ファン3号 あのバンドとの出会い編(Bocchi meets fan of 3) 作:strawberrycake
僕は至って普通の社会人である。
名乗るほどの者ではない。
この世界には僕なんかより、きっともっとそれなりに絵になり物語になりそうな人は沢山いるだろう。
冴えない社会人の物語なんて面白味なんてないし、誰も見たくはないはず。
そう思っていた僕だったけれど、ある出会いをキッカケに僕という人物の物語が大きく動き始めることとなった───
それは、仕事が落ち着いた夏に地元である金沢八景に帰省した時のことだった。
〜金沢八景駅 駅前ロータリー〜
金沢八景到着!
かなり余裕もって出発したけど、思ったよりスイスイ来れて予定よりも早く着いちゃったなぁ。
親には夜に着くって連絡してあるし、シーサイドラインから花火を見るにはまだ早すぎるから、お祭りの屋台でも見に行こうかな。
昔を思い出してとても懐かしくなりs…
「最後の一軒いくよひとりちゃん!!」
!!!??
なんだあれ!?
ギター持っている少女が紫色っぽい髪のお姉さんに連れ去られていく!!?
これは助けた方g…って、もう居なくなってる!!
いや…こんなに早く通り過ぎるのは現実的には有り得……
………やっぱり空目かな。 働き過ぎで疲れてるんだきっと。
うん、何も見なかったと思って、屋台を楽しみに行こ……
〜屋台を抜けて もうすぐ大通り〜
お祭り屋台、どれも美味しくて楽しかったなぁ…♪
大の大人がはしゃぎ過ぎって思われそうだけど、親にねだってもあまりお金出してくれなかった子供の頃に比べれば、お金にゆとりができて屋台を楽しみ放題できるのはいい社会人特権だ。
社会人になって、こういった楽しみ方として自由にお金を散財できるから嬉しい。
日々仕事に追われる日常から抜け出して、いい気分転換になったな。
さて、屋台を一通り堪能したところで、帰りは大通りを通ってシーサイドラインの高架下に沿って駅前に戻りますか。
運が良ければ高架下からシーサイドラインの車両を見上げることができるかもしれないs...
「それじゃ始めますねー!」
「曲はこの子のバンド、結束バンドのオリジナル曲でーす! ぱちぱちぱち!」
大通り方面からうっすらとそんな声が…路上ライブやってるのかー
東京でも列車の待ち時間とかに無名のアーティストが駅前の路上ライブで知っている曲をカバーする歌声が駅のホームまで聞こえてきたら微笑ましくなったりはするけど、オリジナルだと確実に知らない曲だと思うから……立ち止まらずにスルーして駅に向おうかな。
大通りに近づくにつれて演奏する音も徐々に大きく聞こえてきた。
道路の向こう岸に演奏している2人の演者の姿が遠目に見える…ってあれっ、座って弾いているお姉さんって、さっきすれ違った人じゃないか…!?
そして少女もさっき連れられていた少女…さっきは少女しかギターを持ってなかったからお姉さんの楽器を取りにでも行ってたのかな…?
って、いかんいかん、何か疑問に思ったら立ち止まって考える癖をいい加減に治さないといけないな。
「がんばれー!」
そろそろ駅前に向かおうと思ったら、そんな声が道路の向こう岸から聞こえてきた。
驚いて再び演者を見たのが最後、僕は
なんなんだこの気持ちは…!!
見たい、聞きたい、もっと近くで音を感じたい…!!!
私はここに居ると訴えかけて来るようなその音楽に応えたいと僕は無我夢中で青信号を確認して横断歩道を渡って…
「あっ あの…本当にいいんですか?」
「かっ 買っていただいて」
「ヘヘ… ひとりちゃんしつこいぞ!」
「だっ だって その…」
「初めて路上ライブ見たけど」
「すごくよかったです」
「今度のライブも頑張ってくださいね」
「あっ はい」
はっ…!!
あれっ、僕は一体…
いつものように路上ライブの演者たちを遠くから眺めつつ通り過ぎようとしてたけど、「がんばれー!」の声を聞いた辺りからの記憶がない…
一つだけ覚えている事は、この演者たちが人の心を魅きつける演奏をしてくれたという事だけだ。
ここ最近生きてきた中でここまで居心地、聞き心地よく感じた事はそうそうなかった。
不覚ではあったが、ある意味ラッキーな出来事だったなぁ…♪と思って再び立ち去ろうとしたその時…
「すみませ~ん ここでのライブは やめてくださ~い!」
「けっ 警察!」
「ごめんなさ~い!」
「補導される!?」
え、えええっ、えええええええええ!!!?
