前回までの話を自分で見返して、会話が少なすぎるなと思いまして、会話シーンを出来るだけ盛ってみました。
また、たくさんのお気に入り登録本当にありがとうございます。
お気に入り登録が100人を超えていて、次の話も頑張って書こうという気持ちにさせてもらえました。
では、本編をどうぞ。
百鬼夜行終了後、呪術師達は呪術高専の持つ古い屋敷に集められていた。
百鬼夜行が終了したとはいえ、また戦闘が起きる可能性があるとして呪術師達には待機命令が出されていた。
その中でそれぞれが必要なことをしていた。
飲食をして栄養補給をしている者。
仮眠を取り疲れを癒している者。
百鬼夜行中の戦闘報告と呪霊討伐の報酬を話し合う者。
そして負傷者と、その治療にあたる者。
直樹は負傷者の中でも特に重傷な者を反転術式で癒していた。
多少出血しているだけの軽傷者は他の人に任せている。
肉が大きく抉れていたり、臓器に穴が空いているような、急いで病院での治療が必要な重傷者を反転術式で癒していた。
そして今、最後の重傷者の治療が完了した。
「終わりました」
「ありがとうございました」
治療の終わりを告げた俺に、負傷者の男性に付き添っていた女性から感謝の言葉が返された。
男女は呪術高専生らしく、お揃いの紺の制服に身を包んでいた。
男性は先程まで負傷しており苦悶の表情を浮かべていたが、反転術式により傷が癒てからは穏やかな表情に変わっていた。
その表情を見た女性が、涙ぐみながら男性の手を握った。
その行動で、二人の関係をなんとなく察した俺は
「ほなお邪魔になりそうなんで、ここらで失礼させてもらいますわ」
「い、いやっ、私達そんなんじゃっ!?」
顔を真っ赤にして否定してくる女性を尻目に部屋を出る。
お邪魔という言葉だけでそこまで必死に否定されたら、
「疲れたわ、珈琲でも飲むか」
度重なる反転術式の使用後に見せられた、甘酸っぱい青春に思わず珈琲が欲しくなった。
珈琲を買うために一度外に出ようと屋敷を歩いていると、激しく口論している声が部屋の一室から聞こえてくる。
「なんだね君のあの術式は!巫山戯たことばかりして!」
「うるせぇなぁオッサン!別に術式なんてなんでも良いじゃねぇか!」
「良くない!伝統ある呪術を何だと思っているのかね!?」
聞こえてくる内容からして、口論の争点は術式についてらしい。
そして、口論をしている片方の人物の声に聞き覚えがある。
通路に面していた襖を開けて、言い争っている部屋に入る。
そこにいたのは直樹の予想通りの人物だった。
「やっぱり秤さんやないですか。どないしたんですか?大きな声出して」
「おお直樹じゃねぇか。いやこのオッサンがグチグチうっせぇんだよ」
部屋の中には負傷者の治療のために別れた秤金次が上下黒のスーツを身に付けた男性と向かい合っていた。
「グチグチとは何だね!それと、いい加減オッサンと呼ぶのを止めたまえ!年上を何だと思っているんだっ!」
「まぁまぁ落ち着いて下さい」
間に入って落ち着かせようとする。
しかし、唾を飛ばし、真っ赤な顔をして怒るスーツの男性を宥めることは出来ず、それどころか余計にヒートアップして俺に肯定を求めてくる。
「この男の術式ときたら
「…ほんまにパチンコなんすか?」
「まぁな」
思わず秤さんに聞いてもうたけど、肯定された。
パチンコの術式。そんな術式があるとは思っていなかった。
そしてもう一つ分かった。このスーツの男が保守派やってことが。
保守派。それは呪術界上層部の者が多く所属する派閥である。
保守派とは呪術界の体制や組織を守ることを考えている派閥だが、呪術の伝統を守ると言って機械などの新しいテクノロジーを用いる術式を認めようとしない。
「あんたが保守派やって事は充分分かったわ。一応聞いとくけど新しい術式認める気はないんよな?」
「当たり前だろう!呪術とは古き良きなのだっ!テクノロジーだの何だのは邪道だっ!呪術とは認められない!」
「何だとこの野郎っ!」
秤さんも怒気が強まる。このままやと実力行使に出そうや。
しかし、その前に俺も言いたいことが出来た。
