エメラルドグリーン。その鮮やかな緑が死の色というのは、非魔法族も、魔法族も変わらない。
目の前の男に直撃した目映い閃光が放たれた方を見ると、その瞳に確かな憎しみを乗せたセバスチャンが、僕がアンを救うんだと、強い意志をこめて叫んだ。
まずい。まずい。まずい。今のはおそらく死の呪いだ。これはまずい。
アンを救っても、君が救われない。このままでは、そんな不条理が待っている。
――――――――――
14
ポピーに魔法生物の世話を手伝ってもらうようになってから、魔法生物の飼育園には一気に魔法生物が増えた。
ディークとポピーが結託したのだ。
今日も今日とて、必要の部屋で地図を広げて、魔法生物の巣と密猟者達の拠点を指さしながら二人でわいわい話している。
明日は変身術の上級者向けテストがあるから、どうか近場で……そう祈った私を振り返り二人が言ったのは、マナー岬。
遠いよ、と私の気も遠くなったところで、同じく変身術のテストを控えているセバスチャンが苦笑いした。
「ポピー、流石に日帰りできない。門限どころか、明日の授業にすら間に合わないだろ」
「うん、分かってる。今日行こうって訳じゃない。本当はすぐにでも行きたいけど。でも時間が出来たら一緒に行って欲しい」
「僕は今週末は罰則消化で、来週は一度フェルドクロフトに戻る予定なんだ。……仕方ない、週末の罰則すっぽかすか」
「うーん。それなら二人で行こうか、ポピー」
セバスチャンがいないのはかなり戦力ダウンだが、ポピーの方はポピーの方で急ぐだろう。
セバスチャンが一人で罰則をすっぽかすのは別に構わないが、それで私たちと遠出したら、私たちまで罰則に巻き込まれるじゃないか。その罰則、ガーリック先生の結構面倒なやつだって知っているんだよ。
いい笑顔で笑ったセバスチャンを切り捨ててポピーに提案すると、彼女はそれで問題ない、と近くの植木鉢の噛み噛み白菜――彼女の主力武器である――を収穫し始めた。
「マナー岬って、ヒッポグリフいるんだね」
「うん。この辺りは魔法生物の巣がたくさんあるよ。……実は近くに、今は誰も住んでいないちょっと不気味な荘園主のお屋敷があるんだけど、そこに近頃アッシュワインダーズが立ち入ってるみたいなんだ。密猟者の拠点にされるかもって気がかりで」
そうして週末。ポピーと二人で魔法生物の巣を確認し、檻を破壊したり、罠を解除したり、明らかに狙われていそうな生き物達を保護して回った。
マルワンウィーム、クラグクロフト側は、人が住む場所や立ち入る場所と、生き物が住む場所が比較的分けられている。だから魔法生物の巣が人目に付きにくいこともあって、少し前まで密猟者はこちら側を拠点としていたと聞いた。
もちろん魔法生物たちだってそれを心得たもので、断崖絶壁の上や崖の直下などに巣を作っている。
爆発的に密猟者が増えなければ、多少は対処できるように適応しているのだ。
「……じゃあ、その荘園主の屋敷を見に行ってみようか」
「セバスチャンいないけど、大丈夫かな」
大丈夫、大丈夫。と不安そうなポピーに微笑んだ私を、しかしこの後自身で恨むことになる。
まさかのルックウッド組織幹部。いつもにも増して湧き出る亡者達。
ポピーを庇いながら何とか応戦するが中々きつい。亡者は燃やさないといけないから、ポピーは残念ながら戦力外だ。コンフリンゴが得意なのは彼女じゃ無い。今頃、薬草園で延々とマンドレイクの植え替えをさせられているだろうセバスチャンを、手伝ってやるから手伝って!と召還したかった。
(――本当に、こんなところを拠点にするつもり?)
アッシュワインダーズの幹部が一人で、こんなボロボロの屋敷で何をしていたのか。部下が一緒に複数人いるならまだ分かる。何故この女幹部は、たった一人でこの場にいたのだろう。
何か手がかりはないか、と地下にあった手紙のようなものを何枚か拾ったが、どうやらアッシュワインダーズのものでは無く、グリンゴッツの呪い破りが残した最期の記録のようであった。
こんなに亡者が出るなんて、不気味を通り越して呪われているんじゃないかと悪態をついていたが、本当にこの屋敷は呪われているらしい。勘弁して欲しい。
「こっち!ここに仕掛けがある!ここから出られるよ!」
「ありがとう!ポピー先に行って!」
じり貧で追い込まれた先、まさかの脱出口発見で間一髪何とかポピーを逃がす。
外が安全だとは限らないが、捕獲袋は今ポピーが持っている。ハイウィングがいるのだから、逃げることぐらい出来るだろう。
(……これで、憂いは無くなった!)
