名探偵ウララと一流助手キングヘイローの事件簿   作:菜目ルナ

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バクシン穴事件編2話 犯人はミホノブルボン?

「壁は私が壊しました」

 

 ……え? え、えぇ? 突然、ブルボンさんが自白した。驚くあまり、言葉が出なくなる。ウララさんも口を開けたまま固まっていた。

「ち、ちがうよ! きっとライスが近くにいなかったら、ブルボンさんが壊すこともなかったんだ!」

 ライスさんがそれをかばい始めた。ようやく思考がまとまってきた。ブルボンさんの方は詳しく聞く必要がありそうね。

「ブルボンさん、壁を壊したことについてお話できますか?」

「承認。オーダーを開始します」

 相変わらず無表情のままね。この調子なら、証言はスムーズにしてくれそう。

「事件当時、あの壁の前にはベニヤ板が置かれていまいた。壁が隠れるほどの大きさです。私はステータス:不法投棄だと判断。オペレーション:ゴミ捨てを実行しようと考えました」

 ベニヤ板? さっき見た時はもう無かったけれど、事件の時にはあったのね。それをゴミ集積所まで持っていこうとしたと。

「しかし、ベニヤ板を持ち上げようとした際、手の甲と壁が接触。その5秒後、ベニヤ板を抱え後ずさりをしている時、板から音声データ『カコン』を確認。同時に、壁は割れて崩れました。私の手の接触が原因であったと考えられます」

 手の甲が当たったから壁が崩れた、ね。あり得るわ。それじゃあ、犯人はブルボンさん? ベニヤ板を片付けようとした時に、意図せず崩してしまった。

 いや、ちょっと待って。今の証言には違和感があるわ。

 手の甲の接触してから壁が崩れるまで5秒かかっている。ぶつかってから時間差で壊れることってある? よっぽどボロボロの壁でもない限り、そんな壊れ方はしない気がする。

 そもそもの話、穴は事前に誰かがあけてあったはずよね。だからこそ、バクシンオーさんが犯人じゃないって判断になるわけだし。

「ライスさん、ブルボンさん。おそらく2人は犯人ではありませんよ」

 

 私は事前に穴があけられているという推理を話した。

 

「つまり、犯人はバクシンオーさんに罪を着せようと、事前に穴を用意していたんです」

「そ、そうだったんだ……」

「情報を修正。再思考の結果、真犯人は私達ではない可能性が高いと考えます」

 どうやら、2人とも自分が犯人じゃないってわかったようね。オペラオーさんに追及されてそういう風に考えてしまったのかしら。

「2人の話に対して、オペラオーさんはなんて言ってました?」

 私達より先に彼女に聞き込みをされてるはず。その時オペラオーさんは、2人が犯人じゃないって言わなかったの?

「えっと、ライスたちは犯人じゃないって言ってたけど……」

「データログ再生。『ハーッハッハ! 君達は悪くないさ! 風が吹けば桶屋が儲かると言うだろう? たまたま事件のタイミングに居合わせただけだ! 真犯人は、ボクという眩い光が! すぐに指し示すことだろう!』とのことです」

 風が吹けば桶屋が儲かるって、使い方が違う気がするけれど。オペラオーさん、壁の穴が事前にあいてたことは伝えてなかったのね。2人の疑惑が晴れたところで、もう少し聞き込みを続けましょう。

「ライスさん、ブルボンさん。事件について、何か気になったことはありますか?」

「気になったこと……あ!」

 ライスさんの耳がピーンと立つ。

「崩れた時、壁がバラバラになって下に落ちていったんです。けど、1個だけ上に跳んでいく破片があったんです」

「上?」

 壁の破片が跳んだ? それは変よね。下に崩れるはずの破片が、上に跳ぶなんてことあるかしら? 地面に落ちた後、跳ねたの?

