碇シンジは困惑していた。
シンジはヒカリにプロポーズをした。
それ以降数日にわたり、シンジとヒカリはお互いに気まずいのか顔も言葉もかわさないようになっていた。
二人の間で微妙なすれ違いがおきていた。
シンジはヒカリを、ヒカリはシンジを避けていた。
時折、シンジは結婚を言ったのはまずかったのかなと後悔していた。
そして、もう一つ気がかりなことがあった。
最近青葉からの連絡がない。
青葉のバンド仲間や、マヤの同僚に聞いても「連絡がつかない」と返すだけだった。
何もなければいいのだけど、事件か何かに巻き込まれなければいいが。
何よりも青葉と別れる時に感じたあの嫌な予感はなんだったのだろうか、シンジには答えがわからなかった。
「…はあ。」
シンジは校舎の屋上で溜息をついていた。
その時、何かの視線を感じ取った。
彼は振り向くと、そこには少し照れたような表情をしたヒカリがいた。
「あ、あの…碇君。」
「あ、その‥どうしたのかな。」
洞木ヒカリは顔を赤らめると、彼に近寄ってきた。
「…改めて、家族のみんなに碇君を紹介したいからさ。今日、ごはん食べに来ないかな…って。」
シンジはびっくりした。
そうか、ヒカリは僕のプロポーズを真剣に受けているんだ。
17歳のシンジはそのように考えると、ヒカリの手をつかんで微笑んだ。
「行くよ、行くとも!」
ヒカリはシンジの言葉に心底嬉しそうな顔をした。
そんな彼女を見て、シンジも同様にかなり嬉しい感情で満たされた。
「じゃ、私ご飯作るから。碇君何がいい?」
「え?」
「…結婚したら、こういう会話何回もするんだから。」
ヒカリは頬を染めながら結婚という言葉を繰り出した。
シンジは改めて羞恥心と歓喜で心が満たされて行った。
「…ハンバーグ」
シンジは照れながら言った。
ヒカリはうまく聞き取れず聞き返した。
「え?」
「僕、ヒカリちゃんのハンバーグが食べたい。」
「…わかったわ!私、がんばっちゃうから!」
ヒカリは帰ろうとした。
その時だった。
シンジは彼女を引き留め、抱き寄せた。
「愛してる。」
ヒカリはシンジに抱かれるまま彼の胸を堪能した。
ヒカリはその時気が付いた。
地球を怪獣から守る男。
でもその背中や肩は意外と狭い。
そして、数分間の抱擁の後、二人は離れた。
「…あたしも愛してる。」
「結婚したらどこへ行きたい?」
「うーん、私、ニュージーランドに行きたい。変わった動物をみてみたいの。」
ヒカリは飛びつくようにシンジの唇を重ね合わせた。
シンジの舌が、ヒカリの舌にまざりあう。
二人の唇は重なり合うと一つの熱を産んだ。
ようやく二人はお互いに離れた。
「あ…」
「うぅ…」
お互いの息吹が離れていく。
名残惜しいように唾液の糸が引いていった。
「碇君、私…私…。」
その時、シンジの体に何かが反応するのがわかった。
久々の怪獣だ。
距離も近い、日本国内だ。
「ヒカリ」
「え?」
まさか名前で呼んだ。
ヒカリはシンジをみつめた。
「…僕の出番だ、また怪獣が来た。」
「…え?本当」
「日本の国内にいる、キミも気を付けてくれ。」
ヒカリは目を丸くした。
夕陽がシンジを差し込んでいる。
とても男らしくみえる。
「あ、碇く」
ダメだ、夫婦になるんだ。
苗字呼びは不自然だ。
「シンジ、いってらっしゃい。」
「え?」
「あなたのことシンジと呼びたい、結婚するんだから。」
ヒカリは頬を赤く染め言った。
シンジもその言葉に微笑みながらうなづいた。
「行ってくるよ。」
その時だった。
シンジの胸に、青葉の時と同じ胸騒ぎが走った。
彼は変身するのを辞めた。
そして、ヒカリをみつめた。
「どうしたの…。」
