異世界帰りの呪術師   作:北山 真

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 前回の更新から大分時間が経ってすみませんでした。
 
 進撃の巨人のアニメ最終話を見る→進撃の巨人のアニメを見直す→進撃の巨人の面白い二次創作を探す。
 といった事をしていたら、気づいたら一週間経っていました。

 お詫びではないのですが、今回は一万字程度の長編になりました(区切り悪くて長くなっただけなんて言えない)

 では、本編をどうぞ。


姉妹校交流会 伍

 

 虎杖悠仁、秤金次、東堂葵の三人は木の術式を持つ特級呪霊を確実に追い詰めていた。

 

 虎杖悠仁はその人間離れした身体能力から繰り出される速さは、三人の中でトップである。その上で、素の肉体強度においても三人の中でトップである為、生半な攻撃では止まらなくなっていた。

 更に、黒閃を放った事によるゾーン状態から繰り出される打撃により、特級呪霊に確実にダメージを与えていた。

 

 秤金次は『坐殺博徒』から得られたボーナスにより、その身から呪力が迸っていた。ボーナスの効果は至って単純。大当たり直後から約4分間、その身から無限に呪力が溢れ出るというもの。

 そして、その圧倒的過ぎる呪力で体を壊さない様に、本能が自動的に反転術式で体を治し続ける。

 その豊富な呪力によって打撃の破壊力、身を守る防御力、そして、反転術式による再生能力により、ほぼ不死身の様な有様で、三人の中で最も強い呪術師となっていた。

 

 東堂葵は、三人の中で最も厄介な呪術師である。

 本人の鍛え上げられた肉体は、虎杖程ではないが、呪術師の中でもトップクラスの身体能力を誇る。更に、一級術師としての技術、センスによって特級呪霊とも充分に渡り合えるレベルである。

 しかし、上の二人と比べては一段劣る。

 それでもなお最も厄介な呪術師である理由は、ズバリ、その術式『不義遊戯』である。

 手を叩く事を条件に発動する、呪力を持つもの同士の強制場所入れ替えにより、呪霊を翻弄し続けていた。

 

 

 しかし、この三人が揃ってもまだ、木の呪霊を祓いきれていなかった。

 その理由は、呪霊の圧倒的な耐久力にあった。

 

 呪霊は虎杖が放った渾身の黒閃でさえも、血を吐く程度で抑え込んでしまう。

 その呪力は確実に削れてきていたが、未だ五体満足で立っていた。

 

 呪霊にそれほど余裕がある訳ではない。

 既に白い布で隠していた左腕を解放し、その術式も最大まで使って戦闘している。

 

 呪霊の一振りで生み出される木の槍は、直撃すれば肉体を貫かれるだろう。

 生み出される花畑は、その香りのせいなのか、見た者の思考を一瞬だけ停止させ、その隙に新たな攻撃が生み出される。

 そして、最も厄介なのが、呪霊が生み出す口の付いた果実である。これに当たると、当たった術師の呪力を吸い取って育つという性質持つ。そのせいで、秤に直撃した時は、成長が速すぎて危うく秤が行動不能させられかけた。

 その時は、東堂の『不義遊戯』で助かったが、依然危険な攻撃である事に変わりはない。

 

 

 そんな三人の呪術師と一体の特級呪霊との戦闘は、時間と共に激しさを増していたが、唐突に四者の動きが止まった。

 

 それは、帳の中を所狭しと暴れ回っていた竜巻が、直樹の黒閃四連発により、消失した瞬間であった。

 

 虎杖は、単純にその光景に驚愕した。

 秤と東堂は、直樹により行われた事を察して動きを止めた。

 呪霊は竜巻の力をよく知っていたが為に、それを破壊できる者が五条悟以外にいた事に、より深い驚きを得ていた。

 

 そして、四者共に動きが止まった直後、目撃する事となる。

 

 禪院直樹の、全力の戦闘の軌跡を。

 

 

 


 

 

 龍人の呪霊は、直樹が持つ晴の炎を纏った日輪刀を、本能的に危険だと判断した。

 故に、呪霊のとった行動は、上空50メートル程度の所で対空しながらの遠距離攻撃の連撃であった。

 