「跳んだ破片はどこへ?」

「その、びっくりしてたら見失っちゃって……うう、やっぱりライス、役に立てない……」

 再び顔を手で覆うライスさん。

「そんなことないですよ。今の証言は重要になります」

「ほ、本当……?」

「そうだよライスちゃん! キングちゃんが言うんだから、ゼッタイ重要だよ! 大丈夫!」

「ウララちゃん……そうなら、いいな……」

 ウララさんの励ましで、ライスさんに笑顔が戻ってきた。

「私の方から補足します。跳んだ破片は、ベニヤ板の音と関係があるかと思われます」

 ブルボンさんが話す。確かブルボンさんは、『カコン』という音を確認したって言っていた。崩れた破片がベニヤ板に当たり、音が鳴ったってことね。その破片が、板に当たった衝撃で跳ねた。これなら筋が通る。

「わかりました。証言ありがとうございます」

 私は2人に頭を下げる。

「犯人探し、がんばってください! ウララちゃんも、がんばってね!」

「うん! 見ててねライスちゃん! ウララたちでババーンと犯人を当てちゃうんだから!」

「手伝えることがあればお伝えください。オペレーション:応援を実行します」

 

 

 

 2人の激励を後に、私達は再びストライドさんのもとへ行った。

「ストライドさん、もう1つ質問いいかしら?」

「ひえ!? は、はい! なんでしょう?」

 いきなり質問され、ストライドさんの体は震え上がる。

「あなた、壁が崩れた時、ライスさんとブルボンさんが見えたって証言していましたね?」

「え? ええ、そうですけど……」

 縮こまるストライドさん。私は真剣な表情のまま続ける。

「ライスさんとブルボンさんによると、壁が崩れた時、ブルボンさんがベニヤ板を抱えていたはずです。真っ先に目に入ると思うのですが、見えなかったんですか? 見えたのなら、なぜ言ってくれなかったのですか?」

 語気を強くして問い詰めると、ストライドさんは目を閉じてうつむいた。そして、段々と体を震わせていき、せきを切ったように話し出した。

「事件と関係ないと思ったからですよ! 確かに見ましたよ、ブルボンさんがベニヤ板を抱えているとこ! なんならそのベニヤ板がいつからあったかも覚えてます! 2日前の午後から、それもトレーニング後の16時からですよ! 私が犯人なら、こんなこと言いますか!?」

 眉を吊り上げ、一気に話すストライドさん。怒らせてしまったらしい。

「わ、わかりました。疑ってごめんなさい」

 頬をふくらせる彼女に、私達は頭を下げるしかない。

「言っておきますけど私、犯人のことゼッタイに許せないんです! みんなが大好きなバクちゃんを落ち込ませるなんて、サイテーです!」

 身を乗り出し、熱弁する彼女。思わず後ずさりしてしまう。

「だから犯人を、必ず見つけてください! お願いします!!」

 今度はストライドさんが頭を下げた。ここまで言われたなら、犯人を見つけるしかないわね。

 

 次の聞き込みの前に、今の証言でわかったことを思い返す。ベニヤ板があったのは2日前の16時頃から。このベニヤ板自体、壁に穴をあけて埋めたのを隠すために使っている気がする。つまり、犯人が穴をあけたのは2日前の午後? もしくは昨日かもしれない。全員の証言と照らし合わせて、犯行の方法を考えましょう。

 

 

 

「あ? んだテメー」

 次に私達は、金髪のウマ娘へと近づいた。イスにふんぞり返りながら、鋭い目でこちらを睨んでいる。見るからに不機嫌そうだ。

「キングヘイローです。事件の調査を手伝ってます」

「ウララだよ! あなたは?」

「シャインメイカー。ジロジロ見てんじゃねえぞ」

「シャインちゃんだね! よろしくね!」

「チッ」

 ウララさんにも態度を変えないなんて、なかなか曲者のようね。

 

 シャインメイカー。キレイな金髪ストレートヘアのウマ娘。外見はお嬢様にも見えるけど、性格や言動は不良っぽい。目付きも鋭い。バクシンオーさんのクラスメイトでもある。数々の問題を起こし、彼女から説教を受けたこともあったのだとか。

 