「いや、何でも…。」
「やだ、それじゃ永遠のお別れじゃないの。」
そうだ、もしかしたら今から行く怪獣がとんでもないヤツかもしれない。
後生の別れ。
だとしたら…。
シンジは再びヒカリに近づいた。
「絶対に僕は君だけは守りたい。」
そして、抱擁した。
ヒカリはずいぶんとシンジが何か心配してるのかなと気がかりに感じると彼を抱き返した。
「私も宇宙が敵になっても私だけは味方だから、忘れないでね。」
ヒカリはシンジの耳元で優しく言った。
シンジは、それを聞くと少し安心した。
「さあ、行ってあいつらをぶちのめしてきて!」
ヒカリはシンジの背中を叩いた。
少しシンジは本気で痛みを感じつつも、胸を高鳴らせながらウルトラマンに変身し、怪獣の反応がある方へと向かっていった。
彼は東へと向かっていった。
シンジはウルトラマンになり、空を飛びながら関東平野を見下ろした。
『…あああ…。』
破壊された街並みがみえた。
そこはかつてビルがあったのだろう。
だが、今では廃墟ばかりだ。
崩れたビルは岩山のようにそびえ、その下を海が通っていた。
ギリギリに残った陸地では、まるで装甲のような作業服に身を包み放射能の除染作業をしている人々がみえた。
『これがかつての関東なのか…』
シンジはその時知った。
彼が倒したゴジラはやはり想像以上の強者だったのだろう。
今から、20年近く前にゴジラは襲撃した。
それが、世界初の怪獣被害だった。
ゴジラの圧倒的戦闘力の前に自衛隊も在日米軍もなすすべなく破壊された。
そして、東京は壊滅した。
かつて、世界に名高いアジア最大の経済都市地域であった東京~神奈川は、ゴジラの立った一撃の熱線とその熱線を吐くときに発生した衝撃波で壊滅した。
地形は大きく変わり、関東平野のほとんどはクレーターと化した。
その時、地球の全てを大きな地震や津波が襲って二次被害も尋常ではなかったという。
シンジは改めてゴジラを倒せたのは、ユリアやアスカといった周囲の人間の助力があってのものだということを痛感した。
以前あったシネストロという元ウルトラマンはいっていた。
ゴジラは、地球の防波堤でもあった。
ゴジラがいることで、他の宇宙の侵略者は侵略してこなかったと。
それはそうだ。
だが、防波堤はゴジラでなくてもいい。
僕が防波堤になる必要があるからだ。
そんな時だった。
『アレは…。』
シンジは何かを感じた。
それは人間が怪獣化したものだ。
『早くいかないと!』
シンジが向かうと、そこには怪獣がいた。
人間の女性のような顔と肢体をしたそれは腹部に赤ん坊のような顔をしたもう一つの顔があった。
肌はトカゲのように鱗に満ちていた。
怪獣は廃墟だらけの街を困惑したように歩いていた。
『人間怪獣だ…まだあんなものがあったのか。』
ウルトラマンは地面に着地した。
怪獣はそれをみると、細長い腕をゴムのように伸ばし両手の掌でウルトラマンの首を締め上げた。
『ぐっ!!!』
女型の顔は笑っていたが、腹部にあるもう一つの顔は泣き叫んでいた。
その耳障りな声はウルトラマンの脳を振動させていた。
脳を振動させながら女体が攻撃を行う、一種の連携攻撃ができていた。
『…想像以上に強い。』
シンジは困惑をした。
だが、決意は固かった。
この怪獣に変えられた人間たちにも、人生はあるんだろう。
だが、それでは…いけない。
シンジは片腕を大きく振るうと、全身の力を込めて女の顔を殴り飛ばした。
グギャっ!!!!
怪物はひるんだ。
腹部の顔は泣き叫んでいる。
シンジはそれに心底イラつきを感じた。
その時、彼は先ほど殴った腕を腹部に突き刺すように殴った。
『くらえ!』
グチャッ!!!