「ならその理屈で言うと、俺の親父の術式も認めへんことになるんか?」
「何っ、君もそっち側の人間だったのか!」
「ああ、
スーツの男性の顔が驚きで固まる。
その能力は、自らの視界を画角として1秒間の動きを24の瞬間に分割したイメージを予め頭の中で作り、その後に、それを実際に自身の体でトレースする術である。
その術式を使いこなすことで禪院直毘人は『最速の術師』と呼ばれるほど有名であった。
スーツ姿の男性は、保守派として長く活動することにより、御三家当主である禪院直毘人とその術式のことも勿論知っていた。
「き、君は一体…」
「すんません、名乗るん忘れてましたわ。禪院直樹って言います」
男の顔が青褪める。当然のことだ。
御三家は呪術界でも大きな力を持つ家。その中でも禪院家とは武闘派で通っている家である。
その当主を、あろうことか息子の前で貶したのだ。
どんな報復があるか分からない。
スーツ姿の男性の顔色がますます悪くなっていくのを見て、安心させるように話しかける。
「まぁまぁ、今回の事は俺の胸にしまっときますし、秤さんに一言言うてこの話終わりにしません?秤さんもそれでええですかね?」
「俺はそれで良いぜ」
「ぐぬぅ」
二人の顔を見比べる。
秤さんはニヤニヤ笑っとる。この状況楽しんどるな。
保守派の人は苦い顔しとるな。
保守派の方は御三家当主に喧嘩売る事は避けたいけど、高専生の若い人間に謝る事はしたくない。そんなところやろな。
「じゅ、術式を悪く言って悪かった。これで失礼させてもらう」
保守派の男はそれだけ言って逃げるように部屋から出て行った。
相当屈辱やったんやな。
そして、男とすれ違うように女性が部屋に入ってくる。
かなりインパクトのある見た目の女性だった。
服装は上下黒の高専の制服。
下は普通のズボンだが、上はかなり改造してあり、丈が胸下ぐらいしかなくて、ヘソが丸出しだった。
そして一番インパクトがあるのが顔だった。
目の周りに濃い化粧を施してるのに加えて、口元から顎にかけてT字を描くようにピアスを四つ付けている。
見た目だけならロックミュージシャンのように見える女性だった。
「金ちゃん大丈夫だったぁ?なんか揉めてたみたいだけど」
「おう、直樹に助けてもらった」
入ってきた女性は秤さんの知り合いみたいやね。
「そうなんだ。金ちゃん助けてくれてありがとうね」
「おう、助かったぜ」
「どういたしまして。まぁ親父のこともあったし、それに、あの言い方はちょっとね」
話しながらほっと息を吐いて安堵する。
保守派の人間と揉めると面倒や。大事にならんで良かったわ。
「秤さんも今度から気ぃつけて下さいね。保守派と揉めると面倒ですよ」
「悪ぃ悪ぃ、気ぃつけるよ」
秤さんは全く悪びれずにそう言う。
ダメやなこれは、全くこりてへん。
はぁ、と溜め息を吐いた。
「金ちゃん、とりあえず紹介してもらって良い?何だか仲良しみたいだけど」
「おう、こいつは禪院直樹!すげぇやつだぜ
「どうも、禪院直樹です。よろしゅうお願いします」
高専生ながら領域展開出来る人に言われてもなぁ。
と直樹は思っていたが、反転術式を使いこなし、戦闘にも長ける中学生の直樹は、客観的に見て充分に凄い人間だった。
「んで、こいつは
「よろしくね直樹ちゃん。綺羅羅でいいよー」
「あ、俺も金次でいいぜ」
二人ともに名前で呼ぶことを許可される。
綺羅羅さんにはいきなりちゃん付けで呼ばれた。
見た目通りにフレンドリーな人みたいやな。
「禪院って事は真希ちゃんの親戚ってことだよね」
「そうです。東京校やし、そら知ってはりますよね」
「うん。
「一個下なんですか?」
「うん、そうだよ」
星さんが肯定してくるけど、真希姉さんが一個下っていうことやから、俺から見たら二個上ってことになる。
けど、その綺羅羅さんと秤さんが同級生ってことは
「申し訳ないですけど、金次さんが俺の二個上に見えませんわ」
「「直樹(ちゃん)二個下だったの!?」」
二人とも驚いたみたいや。
「逆に何歳やと思てはったんですか?」
