直樹が半裸の男から逃げ出し、次に向かった場所は十字路の交差点のど真ん中だった。
そこには遠くから見ても目立つ
帳では無い。
それは術式の最終段階であり、呪術の極地。
簡単に説明すると、領域展開とは結界術と術式の融合技である。
結界により相手を閉じ込め、呪力によって結界内に術者の精神世界である
領域展開のメリットは大きく二つ。
一つ目は術者の強化。術者の生得領域内、つまり術者のホームグラウンドでの戦闘故に、術者は最大限の力を発揮出来る。
また、結界術により中からの脱出を防いでいる。代わりに外からは侵入をしやすくなっているが、侵入することにメリットはほとんどない。
二つ目は領域内では術者の術式が
もし、その術式に一撃必殺の威力があったなら領域は必中必殺となり、入った段階でほとんど負けが確定する。
もちろん、これほど強力な術の発動にはデメリットも存在している。
一つ目に、呪力の消耗が激しい。一部例外を除き、日に何度も領域展開を可能とする術師はいない。
二つ目に、領域展開は術式に非常に大きな負荷がかかり、領域展開を解除した直後は術式の精度が大きく下がる。下がり方は人によるが、全く発動できない術師も存在するほどだ。
これらの情報を禪院直樹は禅院家に残されている情報で知っていた。
領域展開の最も
領域展開したのがどちら側であろうともだ。
味方が展開したならば、敵は少なからず消耗しているはずであり、敵が展開したならば、解除した直後は術式を満足に使えないはず。
そもそも、例え味方が展開していたとしても、急に外側から乱入者が現れたならばその乱入者にも術式効果が及ぶ。味方に攻撃されるなど笑い話にもならない。
故に、この状況で直樹が取るべき選択は
しかし…
ほんまにそれでええんか?
直樹は領域の外殻。黒い結界を前にして葛藤していた。
もし仮に敵の領域展開に味方が囚われているなら、領域展開が解除される時とは、基本的に味方が死んだ時である。
領域展開の解除まで待つという選択は、
その事実が待機という選択を躊躇わせていた。
俺なら領域内にも夜の炎を使えば侵入は簡単や。
ある程度なら
けど、極論幾ら領域対策があっても、入った瞬間に即死する可能性もある。
それが敵やった場合、そいつを野放しにしたら京都にいる呪術界側の全員が皆殺しにされるかもしれん。
それを防ぐには領域解除後の隙を狙うのが確実や。
けど俺は、この選択を
直樹の脳裏に異世界で出会った人達の顔が浮かぶ。
その時、一人の人物を思い出した。
俺の晴の炎の師匠であり、明るく青空を照らす日輪のように、
そして、その男の
何アホなこと考えてたんや俺は。
消極的になりすぎてたわ。
直樹は自嘲した。
領域解除後の考えすぎていて、領域展開の
目を閉じて深呼吸をする。
全身に呪力を漲らせる。
左手と左足を前に出し、右足を引き右手を振りかぶる。
炎の呼吸により全身の細胞に酸素が行き届くのを意識する。
「見様見真似」
イメージする。日輪の男の為した拳を。
目を見開くと同時に、全身に溜め込んだ力を爆発させ、渾身の右ストレートを放つ。
「
領域展開は結界術により中からの脱出を防いでいるが、その代わりに外からの侵入は容易くなっている。
故に領域の外殻は
バギィッとすまじい音を立てて拳が外殻に激突した。
瞬間的にだせる全身全霊全呪力の込められた拳が結界の外殻を大穴を開ける。
圧倒的な破壊力は大穴を開けただけでは留まらず、大穴の周囲に亀裂が走る。
急速に亀裂は拡大し、そして…
領域が砕けた。
中からは二人の人間が出てきた。両者共に驚きの表情で顔が固まっている。
しかし、直樹もまた驚愕していた。
呪術師には容姿に特徴のある人物も少なくないが、この二人は特に顕著だった。
一人は上下黒の制服を着ているので呪術高専生だと思われる人物。
黒のドレッドヘアーに三分割され整えられた細い眉。
