今話は、呪術廻戦っぽくパロディを少し入れて見ました。
それでは、本編をどうぞ。
ヒュースと向かい合って対峙する真依と木崎。
先に動いたのはヒュースだった。
「『
ヒュースの声に同期して、黒い結晶が右手に集合し、武器を形作る。
黒い結晶が集まって拳銃となった。
拳銃を形成した直後、間髪入れずに銃身を真依の方へと向けて発砲した。
真依が回避する動きを見せるよりも先に、木崎が射線上に割り込み、右手に光る盾を構えた。
盾に当たり、弾き返され地面に突き刺さる弾丸。
その弾丸もまた黒い結晶で出来ていた。
「チッ…これでは足りんか」
盾の強度を理解したのか、それ以上の弾を撃つ事なく拳銃を再び黒い結晶に分解した。
その動きに合わせて、今度は真依が動いた。
自分の持つリボルバーをヒュースの方へと向け発砲する。
それをヒュースは全く警戒していなかった。
直樹と真依がこの世界に来て初めて戦った際、真依の拳銃はトリオン兵に一切のダメージを与える事は無かった。
それをヒュースは把握していたので、真依の拳銃が自分にダメージを与えられないと考えていた。
しかし
「グゥッ…!?」
銃弾はヒュースの予想に反して、彼の右脚に突き刺さり、貫通していた。
傷付いた足から、トリオンが黒い煙となって漏れ出す。
「やっぱり呪力ありなら効くみたいね」
銃弾がダメージを与えた事で、自分と直樹の呪力が関係しているという予測が当たった事を確認した真依が自慢気な笑みを浮かべた。
真依の術式は『構築術式』であり、呪力を素材に物質に構築するという、神の如き力である。
しかし、強力すぎるその術式には燃費が悪すぎるという代償が存在した。
それ故に、真依の貧弱な呪力では銃弾一つ作るのが関の山だった。
そう、だった。
今の真依は違う。
真希との関係が断ち切れた事により、真依には本来持って生まれる筈だった禪院家としての呪力が与えられていた。その呪力量は直樹と遜色無い量であり、弾丸程度ならば連続して作れる様になっていた。
その豊富になった呪力を使って作られた弾丸は呪具であり、当然の事ながら呪力を纏っている。
だから、トリオン体のヒュースを傷付ける事が出来た。
「マズイッ!?」
ダメージを受けたヒュースが、未だに銃身を向けられている事に危機感を感じて、自分の前方を覆う様に半球状に黒い結晶を展開した。
構わずバンッバンッと続けて発砲する真依だが、銃弾は黒い結晶のバリアを貫通する事は出来ずに、キンッと金属音を出して弾かれた。
木崎もその攻撃に乗じるため、左手からバチバチと音を立てて、
それを右手に持った盾の陰に隠れたまま乱射する。
バババッと連続で撃たれた光る弾丸は、しかし、ヒュースを避ける様に放たれた。
後ろから見ていた真依が非難の為の声をあげる前に、放たれた光弾が唐突に弧を描く様に曲がった。黒い結晶の盾を迂回する軌道を描いた光弾がヒュースへと向かう。
木崎が放ったのは『
そのままでは直撃する事を悟ったヒュースが黒い盾を広げる事で防御した。
盾は砕けず、またもや弾丸を弾き返した。
互いの攻撃が通じず、一旦の膠着状態が作られた。
互いが次の行動を思考する。
(弾丸は『
ヒュースが今の段階で一番警戒していたのは真依の拳銃だった。
木崎の、と言うよりもトリオンで作られた銃器の殆どは弾速が遅い。先程撃った木崎の弾丸も真依が目で追える程度の速度であった。
遅い理由は弾丸を構成する要素が全てトリオンで作られていたからだ。それの何が問題かと言うと、弾丸本体、弾数、弾速、弾丸の威力、弾丸を曲げる為の力、その全てにトリオンを消費している事だ。
結果、弾速に割くトリオンが少なくなり、目で追える程度の速度しか出なくなっていた。
しかし、真依の拳銃は火薬式であり、弾速は火薬で保証されていた。
故に、ヒュースの真依の拳銃に対する警戒は強まっていた。
では、対する木崎が何を考えているかと言うと、
(ガードが硬いが、こちらの目的は足止めだ。殻に籠ってくれるなら好都合)
木崎の目的はC級隊員達を追わせない事であり、ヒュースを倒す事では無い。
故に、この膠着状態が続くならば、それは好都合であった。
木崎が、小声で真依に作戦を提案する。