反撃だ、と杖に緑色の光を灯す。
多勢に無勢になるかもしれないから、とセバスチャンが教えておいてくれたインペリオ。
ポピーを庇いながらだとなかなか呪文を唱える隙が無かったが、一人なら別だ。
避けるという行動がとれるのなら、私はおそらく負けない。
助かったよ友よ、と笑いながら、私は呪われた亡者達に新たな呪いをかけた。
-----------------
15
ポピー、ウィゲンウェルド薬ちょうだい。そう言った彼女は、左足に酷い火傷を負っていた。
私を先に逃がしてから中々出てこなかった彼女を心配していると、大きな地響きがしたと同時に、彫刻の仕掛けから、ずるりとアッシュワインダーズ幹部を引きずりながら出てきた。
どうしたの?と手当てをしながら尋ねると、全部火薬樽にしてからコンフリンゴで燃やしてやった、と底冷えする暗い瞳で笑う。
じゃあ、”それ”はどうするの?と、意識がもうろうとしているアッシュワインダーズに目をやると、少し考えて、彼女は笑ったまま言った。
「古代魔術で、痛みが抜けるっていうペンシーブを見たと言ったよね。――ポピーが言うように、まずは実験してみようと思って」
「ああ。それでセバスチャン、置いてきたんだね」
罰則と比べれば、生息地巡りと密猟者退治の方がずっと大変だ。城に近いならまだしも、ここはマナー岬。
セバスチャンがすっぽかすつもりだった罰則を、二人で手伝って三人で終わらせる。その方法だってあったはずなのに、むしろその方が楽なはずなのに、どうして彼女は私と二人で来たんだろうと思っていた。
彼女の古代魔術の話を、私はほとんど全て聞いている。
私は「地下聖堂」と彼女たちが呼んでいる場所には立ち入っていないから、実際にペンシーブを見たわけではないけど、”痛みを抜く”古代魔術についてセバスチャンが凄い凄いと褒めていた。
対して彼女は、珍しく随分と慎重な態度をとっていて、セバスチャンの意見を受け入れつつも、使用は少し待って欲しいと条件をつけた。
「安全かどうか、確かめるから」
「わかった。ありがとう」
で、安全かどうか、確かめる術がこれだというわけだ。
彼女は器用で才能もあるものだから、5年生からの新入生という特殊な条件なのに、あまり呪文に失敗するという経験が無い。
(それも本当に凄いけど)
セバスチャンに難しい呪文を習うとき、失敗しそうな呪文は防御魔法を張った上で取りあえず受けてみるという豪快な方法をとっている。
だから、自信は無いし効果もよく分からない自分しか使えない古代魔術の安全を、どうやって確かめよう、と悩んでいた。
「そんなの、試すしかないと思うけど」
それがどんなに人でなしな発言か私は分かっていたけど、それしか無いように思えた。
直接アン・サロウにかけるのは勿論駄目だ。その前に、試してみるしか無い。ただし、どうやっての部分は流石に言葉に出来なかった。
「なるほど。じゃあ、密猟者か、アッシュワインダーズに襲われたときにやってみるよ」
しかし、その手があったか、と何故か感心した様子の彼女は、私が濁した言葉の先をいともあっさり言ってのけた。
-----------------
16
アンを助けたかった。いや違う。助けただけだ。
そう言い訳を繰り返す僕を慰めてくれたのは、親友でも、最愛の妹でもなく、ひと月前にようやく友達と呼べるような間柄になったばかりの二人の同級生だった。
夜半を回った頃に、とても大切な用事があると必要の部屋に呼びつけた二人の女の子。
いつもだったらその非常識さに苦言を呈すなり軽口を叩くなりしただろうが、そんな元気も無かった僕を、マフラー、外用の分厚いローブ、耳当てと重装備で着飾り、ぽいっと箒に乗せた。
欠けた月が照らす冬の夜空。雲が広がり月の光を反射して薄明るく、細かい星が微々たる数、ただ無造作とも言えるように散りばめられた、そんな夜だった。
暖かいコーヒーも、雪山での歌も、二人の声も、背に触れた手も、ただ優しかった。
僕の行動を肯定しない。でも否定もしない。二人にとっては、闇の魔術を人に使うことが悪い、なんていう常識は通じない。
あるとすれば、そもそも『対人に限らず闇の魔術を使うこと』が良いか、悪いかだ。
