ホグレガ中長編   作:hiro_s

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セバ⇒セバ⇒オミ⇒ソロモン


堕ちて2周目を始めよう・4(後編)

 

18

 

ルックウッド城。この地方の大地主が所有する城。

僕やアンの住むフェルドクロフトからマルワンウィーム周辺の土地は大体ルックウッド家のものだ。

だからこそ、この周辺の者は誰も、最終的に現在のルックウッドの横暴に適わない。

(腹立たしい話だぜ。地方を治める貴族の末裔だというのなら、ゴブリンと手を組むのではなく守ってくれればいいのに)

ルックウッド自身、魔法の腕も強力だ。力も権力もやりたい放題振るい、より強欲に求める。まさにろくでもない貴族の象徴のような男だった。

そんなことを思いながら、目の前で進んでいた、数世紀前の肖像画の守護者ルックウッドと、友人と、魔法理論の教師の話に割って入った。

 

「その古代魔術の試練、僕も行きます」

「セバスチャン!?」

「サロウ……何故ここに?」

 

この間のリベンジに、もう一度アンに会いに行ってくるね。そう彼が言ってきたのは、あれから2週間後のことだった。

わざわざそのためにフェルドクロフトまで行くのか、外出許可は?と尋ねると、他にも用事があるからその前に会いに行くよ、とにっこり笑っていた。

僕は、その笑顔に見覚えがあった。

 

――サン・バカーの塔に行ってくるね。

 

彼は、同じ笑顔で大丈夫だと言ったくせに、一歩間違えば死んでいたかもしれない大怪我を負って帰ってきた。

 

話には聞いていたが、僕は守護者とやらと会話をしたことはないし、そもそも何のための試練なのかよく分からなかった。

(彼が古代魔術の術者になるための試練?)

これは違うだろう。彼は古代魔術の痕跡は見えるが、ペンシーブで見たようなことは出来ないと以前言った。実際僕も、彼が古代魔術なんて大それたものを使ったところは、禁書の棚でギミックを解く時しか見たことがない。

(彼が古代魔術の守護者になるための試練?)

これはどうだろう。見える=守護者になることが決まっているというのだったら、そもそも試練なんていらないのではないか。守護者になる力が不足しているのであれば死を。そんなもの、フィグ先生が許すはずがない。

(古代魔術の、秘密を知るための試練?)

しかし、古代魔術はそもそもほとんど解き明かされていないはずだ。"その力そのもの"以外にどんな秘密があるというのだろう。

なんにせよ。彼の命を軽はずみに扱うような試練を僕は許せなかった。

 

「フィグ先生は一緒に行けない?どうしてですか」

「試練は、一人で受けねばならないからだ。熟達した人間と一緒だと、その者の力を見ることが出来ない」

 

僕の問いかけに、肖像画の太った男は決まったことのように告げた。

その貴族然とした話し方、理由のようで理由でない理屈も大嫌いだ。

 

「僕は、彼と同じホグワーツの生徒です。僕だったらかまわないのではないですか?入れないわけじゃないんですよね」

「セバスチャン、心配してる?」

「当たり前だろ。僕は君の友達だ」

 

僕らのやりとりをフィグ先生は興味深そうに眺めている。止めないってことは、先生は僕が同行することに賛成ってことだ。以前、血まみれの服を纏った彼を保健室へ放り込んだのは、他ならぬフィグ先生なんだから。

かえって肖像画のルックウッドは、「困った、さすが我がスリザリン生だな」なんて唸っている。

ここはルックウッド城。敵の本拠地なわけで、少なくともフィグ先生と彼は敵に見られている。あんまり悩んでいる時間はない。かといって、おそらく出直すチャンスもない。

外でゴブリンや無法者達の気配がし始めている。仕方ない、とついに肖像画は折れた。

 

 

 

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19

 

前回の禁書の棚の時より遙かに難解になった仕掛けと鎧を倒すと、またもやペンシーブが現れた。

今回の鎧は以前よりさらに巨大だった。足の地響きと衝撃波で吹っ飛ばされたときには、化け物じゃないかと死を覚悟した。

 

「君がどんどん強くなるわけが分かったよ。チャンピオン」

「正直、結構ぎりぎりだったよね」

 