「相手の能力が分からない内は、足止めも踏まえて牽制射撃中心で行きたい」
「それは良いけど…別に倒しちゃっても良いんでしょ?」
真依の過激な発言に、木崎は驚きから一瞬言葉が詰まってしまった。
しかし、彼女の発言は確信を突いていた。ヒュースを倒す事が出来るならばそれが最善である事は疑いようも無かった。
「…確かに、それが出来るなら最善だな」
「でしょ」
二人の簡易的な打ち合わせが終わったタイミングで、ヒュースが動いた。
彼が考え出した真依の拳銃に対する結論は単純明快なものであった。
即ち、守りながら撃つ、である。
ヒュースが己を守る結晶盾の内側で、己の右腕に結晶を集めて武器を作り出す。先程の銃よりも更に多くの結晶を集め、右腕を覆う様に二又に別れた銃身を生成した。
その二又の銃身を、今度は盾と合体させる。盾と銃が合体し、巨大な傘から双角が生えた様な状態になった。
明らかに先程よりも高い威力の銃撃が来る事を察した木崎が咄嗟に防御を固める。
「シールドッ!」
その叫びに応えて、木崎が構える盾の外側に、半透明な薄い半円状の物体が生み出された。
その直後、ヒュースが連続で射撃を始める。ヒュースから直接木崎達の位置は見えてはいなかった。しかし、黒い結晶を周囲に浮かす事で、その結晶に反射した周囲の様子を見て狙いを付けていた。
その様な難しい射撃の甲斐もあり、狙いは正確に、次々と木崎に襲い掛かった。
パリンッ、とガラスの砕ける様な音を立てて半円状のシールドが破壊され、勢いを弱めながらも木崎の構える盾に着弾し、盾になかば突き刺さった黒い結晶。
「盾への命中を確認。『蝶の楯』」
「何っ!?」
ヒュースが着弾を確認したその直後、木崎の盾に異変が起きた。
バチバチと異音を立てた木崎の盾が、急激に地面に吸い寄せられた。急激なバランスの変化に対応する事が出来ずに、木崎は盾を手放してしまった。
「何してんのよ!」
その隙を見逃さず、ヒュースが更なる射撃を加えたが、その直前に真依が木崎の襟首を掴み、全力で後退した。銃撃を躱した直後、路地に入り射線を切った。
「すまない助かった」
「しっかりしてよね、全く」
素直に感謝を伝えた木崎に対して、呆れる様に呟く真依。
ヒュースの攻撃を防ぎきったと思っていた二人に更なる攻撃が襲い掛かる。
「それで逃げ切ったつもりか?」
冷淡な声と共に、直径1メートル程のカーブミラーの様な黒い結晶の集合体が、木崎達が逃げ込んだ路地を除き込む様に現れた。
「チィッ…!」
危険を察した木崎が真依の前に立ち塞がり、またもや右手に盾を生み出そうとしていたが、それよりも早くヒュースが射撃した。
銃身から放たれた黒い結晶弾が、カーブミラーの様なものに迫る。
そして、カーブミラーに激突する事なく、その直前で異様な角度で曲がり路地に侵入した。
流石に曲射だったせいか、狙いが若干逸れたが、木崎の右腕の二の腕に食い込むだ。
そして、ヒュースの攻撃はこれで終わりでは無かった。
「『蝶の楯』!!」
ヒュースの言葉に応じて、木崎の右腕に食い込んだ黒い結晶が、路地近くにあるカーブミラーの様な黒い結晶の集合体に、バチバチと異音を立てて引き寄せられる。
「コイツの能力は磁力ッ!磁石の様なトリガーかっ!!」
木崎がヒュースの武器の特性を見抜いた。
ヒュースの『蝶の楯』により生み出された黒い結晶はそれぞれが磁力そのものでは無いが、似た性質を持つ。つまりは磁力の持つ引き寄せる力と反発する力を自在に扱える力があった。
集合体を作り出す時は引き寄せあって作られていたし、木崎の盾が地面に吸い込まれたのも同じ引き寄せる力が働いていた。逆に、銃弾を飛ばしたり銃弾を曲げたりする際には、反発する力を発生させて行っていた。
そして、今。木崎の右腕に食い込んだ結晶は、カーブミラーに急激に引き寄せられていた。
その上で、ヒュースはカーブミラーの様な物の形状を変形させる。
丸い形状はそのままに、6本の刃を生成して手裏剣の様な形になった結晶の集合体が高速回転を始める。
まるで電動丸鋸の様になった結晶体に、木崎が激突しようとしていた。
木崎は体を細切れにされる直前、左手に持ったままだった突撃銃で右肘を撃ち抜いた。