生き物の命を括らないポピーと、扱う魔術が”自身へ与える影響”に重きを置く彼女は、けれど、私たちに毒されちゃ駄目だよ、なんて笑った。
つい先日、古代魔術での痛み除去は使えない、と言って、城から少し離れた廃墟で、がらんどうの瞳の密猟者を見せてきた彼女たち。
その踏み外した行為が、僕が頼んだ、僕のための行為だと分かっているから、戦慄し腹の底から何かが沸き上がってきても、拒絶なんて出来なかった。
(僕は、どうしたいんだ)
アンを助けたい。失いたくない。今度こそ。今度こそだ。守りたい。その思いだけは絶対なんだ。
もしも、そのための手段が、闇の魔術しかないのなら。と、カップを持つ手に力を入れる。
「その結果、アンに拒絶されても?きっと、分かってもらえないよ。それは、失うこととは、違うの?」
「アンのために、アンを助けるためだけに使うんだ。何か、悪いことに使うわけじゃない。それでも分かってもらえないなんて」
「結果と、手段とどちらが大事かってことなら、基本的にはそりゃあ結果が大事。自分以外の他人に影響を与えるのは結果だもの。でも、自分に影響を与えるのは手段だよ、セバスチャン。アンは君の半身でしょ?」
それでも救いたいというのなら、血反吐を吐く覚悟が必要だ。と言って彼女はゆるりと微笑んだ。
引き留めてるのか、唆しているのか。ゴクリと暖かくて苦いコーヒーを一口飲む間、珍しくポピーが、あのね、と僕らの話を遮った。
「二人には話してもいいかなって思うから、私が育った場所の話、聞いてくれる?」
少したどたどしい話し方。同級生よりも小さな背。
やや人間不信の性格。距離を置いた態度。
変わり者と呼ばれる原因となった、入学当初の驚くような浮いた行動の数々
魔法生物を愛する理由。一線を越えて、人間と魔法生物をまるで同列に扱う理由。
密猟を絶対に許さない訳。
――私の両親はね、密猟者なんだ。
そのたった一言で、僕たちはたくさんのことを悟った。
「きっとあの人達の考えは変わらないと思うけど、私は両親に会いたい。会って、密猟なんて止めて欲しいって説得したい」
密猟者には密猟者の言い分がある。
ポピーに頼まれて、いくつかの密猟者の拠点を潰すときに、彼らは実に様々な言い訳をいった。
たくさんいるのだから構わない。家畜と何が違う、動物に食わせてもらっているだけだ。これが仕事だ、生活の糧なのだ。
反論が思いつくものもあれば、咄嗟には答えられないものもある。けれど、どんなに反論が難しい理由だとしても、人として相容れないのだ、密猟という考えと。
「セバスチャン。私は闇の魔術に対してはなんとも思わない。魔法なんて使わなくても、もっと酷いこともできるから。でも、闇の魔術を受け入れない人は、どんな理由だってきっと拒否する」
考え方の違いで家族と決別した優しくて悲しい少女が、必死に僕に訴えていた。
-----------------
17
「こんにちは、大道芸人さん。この間は、リュートを融通してくれてありがとう」
「やあ、ホグワーツ生さん」
アッパーホグズフィールドの酒場で曲を奏で酒を驕ってもらいながら、酔わないように生姜をかじっていると、相変わらず神出鬼没な少女が笑いかけてきた。
彼女は今日も黄色いローブを着ている。
初めて声をかけてきたときは緑色だったのにと尋ねると、「ゴーントを探すハッフルパフ生なんて”らしくない”から」と分からないようで、よく分かる理由を述べた。
要は はったりだ。相手を納得させるための小芝居ともいうそれは、結構大事な小細工だった。
なるほどねえ、と笑う僕の隣で、今日も彼女はエールを二人分頼む。
「今度はどの楽器が欲しいの?」
「今日は、物語を教えて欲しくって」
それはまた、僕のような大道芸人向けの依頼だ。
どんな話?と聞くと、謎のマントと杖と石が出てくる話だ、と彼女は言った。
「君は、マグル出身なんだね」
「どうして?」
「そりゃあ、その話を知らない魔法族は少ないからさ」
魔法族では最も有名なお伽噺の一つだ。
僕は音楽が飯の種だけど、吟遊詩人の物語は客に頼まれることも多く、語り慣れている。
最強の杖、透明になれるマント、死者の魂に会える石。「死」が与えたこの三つの秘宝を全て手にしたものは「死を制する」という伝説だ。