「あなたは事件当時、どこにいましたか?」

「そん時は外にいたよ。なんか文句あっか?」

 いちいち突っかかってくるのはどうにかならないの? 面倒だけど、もう少し追及しないと。

「外で何をしていたのですか?」

「カンケーねえだろ。んなこと聞くな」

 関係あるかは聞かなきゃわからないというのに。

「外とはいえ、現場の近くではあったんですよね? 窓から中の様子とか見えなかったんですか?」

「見えるわけねえだろ。んなこともわかんねえのか?」

 わかんないわよ! 外とだけ言われてもどこかなんて! 本当、シャクに障る人ね。こうなると何を聞けばいいのか……。

「ねえ、キングちゃん。見てなくても、聞こえたんじゃないかな?」

  ウララさんが小声で耳打ちしてきた。音は重要視してこなかったけど、これで事件を知っていたかどうかの判別はできる。

「ウララさん、なんで小声で話すの?」

「だってシャインちゃん、こわいんだもん」

 ウララさんが怖がるって相当ね……。

「現場は見えなくても、音は聞いてたんじゃないかしら?」

「聞こえたぜ。ドカーンて感じの。だから集められたんだろうが」

 ああ、これは聞いてたのね。

「その後、あなたは何を?」

 この質問を聞き、シャインさんは少し考え込む。

「…………トレーナーと一緒に、音の方へ行ったよ」

 なんだ、現場まで行ってるじゃない。けど、今の発言の前に妙な間があったわ。

「あなたは、外でトレーナーを話していたんですね? 何を話されていたんですか?」

「教えるギリなんざねえよ、チッ」

 また舌打ち……! いつまでこんな態度取り続けるのよ! でも、今の質問は事件とはあまり関係ないでしょうし、スルーしましょう。

「現場に行った後は何をしたんですか?」

「どうもしてねえ。その場でトレーナーと話の続きをしてただけだ」

 トレーナーと話し続けたのね。一応、あれも聞いておきましょう。

「あなたとバクシンオーさんとは、どんな関係ですか?」

 動機を探るために、私は質問した。シャインさんに関しては、バクシンオーさんのことを恨む要素が多い。

「学級委員長だって立場を振り回して、テキトーなこと言ってる、うぜえ偽善者」

 シャインさんの表情がさらに険しくなる。これは、相当嫌っているみたいね。説教されすぎてウンザリってところかしら。罪をなすりつける動機としては充分でしょう。ここまで聞ければもういいわ。

 

「コラァッ!! シャイン!!!」

 突然、教室のドアがガラガラっと開き、男性の声が響く。教室内の全員が、声の方へ視線を向けた。

「人様に失礼な態度を取るのはやめろって言ってるだろ!?」

 その男性はこちらへ近づいてくる。ハンチング帽を被った若い人だ。ドシドシと歩いてきて、シャインさんの前で止まった。どうやら、シャインさんのトレーナーのようだ。

「なんでそう失礼なことばかりするんだキミは!!」

「チッ……何しようが勝手だろうが」

 シャインさんは不貞腐れている。

「ちょっと、トレーナーさん!」

 今度は柏田先生が近づいてきた。

「は、はい。なんでしょう先生?」

 萎縮し、声が小さくなるトレーナー。

「急に大声出すのはやめてください。他の生徒もいるんですよ?」

「ああ、すみません。つい、2人きりの時の勢いがですね……」

 愛想笑いを浮かべながら、彼は頭を下げている。シャインさん相手の時と打って変わって、物腰柔らかな態度ね。

「柏田先生、私達なら大丈夫ですから」

「そうだよ! ちょっとびっくりしちゃったけど、トレーナーさん優しそうだもん!」

 私とウララさんが仲裁に入った。

「まあ、それならいいんだけど……」

 柏田先生はちょっと不服そうに、教壇へ戻っていく。

「すみませんね、2人とも。大声上げちゃたし、シャインもキツかったでしょう?」

 私とウララさんへ謝るトレーナー。私達に対しても、腰が低い態度で話している。

「シャインのヤツ、ああ見えて根は真面目なんです。許してやってください」

「チッ……」

 そんな彼の言葉にも舌打ちするシャインさん。真面目って本当……? 信じられないわ。

「2人も事件調査ですよね? 僕も事件の時にシャインといましたから! なんでも聞いちゃってください!」

 笑顔で胸を叩くトレーナー。話が早いわね。彼にも聞き込みしましょう。

 

「事件当時は、校舎近くで彼女と話してました。国語の補習やってる教室の横ですよ。内容は今後のレースについてね。結論は出なかったんですが。そしたらバコーンって感じの音がして、行ってみたら壁が崩れてたってわけです」