ちょ、ちょちょっと待って!!?
色々待ってぇ!!!??
か、顔のパパパパーツが全部お、おとおとおと、落ちていったぁ!!!??
パニックになった僕はとにかく無我夢中で少女に駆け寄り…
「き、君大丈夫!?」
「ひぃっ!? あっ、あのえのそのあの…」
足元に落ちた口(!?)のパーツから悲鳴が聞こえたかと思ったら、落ちた顔のパーツが素早く顔の元の位置に戻っていった。
え、ちょ…これどういう原理なの!!???
「あっ、えっと…急に顔のパーツがみんな落ちたからびっくりしちゃったんだけど…け、怪我はない…???」
「あっ…あっ…あっ………」
なんか周りの人は顔パーツが落下する現象にもありきたりな反応をするどころか、寧ろ僕が突然少女に声かけたことに対して驚いていた。
あれっ、何? 僕の感覚がおかしいの???
「ご、ごめん何でもない! なんか勘違いでいきなり話しかけちゃってごm…」
パンッ!!!!!
「ひ!!? な、ななな何だぁ!!!??」
なんと、目の前の少女が怯えるあまりに突然爆発四散した!!
もう一度言おう、爆発四散したのだ!!!
比喩表現じゃなくて物理的にガチで!!!!!
「え、あ、うん?? は??? へ?????」
あまりにも非現実な現象を目の当たりにして脳の処理が追いつかなくなり、次第に視界が真っ暗になっていった………
……………………
あ、あれ………
ここは……さっきのステージの場所……??
「…あれ……???」
いつの間に夜になってる…???
「おっ、目が覚めた?」
…!!! もしかして今まで気絶してた!!?
「す、すみません!! 不覚にも気を失ってご迷惑をおかけしてぇ!!!」
「いいっていいって〜 私も記憶なくなる事がよくあるし〜」
と、とりあえず変には思われずに済んだ…?
「それより、あれだけ必死に走ってきたって事は、私達の演奏に何か感じるものがあったってことかな?」
「…!!!」
な、なんか見透かされてる!!?
「は、はい…遠くで演奏を聴くうちになんか魅了されてしまったみたいで、気がついたらステージの前に立っていました…」
「ほら、ひとりちゃん! 路上ライブやってよかったでしょ? 目を開いて頑張って演奏したから、ひとりちゃんの音に3人も夢中になってくれたってことだよ!」
「は、はい…! あ、あああ、ありがとうございます!!」
「こ、こちらこそ素敵な演奏をありがとう…!!」
さっき爆発四散した少女、いつの間に元に戻ってたのか!!
というか、やっぱり僕が幻覚を見ていただけなのか…?
「でも、あれだけ全力で走れば気絶するのは当然だよ〜」
あ、あれ? 気絶の原因が全力疾走した身体への急激ダメージだと思われてる???
「す、すみません…あれだけ音楽に夢中になってしまうなんて夢にも思わなかったので…」
「そんなに夢中になったのなら、最後のチケット買ってみたらどうかな?」
「最後の…チケット…?」
「あっ、実はねー…」
カクカク シカジカ マルマル ウマウマ
「なるほど…つまりチケットノルマ、というものをクリアする為に路上ライブをしてたんですね」
「でも、一時の感動をキッカケに次の一歩を踏み出してもいいものなのかな…」
「勢い大事だよ〜! それこそロックって感じだねぇ〜!!」
「あっ、そういえば私もギターを始めたキッカケはテレビでカッコいいバンドマンを見たことでした」
「おっ、ひとりちゃんもバンドマンあるあるからギター始めたんだね」
「私もかっこいい先輩のバンドに憧れて大学軽音楽部に入ったんだけどね。入部したらその先輩のバンドが解散しちゃってて軽くショックだったよー…」
憧れ…そういえば自分も某ティータイムバンドアニメのヴォーカルに憧れて一時的に大学でギター始めてたな。
ギターが難しすぎて新入生ランダム編成バンドで一度弾いたのみですぐ挫折…2ヶ月しか持たなかった身だけど。
「それでもなんとかバンドを組もうって思ったから、さっき機材持ってきてくれた志麻っていう今のバンドメンバーとも出会えたし、何事も一歩踏み出してみた方が見える景色ってあるんじゃないかなー?」
言われてみればそうだ…大学時代までは百聞は一見に如かずと言わんばかりになんでもかんでも自分自身で経験して喜びも痛みも自分の身を持って知ってきていたのに、ここ最近は食わず嫌いみたいに保守的になってしまって自分の好きな事だけに時間とお金を費やしていた。
某バンドアニメを見たから深夜アニメにハマるという今の趣味がある。
一度ギターをやったから、ギターの難しさが分かる。
某バンドアニメのボーカルは絶対音感の奇跡的な天才肌でギターを弾いていたけど、現実にはそう簡単にはうまくはいかない。
この子やこの人だって、難しいギターやベースを日々苦労して練習したに違いない。
あの日、あのバンドアニメが僕の世界を変えたように、もう一度音楽で新たな世界を見てみるのもいいかもしれない!
