side.直樹
俺と金次さんが領域から解放された時、外の状況は大きく変化しとった。
高専生ではない大きな呪力を二つも感じる。
一つ目は、遠目からでも分かる巨大な竜巻の呪力。
二つ目は、戦闘中だと思われる呪力同士のぶつかり合い。その中にあるとても大きな呪力。
「どうやら、戦う場合じゃなくなったみたいですね」
「そうみてぇだな」
俺と金次の戦闘はまた別の機会になった。
この状況や。当たり前やけどな。
問題はどっちに対処するかやな。
竜巻は遠くからでも分かるほど巨大で、かつ、恐ろしい程の呪力が込められている。
何でか知らんが、今の所派手に動いてないみたいやけど、あれが動き出したら止められるやつはおらんやろ。
逆に呪力のぶつかり合いは、今まさに戦闘中や。
これで、味方が死にかけとかやったら助けに行かなまずい。
いや、
「俺が送りますし、金次さんは戦闘中の方へ行って下さい。俺は竜巻の方へ行きます」
そう言いながら、ワームホールを二つ開く。
一つ目はぶつかり合う呪力の上空へ、もう一つは
「気ぃつけろよ直樹!死ぬんじゃねぇぞ!」
「分かってます。金次さんも気ぃつけて下さいね」
金次さんがワームホールを潜り、俺も竜巻の内部へと繋がったワームホールを潜った。
俺がこの配役にしたのには理由があった。
まず、金次さんは『坐殺博徒』の大当たりのボーナス効果で、尋常ではない呪力を纏ってた。
あれなら相当な事が無い限り死ぬ事は無いやろうし、味方を助ける事も出来ると思った。
けど、最大の理由は竜巻の方へ金次さんを行かせたら、
俺なら竜巻の内外をある程度自由に移動できるから、最悪の場合は外へと逃げる事が出来る。
やから、竜巻の中に俺が、外の戦闘へ金次さんを送り出した。
そして、竜巻内部へと侵入した俺は素早く辺りを見渡す。
竜巻の内部は、予想通り台風の目の様な状態になってた。ワームホールを繋げたタイミングで、ワームホールから強風が吹き出無かった時点で、これは予想出来てた。
広さは大体半径20メートルぐらい。
そして、俺のすぐ目の前で、竜巻の中心で腕を組み佇む龍人の呪霊。
流石に、俺の侵入には気付いてたみたいで、俺の方を睨んでいる。
「お前がこの竜巻起こしてる呪霊って事でええねんな?」
「いかにも」
一応の確認に、相手の呪霊が頷く。
龍人と対峙し、日輪刀を引き抜き、中段に構える。
既に呪力による強化と、全集中の呼吸は万全の状態やった。
相手の身長は2メートル以上。更に、この竜巻から考えて、術式はおそらく風を操る様な術式。
リーチでは圧倒的に不利。
なら、接近戦を仕掛けるのがベターやろな。
「なら、斬らせて貰うわ」
「やってみるが良い!」
相手が吠えたと瞬間、一直線に踏み込み相手の右脇腹素早くに接近し、そのまま右足を狙い刀を振るう。
「不知火!」
「ぬうぅ!」
ブシュ、と相手の右足から血が吹き出すけど、傷は浅かった。
俺が接近したと同時に身を引きながら、風を出して瞬間的に加速しよった。
そのせいで多少の傷しか作れへんかった。
「速いな。そして、その刀も厄介な様だ。私の鱗をこうも容易く切り裂くとはな」
「お前も避けるの上手いやん」
顔色を変えない様に、ポーカーフェイスを意識しながらも内心で舌打ちをする。
今の一撃で、こっちの速さを見られた上に、日輪刀の退魔の力を確認されてもうた。
「その刀は危険だ、接近戦では不利かも知れんな」
呪霊は不気味な程冷静やった。
「だから、遠距離から削り殺そう」
「距離取らせると思うんか?」
呪霊の宣言に対して、俺が再び接近を図る。
力の限り踏み込み、爆発的な加速で呪霊へと接近する。
「フンッ!」
その動きに対して、俺目掛けて全く当たらない距離にも関わらず、腕を振り下ろしながら距離を取る呪霊。
その妙な動きと、呪力の流れに嫌な予感を覚えて、咄嗟に横っ飛びをした。
スパンッ!と、綺麗な音と共に、さっきまで俺が立っていた地面に、四本の鋭利な刃物で斬られた様な傷跡が出来る。
恐らくは鎌鼬を飛ばす技。四本という数と腕の動きから見て、爪が発射地点って感じやな。
なら、腕の動きと、呪力の流れに注意しながら接近して斬る。