赤ん坊型の顔はウルトラマンの拳に剣のように突き刺さると、脳味噌をぶちまけた。
赤い血しぶきが噴水のようにとびかった。
その時だった。
シンジは何か嫌な感じがした。
まるで、本当に人を殺しているような厭な感覚が全身を走った。
『こうせざる負えないんんだ…。』
自分に言い聞かせた。
女型の顔は苦痛に顔を歪ませ、眼から涙を流した。
その時、声がした。
『シゲルさん、御免なさい…。』
シンジはビクリと反応した。
この優しそうな声、聞き覚えがある。
彼は記憶を頼りに思い出した。
この透き通った優しく屈託のない声。
『まさか…まさか、まさか…。』
シンジはのけぞった。
間違いない、マヤさんだ。
青葉さんの奥さんのマヤさんだ。
『そんな、嘘だろ嘘だ…。』
腹部を抑え、苦痛と悲痛に歪みながら痙攣し悶え苦しみながら倒れた。
そして、怪獣ツインヘッドは死に絶えた。
それはマヤが死んだことも同じだった。
周りを赤い血が池のように流れていくのがみえた。
その時、シンジの脳内に何かヴィジョンがみえた。
青葉が夜にマヤと歩いている。
誰かが声をかけている。
アルビノのような白い肌をした男がいる。
『月夜の晩に悪魔と踊ったことはあるか。』
男はそう聞いた。
すると、銃を撃った。
青葉シゲルはこの時死んだ。
その後、マヤは男たちに連れていかれ、注射を打たれていた。
『…この男が青葉さんを殺したのか。』
シンジは腕の拳をグッと掴んだ。
そうだったのか、青葉さんと別れる時に感じていた厭な感覚はウルトラマンの第六感。
予知能力だったのか。
『青葉さん、マヤさん…。』
その時、シンジはウルトラマンを通じて、シンジは周囲を見回した。
まるで、やってはいけない事故を起こした犯人のようだ。
除染作業の作業員だろうか、廃墟に逃げ込んだ人々は震えあがっている。
ウルトラマンに恐怖を抱いている。
『よせ、そんな目で俺を観るな!!』
シンジは一人称が俺になったことに驚いた。
いや、こんなことをしている場合じゃない。
ヒカリの時にも同じ感覚を感じていた。
ということは…彼女も。
『まずい!!!』
シンジはすぐさま、戻っていた場所に瞬間移動した。
その間にウルトラマンの変身を解除し、シンジに戻った。
いつもの学校がみえた。
先ほどの屋上があった。
だが、そこにはヒカリはいなかった。
「いないっ!!!!」
シンジは学校中を探した。
ヒカリはいない。
「いない、いない!!!!」
ふと、ケンスケがいた。
「おい、シンジ…どうした。」
「洞木ヒカリをみなかったか。」
「あ、お前の彼女?もう帰ってるんじゃないかな…。俺、居残りの補習受けてたから、よーくわかんねーわ。」
まずい。
「ごめん!!!」
シンジはケンスケに挨拶をすると、急いで学校を後にした。
そうだ、ハンバーグ。
彼女にご飯を作ってもらう約束をした。
だとすると…家だ。
シンジは急いで学校の外にある路地裏にいった。
不良生徒がこちらをみていた。
だが、急いで走るシンジにおされたのか何も言えずにいた。
「こいつらがいる以上、ここではできない。」
シンジはボヤいた。
彼は元居た場所にもどろうとした。
だが、帰宅しようとする教員や職員、生徒が多かった。
変身と瞬間移動ができない。
彼は舌うちをすると、電話を取り出した。
『現在使われている電話はただいま電源が入っていないかもう一度お試しになってください。』
ダメだ。
電源が入っていない。
シンジは急いで人通りの少ないところを探した。
だが、中々なかった。
「糞糞糞糞糞クソ!!!!!」
シンジはボヤいた。
頭がパニックになっている。
そうだ、公衆トイレだ!
