更新遅れた理由は、ウマ娘の育成→グラブルの古戦場で忙しかったからです。ぼちぼち更新出来る様になると思います。
直樹達が異世界へと降り立ち、大規模侵攻に巻き込まれてから既に一週間が経っていた。
あの後、直樹は直ぐにでも真依に関する事柄の本交渉をしたいと考えていたが、しかし、そうは出来なかった。
理由は単純明快。交渉相手が多忙過ぎたのである。
大規模侵攻が終わったとはいえ、いや、むしろ終わったからこそやらなくてはいけない事が山の様にあった。例として幾つか挙げるならば、被害状況の確認、行方不明者の捜索、論功行賞、一般市民への記者会見の準備などである。
それらの案件全てを処理し切るまで待って欲しいというのが直樹達の交渉相手である界境防衛機関『ボーダー』上層部の要望であった。
直樹達はその要望を受け入れた。その代わりに彼等もまた、ボーダーに対して一つの要望を出した。
その要望とはボーダーが存在するこの世界に関する知識を教わる事である。
異世界に来て早々に大規模侵攻に巻き込まれた直樹達だが、この様な侵攻が頻繁に起きる世界ならば真依の移住先としては不安が残る。
故に、従姉妹の安全を第一に考えている直樹としては、この世界の事を知る事は非常に重要な事柄であった。
真依としても、自分が移住するかも知れない世界の事はなるべく早く知っておきたかった。
そして、ボーダーの要望と直樹達の要望を協議した結果、直樹達はボーダー玉狛支部に住んでいた。
既に一週間も住んでいるので玉狛支部の人間共仲良くなり、ボーダーという組織についてもある程度の知識を得れていた。
そして、現在。この世界の日付で1月28日。
今回起きた大規模侵攻に関する、ボーダーによる記者会見が開かれようとしていた。
直樹達は、玉狛支部のリビングにあるソファに座り、テレビで記者会見を見ようとしていた。
ソファに座っているのは6人。
異世界からの客人である直樹と真依の二人組。
玉狛支部支部長の
そして、大規模侵攻で敗北し、捕虜となったヒュースがいた。
その他の人員はそれぞれがやるべき事の為に出掛けていた。
「この記者会見が終わったら、やっとボーダーとの交渉に移れる訳よね?」
「そうなるな」
真依の確認に対して、林藤匠が頷いた。
「長かった様な短かった様な…」
直樹が一週間という期間の絶妙な長さにぼやいた。
この世界の事を知ると言っても、日常的な事に関しては殆ど前の世界と変わりが無かった。変わっている点はトリオンというエネルギーに関する事のみで、その程度の知識であれば一日もあればある程度は理解出来ていた。
この一週間で、直樹が他にした事と言えば、軽い運動と玉狛支部の人員とコミュニケーションを取ったぐらいである。
その他に
そのぼやきに陽太郎は、子供特有の舌足らずな言葉で話しかけた。
「なおきは帰ってしまうのか?」
「うん」
「そうか…寂しくなるな」
直樹の返答に対して、陽太郎がそう呟く。
もの悲しさから部屋全体が静まり返る。静寂に包まれた部屋の中に、テレビの音だけが響く。
『では…今回の大規模侵攻の被害状況に関してですが…』
テレビの中では、ボーダー幹部がズラリと並んで座っており、
本来ならば、林藤匠もこの記者会見に出ている筈であったが、捕虜となっているヒュースと異世界からの客人である直樹と真依の三者への対応の為に玉狛支部に留まっていた。
大規模侵攻は、直樹達の介入もあり被害少なく終わった。特に、ヴィザを捕虜とした事は、侵攻が早期に終了した大きな理由と言えるだろう。
しかし、被害が少ないとは言え、無かった訳ではない。現に、ボーダー関係者の中から数名だが負傷者が出てしまっていた。
その事を根付が記者に対して報告している。
『今回の侵攻に関してましては、負傷者数名、死者無しという被害状況であります。侵攻の規模を考えますと、非常に少ない被害で抑えられました』
その報告を聞き、林藤が直樹に向き直り頭を下げる。
