異世界帰りの呪術師   作:北山 真

23 / 30
 前回の更新より日が空いて申し訳ないです。

 今回は真依メインの話なのですが、めちゃくちゃ難産でした。
 正直、キャラ崩壊してないか不安ですが、本編をどうぞ。


『異世界転移』

 

「認めねぇぞそんなの!!」

 

 静寂に包まれた呪術高専東京校、その二年生の教室で、真希の怒鳴り声とガタガタッという椅子を倒した音が響き渡った。

 

 教室内では禪院真依と禪院真希の姉妹が、向かい合って話していた。

 真依は冷静な表情で椅子に脚を組んで座っていて、真希は怒りに満ちた顔で立ち上がっており、その近くには倒れた椅子が転がっていた。

 

「もう決めた事だから」

「納得いかねぇ」

 

 話し合いは平行線を辿っていた。

 話の主軸は真依が異世界に行くかどうか。

 真依は行くと決めており、真希は反対していた。

 

「この前の戦いで真希も分かったでしょ、私達が如何に力不足かって事が」

「くっ…」

 

 真依の淡々とした指摘に対して、真希は何も言えなかった。

 特級呪霊相手とは言え、先の戦いにおいて、この姉妹は十分な戦力になる事が出来なかった。その後に起きた呪詛師との戦いにおいても、負傷していたとしても遅れをとった事実がある。

 

 現実問題として、呪術師側が把握しているだけで立て続けに未登録の特級呪霊が四体も現れている。はっきり言って異常事態である。

 しかも、その内の特級呪霊が二体も、それも徒党を組んで襲ってくるなど前代未聞である。

 この様な状況下において、一級未満の呪術師は完全に力不足であり、そして、その一級術師でさえ死ぬ危険性が高い状況が続いていく事は想像に難くなかった。

 

 真依の力不足という指摘は、的を射ていた。

 

「…だからって、真依が異世界に行く必要があんのか!?」

「じゃあこのまま何もせずに力が無いまま戦いに行くの?その結果仲間が死んでも良いって事?」

「真依が異世界に行ったからって、強くなるとは限らねえだろ!!」

 

 冷静に論理立てて話す真依とは対照的に、感情に任せて捲し立てる真希。

 

「アンタも感覚的に分かってるでしょ?私はアンタで、アンタは私なんだから」

 

 真依が優しく諭す様にそう言った。

 

 双子の呪術師は呪術的には一人として扱われる。

 故にこの姉妹は、本来持って生まれる筈のものを二つに分けて生まれてきた。

 

 呪霊の見える真依と、呪霊の見えない真希。

 術式のある真依と、術式の無い真希。

 力の無い真依と、力のある真希。

 

 対照的に生まれた二人は、生き方もまた対照的になった。

 

 女性的な真依と、男性的な真希。

 呪術師になりたくなかった真依と、呪術師として生きようとする真希。

 後ろから銃を撃つ真依と、前に立ち武器を振るう真希。

 

 しかし、だからこそと言うべきか。

 呪術的には二人で一つだからこそ、感覚的に理解できる事もある。

 それは、比較的呪力のある真依の方が分かっていたが、ここまで言われて理解出来ない真希では無かった。

 

「…分かってるよ。今のままじゃ、これ以上強くなれないって事ぐらい」

 

 今までの感情的に怒鳴っていた姿とは打って変わって、悔しげに顔を顰めて、地面に向けて吐き捨てる様に呟く真希。

 その表情を見て真依は、天井を見上げて軽口を叩いた。

 

「いっそ…両面宿儺みたいに異形として生まれたら、もっと強くなれたのかもね」

 

 両面宿儺は、四つの腕と四つの目を持っていたとされる呪いの王である。

 あるいは、この姉妹がそう言う姿に生まれていたなら、もっと強くなれたのかも知れなかった。

 

「…かもな、けど…」

「ええ、私達は中途半端にしか生まれなかった。だから…」

「ああ、持って生まれたもんで勝負するしかねえ」

 

 二人の視線が交差して、お互いに一つ頷いた。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「何処へだよ」

「直樹が異世界に行く為の準備をしてくれているから、そこへ」

 

 椅子から立ち上がって教室の外に出る真依に続いて、真希もまた教室の外へと出て行った。

 

 並んで廊下を歩く二人の姿は、仲の良い姉妹にしか見えなかった。

 

 

 


 

 

 