シンジは急いで公衆トイレの障碍者スペースに入った。
そして、流れるような速さで瞬間移動をした。
ヒカリのいる団地にきた。
青葉さんは殺された。
マヤさんは怪獣に変えられてしまった。
ヒカリだけは、せめて彼女だけは…。
シンジはようやくたどり着いた。
ヒカリ姉妹の住む部屋だ。
ここにいるはず…。
「ヒカリちゃん!!!」
シンジは開けようとした。
ドアは開いていた。
彼はゾッとした。
中に人がいるなら、鍵は閉められているはず。
なのに、開いている。
ということは…。
シンジはかまわずドアを開けた。
そこにはそこら中に血がまみれていた。
まるで生臭い何かの臭いがした。
「なんなんだこの臭い、肉の臭いじゃない。」
彼はゆっくりと歩いた。
脇のドアが開いていた。
シンジはそのドアを恐る恐る開けた。
中には少女の死体があった。
だが、ヒカリではない。
彼には見覚えがあった。
「ヒカリちゃんの妹だ。」
年端もいかない小学生の妹は、首を吊った状態で死んでいた。
何をされたのか、シンジは知りたくもなかった。
あの明るい少女が、シンジとヒカリの仲を冷かした少女は…殺された。
自殺などではないのがシンジにもわかった。
「あ、ああ…ああああ…。」
シンジは思わず、腰を抜かした。
そして、キッチンに目が向かった。
そこには作りかけのハンバーグがあった。
そこで、眼鏡をかけた20代ほどの若い女性が首元を切られた状態でダイニングテーブルで倒れていた。
恐らく、ヒカリの姉だ。
「…あ、ああああああ…ああああ…。」
シンジは吐きそうになった。
あまりにもグロテスクすぎる。
彼は、キッチンに本能的に足が向かっていた。
そこにはメモがあった。
『Read this』
彼の拙い英語でもわかる。
これを読めという言葉だ。
シンジは手に取った。
その時、また頭にビジョンが浮かんだ。
「!!!!」
ヒカリと姉と妹がキッチンで仲良くご飯を作っていた。
その時、誰かが訪ねてきた。
ヒカリはシンジと思い込み、その訪問者に近づいた。
そこには…男が立っていた。
紫のコートを羽織ったアルビノの白い男。
その男はヒカリに何かを浴びせ、気絶させた。
様子をうかがいに来た姉と妹は、そこで男の部下たちに捕まり殺された。
「…これが人のやることか。」
シンジはあまりの残酷さに口を覆った。
あの紫コートの男は、青葉さんを殺した人と同一人物。
だとしたら、シンジに悪意がある。
その時、リツコが言った言葉を思い出した。
「ヒトの敵は所詮ヒト…。」
ヒカリはまだ生きている。
それだけはまだいい。
シンジはメモの裏を呼んだ。
住所が書かれていた。
「ここに来いということか。」
シンジはこれが挑戦状だとわかった。
だったら受けて立ってやる。
怪獣を倒してきた今の自分にただの人間など敵ではない。
彼は、メモを手に取りその場所へと瞬間移動した。
周囲はもう夜だった。
瞬間移動と言えども、ある程度は時間が経過するのか。
あるいは、能力を使いすぎて劣化しすぎてるのか。
シンジにはわからなかった。
そこは、一種の廃工場だった。
シンジは何があるかわからない念のためにウルトラマンに変身した。
そして、彼は息をひそめ音を消し気配を探した。
いる、少女がいる。
生きているかどうなっているかわからないが、まだいる。
シンジはヒカリを、愛する少女を探し求めた。
窓ガラスを突き破り、壁を突き破りながらシンジはヒカリのいる部屋へと向かっていった。
『ヒカリちゃん!!!!』
シンジは叫んだ。
だが、次の瞬間観た光景はそれまでの希望を打ち破るものだった。
「そんな…!!!!!」
ウルトラマンの変身は一瞬で解除した。
精神的なショックが強すぎた。
シンジは悲鳴をあげ続けた。
「うわああああああああ、うわあああああああああああああああああああああああ!!!!」
そこには、ヒカリがいた。
だが、すでに事切れていた。
十字架に磔にされ、全裸に剥かれていた。
いいや、全裸なのかもわからないなぜなら首から下に大きな傷があり、そこから血が滝のようにながれ全身を覆っていたのだ。