「死」から秘宝をもらった三人兄弟は、それぞれの最期が幸不幸ばらばらであったとしても、結局誰も「死」から逃れられはしなかった。
それでも、人は思うのだ。
自分だったらどれをもらおうか、と。
そんなことを語ってあげると、彼女は目をぱちくりとさせて、知ってる秘宝の効果と少し違うと呟いた。彼女が見た童話では、杖は死の影を追い払えたし、マントを被れば死の影に近づいても、なんなら踏みつぶして倒すことも出来たし、石を使えば死者が起き返ったという。
(それはまた、随分誇張された本を読んだものだ)
吟遊詩人ビードルの物語が最も有名だが、他の文献による死の秘宝と三人兄弟にまつわる物語だってある。ちょっと展開が違うぐらいならあり得るが、死の秘宝そのものの効果が大きく違うのは珍しい。
「死の秘宝は、全て実在するとまことしやかに囁かれている。少なくとも、ニワトコの杖はその奪い合いの歴史が知られている。勿論、僕にはそれが本物かなんて分からないけどね」
「……まあ、非魔法族のお伽噺の世界がここにあるんだから、魔法族のお伽噺だって実在するか」
なんなら、ニワトコの杖はその素材まで知られている。ニワトコの木とセストラルの尾だ。ただし、歴史に模造品は数あれど、やはり最強の杖という本物のニワトコの杖は別格なのだそうだ。
君はどれが欲しい?と僕はいつもこの話をした後にお客さんへ問いかける。彼女はうーんと悩んで、マントかな、と頷いた。
「強い力を狙う奴らには辟易してるし、割に大して役に立たないから最強の杖はいらないし、その蘇りの石は中途半端で微妙だし、なんかくれるって言うならマント。でも、私呪文上手いから、目くらまし術で結構十分だけど」
「君は死が怖くない?」
「怖い、と思うけど、それを退けたいか、制したいかと聞かれれば、そんなことも無いと思う。自分の命はそりゃあ何よりも大事にするけど、でも必要ならいつだって簡単に差し出すよ」
そう言って笑った彼女から、ぱちりと強い魔法使い独特の、いや、それよりも少し異質な魔法の波を感じた。
今日もありがとう、と言って席を立った背を見送りながら僕は思う。
(……君に似合うのはきっと、最強の杖だ)
死を受け入れた者が、既に訪れた死に心惑わされることなく、逃げることを止め自分で死に向かい合ったとき、訪れるのは「安らかな死」だ。
「死」とは恐怖である。だから死を制するとは、「死という恐怖」を安らかなものにする、ということなのだ。
これが、お客さんからこの物語について意見を尋ねられたときの僕なりの答えだったが、残りのエールを飲みながら僕はぼんやりと考える。
やっぱり、本当に死を制する方法があるんじゃないだろうか、と。
強い魔法使いとは、えてして人に夢を見させるものである。
-----------------
18
必要の部屋に行くと、ディークがそわそわと寄ってきた。部屋の主はまだいない。
この屋敷僕妖精は好きだった。魔法生物を本当の意味で愛してくれている。
最近はセバスチャンをあまり見かけなくなった。
遺物がどうのと言って、正直私には難しくて分からない本をここでたくさん読んでいたのに。
酷く落ち込んでいた彼は、彼女と連れ出したあの夜、少しだけ元気になったように見えたけれどやはり思い詰めた顔をしていて、危ないことを一人でするんじゃ無いかと心配だった。
彼女も、彼も、強い魔法使いは自分の問題を自分で解決しようとする。
その内容を打ち明けてくれても、その人にしか出来ないことであれば利用しようとすることはあっても、結局頼ってはくれないのだ。
彼らが魔法生物を救いたいという私やディークの願いを手伝ってくれるように、私だって彼らの役に立ちたいな。そう思って、ふと、これが友愛なんだと気がついた。
「今日はどうしたの?ディーク」
「実は、ご相談したいことがあります」
ちょうど彼女が部屋にやってきたので二人で話を聞く。
この屋敷僕は、本当に凄い。
(まさか、不死鳥の巣を知っているなんて……)
そういえば、ハイウィングを救ってくれたという話をナティから聞いたとき、ルックウッドが不死鳥を探すよう指示した紙もあったと言っていた。
「それは心配だね。ハーロウと密猟者達より、先に見つけて保護しなくちゃ」