弾丸により右肘を撃ち抜いた事により、黒い結晶が食い込んだまま脱落した肘から先の部分だけが丸鋸に吸い寄せられた。
右腕が丸鋸と接触し、瞬く間に細切れにされた。
その結果を見守る様な事を木崎はしなかった。
相手の能力は強力で、守りに徹するだけでは倒すどころか、時間稼ぎもままならない事を悟ったからだ。
左手の突撃銃を空に構えて連射する。
バババッと、音を立てて発射された弾丸群が、またもや上空で曲がりヒュースに襲い掛かった。
その攻撃は、再び上空へとガードを広げたヒュースに阻まれたが、木崎に対する更なる追撃は放たれなかった。
その隙に今度は真依が反撃に出た。
路地から出て銃を構える。
「…もう守られてばかりじゃ居られないのよね!!」
そんな真依の覚悟を込めた弾丸は、ドンッ!と先程よりも更に大きな発砲音と共にリボルバーから放たれた。
弾丸は盾に衝突し、僅かな抵抗の後に貫通した。
「何だとっ!?」
ヒュースにとっては幸いな事に、銃弾は盾を貫通する際に軌道が変わってヒュースに直撃せず、頬を掠めるだけに終わった。
しかし、ヒュースの受けた衝撃は大きかった。
『蝶の楯』は磁力による万能性が最大の強みだが、名前に楯が入っている通り、黒い結晶の硬さにも自信があったが、破られてしまった。
『蝶の楯』を破れた理由、それは真依が使った弾丸にあった。
真依は普段、一般人が弾丸と聞いて想像する様な、弾頭が丸まった弾丸を使用している。しかし、その弾丸では敵の盾を破れなかった。
故に、通常の弾丸では無く徹甲弾と呼ばれる種類の弾丸を使っていた。
徹甲弾の設計思想は単純であり、硬く重い弾丸を用いて貫通力を増している。
弾丸を徹甲弾に変えて貫通力を高めた上で、真依はいつも以上に呪力を込めた。
『構築術式』は燃費が悪い。だから、真依が弾丸を構築する際には弾丸を作れるだけの呪力しか込めないし、呪力量的にもそれ以上は込められなかった。
そのせいで込められていた呪力は最低限でしか無かった。
しかし、今。その制限は解かれている。
そうやって、貫通力を高めた弾丸と、真依が込めた呪力の相乗効果により、『蝶の楯』は貫通されるに至ったのだ。
だが、しかし。真依はこの結果に満足していなかった。
(まだよ!まだまだこんな物じゃ無い!)
真依は、先程の徹甲弾を作るにあたり、確かにいつも以上の呪力を込めたが、まだ余力があった。
(こんな中途半端な結果じゃ…真依も!直樹も!安心なんてさせられない!)
今度こそ確実にヒュースを倒す為に、正真正銘、残された全呪力を弾丸に込める真依。
(私の『構築術式』は相当な縛りを付けない限り、術式を持った呪具は作れない…そう言う確信がある。だけど…)
真依が一撃必殺の弾丸を作るにあたり意識したのは、ある特級呪具だった。
元々は禪院家が保管しており、禪院甚爾が出奔した際に持ち出され、殺された後は巡り巡って彼の息子である伏黒恵が所持している特級呪具。
その名は『
特級呪具でありながらも術式を持たず、純粋な力の塊とも称されるそれを真依は知っていた。
真依の今ある全ての呪力が込められた、『遊雲』の色と同じ、赤い弾丸が作られた。
赤い銃弾が放つ呪力の圧力は、本来呪力を感じ取れない木崎にも感じ取れていた。
それは勿論、ヒュースも同様であった。
「『蝶の楯』!!!」
赤い弾丸の放つ威圧感に晒されて、トリオン体であるにも関わらず命の危険を感じたヒュースが、『蝶の楯』を全力の防御形態に移行させた。
弾丸として射出していた結晶も含めて、引き寄せる力を最大限使い全ての結晶を集めて盾とした。
更に、極限まで防御力を高めようとする。盾の形状を先程までの半円状ではなく、自身の体を隠すだけのサイズの長方形の盾にする事で、可能な限り盾の厚みを増していた。
そんな大楯に向けて、真依が赤い弾丸を込めたリボルバーをヒュースに向けて構え直した。
「これが私の全力っ!!!」
真依の心からの叫びと共に、弾丸が発射された。
弾倉から解き放たれた赤い銃弾は、込められた呪力により赤い螺旋を空に描きながら一直線に突き進む。
ガアァンッ!!と、銃弾が盾に当たった音とは思えない轟音が響き、弾丸が盾に激突した。
