セバ⇒転⇒オミ⇒セバ⇒守護者
1
オミニスと食堂に向かっていると、やあ、と声をかけられた。
今日も何処かへ行っていたらしく少しほこりっぽい彼に、スコージファイをかけてやると、目を輝かせて呪文を教えてほしいと頼まれる。
「こう振って、こう。ほら、君ならもう出来るだろ」
「うわ、ありがとうセバスチャン!そうだ、よかったら君も行かない?」
「行くってどこに?」
昼食はあまり食べないと言っていたが夕食は食べるだろう、と食堂へ誘うつもりだった僕を、逆に彼が何処かに誘った。
オミニスをちらりと見る。別に行ってきて構わないぞ、という顔をしていたので質問の先を促すと、彼はニコニコ笑ってしれっと言った。
「地図の間だよ。そろそろ閉めるって言ってたから、挨拶に」
え?それ僕が行ってもいいのか?と驚いた僕に、なんならオミニスも行こうよ!と相変わらず軽く言葉を返した。
【いざとなったらオブリビエイト】
(大丈夫、駄目だったら忘却呪文をかけられるだけだよ)
(全然大丈夫じゃないやつだろう、それ)
(君、古代魔術の守護者と思えないぐらい軽いよな)
(おや、褒められてる?)
(ああ、褒めてるぜ?)
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2
こんにちは!と朗らかに声をかけたつもりなのに、地図の間の肖像画達は微妙な顔をした。
「君は、秘密、という言葉の意味を知っているかね?」
「結構身に染みてる方だと思ってます」
困惑した表情の肖像画達に、まあまあと笑うと、困った子だなとラッカム先生は微笑んだ。フィグ先生とは違うけれど優しい笑みに嬉しくなる。基本的に僕は、優しい人が好きなのだ。
そういえば、とせっかくなので気になっていたことを尋ねてみた。
「サン・バカーの塔の試練って、なんでバカー先生じゃなくてラッカム先生の肖像画だったんですか?」
「バカー先生が、第一の試練から『ケンタウルスに認められる』という少々難しい試練にしようとしたからだ」
守護者みんなで、それは第一の試練にしては少し困難すぎないか、と止めたという。
(……少し?……少々?)
思い出す逞しく気難しいケンタウルス達。いや、認められるの、無理じゃない?
今も僕は認められているとはいえないだろう。しいてあげるならば、その試練がクリアできそうなのはポピーだけだ。
「私の友人達は、私よりも人を見る目がある」
「バカー先生、ケンタウルスと友達なんですか?」
「君は禁じられた森にある星見台を知らないか?あれを設置したのはバカー先生だよ」
禁じられた森は彼の庭だ、と言われた言葉に、サン・バカーの塔の立地を思い出す。なるほど、バカー先生はグリフィンドール。確かに禁じられた森に近かった。
【なお、サン・バカーの塔ではケンタウルス座が観測できる】
(仕方が無いから、バカー先生と友人の私が、代わりにあの塔と第一の試練の守護をすることになったのだ)
(あれ?ラッカム先生って占い学の先生じゃないんですか?)
(そうだが?)
(占い学と天文学の教授が仲良し……?)
