作中時間軸の魔法生物と小話
1
ふわふわが集まっているから何かと思ったらセバスチャンがいた。
彼は意外に生物好きで、特にパフスケインとかディリコールのように、もふもふとした毛の魔法生物が好きだ。
よく考えれば、面倒見がいいというか世話好きのセバスチャンに、魔法生物が懐くのはとても納得がいった。
飼育園の日だまりの中で、一匹を膝に乗せて本を読んでるセバスチャンの周りに、撫でて欲しそうに集まってくるパフスケイン達。しょうがないなあなんて笑いながら、ブラシじゃ無くて自分の手でくすぐってやる姿はとても穏やかだ。
自動餌やり機を置いているからお腹はすかせていないだろうし、今日はあの子達の世話は大丈夫かなと思いつつニーズルにブラシをかける。
ちなみに、ユニコーンやセストラルは一番ポピーに懐いていて、ブラッシングをしようとすると一度ぐるっとポピーがいないか探すようになってしまった。えり好みするまったく贅沢な子達である。
とはいえ、どの魔法生物もここにいる間は健やかに過ごして欲しい。
ニーズルのブラッシングを終えた私はごろんと横になって、魔法でいつだって良い天気の空を仰いだ。
「――もふもふが集まっているから何かと思ったら、あなただったんだね」
「やあ、おはよう。よく眠れたか?もうすぐ夕食だぜ」
暖かく柔らかい日差しにうとうとしていたが、どうやら本当に寝いってしまっていたようだった。
かけられた声にぱちりと目を開けると、可笑しそうに目を細めて、ポピーとセバスチャンが私を上からのぞき込んでいた。
ああ、起こしてくれてありがとう。そう言って起き上がろうとするが、なんだかとても重い。
あはは、と笑ってポピーが私の胸の上にいたニーズルを持ち上げて、セバスチャンがお腹の上にいたニーズルを持ち上げる。
ちょっと軽くなった体を見回すと、あと三匹のニーズルが私の周りで丸くなっていた。
「重いなあって思ったんだよ」
「よく気づかずに寝てられるよな。本当に凄く重そうだったよ」
「ほら、あなた達もこっちにおいで」
ポピーがニーズルを私の上からのくように誘導してくれてやっと動けるようになったところで、セバスチャンが手を差し出した。
その手を取って起き上がった私の洋服をぽんぽんと三人ではたく。ふわふわしたニーズルの毛がたくさん付いていた。
ふと、ポピーが手を止めて微笑む。
「あなたも、お日様の匂いがするね」
今日はなんだかいい日だったなあと、私も二人に微笑んだ。
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2
「フウーパーやムーンカーフは音楽が好きだなんて、僕、君たちといて初めて知ったよ」
「呼び笛に反応することは分かってたけど、こんな風に踊り出しそうに体を揺らすなんて私も知らなかったよ」
「ホグワーツって楽器が鳴っている場所はいっぱいあるけど、自分で楽器を奏でられる場所は音楽室くらいしか無いもんね」
「僕は、君たち二人の演奏は嫌いじゃないけど」
「ふーん。じゃあ、また歌う?」
「はは、もう歌わないって。君たちは器用だなって話さ」
「もったいないな。セバスチャン、いい声なのに」
「まあ、ハッフルパフ生には音楽好きが多いからね」
「へえ。そうなのか」
「あれ?セバスチャン、ハッフルパフ生に不可欠なもの知らない?」
「勤勉さか、忠誠心だろ?」
「うーん、それは勿論だけど……ねえ、ポピー」
「うん。ほぼ必須なのはリズム感だよ。だって寮に入れなくなっちゃうんだもん」
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3
彼女の飼育園にはいろんな魔法生物がいるけれど、ずっといる子は実は少ない。
一時的に保護しても、密猟者の野営地を潰して安全になったら、彼女は出来るだけ元いた場所へ魔法生物を返すのだ。
捕獲袋を開けて外に飛び出した子達は、周りを見て、一度だけお礼を言うように彼女を見て、その多くがそのまま駆けていく。
それを見る彼女は、いつも少し寂しそうに微笑んでいた。
「野に返すのは、やっぱり寂しい?」
「そういうわけじゃないよ、ポピー。でも、必ずしも安全ってわけじゃないから、どうか元気でねって思うとね」
「そっか」
なるほど、と思った。
野に放った魔法生物たち。その多くはおそらく、自然の摂理に、そして密猟者に限らず外敵に、懸命に生きて、けれどその命を散らす。
彼らはペットじゃない。彼女の飼育園だって無限じゃない。
私は、生き物同士がそうであるべき場所で捕食し合うことを、自然な姿として生命の尊厳を感じ、むしろ好ましく思うけれど、彼女のように情の深い人は、分かっていてようやく折り合いをつけていくのだろう。
それはきっと、今日は一緒にいないセバスチャンも一緒だ。
そうして、彼女の飼育園に長くいる子は、外に出しても彼女の側を離れなかった傷ついた魔法生物ばかりだった。
