける。
「ひゃっ!? ウ、ウララちゃん……?」
ライスシャワーさんは肩をビクっと上げる。
「ライスちゃんたちも、容疑者なのー?」
「う、うん。そうなんだ……」
無邪気なウララさんに対し、ライスさんはうつむいた。
「データログ参照。ウララさんと、キングヘイローさんですね」
隣にいたミホノブルボンさんもこちらを認識した。
「ウララちゃんとキングさんも、事件の調査なの?」
「うん! ウララたち、名探偵なんだ!」
「そ、そうなんだ? すごいね、ウララちゃん……」
言葉とは裏腹に、ライスさんの顔は暗い。
「オペレーション:聞き込みと認識。先程、オペラオーさんに複数の質問をされました。こちらも回答の準備、完了しています」
対して、ブルボンさんはいつも通り無表情ね。
「キングちゃん! やっていこうよ、聞き込み!」
ワクワクしているウララさん。前置きをしても仕方がないし、早速始めましょうか。
「ライスさん達は、事件当時はどこにいたんですか?」
「えっと、ライスもブルボンさんも、外にいました。崩れた壁のそばにいたんです」
「はい。ライスさんの証言に間違いありません」
ライスさんはうつむいた。今の発言は、ストライドさんの証言と一致している。この2人が犯人なのか追及したいけれど、なぜかライスさんは落ち込んでいるみたい。彼女への聞き方は配慮しなければいけない。
「あ、あの、キングさん、ウララちゃん……」
何を聞こうか考えていると、ライスさんの方から話し始めた。
「あの、ライスね……真犯人かもしれないの」
「……えっ? どういうことです?」
あまりに唐突な言葉に、考える前に聞き返してしまった。
「ライスのせいで、壁が崩れちゃったかもしれないの……!」
「ええーっ!?」
両手で顔を覆うライスさん。叫ぶウララさん。
「ど、どうしてそう思うんですか?」
私も刺激しないよう言葉を選びつつ、質問する。
「ライスのまわりにいると、不幸なことが起こっちゃうから……きっと、ライスが近くを通ったせいだ!」
「え? いやでも、それだけで犯人にはならないわ」
と、私が話してもライスさんの表情は暗いままだ。彼女の様子を見るに、本気でそう思っているみたい。ど、どうしようかしら……。
「いいえ。ライスシャワーさんが壊したわけではありません」
隣のブルボンさんがフォローに入った。これなら安心ね。
「壁は私が壊しました」
<事件概要>
今日の午後3時30分、高等部校舎の1階廊下の突き当りの壁が崩れた。
壁にはサクラバクシンオーと似た形の穴があいていた。
事件前に、犯人がこの形にあけておいたと考えられる。
<見つけた手がかり>
・コンクリート以外の破片
現場から見つかる。真っ白でツルツルした面がある
<関係者の事件当時の動向>
・サクラバクシンオー
補習が終わった後、マリンストライド目がけて廊下を走る。教室前で転び、同時に壁が崩れる。
・マリンストライド
バクシンオーより3分前に補習を終わらせ、自分達のクラスへ行く。そこで、バクシンオーの机にいかがわしい本を発見。それを抱えて、前の扉から教室を出る。考えているうちに、バクシンオーが走ってくる。
・柏田先生
1時から3時まで職員室で書類作成。3時からは美術室で片付けをする。壁が崩れる音を聞き、1階に駆けつける。
・大林先生
事件直前まで、バクシンオー、ストライド相手に国語の補習を行う。壁が崩れる音を聞き、現場へ駆けつける。
<登場人物の情報>
・マリンストライド
メガネをかけた小柄な栗毛のウマ娘。バクシンオーさんと同じクラスで、彼女とはとても仲が良い。事件前、一緒に補習を受けていた。見た目や雰囲気から、どことなくゼンノロブロイさんを連想してしまう。
・シャインメイカー
キレイな金髪ストレートヘアのウマ娘。外見はお嬢様にも見えるが、性格や言動は不良で、目付きも鋭い。バクシンオーさんのクラスメイトでもある。数々の問題を起こし、彼女から説教を受けたこともあったのだとか。
・メルトスイーツ
小柄で鹿毛のウマ娘。瞳が特徴的で、十字に光り輝いている。とても上品でおっとりした優等生だけど、どこか他の人とズレている。得意距離は短距離で、バクシンオーさんとも何度も戦っている。
・柏田実
長身でメガネをかけた、クールビューティーな女性。教師になって3年目。美術科の先生で、高等部の授業を担当している。長いスカートと赤いペレー帽がトレードマーク。一応生徒思い?
・大林正人
壮年の男の先生。髪は短髪で、いつも仏頂面をしているらしい。担当教科は国語で、高等部の授業を受け持っていたはず。厳しいとウワサされてる先生で、一部の生徒からとても嫌われている。
<図>
・高等部校舎
【挿絵表示】
・事件現場周辺
【挿絵表示】