 場所は変わって東京校内、森の中にある神社の前。

 鳥居のすぐ近くの開けた場所には、地面を抉る形で直接円形の魔法陣が描かれており、それを囲む様に姉妹校交流会に参加していた全ての人間が集まっていた。

 また、仕事の無い呪術高専関係者や、仕事があってもサボっている五条悟の様に、本当に多くの人間が集まっていた。

 

 魔法陣は大きい円の中に少しだけ小さい円が描かれて二重の円となっていた。

 更に、二重になった円の内側には象形文字の様な、読む事も難しい達筆な漢字がズラリと書かれており、内側の円の中には五芒星が描かれていた。

 

 そして、魔法陣の中心には直樹が目を閉じて胡座をかいて瞑想していた。

 その横には『異世界転移』先で必要になるかも知れないと、水と食料を詰め込んだリュックが置いてあった。

 

 この魔法陣は『異世界転移』をより確実に、安全に発動させる為に直樹が用意した物であった。

 

 呪術師が術式を発動する時、殆どの術式はある程度力をセーブした状態で発動している。

 完全な形で術式を発動しようとするならば、様々な行程を行う必要がある。

 例えば、掌印を結ぶことや呪詞を詩うこと、そして今回の様に陣を張ることなどが挙げられる。

 これらの動作は戦闘時には余計な隙となる事が多いので、出来るだけ省略して隙を少なくする事が定石となっている。

 

 周りにいる多くの人は、集中して座っている直樹を極力邪魔しない様に、コソコソと囁き声で話し合っていた。

 しかし、その声は本日の主役である姉妹が来た事で大きくなった。

 

「来たか」

 

 その喧騒を聞いた直樹が、目を開けて立ち上がった。

 そして、目の前に立つ姉妹と、周りに立つ全員に対して説明を始める。

 

「じゃあ始めるから、円の内側に真依姉さんだけ入って。それ以外の人は絶対入らん様に気ぃつけてな」

「分かったわ」

 

 真依だけが魔法陣の中に入る。

 それを確認した直樹が語り始める。

 

「術式を発動する前に、出来るだけ確実にしたいから術式の開示させてもらうな」

 

 術式の開示とは、縛りの中で最もポピュラーなものの一つである。

 自らの術式を相手に明かし、その対策を講じさせ易くする事により、自らの術式を強化する事が出来る。

 

「俺の術式は分かり易い様に『異世界転移』って言ってるけど、正確には異世界への道を作る能力や」

 

 聞いていた者の多くがその違いが分からずに首を傾げた。

 それを見た直樹が追加の説明をしていく。

 

「転移って聞くと瞬間移動能力に聞こえると思うねんけど、道を作ってそこを通る所まで全部を術式でしなあかんねん。例えるなら月に行くのに『どこでもドア』で移動するのとロケットで移動するぐらい違う」

 

 その分かり易い具体例に、何となく納得して頷く者が多かった。

 

「はっきり言って人類に使い熟せる術式や無いわ」

「どうして使い熟せないの?」

 

 当然の疑問が真依から出た。

 真依は、これからその術式を使われるのに不安にさせる事を言わないで欲しかった。

 

「単純に人間一人の呪力で使えへんぐらい膨大な呪力がいるねん」

「けど、お前は何回も異世界に行ってる筈だろ?」

 

 解答に対して現れた新たな疑問について真希が尋ねた。

 

「さっきは月で例えたけど、『異世界転移』は宇宙旅行みたいなもんやねん。俺の呪力だけで作ったロケットと燃料で、違う星にまで辿りつかなあかん。俺の呪力も少なく無いけど、もっと多くないと本来は使えへん。やから、『異世界転移』は色んな縛りを条件に、術式が発動出来るまで呪力を強化しとる」

 

 縛りの内容までは語らなかったが、直樹が把握しているだけで4種類の縛りが存在していた。

 一つ、自身の意思で発動しないこと。

 二つ、行く場所を指定しないこと。

 三つ、行く場所に空間の歪みが発生していること。

 四つ、行く世界そのものや、そこにいる何らかの存在に招かれること。

 

 三つ目の条件に関して詳しく話すと、映画の中の世界の様な、行った場所が異空間になっている場合や、誰かが空間を歪めている場合などだ。

 

 そして更に、直樹自身は把握していない縛りが4種類存在していた。

 