「これを機にもう一度礼を言わせてくれ、君のお陰でボーダーから死者が出るが無かった…本当にありがとう」
「俺からも言わせてくれ、本当にありがとう」
林藤に続き、迅もまた頭を下げて礼を告げた。
そう、林藤の言う様に直樹のお陰で救われた命があったのだ。
実は、直樹達がヴィザ達と戦闘している裏側で、大規模侵攻時にボーダー本部内部に敵が侵入するという非常事態が起きていた。それによりボーダー内部で重傷者が出てしまっていた。
不幸中の幸いで、即死している者がいなかったのが救いだった。しかし、傷は深く、そのままでは病院に行く前に死ぬところだったが、死ぬ前に直樹の反転術式による治癒が間に合った。
その事について、ボーダー関係者は何度も礼を言うぐらいに、感謝の念を強く持っていた。
「いやいや、迅さんの指示があったお陰で間に合っただけですよ」
直樹がそう謙遜した。実際に、直樹による反転術式の治療で死者を無くした未来を見た迅の指示が無ければ、治療は間に合っていなかっただろう。
しかし、そもそもの前提として、重傷を負ってしまった複数人の人物を数秒で死の危機から脱せられる程の治癒能力を持つ直樹の力が無ければ、治癒は不可能だった。
それをしっかりと理解しているからこそ、ボーダー関係者は直樹に対する感謝を忘れておらず、この一週間で何度も感謝の言葉を述べていた。
「いやぁ…それこそ君の力が無ければ治療出来てない訳だし。やっぱり君のお陰だよ」
「いやいや、迅さんの力があってこそ…」
「いやいや、直樹君の力が無ければ…」
被害を少なくした二人の功労者が、功績の譲り合いという不毛な押し付け合いを行っていた。
そして、死者を減らしたという意味では、ボーダー本部の人間以外にも、直樹に治療を施された人物が存在していた。
「それに…
「そうだなぁ…」
「うむ」
迅がしみじみと呟き、林藤匠がそれに同意する様に頷き、陽太郎も大物ぶって頷いていた。
遊真と言うのは玉狛支部に所属している人物である。
彼を簡単に説明するならば、数年前から瀕死の状態であり、特別なトリオン体でなんとか延命していた人物であった。
彼の本当の肉体は右手と左足が半ばから喪失、左脇腹が大きく抉れ、左眼球周りも大きく負傷していた。はっきり言って致命傷であり、トリオン体を解除したならば、数分ももたない事は明白であった。
そんな状況であった為に、この世界の今現在の医療技術では死は免れ無かったのであった。しかし、この世界の者では無い直樹が…それを成し遂げた。
直樹の治癒能力を知った三雲と、レプリカという遊真の付き添いの自立型トリオン兵が、ダメ元で遊真の治療をお願いしたのだ。「異世界の由来の魔法の様な治癒能力を持つ直樹ならば或いは遊真を治せるのでは無いか」と。
直樹は当初、この治療に賛成しかねていた。
直樹の持つ最大の治療方法である反転術式と晴の炎の同時使用は、他の世界から見ても非常に高い回復能力を持つ。その力はどれ程の傷であろうとも、脳や心臓などの重要機関が消失、または既に死んでる場合を除き治癒可能である。
しかし、それは傷を負った直後の事であり、古傷は治せない。今回の場合は、傷を負ったのが数年前という事であり、絶対に治せるかは不明であった。
そう言う不安があると説明していたが、その不安を迅の未来視が晴らした。
迅がお得意の決め台詞と共に治療に太鼓判を押した事により、治療に踏み切った直樹は、見事に遊真の肉体を治し事に成功した。
遊真にとって幸いだったのは、特別なトリオン体に変身していたお陰で、瀕死の重体となっていた本来の肉体が、殆ど負傷当時の状態を維持出来ていた事にあった。
そして現在、遊真は治療されたとは言え重傷負っていたのは変わりないので、病院に入院していた。この場にいない玉狛支部の人員の殆どは、そのお見舞いに行っていたのだ。
見舞いに行った人達からの報告では、不調な所も無く、健康そのものであり、いつ退院しても問題無い状態との事だった。
「感謝は受け取っておくので、礼はこの世界に残る真依姉さんにしておいて下さい」
