つまらない。
そんな毎日だった。
愛を知らない私が愛を知るために始めたアイドルは施設に居た頃よりは刺激があった。華々しいステージ、嘘で塗り固めた言葉と表情。素朴で変わり映えのない数ヶ月前よりは変化に溢れていたけど、嘘で覆った私の心に届くものは無かった。最初は励まし合っていたB小町の皆とも溝が出来て仕事以外の話なんてしていない。外側の私は変わっても私の中は無風で退屈な毎日でしかなかった。だからってアイドルを辞めようとも思えない。愛を知りたいし、施設に戻っても将来の計画なんて思いつかないし…正直、頭打ちだったと思う。後でギンガ君に教わった成長曲線ってやつが緩やかに右肩下がりになりかけていたんだと思う。レッスンやステージでは上手くやってたと思うけど斉藤社長は気付いてたのかな。抜けてそうでやり手らしいし。ワークショップとして劇団ララライに行くことになったのはそんな時だった。
最初は初めての事で面白かったけど話しかける人も居ないし壁に寄り掛かって携帯を見ていた時にその人は私の前に現れた。
カミキヒカルという名前が嫌いだった。両親と同じ名字が嫌いだった。僕に期待だけして揚げ足取りだけして親の責務を果たした気になる彼等が気持ち悪くて大嫌いだった。そんな彼等に媚を売って優等生に見せようとする自分は殺したいほど嫌いだった。心の中では反抗してるのに彼等の前に出ると僕の足は竦み、本当の自分の言葉が出なくなって彼等が気に入るような事しか言えなくなる。そんな自分が劇団ララライでは周りの人に褒められて調子にのって我儘を言えば小突かれる。そんな場所が好きになった。だからだろうか、壁に背を預けて携帯をいじる彼女を見た時にその星が輝くような瞳を真っ直ぐ見れたのは。好きになったこの場所で昔の自分が、全てを嘘で塗り固めた自分がタイムスリップしたんじゃないかと思って見つめてしまったのは。
「こんにちは」
そんな当たり前の挨拶が出来たのは。初対面の人に嘘ではなく心からこの人を知りたいと思って声をかけられたのは。
きっとギンガのおかげだったと思う。
「退屈そうですね」
「そんな事無いですよ~勉強になることばっかりで…」「演技のコツが自分のやっていた事ばかりなのに?」
「興味持てるような人が居ないのに?」「何を話せばいいか判らないのに?」「周りの人が話すことが全く興味が持てないのに?」「ワークショップの終わる時間も判らないのに?」
私の嘘は彼には通じなかった。心でも読めるじゃないかと思う位ズバズバと内面を当てられて私は正直イラっとしていた。
「…何で瀕死になってるの?」
「お気になさらず…」
何か床に膝を突いて荒い息を繰り返す金髪美少年を中腰で見下ろす。
「フフ…ブーメラン辛いです」
口を拭う仕草を大袈裟にする彼にちょっと興味が湧いた。
「変な子だね君」
「ええ、貴女と同じボッチですから」
ギシリ
そんな感じの音で空気が固まった気がした。
「え、えぇ〜私アイドルなんだけどやっぱ知られてないか〜。結構知られてると思っちゃってたから恥ずかし〜な〜」
あざとく可愛くちょっとアホっぽく、相手を油断させる仕草で相手の警戒を解く。ちょっと頭弱くて明るい子だなと思わせるのがいい。
「アイドルが友達多くてメンバーと仲良しとか幻想ですよ」
「そ、そんな事無いですし」
「メンバー全員でお食事とかカラオケとか行くのは幻想ですよ。自分以外とは行ってる事はありますけど」
グサッと刺さった。別に何かで刺された訳でも無いのに胸の奥に何かが刺さったのが判った。
床に膝を突いて荒い息を繰り返す私。金髪美少年も何故か同じ体勢で荒い息を繰り返していた。
「ちょっと小休止しましょう。思ったより自分にダメージが…」
自販機でジュースを買い一息いれる少年と…カミキヒカル君と私。自己紹介し合って名前を覚えるまで一手間。名前を覚えられない私に
「メモで名前を書いて、そうですね僕の特徴を横に書けばいいでしょう」
それだけで私はカミキ君の名前をアッサリと覚えた。メモがある限りは。
「メモが持ちきれなくなる前に、メモがなくても大丈夫な人が増えてきますよ」
判っていると言わんばかりに頷くカミキ君にやっぱりイラっとした。この子ちょいちょい人の神経を逆撫でしてくる。まるで…
「私(アイさん)みたいに…ね」
ヒュッと息が止まる。私が嫌いで嫌いでどうしようもなく嫌いな自分の手放せない嘘の副産物を何故彼は…知っているのだろう。
「言ったでしょう。アイさん、僕は貴女を理解できる。同じボッチとして誰よりも!」
あれ?何かカミキ君のテンションが…
「共感したい?話を聞いて欲しい?僕には無理ですね」
同じボッチであるが故に私と話が合うかと思ったけどカミキ君曰くボッチに共感性を求めるのは不可能に近いとか。ボッチになる理由は他人との価値観(何が大事)の相違であり、それがたまたま同じ価値観だというケースは価値観の近い一般人の友達を見つけるより遥かに難易度が高いらしい。実際、お互いに胸の内をさらけ出したら私(アイ)は本当の愛が自分で見つけられるか。カミキ君は他人に自分を認めて貰いたい欲求が強い。全く共感が出来なかった。他人に興味無いのは判るけどそれでも他人に認められたいってどういう事なんだろう?
「劇団ララライで僕は初めて呼吸が出来た気がしたんだ。だから僕の大事な場所でつまらなそうにしているアイさんを見てつい声をかけてしまったのさ」
フワサ、とばかりに髪をかきあげるカミキ君。判る。ちょっと冷静になって恥ずかしくなったから演技(ウソ)で誤魔化してるんだよね。私もよくやる。
「ぶっちゃけ僕はアイさんの助けになれないけ。しかし、アイさんの助けになれる人を知っている!」
それは暗闇に見えた光。
「天星銀河!僕の友達さ!!」
私にきっかけをくれた人。
「会う前にギンガの名前を覚えて挨拶を練習しよう」
「え?話を聞く限り仏みたいな人じゃないの?」
「危機感を覚えたら足をへし折ってくるから礼儀は大事」
「え、何それ怖い」
カミキヒカル:劇団ララライで望むもの全てを手に入れた男。銀河とどっちが大事か聞かれたら決めきれない辺り外道な性格は更生不可能だった。
ホシノアイ:サナギの少女。全てに心を閉ざしている所に何かバールみたいなものでこじ開けて来たキラキラな少年に押され気味。ギンガと会う時は人生最大の緊張を強いられた。大体、カミキのせい。
アマホシギンガ:バールのようなものの見本