幸い、この竜巻の中は狭い。この距離なら近づくのに苦労はせえへん。
俺は日輪刀を肩に担ぐ様に構え、再び全力で踏み込む。
竜巻のすぐ近くにいる呪霊に猛スピードで突っ込んだ。
そのままの勢いで、袈裟斬りにするべく刀を勢いよく振り下ろす。
「気炎万象!!」
技名と一緒に刀を振り下ろしたけど、避けられてもうた。
足から強風を出し、真上に避けられた。
そして、竜巻の様な風が下半身を覆い、そのまま宙に浮き続けよる。
「飛べるんか!」
「飛べるとも」
その状態から鎌鼬を連続で放ってきよる。
腕の動き、呪力、そして大気を斬り裂く様子をよく見て確実に避ける。
「私は人間の風への恐れから生まれた存在」
呪霊が鎌鼬を放ち続けながら、自分語りを始めよった。
「毎年起きる台風、突発的に起こる突風や旋風、そして鎌鼬。あらゆる風の被害への恐れから生まれたのが私だ」
そう言いながら、未だ鎌鼬の連撃は止まへん。
地面が切り刻まれ、足場が悪くなる中、足を取られへん様に気をつけながら避ける。
「そして、古来それを龍の仕業、と評したのが貴様達人間である。故に、こういう事も出来る」
その言葉と共に、呪霊がフゥーと息を吐く動作をした。
それに伴い、俺へと向けて物凄い勢いの強風が吹いた。
「まずっ!」
強風で体が吹き飛ばされそうになるのを、日輪刀を地面に刺して何とか堪えた。
あのままやったら竜巻に激突してた所やった。
強風を吹かせ続けながら、呪霊が腕を振りかぶる。
その腕には明らかに先程までよりも強い呪力が込められとる。
腕が振り下ろされる。
目に見える程の大きさとなった鎌鼬が俺に迫る。
「チッ!」
舌打ちをして、刀を地面から離す。
強風に煽られて俺の体が吹き飛ばされるが、それにより鎌鼬からは避けられるが、代わりに竜巻にぶつかりそうになる。
それを竜巻ギリギリにワームホールの入り口を作り出す事で回避する。
そして、ワームホールの出口は呪霊の頭上や。
「何ッ!」
「オラァッ!」
呪霊に斬りかかるが、強風に煽られながらワームホールで移動したせいで体勢が悪く、型を出す事は出来なかった。
しかし、突然の奇襲に戸惑い、咄嗟に腕で防ごうとした呪霊の右腕を半ばまで切り裂いた。
腕一本斬れたら、相手の戦力は大幅に下がるはずや。
そのまま力を込めて、腕を斬り落としにかかる。
「うおおぉぉ!!」
「ふうぅぅ!」
腕の三分の二ほどまで切り裂いたが、呪霊の口から強風が吹かれたせいで、上空に吹き飛ばされる。
「この私に向かって空中戦を挑んだ事を後悔しながら死ね!」
空中で身動きを出来ない俺に向けて、鎌鼬が迫る。
やけど、片腕が使えへん状態で、左手だけで咄嗟に出した鎌鼬はこれまでよりも格段に呪力が弱かった。これなら防げる。
俺は『落花の情』を発動し、迫り来る鎌鼬を迎撃する。
俺に当たる直前に、鎌鼬の呪力に反応して、呪力による反撃が行われる。
それにより鎌鼬は、威力を大きく落として俺の体に細かい傷が出来る程度に抑えられた。
しかし、その僅かな時間で呪霊は空中を移動して距離を離された。
これでまた、近づく事からやり直しやな。
台詞の割には冷静な判断やと思ってたけど、相手の考えは少し違った。
「地に足を着けられると思うなよ」
その台詞と共に周囲を覆っていた竜巻の形状が変わる。
円柱形をしていた竜巻が、逆さまの円錐形へと変化する。
それに伴って、竜巻内部の地面が無くなった。
一度離脱する為に、俺の右腕近くにワームホールを作ろうとするが、
「させると思うか」
「くそッ」
呪霊から鎌鼬と強風が飛んでくる。
ダメージはほぼ無いけど、ワームホールを作る動きを的確に潰された。
そのまま竜巻に風で叩きつけられそうになる。
やから、さっきみたいに竜巻近くにワームホールを作ろうとするも、横から強風を吹かれて、角度をずらされた。
ワームホールでの脱出は不可能。
やから、
呪霊ではなく竜巻の方を向くが、ワームホールは作らない。
「諦めたか。ならば竜巻でミンチになるが良い」
諦めた訳やない。
諦めるという行為を、異世界で習った事はない。
どの世界の奴等も、そんな事してた奴はおらん。
そして、「
そんな俺が、諦めるはず無いやろ!!
