異世界帰りの呪術師   作:北山 真

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 今話を書いている内に、前話でおかしな状況になっている事に気付いたので、前話に加筆しました。
 加筆内容は、直樹が木虎の片足が無いのを見て生身の肉体じゃ無い事について考えているシーンです。
 加筆前のものしか読んでいない方は、出来ればそこのシーンだけでも読んでもらえるとありがたいです。

 それでは本編をどうぞ。



異世界 ②

 

 直樹と木崎の交渉は穏便に終わったが、戦闘は続いている。

 むしろ、ますます激しくなってきていた。

 

 その戦況を伝える通信が木崎の元にも入ってきていた。

 先程木虎は、C級と呼ばれていた隊員達が狙われていると察して逃したが、その判断は正しかった。

 逃げたC級を襲う様に、C級が逃げた先に次々とトリオン兵が投入されていた。

 

 その情報を本部から伝えられた木崎が、状況を直樹達に伝える。

 

「早速だが、C級隊員が襲われているのを助けたい。急ぐから車に乗ってくれ」

「急ぎなら俺が送りますよ」

 

 木崎からの指示に対して、直樹が提案を繰り出した。

 

「そうか、ワームホールを作る能力か…なら頼む」

(人を複数人同時に移動させられるだけの力があるのか。報告にあったラービットを簡単に破壊出来るだけのパワーといい…想像以上に強いな)

「…えぇ、まぁ」

(まだこの人には見してないはずや…ここに来る前に聞いたんか?いや、木虎さん達が伝えた様子は無かった。どっかから監視されてるんか?)

 

 木崎が提案を受け入れた事を、直樹は曖昧な返事で受け入れた。

 しかしその裏で、お互いに心の中では相手の事を警戒して、相手の力の事を考えていた。

 

 だが、

 

(しかし、今は味方。それだけ分かれば良い)

(まぁ…考えるんは後回しでええか)

 

 その全てを後回しにした。

 今するべき事を優先する為に。

 

「方角と距離教えてもらったら送ります」

「ならここから…」

 

 方角と距離を教える木崎。

 その指示に従い、人が余裕を持って通れるだけのサイズのワームホールが開かれた。

 

「真依姉さん、こっち来て」

「三雲達もこっちに来い」

 

 その呼び掛けに答えて、呼ばれた人達がワームホールの前に集合しようとする。

 真依は屋根から飛び降りて来たが、三雲達は遅れていた。

 

「大丈夫か木虎」

「いえ、もう駄目みたいね…」

 

 三雲が片足を失っている木虎に駆け寄り、心配して声を掛けたが、木虎にはもう動くだけの力が無かった。

 しかし、それは死にかけているという訳では無い。

 トリオン体を形成しているトリオンが枯渇してきた為に、戦闘限界に達しただけである。

 

「烏丸先輩、後のことは頼みました」

「ああ、任せておけ」

 

 死に際の最後の言葉にしか聞こえない木虎の台詞に対して、クールに返した烏丸。

 そのやり取りの間に、木虎の体に亀裂が生じ始める。その亀裂が全身を覆う前に、木虎が新たに口を開いた。

 

緊急脱出(ベイルアウト)!」

 

 そのキーワードが発せられた事により、木虎の体が光の塊となって高速で天へと昇っていった。

 『緊急脱出』の名前の通り、木虎が発したのは、自身がもう戦えないと判断した時に、自主的に戦場から離脱する為のキーワードである。

 

 木虎達の体はトリオン体である。そのトリオン体が破壊されると生身の肉体がそこに取り残される事になる。

 木虎達には呪術師の様に生身でトリオン兵に立ち向かえる様な力は無い。故に、生身でトリオン兵の前に放り出されて死ぬ事が無いように、基地へと脱出出来る機能が備え付けられていた。

 今回はキーワードを言う事で自主的に発動したが、トリオン体が破壊された際に自動的に発動される事で、安全を確保している。

 

