22
実は、まだ解き明かされていない謎が一つある。
一番肝心で、一番難しい問題が残されている。
――アンにかけられた呪いは何だったのか。
ロドゴクから送られてきた梟便に目を通し、アミットの助けを借りるかどうか悩みつつ、ゴブリディグック語の辞書を片手に考えた。
(今回、内容は分かっているから、わざわざアミットを危険な場所に連れて行く必要はないんだよね)
またアミットを守り切れるかどうか、自信はあるが何事にも絶対はない。
そもそもゴブリディグック語であれば、実は自分自身読めるのだ。
七年生の頃は、かろうじて会話も出来るぐらいだったと思うのだが、時間が巻き戻っているせいか知識も発声もあやふやになっている。
ただ、辞書が片手にあれば十分といえば十分だ。それをロドゴクが了承するかどうかは別として。
『子供は、単なる、未熟な生き物だ』
そう言ったのはルックウッドだ。
どういう意味だろうと思っていたが、ひょんなところからその思想の理由が分かった。
(オミニス。やっぱり、彼を探索から外したのは痛恨のミスだったんだ)
セバスチャンも思うところがあったようで、オミニスの言葉の後何か考え込んでいた。
セバスチャンの周りに、解決のピースは揃っていた。間違えないように、今ロンドンで流行中の探偵小説のように慎重に進めていけば、きっともっと良い結果になった。
(けれど果たして、呪いをかけたのは本当にルックウッドだったのかな)
彼がそこにいたのは間違いないだろうが。
ルックウッドにしろ、ランロクにしろ、他のゴブリンにしろ、何故呪いなんて面倒な手を使ったのか。
ルックウッドは死の呪いを使える。それに、もっと手っ取り早く、子供一人ぐらい殺す術はある。あの場で生かす意味は誰にもなかったはずだ。
その行動の理由が分からない。
ルックウッドを捕まえる。それは現実的ではない。
彼は社会的な地位と権力を持っている。それは、おおっぴらな犯罪に誰も手を出せないほど。貴族とは、かくも厄介な生き物だ。
前回は、攫われた上での正当防衛。それにホグワーツ襲撃犯の片棒であったという事実により何とかなっただけだ。今できることは何もない。
(別に、捕まえなくてもいいんだ。アンの呪いが解けさえすれば、それでいい)
手段と目的を見誤ってはいけない。ナティに協力はしているが、彼女の実質の敵はハーロウだ。ルックウッドはハーロウと違い、アッシュワインダーズも密猟者もただの手駒程度としか考えていない。それが潰れようが、別にルックウッド家としてほとんど痛手はない。むしろ教師の娘に手を出して、ホグワーツに完全に敵対される方が、ルックウッドとしては手痛いはずだ。
ナティはルックウッドへの足がかりとしてハーロウを捕まえようとしている。ホグズミード周辺だけで見れば、おそらくハーロウの検挙で十分だ。正直、ナティがどんなに頑張っても、ルックウッドを捕まえることは無理だと思う。
選択肢は二つだけだ。
アンに呪いをかけたのは、ゴブリン――おそらくランロク――か、ルックウッド。
ルックウッドが現状どうしようもないのなら、残るとっかかりは一つ。
ランロクについては、ルックウッドとは違う。その元側近の兄弟はこちらの手中にある。
(なんとしても、ロドゴクから情報を引き出さないといけないなあ)
やはりアミットは連れて行けないと、溢れそうな古代魔術の力が渦を巻く杖の先端を見つめた。
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23
サラザール・スリザリンの書斎から持ち出した難解な本を読み進めたところ、とんでもない物が故郷のフェルドクロフトの近くの墓地にあるかもしれないことが分かった。
なんてことだ、ほんの目と鼻の先にあったなんて。
呪いを操ることが出来るかもしれない遺物。創設者のいた時代に発見されたそれは、今もまだその地下墓地に残っているだろうか。
「それで、アンの呪いを解けるかもって?」
「そうだ。調べてみる価値はあると思う」
「それ、どう聞いても闇の魔術の遺物でしょ?オミニスになんて言うつもりさ」
痛いところを突いてきた友人に、ぐっと言葉に詰まる。
オミニスは僕を心配している。今回、サラザール・スリザリンの書斎に案内してくれたのだって、『アンの呪いが何か』分かるかもしれないと僕が言ったからだ。
そのヒントのためだけ。僕自身が闇の魔術に手を出すことを決して許さないだろうことは、オミニスの心配そうな態度で分かっていた。
その思いを踏みにじるの?と彼にばっさり告げられる。
「……君も、僕にアンを諦めろって言うのか」
「まさか。言わないよ」
友人の真意が分からなくて困惑した僕に、オミニス呼ぼうかと優しく彼は笑いかけた。