 場所について判明したわね。シャインさん達は、バクシンオーさんの補習の部屋の横で話していた。

「その時、現場には誰がいました?」

「ライスシャワーさんとミホノブルボンさんだったね。その後はシャインと話の続きをしました。結論は出ませんでしたがね」

 これもシャインメイカーさんの話と一致するわね。けど、そうだとしたら不思議な点が1つ。

「事件後もシャインさんと話を続けたそうですが、先程までどちらに行ってたんですか?」

「トレーナー室に戻ってました。今後のレースの出走予定表、印刷してシャインに渡そうと思って」

 手に書類は持っているし、筋は通るわね。あと気になるところは……。

「レースに関しての話は結論が出なかったそうですが、どうしてでしょう?」

「僕が悪いんです。つい、2日前のことを話題にしてしまって」

「2日前? 何かあったんですか?」

「シャインがね、カフェテリアでケンカになったんですよ。その時、仲裁をバクシンオーさんがやってくれてね。そのこと、彼女は根に持ってるみたいで……」

 トレーナーが話している途中、シャインさんは机をガンと蹴った。

「コラ! またキミはそういうことを!」

「余計なことをしゃべってんじゃねえぞ、ジジイ!!」

 すごい剣幕でシャインさんは言う。自分のトレーナーにジジイって……どういう関係なのよ、この2人……。

 

「ところで、キングヘイローさん」

 今度は、トレーナーの方から話しかけられる。

「さっき、柏田先生と言ってたけど、あの人がそうなのかい?」

 教壇にいる彼女を指差しながら、彼は聞く。

「ええ、そうですけど」

「やっぱりそうなのか。ううむ……」

 彼は腕を組み、何かを考え込んでいる。

「柏田先生が、どうかしたんですか?」

「いや、先輩トレーナーに同じ苗字の人がいてね。柏田哲平さんって言うんだけど、その妹さんなのかと思ってね。先輩、6年前まで中央に勤めてたんだけど、今は地方にいるんだ。でも違うかなぁ……どっかで見たことある顔なんだけどなぁ……」

 つまり、柏田先生とは別の、柏田トレーナーがいたってことね。事件とは関係なさそうだけど、今の話には引っかかる点がある。

「その柏田トレーナーって、中央から地方に行ったんですか? どうして?」

 普通、地方のトレーナーががんばって中央へ来るってことはあるけど、その逆はほとんどない。なぜわざわざ地方へ移るのかしら?

「ああ、柏田さんは中央にいた頃、担当ウマ娘と一悶着あったみたいでね。その子、レースは早期引退になってさ。卒業後、行方不明になっちゃったんだ」

「ええ!? 行方不明!?」

 思いがけない言葉が出てきた。何よそれ、そっちの方が大事件じゃない!

「今もどこにいるか見つかってないんだって。それが自分のせいだって、勝たせてやれなかったからだって、責任感じて……」

 そういうこと……。中央に居続けることに耐えられなくなったのね。地方の方が気楽でしょうし、それなら納得できる。

「すまないね、こんな話してしまって」

 シャインさんのトレーナーは暗い顔をしていた。

「いえいえ。お話ししていただいてありがとうございました」

「ありがとね、トレーナーさん!」

 私達は礼をした後、最後の容疑者のところへ行った。

 

 

 

「こんにちは! ハルウララです!」

「キングヘイローです。メルトスイーツさんですね?」

 窓際に座る彼女は、じっと外を眺めていた。

「あら、ごきげんよう。そうですわ。何かご用でして?」

「事件の話を聞かせてほしいのですが、よろしいですか?」

「ええ、構いませんよ」

 彼女はこちらを振り向き、ニッコリと笑う。

 

 メルトスイーツ。小柄で鹿毛のウマ娘。瞳が特徴的で、十字に光り輝いている。フクキタルさんみたいね。柏田先生曰く、とても上品でおっとりした優等生だけど、どこか他の人とズレているらしい。得意距離は短距離で、バクシンオーさんとも何度も戦っている。

 

「本日はわたくし、午後はトレーナーさんとミーティングを行いましたの。3時まで続きました。その後、カフェテリアで紅茶をたのしみましたわ。そして3時30分頃、わたくしは玄関から校舎に入りましたの。美術室に忘れ物をしたと気づきましたから」

 笑顔のまま、ゆったりと説明するメルトさん。玄関は校舎中央のところで、美術室は3階。階段は玄関の近くにある。今の話だと、彼女は事件現場にはいないことになる。

「その時、壁が崩れたことには気づきましたか?」

「ええ。大きな音がしましたので」

「その後はどうされたんですか?」

「美術室へ向かいましたわ。忘れ物がありましたから」

 ……え? 壁が崩れたのに、気にせず美術室に行ったの?