「何…今の?」

「脱出機能です。木虎は基地へ戻りました」

 

 真依がその光景に驚き、烏丸が軽く説明をした。

 

「便利な機能付いてるんですね、その体」

 

 直樹が素直な感想を溢した。

 

「ああ…だが、緊急脱出(ベイルアウト)はC級隊員には付いていない。だからC級隊員が襲われているのを早く助けたい」

 

 木崎が緊急脱出(ベイルアウト)の弱点を語った。

 脱出機能は高性能過ぎる為に、組織には全ての隊員のトリオン体に脱出機能を付けられるほどの余裕が無かった。

 故に、C級隊員と呼ばれる訓練生には脱出機能がつけられていなかった。

 

「ほな急ぎましょうか」

 

 それを聞いた直樹が急かした。

 直樹は、C級隊員のトリオン体が破壊された時に、生身の体が取り残される事実は知らない。しかし、木崎達が危機感を抱いているのは分かったので、早く応援に行く事を提案していた。

 

「分かった。俺が先に通るぞ」

「ええ、どうぞ。他の人も先に通って下さい」

 

 直樹の提案に乗り、実験台として自分が一番初めに入る木崎。

 それに続いてゾロゾロとワームホールを潜る。

 

 全員が通ったのを確認した後に、直樹がワームホールを閉じた。

 

 ワームホールから出た場所では激しい戦闘が行われていた。

 いや、戦闘と呼ぶには一方的過ぎた。

 

 先程直樹が倒したゴリラの様な体型のトリオン兵は数体しかいない。

 しかしそれ以外に、一番大きいサイズの、家ほどの大きさのある四足歩行型の全体的に太くて白いトリオン兵と、自動車程度のサイズで四本の足が鋭くなっている巨大な昆虫の様な灰色のトリオン兵が数多くいた。

 

 それら多数のトリオン兵が一方的にC級隊員を襲いかかっていた。

 巨大なトリオン兵に食べられる人、昆虫の様なトリオン兵の足に貫かれている人、ゴリラの様なトリオン兵に光のキューブにされている人。

 C級隊員も抵抗していたが、ほとんど意味を成していなかった。

 

 直樹がワームホールを出た時には、木崎達は既に戦闘を開始していた。

 

 小南がその身と同じ程の大きさの斧を振り回してトリオン兵をバラバラにしており、木崎と烏丸が銃から光る弾を撃ち出して、トリオン兵の弱点を撃ち抜いていた。

 

 三雲はC級隊員達に、守り易い様に纏まる様に呼び掛けていた。

 

 直樹がワームホールから出てトリオン兵を倒す為に動く前に、真依が話しかける。

 

「ねぇ直樹、私の銃が効かなくて貴方の素手で倒せた理由分かる?」

「多分呪力を纏ってたかどうかちゃう?木崎さん達の銃も明らかに実弾じゃないし」

「やっぱりそうよね…」

 

 真依の質問に対して、直樹が木崎達の方を指差しながら簡潔に答えた。

 真依もまた、その答えを半ば以上分かっていた様で、納得した表情で何かを考えこんでいた。

 

「こらっ!!あんた達も働きなさい!!」

「小南先輩ちょっと…」

 

 ワームホールから出て動かない直樹達に小南が抗議して、それを烏丸がどうどうと諌めていた。

 

「ほな俺も参加しますわ」

 

 それを聞いた直樹がすぐさま動いた。

 呪力と呼吸法で強化した肉体で、所々が破壊され、瓦礫が散乱した住宅街を風の様に疾走する。

 

 手始めに、一番近くにいた大きい口で人を捕食しようとしている巨大なトリオン兵へと近づき、その頭を踵落としで踏み砕く。潰したと同時に、そのすぐ近くで目を閉じて座り込んでいる人をワームホールで三雲の近くに飛ばす。

 