「絶対に反対だ!!」
「オミニス!」
「ほらね」
話を聞いて開口一番、凄い剣幕で叫んだオミニスに、呼んだ彼はからからと笑っていた。
ああそうだろう。こうなることは分かっていた。だから内緒にしたかったのに。そう思うが、そうすべきではないという彼の意見は最もだった。
何とか説得できないだろうか、と口が上手い友人をちらりと見る。
その視線を受けて、ごほん、と笑いを引っ込めて彼はわざとらしく咳をした。
「みんなで行くだけ行ってみる、に僕は一票」
「闇の魔術はそうやって深みにはまるんだ。好奇心だけで動くべきじゃない。君までそんなことを言うのか?」
「ごめん、オミニス。僕も少し気になることがあるんだよね」
ところでセバスチャン、と彼は突然僕を振り返った。
(地下墓地に、気になること?)
彼の突飛なところは正直時々ついて行けない。聞けば彼は説明してくれたが、何故そんな考えに至るのか、結局それは分からない。
「クルーシオ受けてみてどうだった?」
その視線は真剣だった。
そうだ。彼はいつだって、本気で僕とともにアンの呪いに向き合ってくれている。
磔の呪文は闇の魔術の中でも強く強力な呪文だ。それとアンの呪いと比較して、どうだったのか。
僕もそれはずっと考えていた。それを考えろ、と彼もあのとき言っていたのだし。
「アンにかけられた呪いは磔の呪文に似ているけど、何処か根本的に違う呪いだ」
結論はそうだった。磔の呪文は本当に痛く苦しく、アンの辛さを体感は出来たが、アンの症状とは少し違った。腹部を中心に痛みが継続していることもそうだが、もっと、根本的な何かが違う。
それを聞いて、そう、と彼は深く頷いた。
「なあ。君が気になることって何だ?」
反対に僕が問いかけると、彼は珍しく少し言いよどんだものの、やはりあっさりと白状した。
「実はこの間フェルドクロフトに行ってサロウさんと話してきたんだけど」
「は?」
「サロウさん、たぶん地下墓地のこと、何か知ってると思うよ」
何にも教えてはくれなかったけどね、追い返されちゃったと彼は苦笑した。
こういうところだ。こういうところ、本当について行けない。
唖然として目を白黒させている僕にお構いなしに、彼は言葉を続ける。
「アンをゴブリンから遠ざけてゆっくり過ごさせてやりたいって言っていた割に、フェルドクロフトに住み続ける理由、気になるなあって」
「普通、そんなに簡単に引っ越せないだろう」
「一般人ならね。でも彼は元闇祓いだよ。こんな重大なことが起きてるのに、一年も留まるほどフットワーク重くないでしょ」
あんなに朗らかに話しながら、そんなことを考えていたのか。
彼が初めて叔父の家を訪問したとき、そういった会話をしていたのは聞いていた。アンとゴブリンを出来るだけ関わらせたくない、穏やかに過ごさせてやりたいから、僕に落ち着けと言っていたと。
僕の様子を窺いながらも、彼は話を止めない。
僕が止めないからだ。分かっている、僕が止めれば彼は口を噤むだろう。その続きを僕は知るべきではない、そう感じたが、知りたいという気持ちが勝っていた。
「彼はもう闇祓いじゃない。それはきっと嘘じゃない。でも、現状あの墓地の監視は命じられているだろうね。移動する気はあるようだけど、交代にはまだ準備が必要みたいだった」
かまをかけてみた。と元闇祓いを相手にとんでもないことをしたことを告白しつつも、彼は何故そう思ったのかを話した。
(なるほど、確かに地下墓地の近くは荒らされた形跡はない)
あんなにルックウッド城に近いのに。誰かが監視している。それも、ルックウッドが手を出せない何かが。そう考えるのは道理だ。理屈に合っている。
叔父が頑なな理由も、もしかしてそのせいだろうか。
「そもそもルックウッド城の立地だよ。ルックウッド城があそこにあるのだって、地下墓地があそこにあるからなんじゃない?」
たまたま目と鼻の先なんじゃない。そこを中心に全てが集まっている。そういうことだと、彼は言った。
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24
彼の話は続く。
叔父の事実にセバスチャンは衝撃を受けているが、彼が言っている”ソロモン・サロウの本心”は、今セバスチャンが気付いている事実以上だと俺は感づいた。
(カモフラージュ……)
両親を失った二人の子供の面倒を見る叔父。その設定は、きっと都合が良かっただろう。
ともすればそれは、セバスチャンとアンと叔父の決定的な溝になりかねない。
口を噤ませるべきか。しかし、俺が口出すことでもない。
「遺物に興味はないんだ。地下墓地そのものに、僕は興味がある」
(それは、古代魔術に繋がる何かがあるからか?)
