異世界帰りの呪術師   作:北山 真

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 この話を投稿する時にタイトルを変更しました。
 ※旧タイトル「異世界廻戦」
 理由は、タイトルだけ見て読みに来て、異世界から来たのか、異世界に行くのか分かりにくいと感じたからです。

 それでは本編をどうぞ。


禪院家次期当主決定戦 壱

 

 年が明けて禪院家の裏手にある空き地にて禪院直樹を禪院家次期当主として認めるか否かを決める戦いが始まろうとしていた。

 

 集まった人数は総勢三十二人。禪院家の主要な人間が全て集まっていた。

 中央に見届け人として当主直毘人。

 直毘人から見て左手側に次期当主として推薦された直樹。

 反対側の右手側に直哉を筆頭に禪院家の呪術師集団『炳』と『灯』のほぼ全メンバー計二十人。さらに『躰倶留隊』から隊長と選び抜かれた十人の隊員。

 

 直毘人は観戦気分で、いつも着ている着物に酒入りの瓢箪を持っている。

 三十人の呪術師集団もまた着物を着ており、無手の者が数名いるが、殆どの者は思い思いの武器を手にしていた。

 また『躰倶留隊』の隊長以外は戦闘服として、袴の下に鼻まで覆う黒いアンダーシャツを着込んでいた。

 

 それに対して俺は、ジーパンに黒いTシャツという格好で、その両手には指輪が嵌めてるけど、武器は持ってへんかった。

 

「じゃあ始める前にルールを確認しておくぞ」

 

 親父からルールの確認がされる。

 

「一つ、戦闘に参加するものは必ず縛りを結ぶこと」

 

 これは縛りをする上で必要なルールや。戦闘には参加したが、縛りはしていなかったなどの抜け穴を塞ぐためやった。

 

「二つ、場所は禪院家所有の空き地で行い、そこに半径200メートル程の帳を張ることで戦闘区域とする。帳は儂が下ろし、完成した瞬間から戦闘開始とし、戦闘前の術式の行使を含む戦闘行為を禁止する」

 

 これは一般人から戦いを隠す為に必要なルールであり、また無秩序な戦闘区域の拡大と、帳により戦闘参加者とそれ以外を区別する為の措置やった。

 また、戦闘開始の瞬間を明確にして不意打ちをさせへんフェアな条件にする為のルールでもあった。

 

「三つ、敗北条件は戦闘不能になること。この場合の戦闘不能とは死亡、気絶、降伏を宣言した者、帳から出た者のことを言う」

 

 これは敗北条件を明確にし、全員に縛りの内容を遵守させる事を目的としたルールや。後から言い訳をして縛りを守らない者を出さない為に必要やった。

 

 以上三つのルールが、今回の戦いのために事前に決められたルールであり、その内容で、この場に集った全員と直毘人が縛りをしていた。

 

「双方準備は良いか」

 

 禪院直毘人が両陣営に声を掛けてきた。

 

「おう」「ええで」

 

 俺とクソ兄貴の返事が被る。

 

「なら縛りの内容を改めて確認しあえ」

 

 直毘人から確認が入る。

 

「この戦いで負けたんなら一生、禪院家当主になるな。これはお前の姓名が変わってもや」

 

 先に直哉から縛りの内容が告げられた。

 姓名の話は、「禪院直樹」と指名すると、俺が結婚したりして禪院じゃなくなった時に当主になる権利が復活することを考えてのことやろな。

 

 そして、俺からも縛りの内容を告げる。

 

「この戦闘で負けた奴らは、呪詛師相手と自分の身を守る為以外に、女子供と非術師に対して精神的、肉体的に限らず暴力行為を禁ずる。それでええな?」

 

「はい」「おう」「ああ」……

 

 非常に面倒くさいけど、一人づつ返事をさせる。

 

 全員が縛りを受け入れたところで直毘人が話す。

 

「では今から帳を下ろす。帳が完成した同時に開戦じゃ」

 