「崩れた壁の方へ行ったり、現場を見たりはしなかったんですか?」

「しませんでしたわ」

「気にならなかったんですか?」

「ええ、特には」

 表情を変えずに言うメルトさん。柏田先生が言ってた『どこかズレてる』ってこういうことかしら……。質問を変えましょう。美術室に向かったのなら、あの人とすれ違ってるはずよね。

「メルトさん。美術室に行くまでの間、誰かと会いませんでしたか? 階段とかで」

「うーん……」

 メルトさんは指を頬に当て、上を見つめる。しばらく間を置いて、口を開いた。

「おぼえてませんわ。誰かとすれ違ったような気もしますし、すれ違わなかったような気もします」

 再び笑顔になるメルトさん。すれ違ったか覚えていないなんてこと、あるかしら? 追及してみましょう。

「それはおかしいです。すれ違った人くらい、覚えているでしょう?」

「そう言われましても。あまり周りを気にしない性格なんですの」

 メルトさんは、平静な態度で答えている。とてもあやしいけど、ウソをついているわけでもなさそう。アリバイに関しては、柏田先生にも確認した方が良さそうね。

「メルトさん! 忘れた物ってなんだったの?」

 今度はウララさんが質問する。

「セロハンテープです。今日の授業で使ったのですが、教室に持ち帰るのを忘れてしまいまして」

「そうなんだ! 見つかったの?」

「いえ。見つかる前に生徒会の方に呼び出されまして。後程、もう一度探そうかと思っておりますの」

 ウララさんに対しても、笑顔を絶やさないメルトさん。まだセロテープは見つかってないのね。

「もしよろしければ、お手伝いしていただけないでしょうか? 他の方のお力をお借りしたいのです」

 メルトさんが尋ねてくる。

「うん、いいよ! ウララたちも手伝うよー!」

「ありがとうございます。探す時にはわたくしからお声掛けします」

 ウララさんがすぐに快諾してしまった。調査を続けたいから、手伝うつもりはなかったのだけど……こうなった以上、やるしかなさそうね。

 最後に、あの事について聞きましょう。

「メルトさん。あなたはバクシンオーさんと同じレースに、何度か出走していますね?」

「ええ。それがなにか?」

 心なしか、彼女の返事がとげとげしいと感じた。でも、気にする必要はない。

「あなたは、彼女のことをどう思っていますか?」

 

 その瞬間、場の空気がピーンと張り詰めたように感じた。メルトさんの顔から笑みが消え、うつむいていく。心の中がざわつき、冷や汗が額から伝っていくのがわかる。何? 何なの、この焦燥感? 体が、動かない。メルトさんから、目が離せない。しかし、そんな沈黙も長くは続かなかった。

 

「良きライバルであり、模範である方。わたくしはそう、思っていますわ」

 口を開いたと思った瞬間、急に笑顔に戻るメルトさん。しかし、ウララさんも私も見逃していない。それまで見たことない、彼女の険しい顔。その迫力に押され、私達はしばらく黙り込んでしまった。

「…………ご、ご協力ありがとうございました。話は以上です」

「犯人探し、がんばってくださいね」

 私達は一礼し、彼女から離れた。

 

「キ、キングちゃん! 見た? メルトさんの顔」

 ウララさんは、まだびっくりしている様子。

「ええ。あの顔はきっと、バクシンオーさんのことを……」

 恨んでいる。あるいは、羨んでいる。そんな顔だった。メルトスイーツさん、なかなか底が見えない人ね。後でセロテープ探しを手伝うのが怖くなってきた……。

 とりあえず、メルトさんにも動機はありそう。アリバイを確認するためにも、もう一度柏田先生に話を聞きましょう。

 