まるで、イエス・キリストのように両手に杭を浮かれていた。
そして、頬は切り裂かれ、笑ったようになっていた。
だが、表情は苦痛そのものだったのだろう、白目をむき口からは血を垂れ流していた。
「あああああああああああああああ!!」
腹部は何度も刺された後があった。
鉄パイプが6個ほど突き刺さっていた。
鉄パイプの先目からも血が流れ出ていた。
これが死因だ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」
シンジは泣き叫んだ。
その時、気配がした。
紫色のコートを羽織った男。
青葉を殺し、マヤを怪物に変えた男。
「これはこれは、遅かったじゃねえかヒーローさん。」
男は白人だった、だが日本語は流ちょうだった。
白人だが、そのアルビノ風に白い肌と赤い唇はピエロのようにみえた。
「残念だったな、この女の子はちょっと前まで生きていたんだがもう死んだよ。ああ、悲しいな。だが、ヒーローには悲劇がつきものだ。まあ、お前も俺のような男がいて感謝するだろう。」
シンジはその時わかった。
この男は冬月を殺した。
全て、この男がやったことだ。
「お前がみんな殺したのか。」
ジャックは笑って言った。
「ああ、勘違いしないでくれよ。俺はお前に恨みがあるわけじゃない。いや、むしろ愛してると言っていいぐらいに好きだ。だが、まあこんな事でも金にはなる。まあ残虐に殺した方が俺のスポンサーは喜んでくれるんだ。まあ、やり過ぎだと言われが、やりすぎなほうがいい。ビジネスとはそういうもんだからな。」
男はヒカリの死体をみて、自信満々な顔をしていた。
まるで被害者に1ミリの同情もみせていない。
殺す事を楽しんでいる邪悪な悪魔の男だ。
「…貴様、よくも!!!!!!!」
シンジはその次の瞬間、本能的に動いていた。
一瞬でウルトラマンに変身した。
そして、男の首をつかんだ。
『誰に雇われたんだ!!!!!なぜこんなことをした!!!!』
「いうわけがないだろ、碇シンジ君。」
男に自分の名前を言われた。
まるでバカにされている。
侮辱されたような感じがシンジにはした。
『いつから知っている!僕の正体を!』
「最初から知っていたさ、ずーっとな。お前がそのアバズレとキスをしていたころからずーッと知っていたさ。」
アバズレ、洞木ヒカリのことか。
『貴様…!!!』
「いいや、実を言うとこの10年以上お前をずーっと見張っていた。俺こそがお前の親父と言っても過言じゃないな、息子よ。」
シンジは吐き気を覚えた。
確かにゲンドウはろくでもない父だった。
だが、こんな犬畜生に父と呼ばれる筋合いはない。
「フフフ、勘違いするなヒーロー君よ。何度も言ったが、これはあくまでビジネスだ。」
男は笑っていた。
『嘘つけ、貴様は楽しんだんだろう!何の罪もない人を殺して楽しんだんだろう!!!!貴様は人間じゃない!!!』
男は目を見開くと、大袈裟に笑ってみせた。
「ハハハハハハ!!!人間じゃないときたか!!!罪もない人を殺して楽しんだと…アハハハハ!!!あったりまえじゃないか!!楽しいからこの仕事をやっているんだ!!!!楽しいからあの小娘を殺した!!!あの小娘の家族もざーんぎゃくに殺してやった!!ヒヒヒ…!!!」
男は笑っている。
シンジは、この時男の心に凄まじい孤独があることがわかった。
孤独と虚無、そして秩序・正義への嘲笑・侮蔑しかこの男にはない。
だからこそシンジは腹藁が煮えくり返りそうになった。
「そうだ、教えてやろう!!!お前にいいことを教えてやろう!」
シンジは苛立った。
だが、男はその苛立ちを無視するように道化のようにしゃべった。
「あの小娘を殺している時、小便を垂れ流しながら泣きじゃくっていたなァ、アレは笑えたぞ!ハハハハ!!!最後になんていったか教えてやろーか?殺さないでだよ!!!殺さないでだ!!!つっまんねー最期だよな!!!ギャハハハ!!!!」
ウルトラマンは、シンジはその大袈裟な笑い方に怒り以上に恐怖を感じた。
この男は狂っている。