そう明確には言わなかったが、彼の意志は硬そうだった。
思わぬ伏兵だ。こんなところで、セバスチャンと彼の利害が一致するなんて。
どうすべきか。俺には選べるほど選択肢はない。
「闇の遺物は、使わせない」
「分かってるよ」
「待てよ、僕はそれには頷けないぜ」
セバスチャンが噛みつくが、まあまあと彼がなだめる。
「元闇祓いのサロウさんが墓地について知っているんだから、まずは実物の遺物を見て、その後でアンも入れて家族間で話し合いなよ」
「あいつは絶対反対するだろ」
「君は、叔父さんに愛されているからね」
のんびりと穏やかな口調で告げられた言葉に、セバスチャンは虚を突かれたようだった。
諦めきれないセバスチャンは、それでも何か反論しようとしたが、俺はそれ以上聞いては駄目だと直感した。
(セバスチャン、彼を止めろ)
次の彼の言葉は、暴いてはいけないことを暴いてしまう。
「――だってセバスチャンの方が、アンより、お父さんに似ているんでしょう?」
絶句した。おそらくその表現がふさわしいだろう。セバスチャンは、息をのんだまま言葉を発さなくなった。
ああ、気付いてしまったと、分かった。
彼の叔父と俺は、きっと同じだった。俺たちは、アンとセバスチャンを天秤にかけ、セバスチャンを選び続けている。
父の息子、そう言って侮辱する、と彼は時々口にしたが本当にそうだろうか。
呪いにかかるまで、セバスチャンもアンもやんちゃだった。俺から見れば、危なっかしいことに変わりはない双子だった。むしろアンの方が突拍子もなかった。二人を知っていれば、誰だってそう思う。けれど、父親と比較されるのはセバスチャンばかりだった。
「セバスチャン、君に闇の遺物は使わせない。それは満場一致の意見だよ。そこは諦めて」
とどめだった。こういう時の彼は、本当に優しくも手厳しい。
まるで、スリザリンの書斎を訪れたときのようだ。欠片の隙もなく、セバスチャンに闇の魔術を使わせないように追い込む彼の話術は素晴らしかった。
それはそれとして、地下墓地を僕は見に行くけど、君たちはどうする?
けろりと、何の悪気もなくもう一度問いかけた彼に、俺たちが出来ることは頷くことだけだった。
(――彼も選んだのだろうか?セバスチャンを)
言葉にできなかった問いに、返す者はいない。
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25
味方にした魔法使いは、とんでもない少年だった。
ゴブリディグック語を話せる者を連れてこい、そう書いたはずの手紙を無視して一人現れた彼に眉を寄せると、話せないけど読めるから大丈夫だとにこりと笑った。
それだけじゃない。単身で鉱山に飛び込むつもりか、私は付いていけない。そう告げるが、それも折り込み済みのようで、足手まといだからいらないとやんわりと言われた。
「自分を守るのできっといっぱいいっぱいだから、ロドゴクまで手が回らないし、一人で大丈夫だよ」
「……そうか」
思い上がりの魔法使い。そう言ってしまっても良かったが、彼にはそれを言わせない凄みがあった。
そうして彼は、本当に無事に、少しの怪我もなく、服に汚れをつけることすらなく計画書を持って帰ってきた。
これほどゴブリンと、杖持ちに差があるのか。そう愕然とした思いを抱いた私に、彼は肩をすくめてみせた。
「ところで、ロドゴクに聞きたいことがあるんだけど」
ランロクのことだろうと思った。もしくは保管所のことだろうと。
何を彼に伝えるべきか。本当に彼は信用できるのか。私はまだ、ランロクを止めたいと思っている。彼は、そんな私に同調してくれるだろうか。
悩みながらいくつか情報を引き渡すが、彼はそれについては大して気に留めていないようだった。
(どういうことだ?彼が知りたいのはランロクの目的ではないのか?)