 次に、集団で密集している昆虫の様なトリオン兵に近づき、次々と破壊していく。

 鋭い足を振り上げて隙だらけだった一匹目は、体の下に潜り込んでからアッパーカットの要領で下から殴って爆散させる。

 横から突進してきた二匹目を少しだけ跳んで躱し、両足で思い切り踏みつける。踏みつけられた二匹目は、全身に亀裂が入って行動を停止した。

 

 踏みつけた勢いで空に浮いた直樹が、即座にワームホールを作り出して入り込む。

 その動きを追えてなかった三匹目の腹の横に移動した直樹が、無防備な腹を右ストレートで殴りつければ、胴体部分で真っ二つになりながら破片が道路に散らばった。

 

 それを見ていたゴリラの様なトリオン兵が、先程も見た砲撃を放ってくる。

 砲撃の着弾地点にワームホールを作り出し、出口を砲撃してきたトリオン兵の背中に設定する。自分の砲撃を自分で喰らい、体勢を崩すトリオン兵。

 作り出したままにしていたワームホールに直樹もまた入り込み、体勢を崩しているトリオン兵の背中を両手を合わせた状態で、拳をハンマーの様に振り下ろした。

 

 地面にめり込んだトリオン兵。背中を大きく陥没させ、亀裂を生じさせながらも地面から抜け出そうと動くが、その前に追撃で放たれた直樹の右拳が後頭部を貫通した。

 

「これで五匹か…」

 

 そうぼやく直樹に、玉狛第一の面々は絶句していた。

 直樹の強さは報告で聞いていたが、聞くと見るとでは全然印象が違う。

 初めに倒されたのはバムスターと言うトリオン兵で、これは人間を捕獲する為のトリオン兵であり、図体の大きさの割には戦闘力が低いので、すぐに倒せるのは分かる。

 

 しかし、次に倒された三体のトリオン兵は戦闘用に作られたモールモッドと呼ばれるトリオン兵である。これを三体倒すのに数秒しか掛かっていない直樹は、木崎達が所属している組織でも上位に位置する者しか出来ないだろう。

 

 そして、ゴリラの様なトリオン兵、ラービットをたった二発で、しかも他の部隊が硬さを測った時に一番硬いとされていた頭部と背中の装甲を破壊して討伐するのは、単独では相当厳しい予測出来た。

 

 そんな考えをしていた数秒の間にも直樹は次のトリオン兵へと襲いかかっており、次々と人を救助しては三雲の元へとワープさせていた。

 

 それを見て方針を考える木崎。

 

(禪院直樹の戦闘力とワームホールは想像以上に強い。俺達と協力しようにも連携が取れるか分からんなら、奴を前線で暴れさせてC級を俺達で護衛する方が効率が良い)

 

「禪院直樹はそのままトリオン兵の駆除と人をこちらへワープさせてくれるか?」

「了解っす」

「小南、京介!俺達は護衛に専念するぞ」

「「了解」」

「三雲達も俺達から離れるな」

 

 次々と指示を飛ばしていく木崎。その的確で分かり易い指示に、その場にいた全員が従い行動していく。

 

「C級隊員は無理に戦わなくて良い!自分の身を守りながら、お互いに離れない様にしろ!」

「「「は、はい!!」」」

 

 木崎と面識のないC級隊員達は、初めは混乱した様子だったが、力強い指示に従っていく。

 

 そうして、近場のトリオン兵を狩り尽くす勢いで戦っていた直樹の足が止まる。

 

 目の前に自分が使ったもの以外のワームホールから、新たな人物が二人現れたからだ。

 

「やれやれ、こうも一方的に破壊されるとこたえますな」

 

 飄々とした様子で語りかけてくる穏やかな雰囲気の杖を持った白髪の老人と、

 

「…」

 

 至極真剣な表情で無言のまま立つ真面目そうな黒い角の生えた茶髪の青年。

 

 二人共がお揃いの服を着ており、灰色を基調としたスーツの様な服の上から黒いマントを羽織っている。

 