 呪霊の腕の振りに合わせて鎌鼬が乱れ舞い、地面に幾つもの亀裂が出来る。

 呪霊の吐く吐息が強風となって大地を襲い、樹木を薙ぎ倒す。

 

 その上で、自身の周囲に、複数の小規模な竜巻を発生させ、直樹のワームホールからの奇襲に、即座に対応出来る様にした。

 更には素早く飛び続ける事により、そもそもワームホールの狙いを付けさせづらくした。

 

 その様子はまるで戦闘機による絨毯爆撃であった。

 

 高専内の森を全て荒れ地にする勢いで放たれる遠距離攻撃の数々は、しかし、直樹の体を掠める事さえ出来なかった。

 

 それは直樹があまりにも速すぎたせいである。

 

 先程まで戦っていた竜巻内部では、狭いが故に接近しやすかったが、狭いが故に加速も仕切れなかった。

 

 しかし、今は違う。

 

 直樹が、広大な大地を縦横無尽に駆け巡る。

 その速度は既に亜音速にまで到達していた。

 

 更に直樹は、走りながら幾つものワームホールを作り出した。

 倒木と切り株だらけとなった荒れた大地に、樹木の代わりと言わんばかりにワームホールを乱立させる。

 そして空中にもまた、ワームホールが幾つも開いた。

 

「何処から来る…いや、何処から来ようとも!」

 

 呪霊は遠距離攻撃が通用しない事を察して攻撃をやめ、迎撃に全力を注いだ。

 呪霊の周囲には多数の竜巻が浮かび、更には自身もまた竜巻で身を包んだ。

 その上で、竜巻が動き回り、ワームホールに衝突した。

 

 竜巻とワームホールが触れ合うと、お互いの呪力が干渉した。

 竜巻もワームホールもお互いが弱まり、あるいは呪力が無くなり消失した。

 

 また、竜巻の大きさはほとんど同じあり、更には竜巻の呪力のせいで、どの竜巻に呪霊が隠れているのかを、直樹に確認する術は無かった。

 しかし、直樹はそれを問題だとは思っていなかった。

 

「何処に隠れとっても関係ない。全部斬るだけや」

 

 直樹が地面にあるワームホールの一つに、勢いのまま飛び込む。

 空中のワームホールの一つから飛び出した直樹が、竜巻の一つを容易に切り裂いた。

 

 そこには呪霊はいなかった。

 しかし、直樹は初めから止まる気など無かった。

 

 切り裂いた勢いのまま、空中のワームホールに飛び込み、地上に出る。

 そして、加速を維持する為に地を蹴り、次のワームホールへと飛び込む。

 

 地から空へ、空から地へ。

 竜巻を斬り裂きながら、地上と空中を行き来する。

 直樹は、地面を一度経由する事で、空中を自在に動く事を可能にした。

 

 呪霊も負けじと竜巻を生み出し続ける。

 それはダミーとして、あるいはワームホールへの攻撃として機能した。

 しかし、直樹もまた消された分以上のワームホールを作り出し、作られた竜巻を斬り裂き続ける。

 

 熾烈なイタチごっこが続く。

 

 直樹が手に持つ刀の、燃え盛る晴の炎の通った跡が、巨大な地上絵と、空中に星座を描いた。

 帳の中にいた多くの存在が、その幻想的な光景を目の当たりにしていた。

 

 呪霊もまた、呪力の限り竜巻を作り続けた。

 可能な限り竜巻を生成し続け、操作した。

 

 しかし、

 

(速い!否、未だに速くなっている!馬鹿な、あり得ないだろう!人間の耐えられる速度なのか!?」

 

 呪霊は、自身の位置を悟らせない為に声には出さなかったが、心の中で叫んでいた。

 そう、直樹は加速し続けていた。

 

 夜の炎により作られたワームホールは、通った物質を加速させる。その際に、()()()()()()()

 実際に、直樹の夜の炎の師匠、バミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインは、この性質を使う事で自身を光速以上の速度にまで加速させる事が出来た。

 

 直樹はそこまで加速出来ない。

 いや、そこまで加速した場合の制御が出来ない。

 だが、自身の肉体の許す限り、加速する事は出来る。

 