「はい。お二人ならお任せして安心だと、ディークは思っています」
ディークに力強く微笑んだ彼女に、あれ?と思った。
彼女とナティの活躍については、ホグワーツでちょっとした噂になっている。
アッシュワインダーズに囚われていた子供や人質にされていた人々を救ったとか、ハーロウを追い詰めるための証拠を提供しているとか。
ハイウィングを助けてくれたのもその一環だった。
彼女は常に噂の的で、いつだって魅力的な笑顔で堂々と噂を纏っていた。
「密猟者達より先に不死鳥を保護できて良かったね、ポピー」
「うん。私、不死鳥があんなに風格があって美しいなんて知らなかった。ディークが憧れるの、よく分かる」
不死鳥の巣に辿り着くと、そこはもう荒らされていた。
どう見ても、密猟者だけで探していたわけでは無さそうだ。まるでゴブリンの鉱山のような装置が動いている。あんなもの、密猟者が作れるはず無い。
元は鉱山だった?と思った私の呟きを、彼女は否定する。
「入り口がとても小さくてしかも段差になっていた。鉱物を運び出すようには見えなかったよ」
「でも、ランロクの信奉者はいないね」
「そうだね。だけどこの地方は特に、ランロクの信奉者達と密猟者の組み合わせをよく見かける。ゴブリンが関わっていても可笑しくない」
さあ帰ろうか、と洞窟の外に出て箒を取り出した彼女は、私の前を飛んだ。
冬の風は強い。でも、彼女の箒は安定していたし、後ろを飛ぶ私は風の影響が少し弱まる。
箒での飛行は寒くて冷たいのに、優しい心遣いに暖かい気持ちになった。
その反面、飛ぶことに余裕が出来た私は、先ほどの引っかかりを考える。
ナティは、不死鳥を探しているのはルックウッドだと言った。
(でも、彼女は、ハーロウと密猟者が不死鳥を探していると思いこんでいる……)
一般の人には分かりにくいだろうけれど、密猟者とアッシュワインダーズは、違う。
密猟者は、現在ルックウッドが率いているとはいえど、その発端はルックウッドではないのだ。
あくまで密猟者のいくつものグループがあって、それを「組合」として纏めているのがルックウッドなだけ。つまり、既にその仕組みでいえば、別に「組合長」という地位に就くのはルックウッドでなくてもいい。
しかし、アッシュワインダーズはそうじゃない。
あの組織はルックウッドの私兵だから、ルックウッドがいないと成り立たない。
二つの組織で大きく違うのはルックウッドへの「忠義」といっていい。もちろん、アッシュワインダーズの中には脅されて与している者もいるのだろうけど。
密猟者の上前をはねているとはいえ、密猟者は獲物を狙ったり追ったりして簡単に入れ替わるから完全な統治は難しい。
ルックウッドが密猟者とアッシュワインダーズを別の組織としてあえて存在させているのは、その各々の組織に求めるものが全く別のものだからだと思う。
ハーロウも、アッシュワインダーズも、密猟者も金儲けをしたい。それに加えて、アッシュワインダーズはルックウッドの私欲のために動かされる。
でも、ルックウッドが何をしたいかは分からない。
私に見えてきたルックウッド像は秘密主義者。結局個人プレイヤーだった。
(――まるで、私の友人達のよう)
何をするかは教えてくれる。人を使うこともする。でも最終的な計画は彼らの頭の中で、その子細までは話さない。
だから、どこからもルックウッドの情報が出てこない。
それは、まさにその犯罪組織の中にいた私が、外から見るからこそ見える構造だった。
それに、もう一つ気がかりがある。
密猟者と、ゴブリンの組み合わせだ。
彼女の言うとおりルックウッドの目的が古代魔術なら、アッシュワインダーズとゴブリンの組み合わせの方が多そうなのに、大量のゴブリン製の武器が残されていたのは密猟者のキャンプ地だった。
それに、ホーンテールホールのドラゴンの首輪もそうだ。
密猟者とゴブリンが自然発生に結びつくはずが無いのだから、誰かがそれを結びつけている。
そして、「誰が?」――その問いへの答えは、とても簡単だ。
ランロクが。
そして、ルックウッドが。
見えないルックウッドの目的の手がかりは、もしかするとそこにあるのかもしれない。