「嫌よ。何もしてないのに礼なんてされても」
この世界に残るかも知れない真依の為に、恩返しの受け取り先を真依にしようとするが、当の本人がそれを否定していた。
迅達が直樹に感謝して、それを直樹が真依の為に役立てようとして、真依に拒否される。
この状況が、この一週間で見慣れたやり取りとなっていた。
そんな話をしているうちにテレビの中では、根付の報告とそれに関する記者との質疑応答が終わっており、次の話題に移っていた。
その変化に、部屋の中にいる人物の意識がまたテレビに向けられた。
『現在、ボーダーでは
近界とは、この世界に隣接する別の世界の事であり、そこには様々な国が存在している。ハイレイン達は、その近界にあるアフトクラトルという国に住む者達であった。
テレビでは、その近界という場所への遠征計画についての話が語られていた。
本来、ボーダーはこのタイミングでの遠征について記者会見で話す事を全く考えていなかった。
では何故、遠征計画の事を話しているのか。それを端的に言うならば、ボーダーは今回の侵攻に綺麗に勝ち過ぎてしまったのだ。
今回の大規模侵攻で、仮に直樹達というイレギュラーの介入が無かった場合、死者も含めてある程度の被害は出ていた筈だった。特に、ハイレインとの交渉で返されたC級隊員がそのまま行方不明になった可能性が高かった。
しかし、実際は死者は出ず、C級隊員達もまた行方不明にならずに済んだ。
直樹達というイレギュラーを知らない一般市民からしてみれば、ボーダーという組織の力だけで、大規模侵攻を殆ど無傷で乗り越えた様に見えてしまっていた。
その事が世論に火を付けてしまっていた。
「これほどの大規模な侵攻を無傷で跳ね除けるだけの力がボーダーにあるならば、近界へと攻め込む事も可能ではないか」という意見が出てきてしまっていた。
また、攻め込む動機もしっかりと存在していた。
この世界は、四年前に近界から大規模な侵攻を受けており、その時に数多くの死者と、数えきれない程の拉致されたと思われる行方不明者がでた。
今回の侵攻による被害を最小限にして防衛に成功した事により、意図した形では全く無いが、ボーダーの強さを見せつける形となってしまった。
それにより、「ボーダーならその恨みを晴らせる」「強いボーダーなら拉致被害者を取り戻せる」と言う意見が出た。
この様な世論をボーダーは無視する事が出来ず、近界への遠征計画を世間に話す事に決めたのだ。
『我々ボーダーは、皆様の応援とご支援を広く募っておりますので、何卒宜しくお願いします』
記者会見の最後は、ボーダー最高司令官の
「固っ苦しい話はここまでにしようか」
「おおぅ!」
林藤匠がテレビのチャンネルを変えた。テレビの内容が記者会見からアニメに変わり、陽太郎のテンションが上がる。
その姿を見た人達の顔色が柔らかくなる。
暫くの間ソファに座っていたので体が固まってしまっていた迅と林藤匠が、ソファにもたれ掛かる様に背伸びをする。
それを機に部屋の雰囲気が一気に明るくなった。
その後、玉狛支部からは談笑する声が絶え無かった。
記者会見のあった日から二日後。
ボーダー本部の一際大きな会議室にて、直樹と真依の処遇を決める大切な会議が始まろうとしていた。
大きな部屋の中央には二つの椅子が設置されており、それを囲む様に長机がコの字を描く様に置かれていた。
会議に参加しているのはボーダー全体から見ると極少数に限られていた。
まず、この会議の主役となる直樹と真依の二人が部屋の中央に座っていた。また、ボーダーの幹部が勢揃いしており、幹部の多くは二人に対面する場所の長机に座っていた。後は特別に召集されている未来視の力を持つ迅悠一だけだった。
ボーダー関係者に囲まれた直樹達。四面楚歌の様にも見える状態であったが、直樹達に危機感は無い。
それは、この世界で過ごした一週間以上の時間でそれだけ直樹達が迅や林藤の事を信頼出来た事の現れであった。また、万が一この状況で襲われたとしても、自分の見る目が無さ過ぎただけと受け入れるつもりでもあった。