 加速し続けて、相手の反応を許さない速度で殺す。

 皮肉な事にその戦法は、親兄弟の術式『投射呪法』の、最も強い戦法であった。

 

 直樹が、()()を超えて更に加速する。

 

 ソニックブームが発生し、呪力で体を守っていても細かな傷が出来る。

 だが、その程度の痛みでは直樹は止まらない。

 傷を反転術式で治しながら加速を止めない。

 

 直樹の竜巻を斬り裂く速度が、呪霊の竜巻を生み出す速度を上回り始める。

 次第に竜巻の数が減っていく。

 呪霊が、その事に焦り始めた。

 

(このままでは負ける!?領域を…いや!?領域を展開する暇は最早無い!ならば…)

 

「ぬぅおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 呪霊が全呪力を持って自身を覆う竜巻を強化する。

 呪霊の纏っていた竜巻が密度を増す。

 先程まで出していた巨大な竜巻を作り出せる程の呪力を、自身を覆うサイズの竜巻に集中させる。

 そして、領域展開に使う結界の技術を用いる事で、更に防御を固めた。

 

 領域展開の結界は、内から外への攻撃には強く、逆に外から内への攻撃には弱い。そういう縛りにより、敵対者を閉じ込める事が出来る。

 呪霊はこの土壇場で、その結界の性質を逆転させたものを使用した。

 

 自身を覆う竜巻を内と外を分ける結界と見立てて、内からの攻撃には弱く、外からの攻撃には強く設定した。

 更には、竜巻の範囲を狭く設定する事により、呪力を集中させた。

 

 それにより出来た竜巻の結界の強度は恐るべきものとなっていた。

 呪霊に対して効くと想定して、ミサイルの直撃も耐えうる強度であった。

 

「来いっ!!!」

 

 聞こえないと知りながらも呪霊が竜巻結界の中で吠える。

 

 直樹は、その竜巻結界に込められた呪力から、結界の強度を察した。

 今の速度では不足と判断した直樹が、再度の加速に入る。

 

 無駄なワームホールを全て消し去り、地上に輪を描く様に新たなワームホール群を設置した。

 

 この輪の形こそが、バミューダを光速以上の速度にまで加速させたワームホールの設置形状であった。

 ワームホールから出た直後に、次のワームホールへと突入出来る形である。

 

 音速を超えていた直樹が、ワームホールを連続で通過する事で急速に加速する。

 

 その速度が、マッハ2を越えた。

 

 そして遂に、最後の攻撃に移った。

 

 新たなワームホールを竜巻の頭上に作り出す。

 超音速による落下攻撃。

 それは百鬼夜行にて、鎧武者の特級呪霊に対して行った攻撃と同じ種類の攻撃である。

 

 

 しかし、破壊力はあの時の比では無い。

 

 

 空中のワームホールから、直樹が飛び出す。

 刀から炎を靡かせ、正しく流星と化した直樹の日輪刀と竜巻と接触した。

 

 ギイィンッ!!!

 

 と金属を激しく擦り合わせた様な音が、帳中を震わせた。

 

 そして、一瞬の接触の後。

 

 日輪刀が竜巻を斬り裂き、その勢いのまま、直樹が地上に激突した。

 

 ドゴォォンッ!!!

 

 と、激しい激突音が轟き、地面が揺れた。

 

 

 

 日輪刀と竜巻結界の接触音、直樹の地面への激突音とそれによって起こった小地震は、帳の中にいる存在全てに届いていた。

 

 勿論、離れた場所で戦っていた虎杖達にも。

 

 

 


 

 夜空に描かれた星座の如き黄色い炎の軌跡。

 その直後に起きた、隕石の落下と見紛う一瞬の閃光と、直後に感じた激しい揺れと、体を打ち震わした轟音。

 

「何だったんだよ、今のは…」

 

 それらを受けて、虎杖が絞り出した様に呟いた。

 

『まさか…』

 

 同じ様に木の呪霊が呟いた直後、突然走り出した。

 その方向は、先程の衝撃音が響いてきた場所へと向かっていた。

 

