この世界では、対象年齢が18歳に引き下げられました。なので、広い心で見て下さい。
※現実では20歳です。絶対にマネしないで下さい。
迂闊だった。
美しい景色に見惚れ、自分もその一部になりたいと足を進めてしまい飲み込まれた。美しいと思っていた景色も一瞬で恐怖へと変わった。這いずり出ようともがくも、
「…ぅ……」
遠くから自分の声が聞こえる。そっちに行こうとするも、最早そんな体力は無かった。次第に声も聞こえなくなり、視界も真っ暗になった。最後に感覚だけが残り、
あぁ…これ、私死ぬんだ。自然とそう感じた。まだやりたいこと沢山あったのに…もうできないと思い、涙を浮かべ意識を手放そうとしたその時、
“ゴボォゴボォゴボォ”
音が聞こえたと思ったら、身体を抱きかかえられ、浮き上がっていくのを感じた。
“ザバァ!”
何が起こったか理解する間もなく、私はそれから脱出することができた。
「おい!大丈夫か!」
誰かがそう叫ぶ。ああ、この人が助けてくれたのか。なんとか僅かな意識で理解することができた。お礼を言おうと顔を見たが、ぼやけていてわからない。かすかに男の人だとわかるだけだった。しかし何故か安心していまい、私の意識はそこで途切れた。
気がつくと私は病院のベットの上にいた。
(そうか、私、海に落ちて溺れたんだっけ…)
旅行中、綺麗な海景色に見惚れている内に足下が疎かになり、海に落ちたことを思い出した。あそこで死んでしまったと思ったから、生きていることに少し驚いてしまった。
「多少海水を飲んだようですが、心身ともに異常はありませんから、一日ここで安静にしていれば大丈夫ですよ」
「本当にありがとうございます!!」
「いえ、お礼は助けた方に言って下さい」
両親とお医者さんが話している声が聞こえ、私は誰かに助けられたことを思い出した。早くお礼を言いたかったが、名前どころか顔すらわからなかった。これでは探しようがなく、見つける事ができない。
“コンコン”
私が落ち込んでいると、窓の方から音がした。見ると、男の子が手を振っていた。だが、知らない人だったので、開ける気にはなれなかった。彼は、私が窓を開けてくれないとわかると残念そうな顔をしたが、鍵がかかってないことを確認すると中にはいってきた。
「ちょ、何なのアナタ!大声出すわよ!」
すると彼は慌てだした。
「いやいやいや!命の恩人にそれは無いでしょ!」
「命の恩人?」
そう言われて私は聞き返した。うんうんと頷く彼を見た。少し茶色がかった髪に端正な顔立ち。しかし、全体像としては、私と同い年の男の子だった。
「本当にアナタが?」
「あぁ本当だとも。全く、大変だったんぜー」
そう言うと、エヘンと胸を張り、ニカッと笑ってみせた。本当にこんな子が…と信じられなかった。そんなに大きくないのに、あの時は力強く感じた。
「この恩はどうやって返してもら…ん、どうした?そんな怖い顔して」
「ぅ」
「う?」
「ゥワァァァンン!!」
私は大きな声で泣き出してしまった。
「えっ、ちょっと!そんな大きな声出すと…」
「どうした!何があった‼」
私の声を聞きつけて、お医者さんがやってきた。
「あっ、お前何処から!!」
「いや、俺は何も…」
その後誤解は解け(勝手に入ったことは怒られていたが)、両親と私は男の子にお礼を言っていた。余りに何回も頭を下げるので、彼は少し困っていた。
見舞いに持ってきた果物をお母さんが切ってくれると、また両親はお医者さんと話に行ってしまった。この場には私と男の子だけになった。私達は切ってくれた果物を食べながら話した。
「君、どっから来たの?」
「えっと、東京から旅行に」
「そうか、災難だったな」
そう言うと、彼は少し悲しい顔をした。きっと旅行中に海に溺れるという怖い経験をした私を気の毒に思ったのだろ。なので私は明るく振る舞うことにした。
「だ、大丈夫だよ!お医者さんさんも問題無いって言ってたし!」
しかし彼の表情は変わらなかった。どうしようかと悩んでいると、彼の方から話しかけてきた。
「海、怖い?」
「え?」
思いがけないことを言われたので驚いた。だか、怖くないかと言われればやはり怖い。何より命を奪われそうになったのだ。
私は何も言わず、只小さくうんと頷いた。それを聞いて彼は「やっぱりかぁ」とだけ言った。すると、ポッケに手を入れ、何やら小瓶のようなものを取り出し、私に差し出した。
「なにコレ?」
中には小さな貝殻やら、綺麗な砂が入っていた。とても綺麗で、お店に売っているかのような代物だった。
「綺麗…」
「それ、あの海で採れたものなんだ」