「アンタらがこの侵攻の首謀者って事で良いんかな?」

「ええ、それで合ってますよ」

 

 直樹の質問に老人が答えた。

 青年から敵対を宣言された以上、話し合いは無駄かも知れないが、言葉が通じる以上、聞いておきたいことがあった。

 

「…何でこんな事してるんか聞いてもええか?」

「ふむ、何で…と言われますか」

「ヴィザ翁、時間の無駄です。雛鳥達が逃げます」

 

 敵対者故に敬語を外した直樹に対して、はぐらかす様な態度で接する老人。

 

 そんな問答をしている間にも木崎がC級隊員達を連れて敵対者二名から逃げ出す為に動いていた。

 それをしっかりと把握していた黒い角の青年が、自身の相方であるヴィザに、この問答が時間稼ぎである事を指摘した。

 

「ではヒュース殿は雛鳥達を追って下さい、この方は私が」

「分かりました、『蝶の楯(ランビリス)』」

 

 ヒュースと呼ばれた青年がそう呟いた直後、ヒュースの周囲に黒光りする結晶の様なものが湧き出てくる。それらは一つ一つは小さいが、次々に増えていき、合体し形を整え、最終的にヒュースの背中に機械的な翼が展開された。

 

 その形状と、何よりも会話から飛んで木崎達を追う気である事を察した直樹が動く。

 

「行かせる訳ないやろ!」

 

 爆発的な加速を持って、ヒュースに飛び掛かろうとした直樹だったが

 

「『星の杖(オルガノン)』」

 

 老人が呟いた瞬間、直樹の視界の端がキラリと光った。

 その瞬間、嫌な予感がした直樹は、強引に体を傾かせて体を回転させ、転がる様に地面に倒れ込んだ。

 

「グッ…」

 

 しかし、それでも躱しきれずに左手が切断され、血を吹き出しながら地面に落ちる。

 

「直樹!」

 

 真依が心配して叫んだ。

 しかし、それ以外の人間は驚愕から絶句していた。それは、右手を切り落としたヴィザと、空を飛び木崎達がいる近くの家の屋根に移動したヒュースも例外では無かった。

 

 木崎達防衛側とヴィザ達侵攻側の両方共にトリオンの反応を観測するセンサーを持っている。勿論、センサーがあるならばそれを誤魔化す為の装置も存在している。

 当然の事だが両陣営共に、直樹達はセンサーを誤魔化していると思っていた。

 

 しかし、直樹達は異世界人。二人共にトリオンエネルギーを生み出す能力はなく、勿論だがトリオンを使っていない。

 

 それを、血を吹き出した直樹の腕を見て両陣営が理解した。

 

「大丈夫や真依姉さん。木崎さん達も心配せんでええよ」

「何を言っているんだ!直ぐに逃げろ!」

 

 生身である事を心配した木崎が声を荒げたが、左手を切り落とされた直樹は動じていない。そして、いつの間にかその右手には左手が握られていた。

 その場の皆の意識が生身である事に奪われていた間に、ワームホールで回収していたのだ。

 

 左手を切断面に合わせて、反転術式で一気に治し、接着させる。

 

「なっ!?」「えっ!?」

 

 左手をくっつけて、感覚を確かめる様に握ったり開いたりを繰り返すのを見た人達が驚きの声をあげた。

 

「木崎さん、俺がこの人止めとくんで、真依姉さん連れていって貰って良いですか?」

「駄目だ、お前も逃げろ。いや、お前のワームホールで全員で逃げるぞ」

 

 木崎への提案に反論され、新たな意見が出されたが

 

「いやいや、この人の強さ的に誰かが止めんとな」

 

 その意見を直樹が否定した。

 

「ほう、私の『星の杖(オルガノン)』を見切ったと?」

「じゃないと今ので俺の胴体は真っ二つになってた筈や…違うか?」

 

 直樹が真剣な表情でヴィザを睨む。

 

「ふむ。ハッタリでは無さそうですな」

 

