今話は一先ず交流会終了の区切りになります。その後の展開はとりあえず渋谷事変終了までは考えておりますので、そこまでは頑張って投稿していきたいと考えております。
それでは本編の方をどうぞ。
姉妹校交流会は呪霊・呪詛師の乱入によって一日目の団体戦は
幸いにも後遺症が残るほど重傷を負う者もおらず、家入硝子と禪院直樹による反転術式によって、全ての治療はつつがなく終了した。
そして、一夜明けた次の日。
「プレイボール!!」
五条悟の溌剌とした掛け声により、東京校VS京都校による野球対決が開始された。
なお、両校八名しか生徒が居ないので、守備には少しだけ穴がある状態であるが、呪力及び術式の使用は禁止されている。
そんな、前日に起きた生死を賭けた争いとは無縁な競技が行われているのには理由がある。
一時は姉妹校交流会自体の中止が検討されたが、東堂葵の鶴の一声から続行が決まった。
それにより、例年通りなら個人戦になるはずだった。
「どうしてこうなったんや?」
ベンチに座り、うんざりした様子で空を見上げて疑問を口にするのは、二遊間の守備を任された禪院直樹。京都校の生徒の中で、呪力抜きで最も高い身体能力を発揮できる彼は一人でニ遊間の守備を任されていた。
直樹の疑問に答えるならば五条悟が全ての原因だった。
五条悟は二日目の競技を決めるくじ引きに「野球」という選択肢を入れた。それにより二日目の競技が個人戦から野球になった。
「こらーっ!!直樹ー!ボヤッとしてんじゃないわよ!!」
「はーい」
上の空の直樹に向けて怒声を上げる京都校監督の庵歌姫。
彼女は大の野球ファンである為、この試合にかける思いは人一倍高かった。
そして、この試合に熱い思いを持ったもう一人の人物がいた。
「そうだぞ直樹。俺と
「はーい」
東堂もまた直樹に向けて注意したが、直樹は真面目には聞いていなかった。
それよりも東堂の発言に気になる所がありすぎた。
(ブラザーって誰やねん。いや、多分虎杖君のことなんやろうけど、いつ兄弟になってん)
そんな事を直樹が考えている間にも試合は進んでいく。
東京校の投手である禪院真希から一番打者外野手の西宮桃が一塁に出塁したが、二番打者同じく外野手の三輪霞がフライを打ち上げてダブルプレイに倒れていた。
それを見て打席に入った三番打者三塁手の加茂憲紀だったが、彼は一度もバットを振らずに三振に打ち取られていた。
それを見て激怒する歌姫を尻目に守備位置につく直樹。
彼は二遊間を一人で守る事になっているので、二塁ベースの後方三メートルあたりの所に陣取った。
そして、気になる京都校の投手は東堂葵であった。
彼は虎杖悠仁と雌雄を決すると言い放ち、東堂の相手をしたく無い京都校の生徒全員の許可を得て投手の座を手にしていた。
そして、無駄に…本当に無駄に上手い投球技術により、東京校の生徒達を三者凡退に仕留めた。その投球は本当に無駄に上手かった。
ある時は140キロ越えのストレートを。
ある時は急激に沈み込むフォークボールを。
ある時はストレートと同じフォームから放たれる、球速差30キロのチェンジアップで次々と打者を仕留めた東堂。
「ナイスピッチー」
気持ち悪いぐらい上手な投球技術を披露した東堂に対して、心のこもって無い空虚な声援が同じチームメイトからかけられた。
そんな感じで一回が終わり、二回の表。
京都校は四番打者(これも譲らなかった)の投手の東堂がバッターボックスに入る。
東京校の捕手を務める虎杖悠仁の方を向いて話しかけ続ける東堂だったが、その言葉は途中で遮られる事になった。
「ぐふっ…」
「デッドボール!」
五条悟の無慈悲な宣言がグラウンドに響く。
顔面にデッドボールをぶつけられて物理的に会話を止められた東堂。
ぶつけた真希も特に謝る様子は無い。
それどころか東京校・京都校問わずに「ナイスピッチ」と声援を送られていた。その声は先程の東堂に対するものよりも感情が込められていた。
「東堂…お前、めちゃくちゃ嫌われてるな…」
虎杖が東堂の嫌われっぷりを嘆く。
そこに近づく五番打者の直樹。
「はーい、ちょっと失礼しますよー」
軽い声と共に、反転術式により治療が施された東堂。