「っ、行かせんぞ」

 

 一瞬の思考を経て、東堂がその行動を理解する。

 木の呪霊は、もう一体の呪霊の安否を確認して合流するつもりであると。

 

 自身の術式により、自分と呪霊の位置を変えようと手を叩く寸前、呪霊が新たな行動に入った。

 

『私の邪魔をするなっ!!!』

 

 その足元から生み出された樹木は、三人と戦っていた時の比では無く、比喩表現抜きで森林を生み出した。

 呪霊を中心に、広範囲に次々と木が生える。

 爆発的な勢いで生え続ける木により、三人の行手が塞がれる。

 

 更に、呪霊わ中心に森が発生した事により、東堂は術式を発動できなかった。

 術式発動が間に合わなかった訳ではなく、呪霊の足元から木が発生していたが故に、場所を入れ替えた瞬間に、周りの樹木に押し潰される危険性を考慮して発動出来なかった。

 

 そして、呪霊と三人が、新たに生まれた森により分断された。

 上空から見れば、呪霊がいた場所を元に、半径50メートル程の広範囲に渡って、新たに森が生み出されていた。

 いや、木が密集しすぎているせいで、森というよりも巨大な一つの木にも見えた。

 

 周囲を樹木に囲われてしまった三人は、これまで使用していなかった圧倒的な術式規模に戦慄していた。

 三人を相手にしていたにも関わらず、相手は()()()()()()()

 それを理解させられたからである。

 

 そして、何故今になって全力を出したのか?

 

 そこまでを一瞬にして考えた東堂が二人に指示を出す。

 

「直樹が危ないっ!急いで追うぞ!」

 

「了解っ!」

「応っ!」

 

 秤と虎杖が気合いを入れて森林を突破しようと、極太の大樹を破壊し始める。

 

 しかし、周りを覆い尽くしている木を破壊するには時間が掛かった。

 

 それは、呪霊同士が合流するには充分過ぎる時間であった。

 

 

 


 

 

 

 直樹が放った流星火により、正しく隕石が落下した様なクレーターが出来ていた。

 

 そのクレーターにいた直樹と龍の呪霊は、満身創痍を体現していた。

 

「ガハッ、ゲホッ!」

 

 直樹が血を吐き出しながら息を整える。最早全集中の呼吸は維持出来ていなかった。

 

 直樹は、流星火の勢いのままに地面に激突したせいで、着地に使った両足が太腿の途中から()()()()。その上で、マッハ2まで加速した事で起きたソニックブームによる全身に及ぶ切り傷。

 更には、最後まで日輪刀を握っていた筈の両手の指は、刀と結界との衝突に耐えきれなかったのか、半分以上の指が本来曲がる筈の無い方向へと曲がり、その指に嵌っていた二つの指輪も何処かへと行っていた。

 そして、その日輪刀に関してもまた、無茶な攻撃による反動で刀身が折れて、10センチも残っていなかった。

 

 対して龍の呪霊はと言うと。

 

「熱いっ!痛いッ!何だこの痛みはっ!畜生っ!熱いぃ!」

 

 龍の呪霊が痛みから叫び、()()()()()()のたうち回る。

 呪霊にとっては幸いな事に、日輪刀は頭部を斬り裂く事は無かった。

 それは、竜巻結界が常に高速で回転していたが故に、日輪刀が逸れた結果であった。

 

 しかし、それでもなお被害は甚大であった。

 頭を逸れた日輪刀は、右肩から右脚の付け根までを一直線に斬り裂いていた。それにより、呪霊は右半身を失っていた。

 更に、正のエネルギーの塊である晴の炎を纏った赫刀は、灼熱の如き熱さと、それによる痛みを与えていた。

 

 それでも、直樹の全力の流星火によって負った傷は、客観的に見て奇跡的なほど少ないと言えた。

 まず、頭部が負傷しなかったおかげで即死を免れた。

 そして、直樹の流星火が()()()()()()()、晴の炎を纏った赫刀に体が触れたのが一瞬であった為に、致命傷になら無かった。

 

 

「「ハァハァッ」」

 

 双方が痛みに耐え体を起こし、お互いを睨みつける。

 