 その表情と、直樹が避けられ無かった時の未来を断言しきった姿から、そう判断したヴィザ。

 

「じゃあそんな感じで…よろしくお願いします」

 

 直樹が、軽い言動とは裏腹に大胆な行動に出る。

 木崎達がいるあたりの道路を埋め尽くす程のワームホールを開き、固まっていたC級隊員諸共全員をある程度離れた場所に移動させた。

 

「ちっ!今までの会話は時間稼ぎか!?」

 

 逃してしまった事に対して苛つき、舌打ちをしたヒュース。

 そんなヒュースに向けて、ヴィザが指示を送る。

 

「ヒュース殿は雛鳥達を追いかけて下さい。私はこの方を」

「分かりました」

 

 先程の様に背中に機械的な翼を展開して飛び立つヒュースを、直樹は妨害しなかった。

 ヒュースとの距離があったのも理由の一つだが、最も大きな理由はヴィザにあった。

 

 先程までの飄々とした態度はなく、次こそ確実に切るという感情が表に出ていた。

 それを表す様に、ヴィザは好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「爺さん、そんな楽しそうな顔してくれんなや」

「すみません、どうも戦いとなると昂ってしまう」

 

 笑顔である事を指摘されても、ヴィザがその表情を改める事はない。

 

「それも…貴方の様な相手となると余計に」

 

 そんな直樹を褒める様な事を言い放ちながらも、同時に己の力を行使するヴィザ。

 杖が光を発した瞬間、ヴィザを中心に半径50メートル程の建造物全てがバラバラに切断された。

 家も、標識も、電柱も、道路さえもバラバラに切り裂かれた。

 

 一瞬にして大量の瓦礫の山となり、ガラガラと大きな音を立てて崩壊していく住宅街。

 それに伴って大量の土埃が立ち上がったが、それすらも両断され、すぐさま消え失せた。

 

 直樹が逃していなかったなら、今の攻撃で全員がやられていたかも知れなかった。

 

「恐ろしい爺さんやなホンマに…」

 

 そして、そんな攻撃の範囲外に一瞬にして退避した無傷の直樹が、呆れる様に呟いた。

 

「ほう、やはり見切りますか…この『星の杖』を」

 

 そんな姿を見て、ますます笑みを深めるヴィザ。

 

 ヴィザの半生は戦いの記録で満ちている。若い頃から戦い始め、老いてなおも前線で戦っているその経験は計り知れない膨大なものとなっている。

 その膨大な経験の中でも、二回目の攻撃でここまで完璧に躱されたのは数えるほどしか無かった。

 そして、生身でそれを行う者など今日まで一人も居なかった。

 

「あんたの攻撃は、恐ろしく鋭い剣がレールの上を高速で回るだけや。一回見たら躱せるわ」

 

 煽る様なセリフを言う直樹。彼はヴィザの攻撃を言い当てていた。

 

 ヴィザの『星の杖』による攻撃は、幾つかの段階がある。

 1段階目、『星の杖』を起動させる。

 2段階目、ヴィザを中心とした同心円状に複数の刃のついた円を発生させる。

 3段階目、円の上を超高速で剣が動く。

 と、三つの段階が存在している。

 

 が、しかし、ヴィザはこれをコンマ数秒程度の時間で、しかも同時に複数個の円を作り出し動かす事が出来る。

 そして、恐ろしいのは速さだけでは無く、その刃の切れ味もである。

 『星の杖』の刃はあらゆる物を切り裂いたが、その際に何の抵抗も遅延もさせずに物体を両断している。

 

 常人では絶対に見切れない速度で、普通の物体では絶対に防げない刃を動かす。

 

 『星の杖』とは文字通り、星に見立てた刃をヴィザを中心に天体運動させ、刃が通った軌道上のもの全てを切り刻む広範囲無差別斬撃兵器なのである。

 