 

 

「え? 階段でメルトさんとすれ違わなかったか?」

「はい。彼女は3時30分頃、美術室に向かっています。見ているはずです」

 私の言葉に、柏田先生は「ああっ」と声を漏らした。

「会ったよ。2階3階の間の踊り場で。走りながら見たけど、絶対彼女だった」

 今の証言で、事件当時メルトさんが美術室に向かっていたのは間違いなさそうね。

「あ! そういえば、みのり先生は事件の時なにしてたのー?」

「さっきも言ったけど、アタシは美術室にいたよ。音がしてから下に下りたんだ」

「じゃあ、美術室にいる間はー?」

 今日は鋭いわね、ウララさん。私が聞こうとしたことを先に聞いてくれたわ。

「その時は片付けをしてたんだ。今日の授業で、大きな模造紙と絵具を使ったんだけど、授業がちょっと延びちゃってね。今もまだ片付けが済んでないんだ」

「そうなんだ! 大変だね~」

 柏田先生は美術室の片付けをしていたのね。ウララさんには、もう一歩聞いてほしかったけど、上出来でしょう。あとは私が聞きましょう。

「授業が終わってから、3時間以上経ってますよね? 片付け、まだ終わってないんですか?」

「うん。実は1時から3時までは、書類作成をやることになっててね。はぁ……」

 肩を落とし、ため息をつく先生。仕事、相当溜まってたのね。

 それじゃあ、もう1つの方も聞きましょう。

「メルトさんとバクシンオーさんはどういう関係なんですか?」

「どういうって?」

「その、ただのライバルや友達、というようには見えないと言いますか……」

「ああ! そういえば伝えてなかったね!」

 柏田先生は納得したのか、笑みを浮かべてうなずいた。

「メルトさんも短距離路線だって話したでしょ? ここ最近ね、出てるレースが全部バクちゃんと被ってたの。表情には出さないけど、悔しいでしょうし、目の敵にしてると思うわ」

 そういうことだったのね。彼女が直近で出ていたレースは、CBC賞、セントウルステークス、スプリンターズステークス。いずれも短距離のレースで、そのすべてでバクシンオーさんが1着。メルトさんはずっと負けていることになる。なんで気づかなかったのかしら。うっかりしていた。

「けど、バクちゃんのトレーナーさんって変な人よね」

「え? 変?」

 急に、柏田先生から意外な言葉が出た。

「いやね、バクちゃんが長距離でも頂点に立てるって、同僚達にまで話してるらしいの。彼女の適性はわかりきってるはずなのに。前も、1200メートル×3で3600メートルだ、ってバクちゃんに言ったらしいし……」

 よくわからないけど、確かにバクシンオーさんのトレーナーは変わってる人みたいね。

「……と、そろそろ美術室に戻りたいかな。エアグルーヴさんに言えば出ていいって言ってたし」

 腕時計を見ながら、柏田先生が言う。こちらとしても話は聞き終わったし、問題はない。

「ごめんなさいね、また話があったら美術室にいるから!」

 先生は帳簿を抱えながら駆け足で教室を出たが、その時に何かが床に落ちた。先生は気づいてない。

「何かしら? ペン?」

 拾い上げると、高級そうなボールペンだった。似たようなペンを学園内で見かけたことがある。おそらく、柏田先生が抱えていた中から落ちた物ね。ペンには、アルファベットで『YAMANO SHION』と印字されている。

「やまのしおん? って書かれてるわ」

 聞いたことのない名前だ。どこかのメーカー? 誰かの名前? 当然、『柏田実』とは違う。とにかく、柏田先生を追いかけましょう。

 

 廊下に出ると、柏田先生は階段を上がる寸前だった。

「先生! これを!」

 私が大声で呼び止めようとするが、先生は構わず階段を上がってしまう。私より先にウララさんが追いかけ、柏田先生の服を掴んだ。

「ひゃあっ!? オバケ!? きゃあっ!!」

 柏田先生が跳び上がり、そのせいで足を滑らせてしまった。

「あぶなーい!!」

 よろけて下りてくる先生の体を、私とウララさんが受け止めた。

 