いや、見てみたい…!!
「……分かりました。 もしよければ、残りの1枚のチケット、僕に売ってください!」
「えっ、ほ、本当にいいんですか?」
「最近は平凡単純な毎日を過ごしていた僕だけど、お姉さんの言葉を聞いてたら、ここからまた新たな出発点になりそうな気がしてきたから…」
「モノクロームのような僕の日々に、色をつけてくれたら嬉しいな…!」
「あ、あああ、ありがとうございます!!」
「よかったね、ひとりちゃん! これでノルマ達成だね!」
「はい…!!」
こうして僕は、気を失うほど夢中になった路上ライブの演者のチケットを購入した。
どちらに転がるか分からない事にお金をかけるのも、経験して試していた昔に戻れたような気がして居心地がよかった。
これを機に、社会人になるにつれて忘れていた感覚を取り戻せたらいいな。
〜金沢八景駅 駅前ロータリー〜
「昔の自分を取り戻すキッカケをくれて本当にありがとうございました。 そして気絶して迷惑かけてすみませんでしたぁ…!!」
「いいっていいって! こうしてひとりちゃんの演奏に魅了されて立ち止まってくれたんだから、寧ろ感謝するのは私たちの方だよ!」
「あっ、えっと、最後のチケット、本当にありがとうございました…!!」
「それならよかったです。 僕の方こそありがとう」
「じゃあ私はそろそろ行くね〜」
「私は普段、新宿拠点に活動してるんだ」
山手線沿い…!
「また一緒にライブしようね〜!」
「バイバ〜イ、ひとりちゃん!」
酒の匂いが凄かったけど…かつての自分を取り戻すキッカケをくれた事に関しては、いい人だったなぁ…
「あっ!」
って、ちょ!? めっちゃ高速で戻ってきたぁ!!?
「居酒屋でファンの子達に奢ったら、電車賃なくなっちゃったんだったぁ!」
「電車賃貸してぇ〜!!」
「え゛っ!?」
「ライブいった時、返しまぁ〜す」
「待って! 確かひとりちゃん、だったっけ?」
「は、はい!?」
「ここは僕が貸すから、お金をしまって」
「アッハイ」
高校生や大学生の子にお金の貸し借りを発生させるのはあまり良くはないからなぁ…
「で、千円あれば新宿に帰れますか?」
「問題ないよ〜」
「その代わりライブの時、僕も行くんで必ず返してくださいね」
「分かった〜」
流石にバックレる事は無いとは思うが、一応名前は確認しておくk…
「そういや君って、なんていう名前なの〜?」
「えっ…!!」
「あっ、そういえばまだ名前聞いてませんでした」
え、これ、名乗らないといけない流れだよね…???
なんかどこかの世界の人があちゃーって表情してそうだけど、僕も名前を聞くんだから仕方ない…
「
「音楽の音に季節の夏…鈴虫の鈴と書いておとなつりんです」
「おー、苗字に音が入ってるの、バンドっぽくていいじゃん〜!」
「そ、そうですかね…?」
「ひとりちゃんの演奏に魅了されて、苗字に音があるんだから、きっと真のファンになれる! 私が保証する…!!」
「あ、私も音夏さんに真のファンになってもらえるように頑張りましゅ…!」
あ、神田……失礼、噛んだ。
でもこの子、さっきはびっくりしちゃったけど一つ一つの仕草は可愛いな。
あっ、お姉さんの名前を確認するんだった…!