接触し、めり込み、威力を減衰されながらも分厚い盾を貫通しようと弾丸は進み続ける。
その有り様は、呪術界から冷遇されながらも呪術師として上を目指し続けた真希の、これまでの人生を表している様であった。
そして遂に、その時はやってきた。
真依の思いを乗せた弾丸は、分厚い壁に風穴を開けてその身を敵へと届かせた。
「何…だと…」
弾丸は狙いを違わず、ヒュースの左胸を撃ち抜いた。
ヒュースのトリオン体が、胸に空いた穴から急速にひび割れていき、やがてトリオン体の維持が不可能になり破壊された。
生身の体になり、呆然と立ちすくむヒュース。
「これほどの力を…」
その光景を見た木崎もまた、空いた口が塞がらなかった。
直樹の力は見ていたが、まさか真依までもがここまでの力を保持しているとは思っても見なかった。
そして、全力を出し切った真依もまた、疲労困憊の状態だった。
ハァハァと荒い息を吐き、汗を流しており、とても動ける様な状態では無かった。
三者三様の理由で、少しの間だけ動かなかった。
そんな状態からいち早く回復したのはヒュースだった。
「すまない負けてしまった…回収してくれ」
ヒュースが呼び掛けたのはワームホール使いの仲間であった。
しかし、ヒュースの呼び掛けに応えてワームホールが開かれる様子は無かった。
ヒュースが、焦りから叫ぶ。
「ミラ!どうした!?回収してくれ!」
しかし、それでもやはりワームホールは作られなかった。
「…まさかっ…!?」
何かに気付いた様子で、青褪めて固まってしまったヒュース。
それを見ながら周囲を警戒していた木崎に、声をかける者が現れた。
「よっ!お疲れ様レイジさん」
「迅か…」
現れたのは木崎の同僚であり、未来が見える男、迅悠一であった。
「俺は何もしていない。全て彼女のお陰だ」
謙遜した様な台詞を、心の底から真面目に話す木崎。
その時初めて、真依の事を迅が見た。
迅の持つ『未来視』のサイドエフェクトは神の如き力だが、あくまで人間の持つ力であり、完璧では無い、
その証拠に、この力は直接見た人間の未来しか見る事が出来ない。
直樹達との交渉の際、味方になってもらった方が絶対に良いと断言した。それは、直樹達の未来が見えた訳ではなく、直樹達が味方の時の未来にいる仲間の姿を見たからそう言ったのだ。
故に、今初めて、真依の未来を見た。
「マジかよ…」
迅が見たのは真依の『構築術式』により齎される様々な希少物質、それによって生み出される利益、新たに作り出されるトリオン兵器。
迅には、彼女の存在が黄金を授けてくれる女神に見えていた。
「迅っ!」
「おっと、ごめんねレイジさん。ちょっとボーっとしてた」
訪れるかもしれない素晴らしい未来に呆然としていた迅を、木崎が肩を叩いて現実に引き戻した。
そう、まだこの未来が訪れるとは限らない。だからこそ、今出来る事を精一杯やらなくてはいけないのだ。
今しなければいけない事とは、ヒュースの扱いについて考える事である。
彼の顔を見て未来を知った迅が、ヒュースに向けて宣言した。
「さて…君には捕虜になってもらうよ。大丈夫。悪い様にはならないよ。俺のサイドエフェクトがそう言っている」
迅悠一のお決まりの台詞で、この場の戦いは幕を閉じた。
しかし、未だ戦いは続いている。
この侵攻が終わるまでは、まだ少し時間があった。
いかがだったでしょうか。今話も楽しんで頂けていると幸いです。
さて、今話は真依の活躍回となりました。正直な所、呪力さえあれば『構築術式』ってこれぐらいは出来ると思うんですよね。
一応説明しておくと、最後に使った赤い弾丸は『遊雲』を意識して作っていても、『遊雲』その物を弾丸にしている訳ではありません。あくまでも『遊雲』を参考にして作られた、一発だけなら特級呪具の攻撃に匹敵する貫通特化の徹甲弾。とでも思っておいて下さい。
また、作中で説明した真依さんと直樹の呪力量については、大体の感覚ですが、乙骨の半分より少し下ぐらいを想定しております。と言っても、呪力量の目安になるのが乙骨と宿儺ぐらいしかいないので、何の目安にもなって無いかもしれませんが。
次回は、直樹VSヴィザの予定です。
それでは、今話も読んで頂きありがとうございました。