そんな重要人物だけが集められた会議において、一番初めに口を開いたのはボーダー最高司令官の城戸である。
「まずは君達二人に、先の大規模侵攻の防衛に協力して貰った件に関して、ボーダーとして正式に感謝の意を示させてもらいたい。特に、禪院直樹君に関しては、死の淵にいたボーダー関係者の治療を施してくれた件も含めて、本当に感謝している」
城戸の言葉に合わせて、部屋の中にいた人間達の全員が頭を下げて感謝の意を示した。
「受けとらさせて貰います」
名指しで感謝を示された直樹が代表してそれを受け取った。
この一連の流れは、前もって林道から二人に説明されていた。ボーダーとしては、客人である二人に対して感謝示すのは当然の事であり、また、正式な場でこの流れを行うことは、ボーダー内部にて二人の立場を確約する意味も持ち合わせていた。
「それに伴って、君達が大規模侵攻中にした活躍に応じて褒賞を用意した。受け取って欲しい」
そう言った城戸が林藤に向けて目配せをする。それに一つ頷きを返して、林藤が立ち上がり、真依に一つの分厚い茶封筒を手渡した。
「君達二人の分で、三百万円入っている」
「ええ、ありがとう」
真依がその茶封筒を至極当然の様に受け取った。
三百万円という金額は大金である。しかし、直樹と真依は呪術師として命の危険のある任務についていた。更に言えば、二人共が禪院家という金持ちの家の生まれであり、三百万円という金額に対して、自分の仕事に対する正当な評価としか認識していなかった。
「また、侵攻への対応があったとは言え、一週間以上も待たせて申し訳無かった」
「いえ、十二分に早い対応に感謝しています。それに、お互いの事を知る為には必要な時間だったと思います」
城戸の謝罪に対して、特に気にする事もなく返す直樹。
この対応に直樹は、心の中で呪術界上層部の杜撰で頭の固い対応と比較し、賞賛を送っていた程であった。
しかし、ボーダーも清廉潔白なだけの組織では無い。実際に、過去には悪どい方法取る事もあり、内部でのいざこざもあった。
では何故これほどの対応をしているのかと言うと、偏に迅悠一と林藤匠から上層部への提言があったからである。未来視を持つ迅の言葉である事を重要視して、最大限の対応を取っていたのだ。
「そうか…では、本題に入ろう」
そう、ここまでは大規模侵攻に関する後処理の一環であり、本題では無い。今日この場に集まったのは、禪院真依がこの世界に受け入れられるか否か、それを交渉する為なのだから。
「迅と林藤の二人からある程度の話は聞いているが、改めて君達の口から我々ボーダーに対する望みを聞きたい」
城戸の言葉に対して答えるのは直樹ではなく真依の役目であった。
これまでボーダーとの交渉において、基本的に矢面に立ってきたのは直樹であった。しかし、この世界に残り、生きていくのは真依である。
だからこそ、ここから先の交渉役は真依に委ねられた。
「私の望みはこの世界への移住を認めて貰うことよ。具体的には、私の戸籍の獲得、身の安全と自由の保障ね」
「願いの内容は分かった。しかし、戸籍と身の安全は保障するが、自由については完全には保障しかねる」
城戸の言葉に部屋の空気がひりつき、緊張感が高まる。
しかし、これもまた城戸を中心としたボーダー幹部の中では既に決定事項であった。
自分の自由を守らないというボーダーに対して、真依が理由を問う。
「それはどうしてかしら?」
「君の力が余りに危険だからだ」
真依の問いに城戸が端的に答えた。
そう、城戸の言う通りに、真依の持つ力はこの世界では危険過ぎた。真依は侵攻でヒュースの全力の防御を撃ち抜いたが、あれと同じ事が出来る人間はボーダー内では片手で数えられる程度しか居ない。
そして、それ程の力を持ちながらも、真依はこの世界では一切の寄る辺を持たない。
そんな真依の戸籍と身の安全の保障するという事は、後見人となり責任者となる事に他ならない。