「デッドボールなんで一塁行って下さいね」
「仕方ないか…
捨て台詞を吐きながら一塁へと向かう東堂を見送り、直樹がバッターボックスに入る。
大きく伸びをした直樹は、軽くバットを振って構えた。
その姿から発せられる雰囲気は熟練者のそれであり、その雰囲気に真希も気付いた。
(何だ…この雰囲気。こいつはやべぇな)
真希のスイッチが入る。
京都校の人間に怪我をさせないように、手加減して握っていたボールに力が込もる。
「フンッ!!」
そして、投げられた全力の豪速球。
投球フォームは洗練されておらずとも、十分な勢いを乗せられたボールの球速は160キロを優に超えていた。
しかし
「フッ」
スイング一閃。
全集中の呼吸により生み出された規格外の身体能力と剣術の応用により超高速でバットが振り切られた。
カッキーンッ!という、爽快な金属音を奏でて、ボールが弾き返された。
真希によりボールに込められた運動エネルギーが、バットに当たった事を契機に反転し、空気を切り裂いて飛翔する。
ボールは誰のグラブに入る事もせずにフェンスを超えて、その奥に広がる森の中へと消えていった。
直後に京都校から起きる歓声。
悔しがりながらマウンドの土を蹴る真希を横目に、直樹が塁を回る。
二点を先制した京都校だったが、このままの勢いで勝てるほど東京校も甘くなかった。
直樹以降の打者が抑えられた後、二回の裏の攻撃。
「フンッ!」
「何っ!?」
またもやカッキーンッ!と快音を響かせ森に消えていくボール。
投手の東堂が投げたボールを、四番打者の真希がホームランにした。
先程の意趣返しが出来た事に喜んでいるかと思いきや、真希の表情は冴えない。
(チッ、直樹のより飛んでねぇな)
自身の打球よりも直樹の打球の方が遠くまで飛んでいた事が気に食わず、心の中で舌打ちしていた。
何はともあれ、これで2対1になった。未だ京都校がリードしているが、点差が近づいた事は確かだった。
その事に意気高揚して盛り上がる東京校。負けじ気合を入れ直す京都校。
そこからは一進一退の攻防が続き、お互いに得点を許さない展開に。
そして、迎える最終回の裏の攻撃。
変わらず2対1の状況でツーアウトだが、ランナーに真希がおり、ホームランで逆転サヨナラという場面で、バッターボックスに虎杖が入る。
「さぁ決着をつけようじゃないか
「よっしゃ来いっ!」
相変わらずよく分からない事を言う東堂に対して、ノリノリでバットを構える虎杖。
勝負の行方は両雄へと委ねられた。
「ぬぅりゃぁ!」
渾身の力が込められた一球が投じられた。
この日一番の球速を見せた投球はしかし
「ッシ!」
虎杖の一振りの前に返り打ちにあった。
そして、フェンスを超えた。
「よっしゃあぁ!!」
「クソぅ…」
感情を爆発させる虎杖と、膝から崩れ落ちた東堂。
勝敗は決した。
姉妹校交流会は東京校の勝利で幕を閉じた。
姉妹校交流会が終わった夜。京都校の生徒達全員と庵歌姫は一つの教室に集まっていた。
それぞれが思い思いの席に座る中、教壇に立つのは庵ではなく真依だった。
「それで、全員集めてしたい重要な話って何なのよ真依?」
歌姫が代表して真依に問う。
問われた真依が、一つ頷いてから神妙な顔で話し始める。
「…交流会の一日目。皆んなも思ったと思うけど、私は自分の力不足を感じたわ。特級呪霊とまともに戦えたのは東京校の生徒を含めて少なかった」
「それはアンタのせいじゃないわよ!特級と戦える方が少数派なんだから!それを言い出したらアタシだって戦えないわよ!」
悔しさを滲ませた真依に、庵が強い口調でフォローに入る。それは、自分自身も生徒を守れなかったという悲痛な叫びでもあった。
事実、特級とは読んで字の如く特別な階級の事である。
最低でもクラスター爆弾レベルの戦力が必要と言われる特級呪霊と戦いになるのは一級以上の呪術師のみである。
そして、その一級呪術師ですら一対一では勝てると言えないのが特級呪霊であった。
「分かってるわ。だからこそ、今日は皆んなにお別れを言おうと思ったの」
「お別れって、呪術師を辞めるって事ですか?」
「いいえちょっと違うわ」