ブラグボールの日記の中身。それは、魔法使いにとっても、ゴブリンにとっても、この争いにおける生命線のようなもののはずだった。
「実は僕、その保管所の中身を既に扱える古代魔術の術者なんだよね」
「なんだと?」
ひょい、と彼が呪文も唱えずに杖を振ると、遠くの巨石が木っ端微塵になった。
彼の言っていることは意味が分からない。
一つ目の保管所であるルックウッド城の力はランロクが手にしたはずだ。そして、もう一つの保管所であるホグワーツはまだ開かれていないのではないのか。
(他にもあったのか……)
ブラグボールの日記に書かれていない保管所が、もしや他にもあって、彼はその力を手にしたということだろう。
だとすれば、彼の目的はランロクと同じくホグワーツに保管されている力なのだろうか。
「ゴブリンは、呪いって使える?」
だが、彼から尋ねられたのは想定外の質問だった。
「……いや、それはお前達魔法族の専売特許だろう。我々は特別な力を持ったものを造ることは出来るが、誰かに呪いはかけない」
すうっと目を細めた彼は、私の言葉に何か考え込み、慎重に言葉を選んで次の質問を発した。
「ランロクの周囲のゴブリンの様子が徐々に変わっていったと言ったよね。それは呪いじゃないの?」
「ランロクの手にした力が原因ではないのか?その影響では」
「じゃあ、どうしてロドゴクにはその影響がなかったの?」
意図的じゃないなら、どうして人が選べるのか。
彼が言っているのは、ランロクがゴブリン達を呪いにかけているということだ。
雪すさぶ山で、それよりも冷ややかに彼は笑っていた。
「ロドゴクとランロク。実はね、凄く名前が似てるなあって、僕思ってたんだ」
君は随分ランロクに詳しいね。
彼は杖をこちらに向けた。それが意味することは、敵対だ。
ぱちり、と電気の爆ぜるような音が聞こえた気がして、私は身震いした。
「杖を、降ろしてくれ」
私の言葉に彼はゆっくりと首を振った。
ゴブリンが呪いを使えないわけないよね、だって、グリンゴッツは呪い破りの術を使っている。きっと呪いに詳しいはずだ。そう静かに告げた。
味方にした魔法使いは、とんでもない少年だった。
否。そもそも、味方ではなかったのだ。
裏切られたという恨みは湧かなかった。
魔法使いはゴブリン達を下に見る。確かにそれに不満を持っていた。杖持ちめ、と。
(ああ。彼には絶対に適わない)
けれど今は、何よりも、ただただ恐ろしい。
「もう一度聞くよロドゴク。最後のチャンスかも。――ねえ、君たちゴブリンは、どんな呪いが扱える?」
彼は、初めて会ったときのように、親しげに、優しげに微笑んだ。
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26
彼の第一印象は、人懐っこい少年だった。
あまり人柄が得意ではない校長に命じられ、学校の夏期休暇の間に、珍しい5年生からの新入生の学外講師を行うこととなった。
妻が死んで少し気が滅入っていたことも有り、初めはあまり乗り気ではなかったが、彼はとても熱心で素直な良い生徒で、私はこの仕事を引き受けて良かったと思った。
「フィグ先生!」
学校に馴染んだ今も、私を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。
彼は優秀だ。どんな学業も真面目に取り組み素晴らしい成果を上げていると聞く。気難しい教授陣が手放しで褒める学生は珍しい。
古代魔術の痕跡が見える、という特殊な能力にも関わらず、彼はその力を驕ることも魅入られる様子も今のところない。
魔法が使えるだけで、十分特殊です。マグルで15年過ごした彼は笑って言った。
「先生、禁書の棚に行ってきました」
「なに?」
素直で従順な彼が報告した内容に、私は頭痛を覚えた。