「ハアアァァァッ!!」

 

 直樹が雄叫びを上げながら、反転術式の正のエネルギーを、無くなった足に集中させる。

 黒閃によりゾーン状態に入った呪力操作能力、それにより生み出された生のエネルギーは、瞬く間に両足を再生させていく。

 

「グゥゥッ!」

 

 龍の呪霊もまた、鎌鼬により日輪刀により付けられた傷跡を再生させようと、呪力を集中させるが

 

「クソッ!何故だ!何故再生出来んっ!」

 

 その傷口は、一向に再生する気配を見せなかった。

 確かに、日輪刀の一撃は致命傷には至らなかった。しかし、晴の炎を纏った赫刀は呪霊にとって天敵過ぎた。

 一瞬しか触れずに斬られたにも関わらず。呪霊の身に残り、再生を阻害する程度には、致命的過ぎる刃であった。

 

 再生する直樹と、再生出来ない呪霊。

 勝負が付いた。

 

 ()()()()()()、だが。

 

『大丈夫ですか!?』

 

 その場に現れ、声をかけたのは木の呪霊であった。

 

『まさか貴方がここまでやられるとは….』

 

 龍の呪霊のその有様を見て、木の呪霊は呆然と呟いた。

 

「その男を殺せっ!そいつは危険だっ!」

「ちくしょうっ!」

 

 龍の呪霊が、直樹を殺す様に指示を出す。

 直樹の足の再生は進んでいたが、それでもまだ足首までしか再生出来ていなかった。

 

 悪態を吐きながらも、直樹がワームホールを出して逃げようとするが、指輪が無いせいで、遅々として進まない。

 先程までと比べたら、兎と亀の様であった。

 

 当然、その隙を逃す呪霊では無い。

 

「急げっ!奴はテレポートする術式を持っている!早く()らねば逃げるぞ!確実に頭を潰して止めをさせ!」

『分かりました。では…』

 

 木の呪霊の足元より、木が生える。

 木の先端が捻れ、ドリルとなって回転を始める。

 

 ギィィンッと、音を立てて回転する木製のドリル。

 直樹を確実に殺せる様に、呪力を集中させていく呪霊。

 

『さらばです』

 

 ドリルが直樹の脳天に突き刺さる直前

 

「行け!脱兎(だっと)!!」

「うわっ!」

『ムッ!』

 

 男の声と共に、直樹の体が兎に埋もれて呪霊から身を隠した。

 兎の正体は、伏黒恵の式神の一体である「脱兎」であった。この式神は、本体となる一体が破壊されないならば、呪力の限り分身を生み出す特性を持っていた。

 竜巻を生み出していた呪霊と直樹の戦闘を見て近くまで来ていた伏黒が、直樹を守るために呼び出した式神であった。

 

 木の呪霊から直樹の姿は見えなくなった。

 しかし、それでも直樹の体があった場所目掛けて木製ドリルは兎を抉りながら直進した。

 だが、兎を潰した血飛沫と、地面を抉った土煙は上がっただけであり、直樹の悲鳴を上がらなかった。

 

『クッ、外しましたか』

 

 失敗を悟った木の呪霊が悔しがる。

 その隙を狙って新たな攻撃が飛来した。

 

穿血(せんけつ)!!」

 

 新たな攻撃の主は加茂憲紀であった。

 彼の術式『赤血操術(せっけつそうじゅつ)』は、文字通り血を操る加茂家相伝の術式である。

 その中でも、穿血は血を圧縮して超高速で撃ち出し、敵を貫通させる技である。血液によるウォータージェットの様な技で、『赤血操術』の中で最高威力な技であった。

 

 高速で飛翔する血液は、兎を貫通し、未だに地面の上で動けずにいた龍の呪霊に、直撃する軌道で迫った。

 

(良し、()った)

 

 技を出した加茂は、傷だらけの呪霊に直撃しようとする穿血が、呪霊を祓う事を確信していたが

 

「フンッ!」

「なっ!」

 

 半身の無い大怪我を負った龍の呪霊は、それでも余裕を持って片腕で防ぎきる。穿血は龍の腕を穿つ事なく、鱗を数枚砕いた程度で攻撃が終わった。

 