 一つ、単独で転移すること。

 二つ、行く異世界の危険度が高いほど行きやすいこと。

 三つ、言語が通用しない場所であること。

 四つ、直樹が把握していない世界であること。

 

 これらは基本的に、直樹にとってリスクのある場所に行くことが条件の縛りになっていた。故に、そのリスクを体感でしか測ることが出来ない直樹は、縛りとして把握していなかった。

 

 総じて八つの縛りを、一つ守る度にロケットの燃料を得られると考えると分かり易いかも知れない。それによって何とか異世界に行く事を可能にしているのが直樹の『異世界転移』という術式であった。

 

「今回はその縛りを幾つか守らへん代わりに、この陣と呪詩と術式の開示で呪力を強化して発動させる」

「それで大丈夫なのかよ」

 

 思わず心配の声が真希から出た。

 確かに、ここまでの説明では不安が残ったかも知れない。しかし、直樹には自信があった。

 

「大丈夫や。この方法で異世界から帰ってこれてるからな」

「…なら、最悪の事態にはならねえか」

 

 最悪の場合二人とも帰って来れる事を知り、渋々といった様子で真希が引き下がった。

 

「…真依姉さん、言い残したことないか?」

 

 術式の開示により呪力が強化された事を感じて、最後の準備が終わった事を確認した直樹が、真依に別れの言葉を促した。

 

「そうね…まずは新田君から」

「俺ですか!?」

 

 自分に話しかけられるとは思っても見なかった新田が、急に指名された事で狼狽した。

 それを見て、悪戯が成功した子供の様に笑う真依。

 

「ふふっ、あんまり話す機会無かったけど、同級生として直樹のことよろしくね」

「はいっ!」

「…余計なお世話や」

 

 子供の世話をお願いする母の様な言動に、直樹が小声でぼやいた。

 

「霞」

「…はい」

 

 真依に名前を呼ばれた三輪が、今にも涙を流しそうになりながらも何とか返事をした。

 

「貴方と一緒にいてすごく楽しかったわ。私と一緒であんまり強く無いんだから、家族のためにも無茶しちゃダメよ」

「はい…真依も、気を付けて下さいね」

 

 とうとう涙が頬を伝り出した三輪を置いて、真依が次に話しかける人に目線を向ける。

 

「メカ丸」

「あア」

 

 メカ丸はいつもと変わらぬ声で返事をしたつもりだったが、真依にはいつもより不機嫌な声に聞こえていた。

 

「結局貴方の顔を見る事は出来なかったけど、とても頼もしかったわ。貴方の体が治る事を祈ってる、お大事にね」

「…お前もナ」

 

 それっきり黙ってしまったメカ丸。

 やはり機嫌が悪い様だと思いながら、次の人へと顔を向けた。

 

「桃」

「うん!」

 

 西宮は最後の別れが暗くならない様に務めて明るく振る舞っていた。

 

「貴方に一番助けられたかもね。今までありがとう、元気でね」

「うん!真依ちゃんも元気で!」

 

 仲の良い二人が、バイバイとお互いに手を振り合った。

 

「憲紀」

「…ああ」

 

 次に話しかけられた加茂は、いつも以上に渋みのある声で返事をした。

 

「小さい頃からの知り合いだったけど、貴方なら立派な当主になれると思うわ。頑張ってね」

「大丈夫だ。直樹と一緒に呪術界を盛り立てていくさ」

 

 次期当主への激励を終えた真依が、京都校最後の生徒へと顔を向けた。

 

「東堂先輩」

「おう」

 

 最後の生徒、東堂は普段のふざけた態度(本人は至って真面目なつもりだが)ではなく、真剣な表情で返した。

 

「高田ちゃんの握手会楽しかったですよ、ありがとうございました」

「お前も次の世界では推しを見つけておけ、人生が豊かになる」

 

 東堂の激励とも助言ともつかない台詞を受けて、真依は曖昧な表情で頷いていたが、次に挨拶したい人物へと顔を向ける時には真剣な表情に戻っていた。

 

「歌姫先生」

「…うん」

 

 庵もまた、三輪と同様に涙ぐんでしまっていた。

 

「お酒はほどほどにしといて下さいね」

「うぐっ…」

 

 感動的な会話がなされると思っていた所に、急に注意を促されたせいで苦悶の声をあげてしまった。

 

 その様子を見てクスクスと笑っている五条。流石の彼も空気を読んで笑い声を上げるのは我慢していた。

 それに釣られて幾人かも笑っていた。

 