何故とは思わない。彼は私がいない間に出来ることをやろうとしただけだろうからだ。ただ、どうやって禁書の棚に忍び込んだのか。それは聞くべきではないなと唸った私に、しかし彼は、それで…と続けた。
「セバスチャンと、古代魔術の通路に行き着きました」
「……なるほど、サロウか」
優秀な問題児。
彼が告げたのは、彼と同じくらい才能に溢れた魔法使いの少年の名だ。
ホグワーツは、生徒の自主性を重んじ、個性を尊重する。だから問題児もまあまあ多い。彼の学年でいえば、ギャレス・ウィーズリー、エバレット・クロプトン、そしてセバスチャン・サロウだ。
どうやらあっという間に仲良くなったらしい彼らは、既に秘密を共有してしまったようだった。それを私に素直に報告する彼はまた、律儀というか何というか。
サロウの良い面をあげれば、友情に厚く、面倒見が良く、有能なところだといえる。逆に悪い面は、その生い立ちと境遇だった。彼の妹の身に起きた不幸は、私たち教師陣に不甲斐なさを覚えさせ、また彼に大人への不信感と無力を教えた。その結果、彼は難しい年頃と言うことも相まって、非常に不安定だ。
彼が禁書の棚に忍び込む頻度が異常に上がったのは、アン・サロウの治療法を探すためである。古代魔術とサロウ。相性は最悪だと言っていい。
「先生。僕、セバスチャンのこと、信じてます」
「そうか」
だが、彼の交友関係に私が口を出すべきではないだろう。
もしかするとこの穏やかな少年は、あの傷ついた少年を救ってくれるかもしれない。
友情を大切にすること。それは、この偉大なる学校で学べる最も重要なことの一つだった。
しかし、ルックウッド城でサロウが飛び込んできたときは流石に驚いた。
行き先を言ったのか?と隣に尋ねれば、心配させるかなと思ってと、困ったように頬を掻いて彼はのんきに笑っていた。
一つ前の試練で大怪我を負った友人を放っておけなかった。いや、古代魔術の守護者に対しては、許せないという感情に近いものをサロウは抱いているようだった。
彼が受けさせられている試練について、私も思うところがなかったわけではない。ただ、それほどに重要なことなのだと、数世紀にわたる秘密の重みが分かる私は閉口していた。
ルックウッド教授はどうやらスリザリン生に甘いところがあったようで、「流石は我がスリザリン生」と唸りながらも、ルックウッド城の現状も相まって最後はサロウに根負けした。
地図の間へ移行した後、私は非難する守護者達をなだめるのに手を焼いた。
彼らが試練から帰ってくる前にこの場を収めなければ。今日の様子のサロウなら、この肖像画たちに炎の呪文を遠慮なく唱えかねない。残念ながら、問題児なのだ。
しかし彼も、よくあの難しいサロウを手懐けたものだ。私に対しては人懐っこい少年のままだが、その人心掌握術は大した物だと、学内の生活を見て私は彼への認識を改めていた。
本当に優秀な生徒だ。そう零した私の言葉に、パーシバル・ラッカムは優しい表情で頷いた。
「そのような生徒がいるのは、喜ばしいことですな」
「ああ。彼のように優秀な生徒は今までに見たことがない。教師として、こんなに教え甲斐のある生徒は初めてだ」
「優秀な生徒、か。ううむ……」
私とパーシバル・ラッカムの会話に、チャールズ・ルックウッドは少し顔を曇らせる。
その反応が気にかかり問おうとしたが、ちょうどその時、まるでピクニックにでも行ってきたかのように楽しそうに話しながら、彼らが試練から戻ってきた。
「フィグ先生!ただいま戻りました」
「ああ。おかえり」
あちこち服は破れ、所々血の滲む箇所はあるが、二人とも以前のような大怪我は負っていないことが分かって私はひとまず安堵した。
その後、今日の報告と次回への忠告をかわす私たちから少し離れ、サロウは静かに考え込み佇んでいた。
優秀な彼に並び立てるだけの才能と知略を持つサロウ。かのような生徒が複数いることは教師としては確かに喜ばしいことだが、さてこれからどうしたものか、と私は少々頭を抱えた。