竜巻に激突する直前、コンマ数秒の世界で、直樹の心が燃え上がる。
空中である故に体勢は不十分だが、研鑽した技を放つ為に極限まで集中し、呪力により日輪刀と身体能力を強化する。
心技体揃った直樹が、この日最高のパフォーマンスを発揮した。
「煉獄!!」
煉獄。それは炎の呼吸、玖の型であり奥義の名である。
その型は、限界まで身体を捻り力を溜め、一気に解き放つ。その全身全霊を懸けた渾身の斬撃により、鬼の体を一瞬で多くの面積を抉り斬る。
直樹の放った煉獄が、竜巻を斬り裂きながら侵入する。
その時、日輪刀は、竜巻に巻き込まれた様々な物を斬り裂いた。
それは、巻き上げられた細かい砂であったり、細かく切り刻まれた樹木の破片であった。
日輪刀に込められた呪力と
それは、狙っては出せないはずの、超低確率の黒閃を発生させる確率を飛躍的に跳ね上げた。
秤金次ならばこう言っただろう。「確変*1だ」と。
煉獄の斬撃が黒く染り、竜巻を大きく抉り、切り裂いた。
しかし、それでは竜巻は止まらない。
竜巻は回り続けている。抉り斬られた事により、多少勢いは削がれたが、まだまだ健在であった。
直樹は黒閃が出た事を認識したと同時に、煉獄の勢いのまま空中で一回転していた。
そしてその勢いのまま勢いが削がれた竜巻に向けて二回目の斬撃を解き放った。
二回目の斬撃も黒く染まる。
「うおおおぉぉぉ!!!」
「何だとっ!!」
俺は空中で回りながら斬撃を放ち続ける。
三度目の斬撃も黒く染まった。
三連続の黒閃で、竜巻の勢いは大分削れた。
「やめろ!」
呪霊の制止を無視する。
そして、四度目の斬撃。
またしても黒く染まった、その斬撃により遂に竜巻は勢いが維持できない程に抉り斬った。
微風と共に地面に降り立ち、未だ滞空する呪霊を見上げる。
「これで邪魔な竜巻は消えたな」
「くっ」
悔しげに顔を顰める呪霊。
その呪霊に鋒を向けて宣言する。
「次はお前を斬る」
「…認めよう貴様は強い」
普通の呪霊に認められてもしゃあないけど、ここまで強い特級呪霊に言われるなら、少しは価値があるかもな。
「だが!貴様達人間は地に立つ存在!空の化身たる私に勝てる道理など無いと知れ!」
「飛行機って知っとるか?人間はもう空を飛べる様になっとる。それどころか宇宙にまで進出しとるわ。空の化身か知らんけど、人間舐めんなや」
俺の挑発に、単眼のデカい目を吊り上げて怒る呪霊。
「良いだろう!その挑発にノッてやる!貴様は、私の全力で殺してやる!」
「こっちは初めからそのつもりや」
呪霊の体から呪力が迸る。呆れるほどの呪力量や。
既に、その呪力で身体を再生させとる。
呪霊の体は呪力の塊や。
あれ程の呪力量やったら、あの程度の傷を治すのに時間はかからんか。
豊富な呪力量。明らかに俺より多い。そして長期戦は不利やな。
五条悟が駆けつける事を考えたら、長引けば有利なんは俺の方やけど、それまでこいつが暴れさせるわけにもいかん。
「しゃあないわ。出し惜しみは無しや」
「何を馬鹿な事を…貴様は先程から全力だっただろう」
「そうや。けどな、それは
「何だと?」
確かに、これほどの呪霊相手に呪力を温存して、身体強化を抑える様な馬鹿な真似はしてへん。
けど、金次さんが向かった方への援軍や、怪我人に反転術式で治療する時の事も考えとった。
その考えを捨てて、この呪霊との戦いに全呪力を使い切る覚悟を決める。
左手の指輪に晴の炎も灯す。
その炎は左手を伝って日輪刀を燃え上がらせた。
反転術式による正のエネルギーで作られた晴の炎は、より純度の高い正のエネルギーになっとる。
日輪刀自身も退魔の剣としての効果を持っとるけど、こうした方が呪霊にとっては特攻となる。
そして、日輪刀自身にも手を加える。
今まで刀の消耗を抑える為に
全集中の呼吸と、黒閃によるゾーン状態の呪力により強化された身体能力は、
元々真っ赤な刀身が、さらに赫く染まる。
日輪刀は圧倒的な握力で握ることや、日輪刀同士を強くぶつけ合う事で刀身が発熱し、赫く染まる。
この状態やと、刀身は灼ける様な匂いと熱を放ち、鬼の再生力を阻害出来る様になる。
呪霊相手に試すんは初めてやから、効果は未知数やけど構わへん。
黄色い炎を纏い赫く染まり高温を発する、正しく炎のような刀を握り、宣言する。
「さぁ、第二ラウンドや」
いかがだったでしょうか。今話も楽しんでもらえていれば幸いです。
さて、今話では久しぶりの直樹の戦闘シーンを書き、そして遂に赫刀が登場しました。
この刀で斬られた呪霊がどうなるかは…次話以降のお楽しみという事でお願いします。
それでは、今話も読んで下さり本当にありがとうございました。
追記:変な時間の投稿なのは単純にミスです。すみません。