二十歳を超えてそうな老け顔に剃り残したある口髭。
一見して留年した不良といった有様だった。
もう一人は、先程の男と、東堂葵と同じ上半身裸の筋肉質な男。
しかし、この男の方が変態的であった。
下半身には濃紺のズボン。これは特に問題ない。
胸には乳首を隠すように、ハート型の巨大なニップルシール。
金髪の髪の毛をオールバックにする様にカチューシャを装着している。
一眼見て分かる変態だった。
驚いてばかりやあかん。
意識を切り替える。今は戦闘中。一瞬の気の緩みで死ぬ場所。
俺は半裸の男の方を見て尋ねる
「あんたが呪詛師っちゅーことでええねんな」
「えぇそうよぅ」
既に驚きから解き放たれていた男が微笑みながらオネェ口調で答えた。
どうやら男はオカマであったらしい。それにしてもその格好は変態的だったが。
「じゃあこっからはニ対一っていうことで良いですか?」
今度は高専生らしき人物に提案する。
この人が
不良っぽい格好が、格好だけじゃない可能性を考えてのことだったが
「良いぜぇお前!熱くさせてくれるじゃねぇか!」
「そりゃあオッケーってことでええですか?」
「当たり前だろ」
高専生が提案に乗ってくる。
さらには、歩いて俺に接近し、肩まで組まれた。
「
「えっ、あれあんたのやったんすか?そりゃすんません」
俺は高専生の発言に驚き、謝る。
領域展開がこの男性のやったら、壊さない方が良かったはずや、失敗したなぁ。
少しだけ凹んでいると高専生からフォローが入る。
「別に良いさ。俺の領域は五条さんみたく必殺じゃねぇからな」
「私としては助かったけどね。あのままだったら面倒臭いことになってたわ」
遅効性の術式なのかと思いながら、俺はオカマに向かって一歩踏み出した。
「なら術式が使えんうちは俺が前に出ます」
もう一歩踏み込んで
「刀は使わないのかしらぁ?」
「この刀は呪霊用や。人相手には振るわん」
それは俺の一つの誓いや。
日輪刀は元々人を喰らう悪しき鬼と戦うために生み出された刀。
それを人相手に振るうなら
やから人相手には使わん。
まぁ全集中の呼吸を常に使って、身体能力を上げるぐらいはさせてもらうが。
その程度なら、あの人達も許してくれるやろうと思いながら、踏み込むタイミングを見計らう。
オカマの口調と変態的な格好やけど、こいつ隙ないやん。
領域内でも傷ついてないみたいやし、油断は出来んな。
「オイオイ俺も混ぜろよ」
「大丈夫なんすか?」
高専生が並んで声をかけてきた。
領域展開直後で術式は使いづらいはずや。
せやから俺が前に出ようとしたんやし。
「確かに大当たりは逃したがその代わりに
男の身に呪力が漲り、拳を構えた。
力強い呪力と様になっている構え。
言ってる言葉は危ないが、これなら戦力としてかなり期待出来る。
「俺は禪院直樹です。名前聞いてもええですか?」
俺の突然の名乗りに若干驚く二人。
禪院の名は良い意味でも悪い意味でも有名だ。
引かれたかなとも思ったが
「俺は
「おおきに。ほなやりましょうか」
秤さんも名乗ってノって来てくれた。
「フフッ、ヤンチャなワイルド系とクール系イケメン。良い男を二人同時に相手出来るなんてね」
軽口を叩きながら、オカマの男も構え、呪力が溢れ出す。
そして彼もまた名乗りをあげる。
「ラルゥよ。短い間かも知れないけど、よろしくねん」
ここから先に言葉はいらない。
三者ともにそれが分かったのだろう。
先手を取ったのは直樹。
一歩目から爆発的な加速を見せ、ラルゥの背後にまで一気に回り込んだ。
それを見て一直線にラルゥへ向かう秤。
前方の秤、後方の直樹。
挟み込む二人にラルゥが取った行動は、横にステップを刻んで二人を同時に見れる位置に移動することだった。
しかし、直樹がそれを許さない。
ステップを刻んだと同時にさらに加速して、またもや背後をとる。
(この子!私よりも速い!)