 その言葉にその場にいた全員が戦闘態勢に入る。

 呪力を纏い、武器を構え、術式の起動準備を行う。

 

闇より出でて闇より黒く

 

 直毘人の帳の詠唱と共に、俺も戦闘態勢を整える。

 

 腰を少し落とし、足を前後に開き、左手を前に右手を顎の近くに置く。

 所謂ボクシングのオーソドックスな構えをとる。

 

 その上で、呼吸を整え呪力を練り上げる。

 

その穢れを禊ぎ祓え

「最速でぶっ殺したるっ!」

 

 詠唱が終了したと同時に直哉が正面から速攻を仕掛けてきた。

 

 クソ兄貴の術式は親父と同じ『投射呪法』。

 その強さは俺もよく知っとる。

 

「シッ」

 

 俺の間合いに入ると同時に一歩踏み出して左のジャブを放つ。

 

「甘いわボケェっ!」

 

 直哉はそのジャブを躱し左脇腹に触れる。

 

 

 この時、直哉は勝ちを確信していた。

 『投射呪法』は自らの視界を画角として1秒間の動きを24の瞬間に分割したイメージを予め頭の中で作り、その後に、それを実際に自身の体でトレースする術である。

 さらに、トレースする動きは物理法則を無視する様な動きは出来ないものの、発動中は高速移動が可能になり、さらに連続して発動し続けることにより、速度は上がり続け、亜音速を超えることも可能である。

 その最大の強みは圧倒的な速さと、術式による相手の硬直(フリーズ)にある。

 

 そう、この術式は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、その瞬間に相手が24分割したイメージを構築出来なければ一秒間の硬直が発生する。

 

 故に、直哉は左手が直樹に触れるその瞬間、大きな隙が出来ることを確信し、右の拳を握りしめ直樹の顔面に叩き込む動きを想像(イメージ)していた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ」

 

 直樹は自分が直哉に舐められていることを知っていて、その上で挑発を繰り返していた。

 だから戦闘開始直後に直哉が速攻を仕掛けてくることを予想して、予め術を発動していた。

 

 使用した術の名前は『落花の情(らっかのじょう)』。

 それは、御三家に伝わる領域展開対策の術で、領域展開内の必中の術式が『落花の情』発動者に触れた瞬間にカウンターで呪力を放出し身を守る術。

 

 この術はプログラミングに似た術であり応用が効く。

 領域対策の時は「必中の術式が触れた瞬間」という条件で、「呪力を放出し身を守る」という効果が発動する。

 

 直樹はこれを応用し、「自分に触れようとする呪力」に対して「呪力を放出し身を守る」という使い方をしていた。

 

 

 そして、弾かれた直哉が()()()()

 

 そう、これこそが『投射呪法』最大の弱点。

 トレース中の動きが途中で止められた場合、自分もまた一秒間の硬直が発生すること。

 

「じゃあなクソ兄貴」

 

 百鬼夜行にて領域を外側から破壊した技を放つ。

 直樹の今出せる全ての力が込もった右ストレートが直哉の顔面に向かう。

 

 その拳は、直哉による傍若無人な振る舞いに耐えていた、全ての人の恨みを晴らすかのように()()()()()()()炸裂した。

 

 

極限太陽(マキシマムキャノン)

 

 

 瞬間、悲鳴を上げる暇もなく直哉が吹き飛ばされた。

 

 凄まじい勢いで吹き飛び、地面に激突するもバウンドしながら転がり続け、帳から出てもなお止まらず、帳から100メートル以上離れた場所でようやく止まった。

 

 直哉が自慢に思っていた顔面は、呪力でガードしていたにも関わらず、前歯と鼻がへし折れて拳の形に陥没していた。

 吹き飛ばされ、地面に激突した衝撃により身体中の骨が折れ、服は破け血が滲んでいた。

 

 総じてボロ雑巾の様になった直哉は不気味な呻き声を上げながら白目を向いて気絶していた。

 

 戦闘開始直後、十秒も経たずに最初の脱落者が決定した。

 

「次は誰や?」

 

 返事はなかった。

 