結局誰とも組まずとも、一人で杖十次会のチャンピオンになった彼。

もしかするとペアを頼まれるかもしれないと僕はエントリーしていなかったが、今の戦い方を見るに正解だったと思う。

闇の魔術に対する防衛術での決闘の時より、遙かに強くなっていた。

向かい合えば彼は手を抜かないだろう。僕も、手を抜かない。杖十字会でやるような決闘じゃなくなるのは目に見えている。

それはそれとして、どうやったら彼を倒せるだろうかと物騒なことを考えていると、目が合いにやりと笑われた。

 

「今、僕、どうやったらセバスチャン倒せるかなって考えてた。君も同じでしょ?」

 

返事はいらないようで、彼は杖でペンシーブの上に浮かぶ古代魔術のシンボルに触れ顔をつける。僕もそれに続いた。

 

 

彼が地図の間、と呼ぶ守護者達の部屋は、以前の禁書の棚から訪れた時に比べ随分賑やかになっていた。

足下のホグワーツ周辺の地図は圧巻だ。

 

「君は、フィグ先生と同じように、このスリザリン生を信じているかね?」

「はい」

 

僕らが試練を探索中、こちらはこちらで一悶着あったみたいだが、とりあえず今後も試練は続けられることとなったようだった。

ただ、今後の試練は一人で受けるように、と彼はきつく忠告されていた。

 

「分かっています」

「ならばよい」

 

完全に蚊帳の外にいる僕は、先ほど見たペンシーブの内容を反芻していた。

記憶の中のイシドーラは、痛みという感情を抜き出していた。

(もしかして、アンも助かる?)

しかし、わざわざ反対する記憶を見せているのだから、守護者達は絶対にその方法を是とはしないだろう。

むしろあの方法には何か落とし穴があると警告しているようだと受け取った。

今日のペンシーブを見る限り、やはりイシドーラも元々守護者だったということだ。それが、まるで創設者達のように道を違えるようになった理由。一度、"痛みを抜く魔法"を試した彼ら守護者達が、後継者に見せようとしている何か。

だとしたら、何故その場面から見せないのか。そう思いもするが同様のことを聞いた彼に、順番に見せる理由があるとどの守護者も口々に言った。

(ああ。彼らが守護しているもの……彼に課せられている試練は、古代魔術の”禁忌”に関する秘密を知るためか)

なるほど。入り口が禁書の棚だったわけだ。この一連の試練で見る記憶は、なんらかの禁術に触れているのだ。

そこまで納得した頃、ちょうど次の試練は校長室だと、当時の校長だったというニーフ・フィッツジェラルドがまとめ、そのミーティングは締められた。

 

「なあ。アンにかけられた呪いは、古代魔術に関するものだと君は思う?」

「わからない。僕の見える古代魔術の痕跡は、アンの周りに見えなかった。ただ、可能性はあるけど」

「そうか」

 

その彼の返答に、少しほっとした。

もし古代魔術のように全く解き明かされていない魔法による呪いだったら、本当に打つ手なしだ。

明瞭に否定してくれたわけではないが、今、古代魔術の痕跡が見えるのは彼だけだ。僕は、古代魔術の守護者達のことは少しも信用していないが、彼の言葉は信じられる。

オミニスに報告しようと言った彼に続き、ひっそりとした地下室の階段を上った。

 

 

 

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20

 

セバスチャンと城を歩いていると、昔からよく声をかけられた。

セバスチャンは愛想が良く、面倒見もいいから、上にも下にも顔が広い。

けれど、今日彼に声をかけてきた相手は少々意外だった。

 

「君、いつの間にサチャリッサと知り合ったんだ?」

「ああ。なんか、化粧品を造るのに薬草を採ってきて欲しいと頼まれて手伝ったんだよ」

 

最初に引き受けたのは僕じゃないぜと、ことの成り行きを聞いて俺は納得した。

ホグワーツ生の中には、家柄や血統を気にする者も多い。かくいう我が一族もその部類だ。

そしてサチャリッサの家もそうだった。比較的女子生徒とは家柄を気にせず話しているようだが、男子生徒で彼女が貴族や古い家の者以外と話しているのを見ることは少ない。

そんなことを言うと、セバスチャンは溜息をついた。

 

「君たち名家は大変そうだな」

「うちはサチャリッサの家ほどではないけど、まあ、そうだな」

 

名家や貴族でも新興であれば、比較的マナーに寛容だが、血が古くなればなるほど しきたりは多くなる。

俺の家は、より特殊な家ではあるが、基本的なマナーは旧式的な貴族と同じだった。

 