ラルゥに戦慄が走る。
今の一連の動きで自分よりも直樹の方が速いことが明確になった。
もともと、直樹の纏う豊富な呪力量と
「気ぃ取られすぎだぜ!カマ野郎!」
「グッ」
ラルゥが直樹に気を取られた隙を秤がつく。
ラルゥの左脇腹を抉る様に放たれた秤のボディブローは、脇腹に当たる直前に腕を畳んでガードされる。
しかし体勢が不十分だったのか、拳の勢いに押されて1メートルほど体がズレる。
その硬直を今度は直樹が見逃さない。
ラルゥの背後から右脇腹に向けて横薙ぎの蹴りを放つ。
これも辛うじてラルゥはガードするが、秤に押された分を押し戻された。
そこから始まるのは秤と直樹による即興の
秤が殴れば直樹が蹴る。
直樹が殴れば秤が蹴る。
息のあった連携を見せる二人。
初対面であるにも関わらず、これ程の連携が出来るのは偏に直樹の献身があるからだった。
(初対面で同じ方向いて連携は無理や。なら挟むことだけに集中する方がよっぽどええ)
そんな考えが直樹にはあった。
事実、二人並んで攻撃することは、それ用の訓練を積んだ二人組でなければ、お互いの邪魔をすることになるだろう。
味方の動きに注意しながら動き、味方に当たらない様に攻撃する。
言うは易く行なうは難しである。
前後で、あるいは左右で挟んで攻撃するだけならば、まだ簡単である。
故に、直樹は常に走りラルゥの背後を取ろうとする。
その動きは最速の名を欲しいままにしていた彼の父、禪院直毘人を彷彿とさせる動きであった。
そんな猛攻に晒されながらもラルゥには未だ致命的な傷がない。
しかし、着実にダメージは溜まってきていた。
「秤さん!このまま仕留めます!」
「オウよっ!」
その姿を見た直樹と秤が、倒せると判断して気合いを入れ直す。
しかし、その瞬間に劇的に状況が変わった。
帳が上がったのである。
瞬間、秤と直樹の二人は、一瞬だけラルゥから視線を外して上を見上げてしまった。
その一瞬でラルゥは二人から少しだけ距離を取れた。
「残念ね。もうちょっとだけ付き合いたい気分だけどこの辺で失礼させてもらうわ」
「逃すと思うとるんか?」
その程度の距離ならば関係ないと接近を試みる直樹だったが、ラルゥの行動の方が一足早かった。
「
ラルゥの喉から音響兵器の如き轟音が響く。
その音圧に街路樹が揺れ、道路が震えるほどだった。
思わず両耳を押さえて動きが止まる二人。
「じゃあねぇ♡」
投げキッスを送りながらあっという間に裏路地に消えていくラルゥ。
「チッ逃げられたな」
「しゃーないですね」
逃げられた二人。急いで付近を探せば、まだ追いつけるかも知れないが、帷が上がった後にあの大音声である。
色々な理由をつけて避難させていた一般人が駆けつけて来ないとも限らない。
それに、百鬼夜行が終わったなら直樹にはやることがあった。
「俺は怪我した人治しに行きますけど、秤さんはどうしはります?」
「マジ⁉︎お前反転使えんのかっ!」
秤金次の今日一番の驚きである。
秤が知る限り反転術式を他者に使えるのはただ一人。
呪術高専東京校所属の医師。
「マジで?家入さん以外見たことねぇよ俺」
「家入さん知ってはりますん?」
「俺は東京から来たからな。あの人にはたまに世話になってるぜ」
今度は直樹が驚く番だった。
「わざわざ東京から来はったんですか?東京でも百鬼夜行あるのに」
そう東京でも百鬼夜行はあるのだから、場所が近い東京で参加する方が楽なはずだった。
「
「確かにそれはあり得そうですね」
秤の言う上。つまり呪術界上層部の判断ならあり得る話だった。