「先生、私の声が聞こえなかったんですか?」

「ごめんね。時々、耳が遠くなってね。それで何か用かな?」

 私は先生に、先程のボールペンを見せた。

「え? ああ、落としちゃってたのか!」

 そのままペンを受け取る先生。

「ねえ先生! 『やまのしおん』って何?」

「シオンはアタシの昔の友達なんだ。これは彼女からプレゼントでね。拾ってくれてありがとう!」

 そう言って、柏田先生は階段を上がっていった。




<事件概要>
今日の午後3時30分、高等部校舎の1階廊下の突き当りの壁が崩れた。
壁にはサクラバクシンオーと似た形の穴があいていた。
事件前に、犯人がこの形にあけておいたと考えられる。

<見つけた手がかり>
・コンクリート以外の破片
 現場から見つかる。真っ白でツルツルした面がある



<関係者の事件当時の動向>
・サクラバクシンオー
 補習が終わった後、マリンストライド目がけて廊下を走る。教室前で転び、同時に壁が崩れる。

・マリンストライド
 バクシンオーより3分前に補習を終わらせ、自分達のクラスへ行く。そこで、バクシンオーの机にいかがわしい本を発見。それを抱えて、前の扉から教室を出る。考えているうちに、バクシンオーが走ってくる。

・ライスシャワー
 トレーニング後、事件現場近くを通る。ミホノブルボンと同行。壁が崩れた時、上に跳んだ破片を見る。

・ミホノブルボン
 トレーニング後、事件現場近くを通る。現場にあったベニヤ板をどかそうとするが、その時に手が接触。5秒後、壁が崩れる。

・シャインメイカー
 事件前、バクシンオー達の補習の教室の外でトレーナーと話す。事件が起きた時は、壁が崩れた音を聞き、現場へ向かう。事件後、その場でトレーナーと話を続ける。

・シャインメイカーのトレーナー
 シャインメイカーと同様。生徒会の調査が始まった後、印刷をしにトレーナー室へ戻る。

・メルトスイーツ
 3時まではミーティング、その後はカフェテリアで過ごす。3時30分頃、美術室のセロテープを忘れていたため、取りに行くために高等部校舎へ入る。入った際、壁が崩れる音が聞こえたが、気にせず美術室に向かう。柏田先生が階段ですれ違っている。

・柏田先生
 1時から3時まで職員室で書類作成。3時からは美術室で片付けをする。壁が崩れる音を聞き、1階に駆けつける。

・大林先生
 事件直前まで、バクシンオー、ストライド相手に国語の補習を行う。壁が崩れる音を聞き、現場へ駆けつける。



<登場人物の情報>
・マリンストライド
 メガネをかけた小柄な栗毛のウマ娘。バクシンオーさんと同じクラスで、彼女とはとても仲が良い。事件前、一緒に補習を受けていた。見た目や雰囲気から、どことなくゼンノロブロイさんを連想してしまう。

・シャインメイカー
 キレイな金髪ストレートヘアのウマ娘。外見はお嬢様にも見えるが、性格や言動は不良で、目付きも鋭い。バクシンオーさんのクラスメイトでもある。数々の問題を起こし、彼女から説教を受けたこともあったのだとか。

・メルトスイーツ
 小柄で鹿毛のウマ娘。瞳が特徴的で、十字に光り輝いている。とても上品でおっとりした優等生だけど、どこか他の人とズレている。得意距離は短距離で、バクシンオーさんとも何度も戦っている。ここ最近は彼女に負け続けている。

・柏田実
 長身でメガネをかけた、クールビューティーな女性。教師になって3年目。美術科の先生で、高等部の授業を担当している。長いスカートと赤いペレー帽がトレードマーク。一応生徒思い?

・大林正人
 壮年の男の先生。髪は短髪で、いつも仏頂面をしているらしい。担当教科は国語で、高等部の授業を受け持っていたはず。厳しいとウワサされてる先生で、一部の生徒からとても嫌われている。

・ヤマノシオン
 柏田先生の友人。彼女のペンを、柏田先生が持っている。

・柏田トレーナー
 本名、柏田哲平。柏田先生と同じ苗字だが、血縁関係があるかは不明。シャインのトレーナーの先輩。


<図>
・高等部校舎

【挿絵表示】


・事件現場周辺

【挿絵表示】

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