「その割にオミニスはよく床に座り込んでたり、寝転がってたりするけどな」

「ホグワーツはのびのび出来て最高だな。君だって、よく何かをむしゃむしゃつまみ食いしてるだろ」

「お行儀が悪いって?リンゴは体にいいんだぜ」

 

もっと行儀悪く何でも口にするやつもいるだろ、とけらけら笑うセバスチャンが誰のことを言ってるのか、俺はすぐに分かった。

品行方正。基本的に話し方は丁寧だし所作も悪くないのだが、一点だけ、何故か何でも口にしてしまう癖のある彼。何が入ってるか分かったものじゃない魔法界の物すら、平気で初見で食べてしまう。

おかげで騒動になることもあるし、ギャレス・ウィーズリーやエバレット・クロプトンによく絡まれている。

今のところどれも楽しそうに受け入れているようだが、あの癖は治した方がいいと隣の親友と俺は度々注意をしていた。

そんなことを話していると、噂の人物が通り掛かった。

 

「やあ。オミニス、セバスチャン。こんなところで立ち話?後ろの椅子に座ったらいいのに」

 

いや、今から昼食に行くところだ。君も行くか?とセバスチャンが誘うが、彼は昼食をほとんど取らない生活に慣れているそうで、やんわりとその申し出を断った。

 

「お昼をたくさん食べる贅沢に慣れちゃったら、あの生活に戻れない気がしてならないよ」

「君、卒業したらマグルの生活に戻るのか?」

「分からない。でも君たちと違って、僕はまだここで半年も過ごしていないから、現実味がある職はあちらのものばかりだ」

 

生きていくには稼がなきゃ。そう言った彼は、先ほどのサチャリッサと対照的に、なんとも地に足が付いていて逞しい。

中流労働者階級だ、と彼は自分の家族のことを口にしていたが、マグル界の労働者なんて想像が出来ない。彼のような現実的な考えの者ばかりなんだろうか。

そう尋ねると、まあ、そうだね。と彼は肯定した。こちらより人が多い分、職にあぶれることも往々にしてあるという。

 

「どこの家も、子供の時から家事手伝い、親の仕事の使いぱしりとかするんだ。学校での基本的な勉強とかも勿論大事だけど、働く環境はずっと身近かな」

「マグルの学校は寄宿舎じゃないんだな」

「貴族はそうだよ。ここと一緒。庶民は違うよね。子供は労働力だもの」

 

少し曇る彼の表情に、マグルの都会の過酷さを見た気がした。子供は労働力、なんて言葉が平然と出るのは中々に衝撃的だった。

寄宿舎は貴族が通うもの。その考えも、魔法族にはない。ホグワーツから梟便が来れば庶民も貴族も関係なく学校へ通う。学用品さえ購入できれば(最悪出来なくても)、ホグワーツは基本費用がかからない。

だが、俺の言葉に、彼はうーんと悩むような声を上げた。

 

「でも、ホグワーツだってそうだったんじゃないかな。最初から無料だったわけでも、庶民が誰でも気軽に通えたわけじゃないんじゃない?お金持ちや名家、創設者の選りすぐりの特待生が通う学校。そうじゃないと経営は軌道に乗せられないし、昔々の庶民に子供を学校に預ける余裕なんてないよ」

「つまり、まずは貴族が通う寄宿舎という既存のシステムがあって、それがアレンジされ、間口が広くなったと言いたいんだな」

「うん。さすがセバスチャン。理解が早いね」

「通学も選べればもっと気軽だったのにな」

 

マグルの庶民の学校のように、と言うセバスチャンと彼の会話を聞きながら、いいや、と俺は首を振った。

君たちの言うように貴族の考える「寄宿舎」がベースになっているのなら、通学という発想は出てこないだろう。

そう言うと、どうして?と不思議そうな視線を投げてよこした二人の友人に、こういうところも考え方が違うんだな、といわゆる階級の差が産む思考のずれが少し面白くなった。

 

「貴族はそもそも、子供と大人の生活空間を分けるものだからだ。幼少期でさえ親と過ごす時間なんてほとんどない。一緒の建物に住んでないこともざらだし、会うことも少ない。だからわざわざ家から通う理由がない」

「それは愛がないな」

 

「そうかもな。でも、貴族からすれば、子供なんて何も正しいことを学んでいない"人として未成熟な存在"だ。"高貴"な大人と空間を同じくすることなんて許されない」

 