三輪の当然の疑問がやんわりと否定された。
話を聞いていた全員の頭に、ハテナマークが生まれる。
そこで真依が直樹の方を向いて口を開いた。
「直樹。アンタの術式でアタシの事を異世界に送って欲しいの」
「それは…旅行的な話やないよな?」
「ええ。どちらかと言えば移住ね」
全員が驚愕から絶句した。
直樹の術式『異世界転移』による移住とは、言葉ほど軽くない。
移住というよりも永住になるだろう。それこそ今生の別れになる。
それを一番分かっている直樹が一番に動揺から解放されて、声を出した。
「分かってるんやろうな真依姉さん。帰って来れる保証は何もないで?」
「ええ、覚悟のうえよ」
キッパリと、何の躊躇いもなく言い切った真依。
二の句が継げない直樹の代わりに、悲痛な声が教室に響く。
「…どうしてなのよ、何で…そんな事…」
「そうね…それも説明しなきゃね」
涙を堪えて、途切れ途切れになりながらも話す西宮。
その顔を見て、悲しそうな声になりながらも説明に入った。
「私と真希は双子として生まれたわ。双子は呪術的には一人として扱われるの、だから私には少量の呪力しかなくて、真希には天与呪縛による中途半端な身体能力しかないわ」
「そうか…それでか…」
「ええ、流石に東堂先輩は気付くのが早いわね」
「えっ!何!?何なの!?分かんないわよ!」
そこまでの説明で気付いた東堂と、分からずに騒ぐ庵。
それに遅れて天与呪縛について詳しいメカ丸が気付き、話し始める。
「…そうカ、双子だから弱いなラ、一人になれば良いという事カ…」
「そうよ。私がこの世界から消えれば、私達姉妹は完全な一人の呪術師になれると思うの。それでどうなるかは分からないけど」
「だからって…真依が行く必要は無いじゃないですか!?何で…真依が…」
三輪の悲しみに満ちた声を、真依が瞼を閉じて受け止めた。
そして、一つ深呼吸をしてから優しく微笑み、その理由を打ち明けた。
「それは…私が妹だから。無茶するお姉ちゃんを支えたいからかな」
いつもの口調ではなく、優しく話すその姿に皆が驚かされた。
真依はいつも気を張って生活していた。それは、生まれてから禪院家で過ごしたことで学んできた真依なりの処世術だった。
それが今解けた。
真依は直樹が時期当主になった時からこの事をずっと考えてきた。
直樹が時期当主になった事で真依と真希が強くなる理由は無くなった。
しかし、真希は呪術師として仲間を守る為に戦い続ける事を選んだ。
それがどれだけ厳しい道のりで、弱い自分達では無謀な挑戦なのか、改めて今回の事件で露呈した。
真依が真希を助ける為には、二人から一人になるのが最善の手段だった。それを真依は感覚的に理解していた。
故に、今回の事件をきっかけとして、異世界に旅立つ決心をした。
そんな真依の真摯な言葉に、聞いていた皆の胸が打たれた。
「これが、入学式の時言ってた俺にやって欲しい事やな?」
「ええそうよ」
「はぁ…分かったやろう」
「あれがとう直樹」
深い溜め息を吐き、渋々と言った様子を隠さずに、直樹が術式の行使を了承した。
それはつまり、真依が異世界に行く事が確定したという事だ。
元々、彼女は別れの言葉を言いたくて皆を集めてもらっただけで、直樹の了承さえあれば異世界転移は可能である。
それを理解した西谷と三輪が、真依に泣きながら抱きついた。
「ごめんね皆んな」
泣きはらす三輪と西宮の頭を撫でる真依の瞳にも涙が溜まっていた。
その日、夜遅くまで送別会が開かれた。
過去の思い出を語り、現在の気持ちを打ち明け、未来への声援をささげて、真依の旅立ちを寿いだ。
いかがだったでしょうか。今話も楽しんでいただけていたら幸いです。
さて、今回の話で重要なのは後半部分が送別会ですね。
色々と真依と真希の話は書いてきましたが、真依は異世界に行ってもらうことになります。これはこの小説を書き始める時には決めていた事でした。真依が死ぬ事なく真希が覚醒するには、便利な呪具を出すか、こうやって別世界へと永住する必要がありました。
次回からは実際に異世界に行く所からスタートになると思います。
それでは、今話も読んでくださりありがとうございました。