「ところですみませんが、もう一度名前を確認してもいいでしょうか…?」
「私は廣井きくりだよ〜 SICK HACKのベース・ボーカルで、さっきも言ったけど新宿FOLTを拠点に活動してるんだ〜」
「廣井さんですね、改めてよろしくお願いします」
「ご、後藤ひとりです、申し訳ございませんっ!!」
「なんで急に謝るの!?」
そんなこんなで、再び音楽をキッカケに僕の平凡な日々がまた鮮明ある方向に動きだしそうだ。
その後は廣井さんに千円を渡し、ひとりちゃんと別れてからは当初の目的通りにシーサイドラインの車内から久々に地元の花火を見物した。
今年も綺麗だなぁ…あの日と同じように輝く花達。
やっぱり花火はいいものだ。
今日の花火のように僕の日々を華やかな色に染めてくれ、ピンクのジャージに青黄の髪飾りが似合う麗しのColor Girlよ。
【おまけ:今日の結束バンドの話イ】
『魔法のアナーキー』
〜後藤家にて 『 #7 君の家まで』より〜
「そうだ 前髪も上げなよ! 絶対 そっちのほうがいいって!」
「えっ?」
「伸ばしてるの?」
「あ…美容室行けないから伸びているだけで」
「ならあたしがセットしてあげよう!」
「あっ いや 大丈夫です」
「遠慮せず~」
「うっ…」
「ぼっちちゃんがどんどんしおれていく!!」
「顔をさらされたことへの急激なストレスに体がついていけなかったんだわ!」
「うっ…」
「ぼっちちゃん死んじゃった…」
「新しいギタリスト探さないとですね」
「ううっ!!」
「先輩 どうしました!?」
「急にめまいが…」
「えっ?」
「な、なんか急にこの部屋じめじめしてきて、酸素薄くなったみたいな…」
「うっ…肺に入ったぁ!」
「うっ…いやだ…私も…」
「うっ… ダメだ…」
「力が抜けていく…」
「後藤さんの呪い… だわ…」
「みんなデザート食べない?」
「喜多ちゃんが持ってきてくれたスイーツを…」
「ええええええええええーっ!!!」
「いつも明るさだけで乗り越えようとしてすみません」
「ギターうまくならなくてごめんなさい」
「かわいすぎてごめんなさい」
「アハハハ、みんなお姉ちゃんみたいにとけてるー!!」
「お……お父さん塩とお札とバケツ!!」
「れ…霊媒師さん呼ぶ?」
(数日後)
〜STARRYにて〜
「スゥーッと溶けていったなんて…ぷっ、傑作」
「キュウにぼっちちゃんみたいに溶けて大変だったんだからね! 笑い事じゃないよー!」
「だって、二人ともぼっちみたいに溶けたんでしょ?」
「よてい外の事が起きてびっくりでしたねー…」
「ひとっぽくない状態になるなんて夢にも思わなかったわ」
「と、とんだ事に巻き込んでしまってすみません!!」
「みんなが無事ならそれでよし」
「のんきな事言わないでよ…(またおばあちゃんに峠越させて参加しなかったくせに…)」
(数分後)
「そんなわけで、いい案が出なかったのでTシャツはあたしの案になりました」
「ジャジャーン」
(以下略、おしまい)
キャラクター紹介&解説
音夏鈴
本作オリ主。自分の住む世界が現実だと思い込んでいるが故に、後藤ひとりの人外的挙動に気絶するほど驚いた。名もなきモブを貫き通すつもりが、成り行きで名乗る羽目になって早速サブタイブレークを果たした。それでもなお自称モブのスタンスを貫こうとしているが、廣井きくりと後藤ひとりに出会った後もスタンスを保てるのか…? ちなみに本作におまけコーナーが設けられているのは「それなりに絵になり物語になりそうな人は沢山いる」という彼の意向もある。
後藤ひとり
結束バンドのリードギター担当の原作主人公。人外的な反応に仰天したオリ主に話しかけられてパニックになり爆発四散したが、見事チケットを全部売り切る事ができた。ギターの腕はもちろん原作通りで、それを偶然聞いたオリ主を夢中になるほど感動させた。
廣井きくり
SICK HACKのベース・ボーカル。原作と同じく後藤ひとりと共に路上ライブを行っていたところ、原作通りにファン1・2号を引き合わせた後、オリ主を後藤ひとりのファン3号として引き合わせ、それでもなお一線を越える事に躊躇していたオリ主を説得した。本作ではご都合主義で裏となるスピンオフの居酒屋エピソードでファンに奢る額が若干上がっている。
伊地知虹夏・喜多郁代
結束バンドのメンバー。原作通りにぼっち胞子を吸い込んだ後、なんと某ピンクの悪魔のようにぼっちの能力をコピーしてしまい、後藤ひとりと同じくナーバスになると体が溶けたり顔パーツが崩れたりするようになってしまった。
山田リョウ
原作通り祖母に峠を越えさせて後藤家訪問をパスした事により、ぼっち胞子を回避した結束バンドメンバー。ぼっちみたいな体になってしまったエピソードを2人から聞いて笑い、虹夏に怒られた。
勢いで書いたのはいいけど、ちゃんと原作キャラをうまく動かせているか心配になってきた…
書き方あんまり上手くないですね!かもしれませんが、温かい目で見守ってくれると嬉しいです。
次回、「山手でのきくりな遭遇」
お楽しみに。