 そのお陰で湿った雰囲気が少しは明るくなった。

 

「ありがとうございました。本当に体に気を付けて下さいね」

「ええ…貴方も気を付けてね」

 

 笑顔でお互いの健康を祈り、別れを告げた。

 そして、真依がもう一人の京都校の教師の方を向いた。

 

「楽巌寺学長」

「うむ」

 

 楽巌寺の嗄れた声が、いつも以上に掠れて聞こえた。

 

「今までお世話になりました。出来るだけ長生きして下さいね」

「ふむ、お主も達者での」

 

 京都校の生徒・教師への挨拶を終えて、東京校の生徒達が並ぶ方へと向き直った。

 

「東京校の皆、真希のことよろしくね」

 

 真摯な態度でお願いされた皆が、頷いたり、手を挙げたり、思い思いの反応を返した。

 

「最後に…真希」

「ああ…」

 

 姉妹が見つめ合う。

 

「私が居なくなるんだから頑張りなよ」

「おう」

 

「仲間を大切にしなよ」

「…おう」

 

「仲間…ちゃんと守りなよ」

「…うん」

 

「じゃあね…お姉ちゃん」

「じゃあな…真依…」

 

 二人ともが涙を流しながらも、目を離す事はしなかった。

 

「じゃあ直樹、やってちょうだい」

「了解」

 

 そして、遂に別れの時が訪れる。

 

 直樹が『異世界転移』を発動する為の呪詞を唱え始める。

 

我ら、此岸から去り行く者

 

 呪詞が唱えられると同時に魔法陣に変化が訪れた。

 溝に沿って墨汁を流し込んだ様に、徐々に徐々に線が黒く染まっていく。

 

しかし我ら、彼岸に渡らず

 

 魔法陣の線が完全に黒く染まりきる。

 否、染まるだけでは止まらない。

 

境界を超えて我らは新天地へと赴く

 

 線を染めていた黒が線からはみ出し、溢れ出し、魔法陣を汚していく。

 やがて内円の全てを黒く塗り潰したが、それでも止まらない。

 更に外側の円へと溢れ出しいき、遂に二重円全てが黒く染まった所で、ようやく黒の侵食は止まった。

 

 準備が完了したのを確認して、直樹が最後の呪詞を唱える。

 

世界を隔てる門よ、開け

 

 呪詞の終わりと共に、黒く染まった円内部にいた全ての存在が、地面に飲み込まれて消えていった。

 

 徐々に黒が薄まり、消えていく。

 残ったのは、描かれた魔法陣だけであった。

 

 直樹が呪詞を唱えている間、誰も何も話さなかった。

 しかし、真依が消える最後の瞬間。真希は確かに真依の声を聞いた気がした。

 

「全部守りなよ…全部だからね、お姉ちゃん」

「ああ…任せろ」

 

 真希がボソリと誰にも聞かれない様な声で呟いた。

 

 その日、真希の天与呪縛は完全になった。

 心に一つの、絶対に違えないと誓った約束を抱えて。

 

 




 いかがだったでしょうか。今話も楽しんでいただけていれば幸いです。
 今回の後書きはめちゃくちゃ長くなったので、読み流し推奨です。

 さて、今話では遂に直樹の『異世界転移』の初披露となりました。そんな『異世界転移』の縛りの内容ですが、メタ的な縛りが一つあります。
 それは、直樹の年齢と同年代の登場人物いる世界に行くことです。
 これに合わせて、名前を出したアニメ・映画に関しては、ある程度は年齢を合わせて、計算して書きました。

 そして、呪詞についてですが、私の才能ではこれが限界でした。
 一応の解説としてしましては、仏教用語で此岸がこの世、彼岸があの世にあたるそうです。なので、全体をほんわかと訳すと、「この世から旅立つけど、あの世には行かないよ。新しい世界に行く為に、世界の門を開く」ぐらいの感じです。

 また、真依と様々な人の会話についてですが、前書きでも書いた通り、非常に難しかったです。正直なところ、原作での真依の真希以外との人間関係があんまり描写されてないので、今話の別れ際の会話が正しく書けている気があんまりしていないです。
 人によってはキャラ崩壊だと思うかも知れませんが、今作での真依の会話は、こんな感じだったと思ってくれると幸いです。

 それでは長くなりましたが、今話も読んでくださりありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。