(意外だな)
(よく考えると意外でもないんだけど、意外だよな)
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3
俺は、初めて足を踏み入れた地図の間に、不思議な感じを覚えた。なんだかふわふわと浮かんでいるような、足下が不確かな感覚。
かわって、楽しそうに彼とおしゃべりをする守護者達は、普通の肖像画と変わらないように思えた。
「ところで、そちらの君は?」
「ああ。彼は、オミニス・ゴーント。彼も僕の友人です。そして、イシドーラの道を開けた張本人です」
突然振られた俺の話にびくりとする。
さすがに肖像画の視線は感じないから、彼らの声のする方を向くと、ゴーント、と呟く声が聞こえ目線を下げた。
「……そっちのサロウ君の方がよっぽど”それ”らしいな」
「それはどうも」
「セバスチャン、褒められてないよ?」
分かってるよ、と笑う親友に気遣うように肩を叩かれ、ふっと緊張がほぐれた。
「――君が、イシドーラの扉を開けたのか」
かけられた優しそうな声に、顔を上げる。フィグ先生が彼に向かって話しかけるときのように、慈しみを含んだ声音だった。
それが、誰に向けた慈しみなのか、すぐに分かる。
ああ、伝えるべきだ。そう思った。
「……あの。俺が感じたイシドーラ・モーガナークは、”いい人”でした」
「オミニス?」
不思議そうに返したのは彼だったが、守護者達は黙っている。
俺は、彼女の日記を見ました、と続けた。
「イシドーラは、人を救いたい、世界を救いたいと願っていました。驕ることなく、彼女は託そうとしていました。だからこそ、保管所を残したんだと思います」
セバスチャンが見た記憶が確かなら、力を全て自分で吸収することも出来たはずだが。しかし彼女は、それをしなかった。
その行動の是非は別だ。やってはいけないと、俺が友人ならやはり全力で反対した。でも、”友人ならば”と想像できるほど、彼女が”いい人”だと思ったのは本心だった。
【イシドーラはセバスチャンに似ていた】
(オミニスが一番、いい人だよね)
(本当だな)
(何だ、君たちは)
(……イシドーラにも、君たちのような、友人がいれば良かったのだろうか)
(……いいえ。どんな友人であっても、止められない悲劇はありますよ)
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4
妹の調子はどうだ?と声をかけられて、一瞬ぽかんとした僕は、あ!と悟った。
「アンの呪い、解いてくれたのは、」
「フィグ先生だよ」
そう彼は言ったが、このチャールズ・”ルックウッド”が絡んでいないわけが無い。
「あのとき、燃やさなくて良かった……」
「そんなことしようとしてたの!?」
「君が、なぜサロウ君をそんなに信用しているか分からないが、彼はおそらくそういうことをする性格だぞ」
楽しそうに笑う肖像画。何故燃やされそうだったという話を聞いておきながら笑えるのか。そう考えている僕に友人は、チャールズ・ルックウッドはスリザリンの寮監だったと教えてくれた。
「君は良くも悪くも、スリザリン生らしい」
「僕は、スリザリンらしくないって言われることの方が多いんですけどね」
「セバスチャンは優しいからね」
僕の皮肉に間髪入れずに返した彼を振り返ると、とても満足そうに笑っている。
君のおかげで、その優しい僕のままでいられたんだけどな、と思ったが、それは別に言葉にする必要は無かった。
「アンのこと、ありがとうございました」
「いや、私と同じ名を持つものがしでかしたことだ。彼が言うように、フィグ先生によく感謝するように。君が、"取り返しのつかない危険"を冒す前で良かった」
「――はい」
頷いた僕に、底を見透かすような真っ黒い油絵の具の瞳で、しかし、微笑みを浮かべたチャールズ・ルックウッド。
ああ、僕にオブリビエイトをかけたのは彼だろうな、と思った。
【闇の魔術を知るものは、闇の魔術を許さない】
(やっぱり、僕だけ疎外感を感じるんだけど)
(愛されてるからね)
(君、そう言えば、僕が何でも絆されると思ってないか?)
(絆されてるじゃん。照れない照れない)
(セバスチャン、嫌なのか?)
(オミニス!君までそんなことを!)
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5
じゃあ、これで帰ります。先生方、さようなら。
――校長先生、お願いします。
そう言った19世紀のホグワーツ生は、私たちのよく知るホグワーツ生らしい笑顔で笑っていた。
【お話はこれでおしまい】
(やっぱり覚えていないな、場所)
(そうだね、僕も忘れちゃった)
(守護者なのに?)
(大丈夫、必要だったら辿り着くよ、そういうものだもの)
(君は軽いな)
(おや、褒められてる?)
(ああ、褒めてるぜ)
完結です。ご精読ありがとうございました。
ゴールデンウィークに2周目を遊んで、そのまま勢いで書いたものなため、可笑しなところもありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
次のページからは、別の話が始まります。
※バカー先生は公式ではスリザリンだそうです。
※肖像画は魔法使えないはずが忘却呪文を使っている矛盾は目を瞑ってください。