大丈夫、大丈夫。と彼女はいつもそんな魔法生物の背を優しく撫でる。
でも、ふと目が合うと、困ったように笑って私に言うのだ。
「唆す笑顔っていうのは、魔法生物にも通じるものみたいだねえ」
そんなことないよ、と言いたかったけれど、きっとそれを彼女に言ってあげるべきなのは、私じゃなくてもう一人の友人なんだろうなと思った。
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4
君、飼ったことがないこの地方の魔法生物っていないんじゃないか?とグラップホーンの背に乗った彼女にくらりと目眩を覚えながら言うと、彼女は少し考えて首を振った。
ヒッポグリフ、ユニコーン、セストラル、グラップホーン、不死鳥……アクロマンチュラのように好戦的な魔法生物を除いて、これ以上珍しい生き物なんているのだろうか。
「まさか、本当にケンタウルスは飼ったことがない、なんて言わないよな」
はは、と冗談めかして言うと、ポピーがぎょっとした表情で僕を見た。
なんてことを言うの!と怒り出しそうな顔に、冗談だよ、悪かった、とすぐに謝る。
ちらりと彼女を見ると、「セバスチャン、馬鹿だなあ」という顔をしていた。少しいらっとした。
「飼ったことがないのはドラゴンだよ。卵持って帰ろうよって言ったけど、ポピーが駄目だって言うから」
「もう!あなたまで!というか、あれやっぱり本気だったんだね!」
密猟者と一緒になるから駄目だよ!今後も駄目!と今度は彼女がポピーに叱られる。
はあい、と項垂れた彼女に気持ちがすっとして、ついにやにや笑っていたら、セバスチャンも、あんなこと絶対外で言っちゃ駄目だよ!と怒られた。
「ざまあみろ」
「君もな」
彼女と肘でつつき合っていると、怒ってるような、困ったような、可笑しくて笑い出しそうな顔でポピーが僕らを見ていた。
まったくしょうがないなあと呆れるポピーと、3人で笑い合うまで、きっとあともう少し。
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5
セバスチャンを迎えに行くことに決めた日から、ディークと少しずつ飼育園の魔法生物を減らしていった。
数匹の、どうしても野性に返りたがらない子達だけディークに世話を頼むと、優しい僕妖精は微笑んで請け負ってくれた。
そうして、最後の最後に野性に返すことになったのは、不死鳥だった。
ディークを箒の後ろに乗せ、二人で不死鳥の巣の山を何度も見に行って、もうきっと大丈夫だろうと判断したのだ。
鉱山のような施設も全部破壊して、不死鳥を放したあと、二つの入り口を両方とも大きな岩で塞いだ。
これで終わったなあ、とすっかり空っぽになった必要の部屋に戻ってきて笑うと、ディークは部屋をゆっくり見て回り、一周してから私の横に立ち止まった。
私もぐるりと部屋を見回す。
この部屋では、セバスチャンとも、ポピーともたくさん時間を過ごしたが、一番一緒にいたのはディークだった。
「ありがとう。ディーク」
君がいて、本当に良かった。
そう言うと、ディークも楽しかったです、と彼は笑った。
せっかくだからと、お願いして部屋の灯りをぱちんぱちんと何度か替えてもらう。
ぱちんぱちんと、その度に、楽しかったことばかり思い出されて、ほんの少し前のことすら、懐かしくてたまらない気持ちになった。
ホグワーツに仕えていても、ディークは私たちのことを最初から最後まで黙っていてくれた。
きっと彼も私たちの友人だった。もちろん、一緒には行けないけれど。
ああ、そうだ、と思いだしてローブのポケットをあさり、一枚の真っ赤な羽を取り出してディークへ差し出す。
それは、少しだけよれた不死鳥の羽だった。
「これは?」
「不死鳥を助けた日に、あの子がここでお礼に落とした羽だよ。あのとき私が受け取ってしまっていたけど、あの子はきっと、ディークにこの羽を落としたんだよ」
だって、不死鳥を助けてあげたいと願ったのは、この優しい優しい屋敷僕妖精だ。なにより、あの子はディークの上に、この羽を落としたのだ。
この羽だけは、どうしても自分で使う気にも、売る気にもならず、いつか良いときにディークに返したかった。
今なら、この屋敷僕妖精も受け取ってくれる、そう思ってそっとその手に握らせる。
「ありがとう。ディーク。たくさんの魔法生物がそう思っていたよ」
ばいばい、と手を振ると、いつも意外と多弁な屋敷僕妖精が一言も発さず、ぎゅっと服の裾を握りしめて、いつも通り優しく微笑んだ。
完結です。ご精読ありがとうございました。
堕ちて2周目~がハッピーエンド過ぎたので、反動で書いた暗い短編が中編になりました。
エンディングについては、短編のようにセバは脱獄したとも、しなかったとも、どちらで読んでいただいても大丈夫です。
次のページからは、別の話が始まります。