 穿血は、非常に貫通力の高い技である。しかし、呪力により強化された龍の鱗はそれすらも防ぎきる硬さを持っていた。生半な攻撃では龍の肉体に傷を付けることは出来ない。

 むしろ、その龍の肉体をここまで追い詰める事が出来た、日輪刀と晴の炎が呪霊にとって天敵である事の証明がされた結果となった。

 

『新手ですか。ここで纏めて…」

 

 木の呪霊が、その場にいる全員を殺そうと術を発動しようとする。

 

「加茂さん!引きますよ!」

「分かっている!」

 

 木の呪霊の呪力の昂りを感じた伏黒と加茂が、逃げようと動き出す。

 

 が、しかし。

 

「いや、ここで仕留めます」

 

 直樹が二人にそう告げた。

 

「いや、お前も相当な重傷が…」

「そうだ!お前の傷で動ける訳が…」

 

 二人の言葉がそこで止まる。

 二人が見たのは先程まで足を失っていた筈の直樹が、()()()()()()()()()()()()()姿()だった。

 ズボンはボロボロで、裸足であったが、傷一つ無い状態で立ち上がっていた。

 

 よく見ると、折れ曲がっていた指も正常になっており、その他の細かい切り傷一つ見当たらない状態であった。

 

「反転術式…」

 

 呆然と呟いたのは伏黒だった。

 伏黒は前情報で、直樹が反転術式を使える事は知っていた。

 しかし、今見た光景が信じられず、思わずその場に棒立ちになって考え始める。

 

(欠損部位の再生だと…そんなの…家入さんでも出来るかどうか…。一体どれだけの修羅場を潜ったらそんなレベルの反転使える様になるんだよ!)

 

 反転術式は高等技術である、まともに使える人間は一級以上の術師の中でも一握りである。そして、この技には本人のセンスが非常に重要になっている。

 その中でも家入祥子は、他人に反転術式を施せるほぼ唯一の存在であるがゆえに天才と呼ばれ、その元には年中怪我人が運び込まれている。

 

 そんな家入祥子ですら欠損部位の治療は難しい。

 それを成し遂げた同年代の人間を前にして、伏黒は驚愕から固まってしまっていた。

 

 しかし、直樹の数が治ったからといって、形勢が逆転した訳では無かった。

 

「…いや、直樹も退がるぞ。お前も呪力が限界だろう」

 

 加茂の指摘の通りであった。

 確かに直樹の傷は完全に塞がった。しかし、それを行う為に使った呪力は馬鹿にならない量であった。元々反転術式は、通常の負の呪力同士を掛け合わせて使用するせいで、かなりの量の呪力を消費する。

 これを易々と使用できるのは、無から有を生み出すレベルの呪力効率を誇る五条悟か、底なしの呪力と形容される程の呪力量を誇る乙骨憂太ぐらいである。

 

 直樹の呪力量は多いが、乙骨のほど多くも無い。また、呪力効率も良いが、五条悟ほどでは無い。

 更には、短い戦闘だったとは言え、ワームホールの連続使用に、晴の炎を灯す為の反転術式の維持。 

 

 既に直樹の呪力は、平常時の五分の一も残っていなかった。

 

 しかし、直樹にとって、それは戦闘を止める理由にはならない。

 

「いや、俺はまだ行けます。そんな事よりも、こいつらをここで確実に祓う事が最優先。そうでしょう加茂さん?」

「…分かった。伏黒君もそれで良いか?」

「大丈夫です、やりましょう」

 

 三人の術師が戦闘体勢を整える。

 伏黒に関してはいざとなれば()()()()切る覚悟を決めていた。

 

 それを見た特級呪霊二体もまた、戦闘体勢に入る。

 

『行けますか?』

「うむ。大丈夫だ、問題ない」

 

 木の呪霊の確認に対して、龍の呪霊がそう返した。

 

 龍の呪霊もまた、失った手足の再生を完了させていた。

 正のエネルギーが呪力による再生を阻害していたが、普段再生に使うエネルギーの倍以上のエネルギーを使うことにより無理矢理再生させた。

 そのせいで呪力をかなり消費していたが、それでも戦闘に支障が出るほどでは無かった。

 