『
呪術界では知らぬものはいない有名人だ。
禪院家と同じ御三家の一角である五条家の当主であり、
呪力を詳細に見ることができる『
呪術界に呪詛師を合わせても四人しかいない特級呪術師の一人。
その力故に尊敬も集まるが、逆に上層部には疎まれていると言うのは呪術界にいる人間であるならば知っている話だった。
上層部ならば五条悟に仕事を押し付ける為に、わざと東京側の戦力を少なくする位はあり得そうな話であった。
「って言うか俺、五条さんに会ったこと無いんすよね」
「マジかよ。禪院なら会う機会ぐらいあるだろ?」
話は
異世界行ってたから当たり前やけど。
「良ければ呪術師が集まる場所まで一緒に行きません?その道中に五条さんの話聞きたいわぁ」
「良いぜ。まずあの人は俺の恩人なんだよ…」
二人は歩きながら話し出す。
その会話は、怪我人が集められた場所に着くまで続いていた。
如何だったでしょうか?今回も楽しんで読んで貰えてれば幸いです。
また、今回も後書きを長々と書いてしまったので、サラッと読み流してもらって大丈夫です。
個人的にすごく難産だったのが、秤の領域の外にいる時に、主人公がどう動くかです。初めは領域解除まで待たせる気でしたが、REBORNの笹川先輩や鬼滅の刃の煉獄さんと知り合いで、黙って外から見てるのも不自然だと思いました。じゃあ原作の真人VS七海&虎杖の時みたいに、領域内に乗り込むのかと言われれば、御三家の人間として領域展開のことを知っていれば対策が幾らあっても無謀すぎるし、と物凄く悩みました。
結果的に笹川先輩の極限太陽のことを思い出しまして。これで領域を外からブッ壊したら格好良くないかな?と思ってやらせました。
結果的に秤の領域を壊してしまい、足を引っ張る形となりましたが、外から見て誰の領域かは判断できないと思ったのでこういう形になりました。
その後のシーンの秤が直樹を気にいってる描写についても悩みました。
術式を中断させられたことに対して「俺の領域が!」って感じで怒らせることも考えましたが、ちょっと秤っぽくないなと思いました。
より相応しそうな反応を考えた結果、書いた通り「乱入なんて激熱じゃん。気に入ったぜ」って感じの秤になりました。イメージと違うと感じたら申し訳ございませんが、作者の秤のイメージ像からはこんな感じの描写になりました。
そして、直樹&秤VSラルゥの戦闘シーンに関してですが。
百鬼夜行時、秤は京都にいたのは判明していますが、ラルゥに関してはオリジナル展開です。
ラルゥは原作では戦闘描写がなく強さがはっきりしません。
しかし、作者は持っていませんがファンブックではミゲルと同じく強いと言われているらしいのと、原作ではかなり強者の雰囲気を出していることからかなり強いと思って今回のような戦闘シーンになりました。
また、ラルゥの術式に関しても原作では不明ですが、原作でも大声を出して周りを止めるシーンがあります。この時建物が揺れるほどであり,この大声に術式が関係あるのでは?とも言われているみたいです。
術式でもそうじゃなくてもラルゥの一喝にそれだけの力があるのは確かなようですので、今回の戦闘ではその力を使わせてもらいました。
また、話のストックが切れているためこれからの更新はもっと不定期になる予定です。最低でも交流戦位までは書きたいなぁと思っているので、頑張って続きを書いていきます。
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました。