異世界帰りの呪術師   作:北山 真

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 今回はちょっと短めです。





姉妹校交流会 弐

 

 その呪霊は東京校の敷地の外から高速で飛翔した。

 

 その呪霊と初めに遭遇したのは西宮桃であった。

 

 西宮は呪霊探索の為、術式により空を飛んでいた。

 西宮の術式は『付喪操術(つくもそうじゅつ)』で、愛用の箒を自在に操ることにより空を飛ぶ。

 

 しかし、空を飛ぶが故に一番初めに標的にされる事となった。

 

 その呪霊が一番初めにした事は単純であった。

 空を我が物顔で飛ぶ鬱陶しい蝿共を地に叩き落としただけ。

 

 その呪霊が手を振ると同時に上空から大地に向けて突風が吹いた。

 

「何っ、がっ!?」

 

 冥冥が操っていた烏と共に西宮桃は強風に煽られた。

 

 烏は強風により木にぶつかり、枝に突き刺さり、大地に叩きつけられて死亡した。

 

 西宮は木の枝をへし折りながら木に叩きつけられ、掠り傷を作りながら枝葉の中で気絶した。

 小さな体が幸いし、枝葉に体が隠れた事で"それ"の標的から外れた。

 

 

 

 その呪霊を初めに発見したのは狗巻棘と星綺羅羅であった。

 呪霊討伐の為に、仲間と離れて森の奥深くまで入り込んでいた二人の前にその呪霊は現れた。

 

「何だ二人だけか?」

 

 その呪霊を見た瞬間、二人の脳裏に思い浮かんだのは""の一文字。

 

 その呪霊の第一印象は人形の龍であった。

 その呪霊は巨体で、身長は2メートルを超えていたが、その頭に生える鹿の様な大きな琥珀色の角を合わせると、さらに高くなるだろう。

 顔の真ん中には大きな金色の単眼があり、ギョロギョロと動きながら二人を眺めている。

 口は鰐の様に鋭い牙がズラリと並んでいる。

 上半身は逞しい筋肉を惜しげもなく見せつけており、下半身は白い袴を履いていた。

 その手足の指は人と同じ五本だが、いずれも鋭い爪が生えていた。

 その体は胴体と腕の内側以外は緑色の鱗で、その鱗は金属の様な光沢を放ち、一目で硬い事が分かった。

 

 しかし、二人に死を錯覚させたのは圧倒的強者感漂う見た目では無く、その身に纏う圧倒的な呪力。

 

 二人共が見た事がある特級過呪怨霊『里香』には及ばないまでも、豊富な呪力量と荒々しい呪力にこそ、二人は恐怖を覚えていた。

 

「まぁ良い。()るか」

 

 龍人が腕を振り上げて構えた。

 それに対し、二人の取った行動は迅速で単純であった。

 術式を発動して逃げる。ただ、それだけであった。

 

動くなっ!!

 

 まず狗巻がその術式を発動する。

 狗巻の術式は『呪言(じゅごん)』である。

 その効果は、呪力を込めて放った言葉が言霊となり実際に効力を発揮すると言うもの。

 使うと喉に負担が掛かり、格上への使用や、強い言葉を使うほど負担が大きくなるデメリットがあるが、その力は強力である。

 

 狗巻の動くなという命令により、龍人は数秒だけ動きを止めた。

 

 その隙を突いて星綺羅羅の術式が発動させた。

 星の術式は『星間飛行(ラブランデヴー)』。

 その効果は南十字座に由来し、まず発動段階として、南十字座を構成する五つの星の名を、呪力を持つ存在にマーキングする必要がある。

 そして、星のマーキングにより二つの効果が発揮される。

 

 一つ目は、同じ星のマーキング同士は引き合うこと。

 二つ目は、星のマーキングは実際の星とリンクしており、地球からの距離順にマーキングを並べて、その順番通りにしか近づけないということ。

 順番通りに並べて、隣同士は好きに近づけるが、一つでも間が開くと絶対に近づけなくなる効果であった。

 

 

 星綺羅羅は、動きを止めた龍人に対して、地球から一番遠い星のマーキングした。

 即座に自分と狗巻にそれぞれ地球から二番目に近い星と、一番近い星のマーキングをする。

 

「逃げるよっ!」

 

 星が叫び、狗巻と共に校舎のある建物の方へと逃げ出す。

 特級呪霊の相手に相応しいのは、同じく特級術師の五条悟。

 五条悟の所まで逃げ切る事が、二人の勝利条件であった。

 

「逃すと思うか?」

 

 狗巻の術式効果が途切れ、龍人が動き出す。

 龍人が振り上げていた腕を横薙ぎに振り回した。

 