 しかし、直樹は常人では無い。呪力と全集中の呼吸により、人間を超越した身体能力を誇る超人である。円の発生を見切り、円の外側に逃げ出す位は容易かった。

 

 

「ほう…それは手厳しい。では…む?」

「俺以外のワームホールやと…」

 

 直樹の発言により、更に苛烈な攻撃を仕掛けようとしていたヴィザだったが、己の耳元に極小のワームホールが発生した事でその動きを止めた。

 直樹の独白の通り、ワームホールは直樹が生み出したものでは無く、ヴィザの仲間が発生させたものであった。

 

 そのワームホールからヴィザへと指令が下された。

 内容はただ一つ、「正体不明(イレギュラー)である直樹を生け捕りにしろ、無理なら殺せ」であった。

 それだけを伝えて、ワームホールが閉じる。

 

「やれやれ、これは骨が折れそうな仕事だ」

「その割には嬉しそうやな」

 

 直樹の指摘通りに、ヴィザは先程よりも更に笑みを深めており、その全身には覇気が漲っていた。

 

「ええ、2度目で『星の杖』を見切る程の相手と戦えるとは…これだから戦いはやめられない」

「この戦闘狂が」

 

 直樹の罵倒にも動じず、臨戦体勢に入るヴィザ。

 ヴィザの反応から攻撃が来る事を予測し、攻撃を躱しながらヴィザに接近する事を考えていた直樹であったが、その考えを実行に移す事はできなかった。

 

「ですから…次からは本気で参ります」

 

 『星の杖』が強く光る。

 その瞬間に、ヴィザを中心にして、360度全包囲に夥しい数の円とそれに付随した刃が生成され、超高速で動き出す。

 刃の数は百を優に越していたが、真に厄介なのが、軌道が縦横無尽であったことだ。

 

 直樹から見て、上下左右、全ての方向から刃が高速で迫り来る。

 それを辛うじて躱す直樹だが、反撃の為に前に出る隙など何処にも無かった。

 仕方なく大きく後ろに下がる直樹。

 

 着地した場所はヴィザとの距離は100メートル以上離れているが、ヴィザの周辺が細かい瓦礫の山になっているせいで、ヴィザの事がハッキリと視認できた。

 

「ふむ、これでも切れませんか」

 

 ヴィザが呟く。

 

 一瞬の停滞。

 

 それを隙と見た直樹が、ワームホールを用いてヴィザを殴ろうとするが、

 

「おっと」

「チッ」

 

 ワームホールをヴィザの周辺に生み出した瞬間に、そのワームホールから出て来るであろう拳を切り裂く軌道で円を発生させたヴィザ。

 それを見た直樹が、舌打ちしながらワームホールを消した。

 

 ワームホールを使える者が味方に居ることによる、ワームホールを使用した技の知識と、その豊富な戦闘経験からくる判断能力が、直樹の攻撃に対して素早い対応を取れていた。

 

「油断も隙も無い御仁ですな」

「こんな単純な小技じゃ無理か」

 

 互いが互いを褒め合う。

 

「先程の攻撃も躱されてしまいましたからな、次はより複雑にいきましょうか」

「下手したら楼靇より強いかもな…次は多少の被弾覚悟で前に出るか」

 

 互いが次の攻撃の仕方を思案する。

 

「これなら久方ぶりに全力でやれそうですな」

「別に手加減とかしてないけど…本気でやらんとヤバそうやな」

 

 相手の実力を認め、全力で勝負に挑む事を決めた両者。

 

 ワームホール対策として、常に自分を覆う様に数本の刃を回転させ続け、臨戦態勢をとるヴィザ。

 全身から更に呪力を溢れさせ、反転術式も常に発動出来る様にして準備万端な直樹。

 

 直樹がヴィザに向けて突撃し、それを向かい打つ為に大量の円を展開するヴィザ。

 

 両者の本気の力が激突する。

 

 

 


 

 

 

 ヴィザが『星の杖』による2度目の攻撃を行う直前。

 