「これが!?」
それを聞いて私は申し訳なくなった。これを集めるということは、彼は海が好きに違いない。その人の前で「海が怖い」だなんて、酷いことを言ってしまった。そんな事言う人に持つ資格なんて無い。だからこれを彼に返そうとした。しかし彼はそれを手で制し、言った。
「あ、あのさ!その…」
何か言いたげだが、言葉を選んでいるのか、ゴニョゴニョと上手く聞き取れなかった。しばらくすると、意を決したのか、私の方を見た。
「俺バカだから、こういうの上手く言えないけど…海を嫌いになって欲しくないんだ!だから、今は怖いかもしれないけど、いつか克服したら、俺が必ず好きにさせるから!」
彼は私に強く訴えかけた。その目は余りに真っ直ぐで、私は感化された。
「だから、その時までそれは持ってて」
「わかった、約束する!」
そして、指切りげんまんをしてまたここに来ようと思った。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は…」
あれから10年が経ち、私、神崎美羽は大学生になった。あれ程怖がっていた海も克服し、今では泳ぐのが得意になるまでになった。そしてこの春、伊豆大学の文学部に入学することが決まり、再びこの地にやってくることになった。
借りたアパートから出て、海辺を歩く。あの時と比べるとやや普通の海という感じであったが、風が心地よい。
しばらく歩くと、ある場所に着いた。
「ここだなー私が落ちた場所」
そこはなんの変哲もない所ではあったが、ほのかに覚えていた。下を覗き込むと、少し高さはあったが、死にはしないぐらいだった。
「フフッ」
今では半分笑い話となったあの出来事を思い出す。すると風が吹いて、また落ちそうになった。
(ヤバイ!)
そう思った瞬間、肩をグイッと引っ張られて、後ろに尻餅をついた。痛さはあったが、助かったという気持ちの方が強かった。
「大丈夫?」
声をかけられ、手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます」
私は手を掴み立ち上がると、助けてくれた人の顔を見た……
“スッッッゴイイケメンッ!!”
助けてくれた人は男性で、かなりイケメンだった。若手俳優ですといっても信じそうなくらいカッコよく清潔感があり、掛けている眼鏡も知的さを感じさせた。
「痛くなかったかい?」
「だ、大丈夫です//」
「それは良かった。この時期まだ海は冷たいので、落ちたら風邪引いちゃいますよ」
そう言って優しく微笑んだ。そしてその顔は、昔助けてくれた男の子と重なった。
(まさか、この人が!)
そう思い聞こうとすると、彼は腕時計を見て「あっ」と言い、申し訳無さそうにこちらを見た。
「ごめん、これから用事があるから行かなくちゃ」
「そ、そうなんですね…」
だか、これを逃すともう会えないかもしれない。そう思い、
「あ、あの!」
彼を呼び止めた。
「また、会えますか?」
それを聞いて彼は少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔に変わり、「うん」と言ってくれた。
「今日は無理だけど、よくあそこに来るから、もしかしたら会えるかもね」
そう言って、ある場所を指さした。そこはお店の様な場所だった。
そして彼は行ってしまい、また私だけとなった。さっき迄心地よいと思っていた風が急に寒く感じた。私はバックに入ってたカーディガンを取り出すと、それを羽織り、先程彼が指さした場所へと向かった。
お店の前に立つと看板が目に入った。そこには、「diving shop Grand Blue」と書かれていた。海沿いの小洒落たお店だと思った。
大学進学を機に引っ越してきた海沿いの町。聞こえてくる潮騒と照りつける陽射し。そして探していた人がこの場所にいる。そんな今までとは違う環境で、私はどんな出会いをするのだろう…
「「「「「アウト!!‼‼ セーフ‼‼‼ よよいのッ」」」」」
“パタン”
(今は何も見なかった。それでよし)
扉をそっと閉め、来た道を戻ることにした。きっと彼も海に落ちそうになった人を助けたことで、少し興奮していたのだろう。あんな場所に普段居るはずがない。きっとそうだ。私も彼に会えて気が動転してあんなものが見えてしまったに違いない。
「うちになにか用かな?」
戻ろうとした私の目の前に一人の男性が立っていた。日焼けをし、逞しそうな体型とは裏腹に、何故か少し可愛らしいエプロンをしていた。
「イエ、オミセヲマチガエマシタ」