 術師三人と特級呪霊二体が睨み合う。

 

 しかし、この戦闘が起きる事は無かった。

 

 空を覆っていた帳が解除されたからである。

 それによる景色の変化に釣られて、三人と二体が一斉に上を見上げた。

 

 そして、そこに浮かぶ一人の人間を発見した。

 空中に佇んでいたのは五条悟。

 

 それを発見した特級呪霊二体が撤退の準備を始めた。

 五条悟とは戦わない。それが、高専襲撃に参加した者の共通認識であった。

 

『引きます。五条悟を相手にするほど驕ってはいない』

「仕方が無いが、ここまでだな」

 

 木の特級呪霊を覆う様に木が生え始めた。

 

 更に、唐突に空に暗雲が立ち込め、ポツポツと雨が降り始める。それは急速に勢いを増して、時間を置かずに豪雨へと変貌した。

 

「くっ、何だこの雨はっ!」

 

 急速に降り始めた雨に加茂が困惑の声を上げた。

 

「私の術式だ」

 

 龍の呪霊が術式の開示を行いだした。

 それは、先程まで戦っていた直樹にとって、屈辱的な発言であった。

 

「お前、風の呪霊や言うとったやないか、手ぇ抜いとったんか」

「不本意ながらな。私の術式は天空を操る『天空操術』。それには勿論、天候操作すらも含まれる」

 

 そう、龍の呪霊は、風への恐れから生まれた呪霊では無く、全ての気象現象への恐れから生まれた呪霊であった。

 古から続く雷への恐怖心、近年に増えた大雨による被害、その他全ての気象現象から生まれた呪霊であるが故に、雨を降らす程度は造作も無かった。

 

「帳が邪魔でな、残念ながら全力では戦えなかった。だから…」

 

「覚えておけ、私の名前は楼靇(ろうろう)だ。次は外で戦ろう」

 

 それだけを言い残して、二体の呪霊が消えた。

 

「チッ、逃してもうたわ」

 

 直樹が逃した事に対しての悔しさから、地面を強く蹴った。

 

 最早、二体の特級呪霊を追う事は不可能だった。

 指輪が無い為に、ワームホールを上手く生み出せない事も理由の一つだったが、それよりも降り続ける雨の方が厄介であった。

 

 雨は楼靇の呪力により生み出されたものである。だから、雨の一粒一粒に至るまで全てに呪力で出来ていた。

 それ故に、雨の降りしきる範囲全てに楼靇の呪力が漂っており、二体の特級呪霊の呪力を感じる事が出来なかった。

 

 

 

 かくして、姉妹校交流会は乱入者が暴れ回って終了した。

 

 この二体の特級呪霊を祓え無かった事が、この先どういう事態を引き起こすのか。

 

 それは、神のみぞ知ることである。

 

 

 

 いや、あるいは、

 

 この事態を計画した男のみが知る事であるかも知れない。

 

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか。今話も楽しんでいただけていると幸いです。

 さて、今話では禪院直樹の戦闘力を盛りに盛りました。ここまでするつもりは初期構想では無かったのですが、アニメの渋谷事変を見るにつれて、「これぐらい相手が強かったら、直樹も盛って良いかな」と考えて、思いっきり盛ってみました。

 そして、龍の呪霊『楼靇』の能力も盛りました。帳内で戦っていたせいでめちゃくちゃ縛りプレイしていました。まだまだ使っていない手札を持っています。その戦闘は渋谷事変で出せたら良いなぁと思ってはいますが、どうなるかは正直未定です。
 また、名前をすごく悩んでいて、これまで出していなかったのですが、最終的には『楼靇』に落ち着きました。
 楼は物見櫓や高い所といった意味で、靇は雷が鳴り響く音という意味を持ちつつ、雨冠に龍という名は体を表すに相応しい字です。通して読むと高い所から見下ろす龍。みたいな意味で付けました。

 それでは、今話も読んでいただきありがとうございました。

ps.この小説を11月中は休載させていただく事になりました。詳しく知りたい方は活動報告の方をお読み下さい。

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