それはつまり、真依がもし万が一、その身に宿す呪力を用いて大きな問題を起こした場合には、ボーダーが責任を取る必要が出てくるという事でもあった。
故に、真依の自由を、完全には認める事が出来ないというのがボーダー幹部としての共通の考えであった。
「…」
真依の自由を縛るというボーダーの考えに、直樹は何も言わない。
ボーダーの対応に思うところが無い訳ではないが、直樹自身、異世界へ行った時には監視をつけられていた事もあるし、身を寄せた組織の敵対勢力のスパイだと疑われた事もある。
故に、この対応について自分からは何も言うつもりは無かった。
(完全には…って事はある程度の自由を認めるって事よね。なら…)
「貴方達は私の自由を何処まで認めるつもりなのかしら?それ次第で私はこの世界から出ていくわ」
「今の所は、三門市からの外出制限に加えて、三門市内でのボーダー隊員の監視も考えているが、君がボーダーへと貢献してくれる度に、この条件を緩和する用意がこちらにはある」
真依の質問に対して、城戸が答えた。
更に続けて、城戸が言葉を発する。
「迅からは君がボーダーに協力してくれるならば、ボーダーの未来は明るいと聞いているが…未だにその具体的なビジョンを聞いていない。だから…迅、良い加減にお前の見た未来を話せ」
「了解、城戸さん」
その言葉を待っていたとばかりに、いや、実際に未来を見て待っていた迅が元気に立ち上がる。
そして、語り出す。自分の見た未来を、真依の有用性を。
「まず、俺が具体的な未来を言わなかったのは、言ったとしても信用出来ない様な未来だったから…百聞は一見にしかずって言うからね」
迅が真依の方を見て、話の続ける。
「だから今ここで、真依ちゃんにやって欲しい事があるんだよね」
「やって欲しい事?」
「そう、さっき貰った茶封筒あるよね…それと同じサイズの金塊作って貰える?」
それを聞いていた周りの人達から、は?え?と、戸惑いの声が漏れる。困惑していないのは、真依の『構築術式』を知っている者だけである。
そんな事が出来るのかと、懐疑的な者を置いて話が進む。
「まぁ…良いけど…」
しぶしぶといった様子で真依が了承し、『構築術式』を発動させる。真依の右手に呪力が集中し、一瞬の内にその手の中に黄金の塊が生成された。
真依の左手にある茶封筒とほぼ同サイズの金塊が、何も無い所から生み出された光景に、周りで見ていた人達は、驚きからまたもや声が漏れる。
その様子を見ていた迅が、サプライズが成功した事に含み笑いをしながらも、ボーダー幹部の営業部長、
「唐沢さん、その金塊確認してみてよ」
「ん、分かった。少し借りても?」
「…ええ良いわよ」
真依が『構築術式』の疲れから、ほんの少しだけ息を詰まらせながらも、唐沢へと金塊を手渡した。
「おっと…ふむ」
手渡された瞬間に、金塊の重さに一瞬だけ姿勢を崩した唐沢だったが、その金塊を様々な角度からじっくりと観察していく。
「ふむ…間違い無く本物ですね」
唐沢が保障した事で、更なる驚きが部屋中に蔓延していく。
その中でも冷静に事を眺めていた城戸が唐沢へと話を振る。
「唐沢君、君から見てその金塊はどれぐらいの価値がある?」
「そうですね…重さが大体5キロ超って所なので、まぁ、五百万は固いでしょうね」
推定五百万円分の金塊を前に淡々と話を進める二人。
「因みにこれは日に何回ぐらい出来るんだい?」
「そうね…六回って所かしら」
唐沢からの問いに対して、『構築術式』を発動した疲れも抜けたのか、真依もまた淡白に返した。
五百万円分の金塊が六回分、つまり日に三千万円分の金塊を生み出せるという真依の言葉に対して、最早周りの人間からは言葉も出ない。
「なるほど…つまり彼女は文字通りの意味で金を生み出せる人間だと」
「ええ、そうです」
城戸が真依の重要性に理解を示し、それを迅が認めた。
しかし、幾ら直接的に金を生み出せるとしても、出所不明な金塊を売り捌き続ける事は、普通ならば不可能であった。