子供は労働力だというのも俺には愛か分からないが、時間を共有すれば芽生えるものは多いだろう。

マグルの劇的な社会情勢の変化、新興勢力の台頭、開かれた航路、それらによって、少しずつ貴族の考え方も変わってきているようだが。

古い家ほど、しきたりは多い。中々変わらないことも多い。

いろいろな視点があって面白いな、と笑うと、ぽかんとした友人二人はどこか上の空な返事を返した。

 

 

 

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21

 

こんにちは、と甥と同じ年頃の少年に声をかけられた。

それは、以前セバスチャンが新しい友人だと言って連れて来たホグワーツ生だった。寮のローブは羽織っておらず、シャツにタータンのベストというシンプルな出で立ちに名乗られるまで誰だか分からなかった。

アンの見舞いに来てくれたのか、と尋ねると、それもあるけれどと彼は微笑んだ。

 

「サロウさんに、確認したいことがあってきました」

「――なんだ」

 

闇の魔法使いと対面したときのような、ぞわりとした感覚が体を走った。

アンも、セバスチャンも、友人だといって親しくしている彼は良い人間だと思っていた。以前、セバスチャンと口論になったときも、上手くセバスチャンをなだめて私に話を聞きに来た彼。

甥と姪の友人、オミニス・ゴーントも、家を抜きにしてみれば人柄は良いと思う。ただ、それを覆すほど危険な出自であり、出来れば二人には近寄って欲しくなかった。

セバスチャンもアンも、人を見る目は悪くない。そう思っていたのだが。

 

「サロウさんって、闇祓いは退職されたんですよね」

「そうだ」

「それで、フェルドクロフトへ?」

 

言って彼は、ルックウッド城へ視線を向け、丘の上の家へ視線を向け、さらにその奥の海岸の方へ視線を移した。

何かを探られている。その視線につられないように彼をじっと見ると、困ったように人好きのする笑顔を浮かべた。

(この子供は、何を知っている?)

ローブを着ていない彼は何も隠すものなどないかのように無防備で、杖すらその手には握られていないのに不穏な空気を纏っていた。

はたしてセバスチャンは、いったい何を呼び込んだのか。

 

「僕、ルックウッドと、その手下と、ゴブリンに追われていまして」

「それは大変だな。当局を紹介したいが、残念ながら私に紹介できる者はいない」

 

一介の学生が?それが嘘か本当かは定かではないが、どちらにしろろくでもない。

警戒を強めていく私を気にも留めないかのように、彼は自然体だった。

この辺りは、ゴブリンの国と近接しているためもともと多くのゴブリンがいた。だから、ゴブリンどもの様子が変わった当初、真っ先に被害を受け、そして今も被害を受け続けているのがフェルドクロフトだ。

学生の身でありながら追われているというのなら、そんなところにひょいひょいと訪れるべきではないだろう。

 

「それならゴブリンが多いこの場所は避けるべきではないのか?」

「”ゴブリンに関わりたくない”なら、”そうするべき”ですよね」

 

また視線を遠くにやり、彼は他人事のように頷いた。

ルックウッドの手下については、この地域であればどうやっても遭遇する。それでも、例えばホグワーツ城内が安全なように、その危険性は場所によって大きく変わるだろう。

僕、探検も好きなんです。とホグワーツ生らしい言葉を突然投げかけ、彼は続けた。

 

「ホグワーツ周辺の地域は、遺跡や宝物庫が多いですね。アッシュワインダーズや、ルックウッドと協力関係にある密猟者達は、そんな遺跡や墓地の近くを占拠していました。ルックウッド城もゴブリンが多いし、あの丘の上の家もそうです」

「丘の上の家も、ホグワーツの元教授が住んでいた家だからな。珍しいものがあるかも知れないと目をつけたのだろう。あそこに墓はないが――」

 

言いかけて、彼が何を言いたいか、分かった。

 

ぞわりぞわりと這い上がってくる不快感。思わず杖を向けてしまいそうな緊張が、その穏やかな口調とは裏腹に私たちの間に張られていく。

すいと、遠くの一点を見ていた瞳が私へ向けられた。

 

「それなのに、このあたりの墓地で一箇所だけ、不思議なことにゴブリンも無法者もいないところがあるんです」

 

その顔にはもう、笑みは浮かんでいなかった。

ああ。どうか触れてくれるな。そんな願いは届かない。

 

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