 

side.『躰倶留隊』所属戦闘員

 

 開始と同時に直哉様が直樹様に目にも止まらぬ速さで攻めていった。

 その行動は初めから決まっており、直哉様直々にお話になっていた。

 曰く「俺一人で充分や。みんなじっくり見といてくれたらええで」と、直哉様の顔は壮絶な笑みを浮かべて言った。

 その顔を見た全ての『躰倶留隊』戦闘員は察していた。

 直樹様を一人で嬲り殺しにして愉しむつもりだと。

 

 そう予定されていたので、私は観戦気分であった。

 十も歳の離れた直哉様と直樹様の戦いの結果など見る前から分かりきっていると。

 それも、経験豊富で『投射呪法』を持つ直哉様と、経験浅く戦闘用の術式を持たない直樹様であれば尚のこと。

 

 だから私は、直哉様が戦うのを見ているだけであった。

 まぁ、私には直哉様が直樹様の近くに瞬間移動した様にしか見えなかったが。

 

 そして、直哉様は無防備な状態で直樹様に黒閃でブン殴られた。

 

 意味が分からなかった。

 直樹様は戦闘用の術式を持たないのでは無かったのか。

 

 そんな事を思いながら殴られて吹き飛んだ方向を見る。

 人間の力で吹き飛ばされたとは思えないほどの距離を殴り飛ばされていた。

 

 甚壱様の術式なら可能かもしれない、いや本当に可能なのか。

 

「次は誰や?」

 

 直樹様から声が掛かるが、声を出せなかった。

 直哉様でさえ一撃で瀕死に追い込む人間を相手にどうやって私如きが挑むと言うのか。

 

 と言うか、私はもう既に負けを認めていた。

 ここまで見事な動きを魅せられるならもうこの人が次期当主で良いのでは。

 

 しかし、私に降参は許されていない。

 扇様から直々に降参したら殺すと言われていた。

 

 私は二択を迫られていた、今から直樹様に殺されかけるか、後から扇様に殺されるか。

 

 選択する方は簡単だ。

 

 私の周りにいる『躰倶留隊』の隊員と目を合わせる。

 お互いに目で語り合い、一つ頷く。

 

 

 私達は前を向き、恐怖を紛らわす為に雄叫びを上げながら直樹様に突撃する。

 

 せめて痛くない様に倒して貰えること祈りながら。

 

 

 




 いかがだったでしょうか。今話も楽しんで貰えていると幸いです。
 今回も後書きは結構多いのでサラッと読み流してもらっても大丈夫です。

 さて、直哉を瞬殺した事に関してですが、これは直哉が舐めプをしていたからです。
 原作でも初戦闘の時は相手を舐めてかかっており、直哉は自分の実力に自信があるが故に、弱いと思った相手に全力で戦う事をしない男だと私は思っております。
 だから、直樹にも舐めプしていました。最大まで加速していない投射呪法の使い方と周りの助力なしに戦い、そしてカウンターで負けました。
 最大加速状態で戦っていると、もっとマシな戦いになりました。

 また、『躰倶留隊』の人数が少ないのも直哉の慢心が半分の理由で、もう半分はメタ的にそんな多くても困るという理由です。
 直哉の慢心というのは「『躰倶留隊』なんて術式もない雑魚やし、そもそも俺一人でもええからそんな数要らんやろ。十人ぐらいでええで」ぐらいは考えそうだなと思い、こうなりました。

 次に、直樹が『落下の情』を使いこなしている事に関してですが、これは直毘人の教えがあった事と、直樹自身のセンスです。
 直樹自身のセンスが高い理由は、実際に異世界にて死地にいた回数が多い事と、実際に死んだ経験があるからです。
 1話で軽く語っていますが、12歳の頃に臨死体験でAngel Beats!の世界に行って死と蘇生を何度か繰り返しています。
 それらの経験により呪力を扱うセンスはかなり高くなっております。
 

 それでは今回も読んでいただきありがとうございました。
 次回も楽しみに待っていただけると幸いです。
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