だからこそ城戸は、普通では無い経歴を持つ唐沢へと問いを投げかける。
「唐沢君ならばそれを売り捌く事は可能か?」
「ええ可能です」
ボーダーの営業に就職する以前は悪の組織で金集めをしていたと言う、不思議で謎な経歴の持ち主である唐沢のお墨付きにより、常に資金難に悩まされるボーダーに対して、真依は貴重な資金源としての価値を持った存在となった。
更に、真依の価値はそれだけに留まらない。
迅は更に真依の価値を高める為に言葉を続ける。
「今見てもらった通りに、真依ちゃんの能力は物を作れるけど、作れる物は金だけじゃ無い。金以外の物も何でも作れる」
「何じゃと!?」
迅の説明に対して驚きの声をあげたのは、ボーダー幹部であり、トリオンの研究及び開発を行っている開発局の室長である
その立場故に、今の迅の発言に対して敏感に反応していた。
「つまり…レアメタル等の貴重な物資も作れると言う事か!?」
「うん、それ所か特殊な合金とかも自由自在だよ」
「おおぅ!」
迅の言葉を聞いてハイテンションになる鬼怒田。
それもそのはず、トリオン研究やトリガー開発には今言った様な資源は必要不可欠*1であり、それを自由に生み出せるという真依の価値は計り知れない。
その価値を、ボーダー幹部の目で直接確かめさせるというプレゼンを行なった迅が、その効果を確認するべく城戸へと呼びかける。
「どうです?城戸さん」
「ああ、彼女がボーダーに協力してくれた時の利益はよく理解出来た」
物資の価値を書類上でしか知らない城戸だが、ハイテンションで燥ぐ鬼怒田を見る事で、間接的にその価値の高さを知る事が出来た。
これまでのプレゼンにより、作れる量に限界があるとは言え、直接的に金を生み出し、如何なる物資であろうとも作り出せる能力を持つ真依の価値を理解した城戸。
それはつまり、先程語られていた制限の緩和について、幸先の良い見通しが立てられた事を意味していた。
「これ程の利益を齎してくれるならば、先程言った制限をかける気は無い。逆に高待遇で迎え入れる事を約束しよう」
城戸が言った言葉に対して、唐沢と鬼怒田は賛成の意を示すべく大きく頷き、他の幹部もまた了承して頷きを返す。
幹部の支持も得れたので、最後に真依の意思を確認する為の質問がされる。
「幹部の了解も取れたところで、改めて聞かせて貰おうか禪院真依君。この世界に残り、ボーダーに協力する意思はあるかね?」
その問いに対して、少しだけ考え込む真依。
はっきり言って、真依の『構築術式』を持ってすれば、どんな世界でも重宝される事は間違いない。別にこの世界では無く、もっと平和な違う世界を探しても良いのだ。
(別の世界を探しても良いけど…でも別の世界がここよりも良い保証もないし、直樹にもっと負担をかける事になる。直樹は気にしないかも知れないけど…)
葛藤する真依であったが、やがて答えを出したのか徐に顔を上げた。
覚悟を決めた表情で城戸を見つめ、そして、宣言する。
「良いわ。ボーダーに協力する」
真依の出した結論はこの世界に残る事であった。
かくして真依とボーダーとの交渉は成立した。
真依はこの世界に残り、ボーダーに大きな利益を齎す事になるが、それはまた別の話で語られるかも知れない。
いかがだったでしょうか、今話も楽しんで頂けていると幸いです。
さて、今回の話ですが、正直、書いている途中に書きたい事がどんどん増えていって話が煩雑になり過ぎました。反省してます。
今回の話を要約すると、
①大規模侵攻の被害も少なく、悠真含めて怪我人がいっぱい治った。
②①を受けてボーダーは直樹と真依に感謝している。
③真依の『構築術式』は資源確保にて最強。
④真依とボーダーは良い関係性を築けそう。
に、なります。
また、今回の話で異世界ワールドトリガー編は終わりになります。次回は真依と直樹の別れから呪術廻戦の世界へと帰ってからの話になる予定ですので、次回もまた楽しみに待っていて貰えるとありがたいです。