 直樹によりワームホールで移動させられた者達は混乱の只中にいた。

 唐突な敵対者の出現と、生身で大怪我を負った人物を見てしまった事、ワームホールによる移動が立て続けに起きた事により、C級隊員達が驚き、不安になってしまっていた。

 

 それを諌めたのはやはり木崎であった。

 

「落ち着けっ!お前ら!落ち着いて全員纏まって本部へと避難しろ!」

 

 その台詞を聞いたC級隊員達が、不安だからこそ、力強く命令口調で指示された内容に従おうとする。

 

「小南、京介。お前達はC級の避難を手伝え」

「レイジさんはどうするんすか?」

 

 そんな問答を行なっている間に、『星の杖』の斬撃により住宅街が破壊された音が聞こえてきた。

 

「俺は援護に戻る。一人では危険だ」

 

 木崎がそう言って直樹の援護の為に戻ろうとする。それを小南達は止めようとしなかった。

 それは、『緊急脱出』機能があるという安心もあるが、それ以上に二人もまた直樹の事を心配していたからだ。

 

 しかし、それを否定する者が現れた。真依である。

 

「いいえ、不要よ」

「何故だ?あいつは生身だろう…死ぬかもしれなんだぞ」

 

 その反論に対し、真依は少しだけ眉を顰め、言葉に詰まってしまったが、それでも結論は変わらなかった。

 

「…やっぱり援護は要らない、直樹は死なないわ」

「何故そこまで言い切れる」

「あいつが禪院直樹だからよ」

 

 真依が答えにならない様な答えを口にしたが、そこには根拠となる信頼があった。

 

 真依は『異世界転移』を行う前に、直樹から異世界の危険性を聞いていた。

 故に、それを乗り越えた直樹の強さを知っている。

 それは、先に起きた姉妹校交流会において単身で特級呪霊を退けたことからも証明されていた。

 

 真依が断言した事で、木崎はそれ以上の口を噤んだ。

 納得いかないのか小南が何かを言おうと口を開いていたが、しかし、援護に行く前にヒュースが追いついてしまった。

 

「追いついたぞ!」

 

 上空から飛んできたヒュースが近くの屋根へと着地する。

 それを見た木崎が即座に予定を変更する。

 

「予定変更だ、俺が足止めするから小南と京介はC級を逃がせ」

「了解」

「…了解」

 

 変更された指示を戸惑う事なく受け入れた烏丸と、少しの間を開けて不承不承ながらも受け入れた小南。

 C級達を庇う様にしながら移動を始める。

 

「アンタもあいつらに続いて逃げてくれ」

 

 真依に対して指示を出す木崎。

 

「嫌よ」

 

 しかし、その指示すらも拒否してしまった真依。

 

「私はもう…足手纏いになる訳にはいかないの」

「だがっ!」

 

 覚悟を決めた真依に対して、尚も言い募ろうとした木崎だったが、

 

「大丈夫よ…秘策はあるわ」

「クッ…俺が出来るだけ前に出るから、援護を頼む」

「分かったわ」

 

 真剣な表情で頑なに譲ろうとしない真依に対して、これ以上の口論を敵の前でする訳にいかなかった木崎が、最低限真依の安全を確保する為に指示を出した。

 

「邪魔をするな」

 

 C級隊員達を追いかけるヒュースと、その前に立ち塞がる真依と木崎。

 

 新たな戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 




 いかがだったでしょうか。今話も楽しんで読んで頂けていると幸いです。

 さて、今回で直樹VSヴィザと、ヒュースVS真依&木崎という構図になりました。
 正直、ここ以外の勝負まで書き出すと尺が足りないので、この二つ以外の戦い行方は全カットでいきたいと思います。直樹と真依には通信手段も無いので、周りの状況も把握出来ませんしね。

 この勝負の行方や、真依の秘策とは何かは次回を楽しみにして頂けると嬉しいです。
 それでは、今話も読んでいただきありがとうございました。

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