私が素早く立ち去ろうとすると、腕を掴まれた。
「いやいやいや、間違ってないからね!ちょっと体験だけでも!」
「体験てなんですか!やっぱりエッチなお店なんでしょ!」
「いや、アレ見て!アレ!!」
そう言って看板の方を指さした。やはりダイビングショップの名前が書かれている。だが、先程の裸の男たちはどう説明するのだろうか。
「離して!騙して連れて行こうたってそうは行きませんから‼」
掴まれた手を強引に振り解き、スマホを取り出して通報しようとした。
「取り敢えず痴漢と違法風俗店について摘発してもらいますから‼」
「いやそんな! って、痴漢?俺が?」
私が通報しようとすると、お店の扉が勢いよく開かれ、若い女性が出てきた。
「なんか外が騒がしいと思ったら、店長帰ってきてたんだ」
(騒がしいのはそっちでしょうよ…)
心の中でツッコミつつ、その女性を見た。落ち着いた服装に、長い髪をポニーテールで纏め、手には何やらお酒のようなものを持っていた。裸のオトコたちに気を取られ、そこに女性がいたなんて気づかなかった。
「なになに〜奥さんと別居してるからって、こんな若い子に手を出すなんてー店長やるね~」
「違うって茜ちゃん!俺は別居してるわけでもないし、ナンパしてるわけでもない!」
「いや、そんなんで言われても…」
指さした方を見ると、スマホを持っている私の手を店長と呼ばれた男性がまた掴んでいた。するとすぐさまその手を離した。
「ご、誤解だって!この人がうちの店を風俗店で通報するとか言うから!」
「アハハ!なにそれ、ウケる!!」
女性は大きな声で笑い出した。私は呆気にとられ、さっき迄の怒りが消えていた。
「ごめんなさいね。嘘だと思うけど、ここ本当にダイビングショップだから」
「え、そうなんですか!」
「なんで彼女の言うことだと信じる」
店長が恨めしい目つきで私を見た。そりゃあ、不釣り合いな格好をしたおじさんと、同世代の女性の言うことだったら後者を信じるだろう。
「あとこの人、若い娘を見ると見境なく手を出すから気を付けて」
「わかりました。気をつけます」
「コラ、適当な事言うな。あと君も真に受けんでいい」
店長は「まったく」と言うと、停めてあった車のトランクを開けだした。
取り敢えずここは本当にダイビングショップということがわかった。だが、彼もここに来るのだろうか。こんな獰猛な動物がいるような場所に。
「あの、一つ聞きたいことがあるんですけど…ダイブって人も来るんですか?」
それを聞いた二人は顔を見合わせ、お店の中の方を見た。
「やっぱりいないですよね。それじゃあ…」
私が立ち去ろうとすると、「ちょっと待って」と女性に呼び止められた。
「大武ならあの中にいるよ」
「えっ」
それはあり得ない。だってさっき海辺であって、このお店とは反対方向に行ったはず…
「そ、そんなのあり得ません!私さっき彼に会ったんですから!」
「うっそ~今日ずっと私たちと飲んでたのに?」
そう言われてあの騒がしい連中の方を見た。だが、彼の姿は発見できなかった。するとしばらく黙って見ていた店長のおじさんも「あ~いたいた」と言った。
「ほら、あそこに」
私はよーく目を凝らして見る。
「イェーイ!!!俺が連勝を止めたぜぇ!!」
「いやー手強かったなぁ。何人抜きだ?」
「確か9人じゃなかったか?惜しーな、あと一人で10人抜きだったのによ」
ガヤガヤと騒がしかった輪が解かれ、一人の姿が見えた。頬を紅くし、口からはヨダレが垂れ、片手に酒瓶を持った全裸の男の姿が。
「あれが息子の大武だよ」
おじさんがやれやれといった感じで大量のお酒が入ったケースを持って、お店の中に入った。
「よぉお前たち、酒足りてるか?」
「店長お帰りっす、ちょうど無くなりかけたとこっすよ」
「よっしゃー!!もーいっちょやるかぁ!!」
「「「「「おーー!!!!!!!」」」」」
私は絶句して何も言えなくなった。
「大丈夫?」
「…よね…」
「え?」
「嘘ですよね!!!」
私は女性の服を掴んで叫んだ。信じられない。いや、信じたくなかった。長年の恋い焦がれた人があんなゴミクズみたいになるなんて!!!
藁にも縋るような思いだったが、女性は申し訳無さそうな顔し、両手を合わせて「ごめん」と言った。
『俺が必ず好きにさせるから!』
“パ、パリンッ!”
「い、いやー!!!!!!!!!!!!!!!!!‼‼‼」
その瞬間私の淡い思い出が粉々になり、眼の前が真っ暗になった。
ちなみに、あの光景を見て店に入るのを辞める客が後を絶たないので、店長はあと時必死だったのです。