転⇒セバ⇒オミ⇒転
堕ちて2周目を始めよう・1
1
君との出会いは、決闘だった。
希望に満ちた初めての授業で、目を合わせた君はこちらを試すように笑った。
勿論私は本気を出した。君はどうだったのかな?
君との別れも、決闘だった。
絶望の底の果て古代魔術の結晶の前で、目を合わせた君は信じられないものを見るように泣いた。
勿論私は本気を出した。だって決して負けられなかった。
さあ。君と感動の再開で、三度目の決闘をしよう。
希望も、絶望も、全部全部飲み込んだ。目を合わせた君は、どんな顔をするだろうか。
杖を取って。私は、いつだって君に本気で向かうから。
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2
闇の魔術に対する防衛術の授業の前に、リアンダー・プルウェットと杖を使った予習を楽しんでいたら、こちらをニコニコ見つめる瞳と目が合った。
この授業は楽しい。実践的であるし、大抵のことはヘキャット先生の手の中で軽く片付けられるから、少しの無茶は目を瞑られる。
面白そうに僕らの決闘を眺める噂の転入生のため、僕はほんの少しの変化球をリアンダーに放った。
「ボンバーダ!」
「プロテゴ!」
勿論リアンダーの防御呪文はよんでいる。跳ね返された僕の魔法の威力は、しかし真っ直ぐと上へ。
リアンダーの頭上でぐらついた骨格標本が彼を押しつぶす前に、ヘキャット先生がその場をいさめた。
多くの生徒が悲鳴や驚きの声を上げた中、転入生が苦笑するように笑っていたのが少し気になった。
「決闘に勝る練習方法は無いからね」
そう言ったヘキャット先生に促された僕と転入生は、浮き上がった舞台で対峙する。
「ホグワーツ式の歓迎だな」
「僕、達人だから。よろしくね」
隙なく杖を構えた彼は、ニコニコした笑顔のまま、けれど好戦的な目を向けた。
――へえ。悪くない。
研ぎ澄まされたような緊張を感じ取って、僕は彼への油断を引っ込め真剣に向かい合う。
プロテゴ、レヴィオーソ、基礎呪文。
果たして三つの魔法しか使えないただの授業の決闘は、まるで人生の宿敵同士のような激しさで、その後しばらくホグワーツ中の語りぐさとなった。
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3
新しい転入生は人気者になった。
親友のセバスチャンとの決闘は、授業の域を超えていたそうで、驚きと称賛で一気にヒーローだ。
素人に本気を出したのか?と尋ねたら、今まで魔法に関わったことがないとは思えないくらい呪文を使いこなしていたぜ、とセバスチャンは思い出して楽しそうに笑っていた。
親友はかなり強い。同等に対峙できるなんて、そんなことがあるのだろうか。
「さあ。魔法は素人でも格闘技の経験があるんだろ。勘が良くて身のこなしも抜群だった。使った呪文は三つだけだし、プロテゴと基礎呪文は、その日に習ったわけじゃない。流石フィグ先生ってことかもな」
そう言ったセバスチャンは、転入生を早速杖十字会へ誘い、快い返事をもらったと上機嫌だった。それが第一週のこと。
さらに、転入生は強いだけではなかった。
授業態度も良く、積極性に溢れ教師からは好印象。人当たりは柔らかで、困っている人を見たら手をさしのべる気安さで、あっという間に学生の間でも大人気という。
(確かに、ホグワーツの生徒は問題を起こすものも多いが)
転入してきてまだ日が浅い転入生が、噂になるほど、毎度トラブルに遭遇し対処しているなんて不可思議だ。
そんな違和感を覚えたところで、5年生初の魔法薬学の時間に彼は話しかけてきた。
「やあ。こんにちは。僕は……」
「ああ。その声。”噂”の転入生だろ」
そう、噂の。
ドラゴンの噂、まだ消えてないんだね。なんて言っている転入生を鼻で笑った。
最近はセバスチャンとホグズミードへ行ってトロールを倒したり、杖十字会で連勝したり、彼は新しい噂がどんどん立つ。
「俺に何か用か?セバスチャンはあっちだぞ」
「僕、初めての授業だから、シャープ先生に近いところで受けようと思ってね」
そう言いながらも、彼が迷いなく鍋をかき混ぜる音がした。
軽い自己紹介をした後、「あ、オミニス。それは数滴程度しか入れないから気をつけて」なんて、のんびり俺に横やりを入れながら作った彼の魔法薬は、あのシャープをして、学生の作るものでは高品質、と言わしめた。
「へえ。珍しく、オミニスのウィゲンウェルド薬が、ちゃんとウィゲンウェルド薬になってるじゃないか」
「……セバスチャン」
「なんだよ。初めてで完璧な魔法薬を作れた転入生はそりゃあ相変わらず凄いけど、僕の中ではオミニスが失敗してない方が驚きだぜ」
ははは、と冗談めかして笑う友人の言葉に、俺の足は床に張り付いたように固まった。
今日が初めての魔法薬学の授業なのに、転入生が完璧な薬を作ったことにばかり気がいっていたが。
(――どうして俺が、”魔法薬学を苦手としている”と知っているんだ)
まるで手伝うかのような彼の言動を思い出す。さて、彼はいったい何者だ。
俺は一息吐き出して、同級生に囲まれている明るい声の方へ見えない瞳の視線を送った。
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4
何が悪かったのかな。と考えた。
一生懸命やったことが、必ずしも結果として表れるわけではない。幸せになれるわけではない。そんなことは、たった十数年生きただけでも、もちろん十分に分かっていたことだった。
(フィグ先生はいなくなってしまった。アンも、結局助けられなかった)
闇の魔術を除いて本当にいろんな方法を検証して、それでも、それでも駄目だった。
強い呪いは、かけられるときに弾くことが最善でほぼ唯一の方法。それ以外は、術者にしか解けないことが多い。
しかし、アンに呪いをかけた術者――ルックウッド――は死んだ。そう、彼は、私が殺した。
だから、結末はセオリー通り。どんな努力も、過程も、結果にはならない。奇跡は起きない。
(ああ。私が助けたいと、一番に思っていた人たちは、結局助けられなかった)
何が悪かったのかな。と、古代魔術の結晶を背に考えた。
目の前で、ホグワーツの地下施設に唖然とする友人を、久しぶりに表情が変わったなあ、なんてぼんやりと眺める。
アンを失って、闇の魔術を使って、きっと魂が半分になってしまったセバスチャン。
私は、君の笑顔が大好きだったのに。
「……君は、何を、しようとしている」
「全てのものに、さようならを」
よからぬ気配を感じた彼は、最近人に向けることを極端に嫌がるようになった杖を私に向けた。
何が悪かったのかな。と、私もセバスチャンに杖を向けて考えた。
(分かっているよ。私が、君を、盲目的に好きになったことが。きっと)
アンを助けたかった旅で、不思議な砂を手に入れた。
時をほんの少し操る砂。古代魔術と混ぜたら、どうなるだろうか。
「ああ。駄目だ、君まで、いなくなるなんて……!」
――五年生で突然現れて、当然のように側にいて、そうして突然、当然のように消えていくなんて。
何となく分かるのは、どんなに巻き戻っても、私の古代魔術の力を根本とする以上、それが発現したときだろうな、ということ。
(せめて、一番悪かった原因だけは何とかならないかな)
願ったものの、まあ何でもかまわないか、とレヴィオーソを唱えながら、私は泣いている君に対峙した。