「戦闘中の度胸も、さっきの対応考えても、俺と
大人っぽく見えたってことやろな。
そんだけ人として成長してると思うと、ちょっと嬉しくなる。
「まぁ金ちゃんは中学
「うっせぇよ」
そんな漫才のような話をしている時に、秤さんの携帯に電話が掛かってきた。電話相手を確認した秤さんが、少し離れて電話に出る。
「なんすか
どうやら夜蛾という人物からだったようだが、電話口から怒鳴り声が聞こえてくる。オッサンと呼ばれて怒ったのだろうか。
金次さんが電話で抜けている間、綺羅羅さんと二人での会話になる。
「真希姉さんは元気にしてはります?」
「うん。いっつも元気みたいだよ」
「そりゃ良かったですわ」
まぁ、禪院家で冷遇されてもへこたれへんような人や。どこでも元気にやってけるとは思ってたけど。
「仲良いんだね」
綺羅羅さんにそう言われたが
「さぁ、どうなんでしょうね。俺としては仲ようしたい思てるんですけどね」
俺は、一部の人以外を人として扱わないあの家に対して、思うところがある。
やから、真希姉さん達を気にかけてるけど、その境遇に対して
そんな俺に対して、向こうがどう思っているかは分からん。
「へぇ複雑な関係なんだぁ」
「まぁそんな感じです」
曖昧な顔をしていた俺を見て綺羅羅さんを何かに納得したみたいやった。
そんな会話をしていると、金次さんの電話が終わり、会話に混ざってきた。
金次さんの発言は百鬼夜行の終了を告げるものだった。
「夏油傑が死んだってよ。しばらくしたら待機命令も解除されるみてぇだ」
「えっと、詳しく聞いてもええですか?」
「どうも五条さんが
そんな説明を聞いている内に外が騒がしくなる。
外から聞こえてくる話の内容は金次さんが話してくれた内容と同様の内容だった。
「待機命令が解除されましたーっ!」
「百鬼夜行が終わりましたーっ!」
どうやら本当に終わったみたいだ。
それが確認できて、ふぅっと息を吐いた。
肩の荷が降りた気分だった。
「よっしゃっ!終わったなら飯でも食いに行くか。直樹、お前ぇも来るか?」
「行きたいのは山々なんですけどね」
苦笑いしながら曖昧な返事をする
「直樹ちゃん何か用事でもあるの?」
「えぇ親父から百鬼夜行が終わったら直ぐに帰ってくるようにって言われとるんですわ。何か重要な話があるみたいで」
この話は百鬼夜行直前に、親父直々に言われとった。
何の話かは知らんけど、重要言われると流石に帰らなあかん。
「ならしゃあねぇな。次会った時は一緒に飯食おうぜ」
「うん。直樹ちゃんとなら美味しく食えそう」
「えぇ次は必ず」
そうやって再会の時の約束をしながら別れる。
その前に…
「金次さん、綺羅羅さん。特に綺羅羅さんには、真希姉さんのことよろしゅうお願いします。同性の人が付いててくれると心強いと思うんで」
真希姉さんのことを頼んでおく。
真希姉さんのことだから大丈夫だと思うけど、呪術界では味方は何人いても良い。
故に頼んだのだが、二人とも微妙な顔をしていた。
「えっと駄目ですかね」
「いや、そうじゃねぇ。助けれる時は助けといてやるけどよ」
ほらっと言って、金次さんは綺羅羅さんを俺の前に押し出した。
「えっとね。直樹ちゃんよく聞いて欲しいんだけど…」
「はい」
何か言いたいらしい、もしかしたら仲が悪いとかだろうか。
「私、男なの」
私、男なの。
私、男なの?
「ええええぇっ!?」
その日一番驚いた直樹の絶叫は屋敷中に響き渡った。
なお、直樹から「驚いたが、女装に関して特に思うところがない」と、綺羅羅には過不足なく伝えられた。
異世界には、呪術師に負けないぐらい個性的な人間がたくさんいる。そんな世界を旅した直樹にとっては女装ぐらいは個性的で済ませられるものだった。
はい、いかがだったでしょうか。楽しんで読んで貰えたなら幸いです。
今回の会話パートの主題は、秤と保守派が揉めるのを防ぐことにありました。これにより秤が謹慎することがなくなり、交流戦編の時に参加可能となりました。やったね東京校。
これにより、交流戦がどう変わるかを楽しみに待って頂けると幸いです。