 呪力の高まりを感じた二人が咄嗟に地面に伏せた。

 次の瞬間、振るわれた腕の軌道に合わせて、立ち並ぶ木々がバラバラに断ち切られた。

 

 ゴロゴロと鈍い音を立てて、バラバラになった木が辺りに転がり、支えを失った木の上部が落下する。

 ドゴンッと大きな音を上げて、地面に横たわる樹木だった物。

 衝撃で枝が折れ、木の葉が舞い、土煙が立つ。

 

 呪力でガードした事で、辛うじて無事だった二人はすぐに立ち上がり、土煙に紛れて走り出す。

 星は走りながらも木屑を二つ拾い、呪力の込めて、今まで使っていない残り二つの星をマーキングして、自身の左右遠くに放り投げた。

 

 それと同時に、龍人を中心に突風が吹き、土煙が吹き飛ばされた。

 龍人が二人を発見する。

 

「そこかっ!」

 

 次は逃さないとばかりに、接近して腕を振るおうとするが、それはもう『星間飛行』により届かない。

 一定距離以上、星と狗巻に近づけない。

 まるで無限の壁が立ち塞がった様に。

 

「女の術式か。下らん小細工を」

 

 龍人がまた腕を振り回し、周りの木々が断ち切れていく。

 星綺羅羅の術式はマーキング同士にしか効果が発揮されない。

 故に、龍人の遠距離攻撃には対処出来ない。

 

 が、しかし。二人は全力の呪力で身を守る事で被害を最小限にして、走り続ける。

 

 止まれば死ぬ。死の追いかけっこが始まった。

 

 

 


 

 

 龍人が星綺羅羅と狗巻棘に攻撃を始めた時、その状況は遠く離れた生徒達にも伝わっていた。

 樹木が纏めて切り裂かれて地面に激突する音と衝撃は、地鳴りとなって響き渡っていたからである。

 

 それに反応したのが一番早かったのはメカ丸であった。

 メカ丸は星と狗巻の近くにいた為に、即座にその救援に動き出した。

 

 加茂憲紀はその場にいた新田新、伏黒恵、パンダに向けて直ぐに指示を出した。

 術式により対応能力の高い自分と伏黒が援軍に、新田新とパンダは外に教師を呼びに行く事になった。

 

 しかし、別れてから時を置かずに帳が下り始めた。

 それでも新田とパンダは外を目指す。

 何としてでも外に脱出し、五条悟を呼びに行く事こそが最も重要な使命だと言い聞かせて。

 

 

 

 

 そして、禪院真依、三輪霞、禪院真希、釘崎野薔薇の四名は動けずにいた。

 目の前にもう一体の特級呪霊がいたからである。

 

 その呪霊はかなり人に近い見た目をしていた。

 180センチ近い高身長と、筋肉質な上半身を惜しげもなく晒し、その白い肌には黒い模様が浮かんでいる。

 黒いズボンを履き、左腕を白い布で隠している。

 

 ここまでは殆ど人と同じに見えた。異質なのは頭部。

 剥き出しの歯茎と髪一つ無い頭部は頭蓋骨を思い出させる。

 特に異様なのは、本来眼がある場所から生える二本の枝である。

 その様子は正に、死体を栄養素に骸から生える木と言った有様だった。

 

 しかし、その異様な風貌の呪霊からは澄んだ呪力が感じられた。

 それが、逆に女性呪術師達に緊張感を芽生えさせた。

 

 呪霊を見て、即座に身構える四人。

 

 それを見た呪霊が、女性的な声で脳内に直接話掛けてきた。

 

『やめておきなさい。弱い貴方達では無駄に苦痛が長引くだけだ』

 

 呪霊は抵抗の無意味さを説き、さらに自身の目的を語る。

 

『私はただ、この星を守りたいだけだ。星と人間の共存は不可能です。星がまた、青く輝く為には時間が必要なのです。人間のいない時間が』

「…その為に黙って殺されろってか?」

 

 真希が気丈に振る舞い、呪霊に問いかける。

 

『ええ、死して賢者になりなさい。それが星の為です』

 

 その言葉を皮切りに、呪霊の体から呪力が溢れ出す。

 その呪力量から自分の手に負えないと判断した真依と真希の動きは早かった。

 

「野薔薇っ!」「霞!」

 

「逃げろ!」「逃げなさい!」

 

 その叫びと同時に、呪霊が術式を発動した。

 呪霊の足元から木が四本、勢いよく生えてた。

 

 槍の様に鋭く尖った木が、四人それぞれを狙って一本ずつ、その体を串刺しにしようと高速で迫る。

 

「くそっ!」

 

 悪態を吐きながらも真希は手に持つ薙刀で木を切り払った。

 

「抜刀!」

 

 三輪は居合いの構えから勢いよく刀を抜刀して木を切り裂いた。

 

 三輪はシン・陰流という流派の門下である。

 シン・陰流には『簡易領域』という技がある。

 それは、自身の周囲に呪力を結界の様に展開する事で、領域の必中効果を無効化する対領域展開の技である。

 領域展開を使えない者が領域展開から身を守る為に考案された技であった。

 

 三輪は、その技の応用で、自身の周囲に展開した呪力に対して高速の抜刀術を放つ技を使って自身に迫る脅威を打ち払ったのである。

 

 

 しかし、他の二人はうまく対応できなかった。

 

「ぐぅ」「いったぁ!」

 

 真依と釘崎は迫り来る木を躱そうとしたが、完全に躱しきる事が出来なかった。

 真依は足に、釘崎は腕に傷が出来ていた。

 

「真依!野薔薇っ!」

『自分の心配をしなさい』

 

 咄嗟に真依と釘崎の方を振り向いてしまった真希に対して、呪霊から声がかかる。

 それと同時に真希に対して、先程と同じ様な木が三本迫っていた。

 

 声をかけられた事で、辛うじて防御が間に合った真希であったが、完璧には防げなかった。

 結果、その手に持った薙刀は折れ、自身の太腿の肉が少し削がれた。

 

「くそっ!」

 

 自分を叱責する真希。

 それは、武器が壊された事ではなく、足に怪我を負ってしまった事に対してであった。

 

 真希の足さえ万全であったなら、真希が負傷した二人を担いで逃げる事も可能ではあったが、それが不可能になってしまった。

 

『次は貴方です』

「逃げて!」

「くっ」

 

 まだ無事である三輪に、呪霊のターゲットが移る。

 真依が叫ぶが、三輪は逃げられない。

 三輪は、実力的にも心情的にも逃げられなかった。

 

 呪霊が生やした木が、三輪の胴体を貫く軌道で迫る。

 

「霞!」

 

 真依の悲痛な叫びが響く。

 

「ガハッ!?」

 

 木に貫かれ血を吐いた。

 

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 真依の悲痛な叫びの裏で、拍手が一つなっていた。

 

「えっ?えっ!?」

『一体…何が…』

 

 死んだと思った三輪と、致命傷を与えたと確信していた呪霊が困惑する。

 三輪では絶対に避けられ無いタイミングであったはずなのに、実際に攻撃に当たったのは呪霊であった。

 

「間に合った様だな」

「釘崎!先輩!無事か!?」

 

 その場に姿を現したのは東堂葵と虎杖悠仁。

 

 三輪が無事だったのは東堂葵の術式『不義遊戯(ブギウギ)』の効果であった。

 『不義遊戯』は一定以上の呪力を持った二つの存在の位置を、拍手をする事で入れ替える事が出来る術式である。

 今回の場合は、三輪と呪霊の位置を入れ替える事で三輪の窮地を救っていた。

 

「ここは俺と虎杖(ブラザー)に任せておけ」

 

 東堂がそう力強く宣言した。

 

「…虎杖あんた兄弟いたの?」

「いねぇよ!」

 

 釘崎の質問に、虎杖は強く返した。

 

 しかし、虎杖は心の中で「多分」と付け足した。

 虎杖を祖父に育てられ、両親の記憶は無い。故に、実は自分に兄弟がいたとしてもおかしくないと思っていた。

 

 実際は、虎杖と東堂の、女の趣味が完璧に合った事が原因で東堂に気に入られているだけであったが。

 

「私も、まだ()れる!」

 

 虎杖と東堂に対して、真希が加勢すると宣言するが、

 

「いや、足手纏いだ。下がっていろ」

「くっそ…」

 

 東堂がその強がりを一刀両断した。

 真希のセリフが強がりである事はそこにいる全員が理解していた。

 

『誰も逃しませんよ』

 

 呪霊の言葉と共に、夥しい数の木が生えてくる。

 そこにいる呪術師全員を相手取る為の戦闘体勢に入った。

 

「行くぞ虎杖(ブラザー)!」

「応っ!」

 

 それを相手取るのは東堂と虎杖の二人。

 

 呪霊と呪術師との戦いはより過激になっていく。

 

 戦いはまだまだ始まったばかりであった。

 




 いかがだったでしょうか。楽しんで貰えていると幸いです。
 
 今回は謎の呪霊と花御の乱入会となっております。
 徐々に傷ついていく呪術師達。未だ登場してないメンバーが、どの様にこの状況に絡んでいくのか、楽しみにしておいて貰えると嬉しいです。

 それでは今話も読んで頂きありがとうございました。
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