『もういい、黙れ。このバケモノめ。お前は殺しを楽しみすぎているぞ。』
男は何かを思い出したようだ。
「お前だって楽しんでいたんだろーが。怪獣どもを殺して、ヒーローになっていい気分して、気持ちよくなって楽しんでいたんだろう!?楽しくて楽しくてしかたなかったんだろ!?お前だって、怪物なんだよ。怪物!!!俺と同じだな!!!」
その瞬間だった。
シンジの腕が本能的に動いた。
ゴキィッ。
鈍い音が響いた。
シンジは本能的にウルトラマンの力を使い、その男の首の骨を一瞬で砕いた。
男は自分が死んだことにすら気が付かないまま一瞬で死んだ。
『お前はそこで死ね。』
シンジは男の首を地面に投げ捨てた。
ゴミのように。
これ以上触れると自分の手がけがれてしまう。
まるで狂気が伝染病のようにうつってしまう。
そんな気がした。
そして、ヒカリの死骸をみつめた。
『…ヒカリちゃん。』
シンジは磔の状態から地面に降ろした。
そして、瞳を閉じさせた。
彼は、ウルトラマンの状態のままで泣き崩れた。
『‥‥なぜこんなことに。』
その時だった。
複数の男たちがやってくるのがみえた。
「ジャックさん!」
「ああ、ジャックさん!」
男たちは例の白い男の死骸を見てうろたえていた。
シンジにはわかった。
この男たちは、洞木一家を惨殺し、青葉を殺した男の仲間。
その現場に居合わせた。
こいつらも同罪だ。
『‥‥貴様ら、許さん!!!!同罪だあ!!!!!死ねッ!!!!』
シンジはヒカリの死骸を抱き寄せたまま念力を放った。
男たちの体は空中に浮かぶと風船が破裂するように膨らんでいった。
「助けてくれええええええ!!!!」
「死にだぐないよお!!!」
男たちの悲鳴が聞こえたが、無視した。
やがて、男たちの腹部は一気に膨らむとそのまま破裂した。
内臓が吹き飛び、肉片が飛び散った。
血がそこらじゅうにまみれていた。
その時だった。
サイレンの音がする。
そして、ヘリコプターの音も。
『戦略自衛隊か』
シンジは窓から様子をみた。
すると、殺し損ねた男の生き残りが自衛隊の元へ囲んでいるのがみえた。
「ウルトラマンが、ウルトラマンが…人を殺した!!!」
男はそう言っていた。
シンジは遠く離れた男に向かい念力を放った。
男の体は空中に浮かび上がると、自衛隊員の前で破裂し吹き飛んでいった。
自衛隊員たちはうろたえていた。
『まだここでやることがあるな…』
シンジは、ジャックと呼ばれた主犯の男の脳味噌を指で突き刺した。
この主犯の男を雇っていた男、それが誰か知る必要がある。
シンジは記憶の一つを垣間見る事ができた。
シンジの頭の中に、ジャックの記憶のヴィジョンがみえた。
ジャックの人生がみえた。
退屈な幼少期を過ごしていたようだ。
どうやらアルビノのような肌も生まれついての物ではない。
ある日突然両親を殺したジャックは、そのままマフィアになった。
そこで、殺しを引き受けて、頭角を出していった。
この男は殺戮と暴力に満ちた人生を歩んでいる。
多くの罪もない人々の死と狂気のオーラで満ちていた。
そして、それを愉しんでいた。
『こいつは、ケダモノだ』
シンジは、その中でも最近のものをみた。
ジャックは携帯を通して男と会話していた。
彼は笑顔を浮かべていた。
『何、やりすぎだと?それは悪い冗談か?』
ジャックは雇い主に聞き返した。
『私が言ったのは、ウルトラマンをおびき寄せろと言ったまでだ。罪もない若い娘たちを残虐に殺せとは言っていない。』
雇い主は不機嫌そうに言った。
それに対して、ジャックは笑いながら言った。
1ミリの後悔もない。
『まあ、いいじゃねぇか。あいつはこっちに来る。ここまではアンタの筋書き通りだろ。これであいつを潰すための手はずは整ったわけだ。じゃあ、生きていたら会おう。あとそれと、大統領選挙がんばれよ。レックス・ルーサー。』
レックス・ルーサー。
ジャックはそう言った。
『ルーサー…!!!』
観たいものはすべて見た。
シンジは容赦なくジャックの頭部をスペシウムエネルギーで破裂させた。
ここにももう用はない。
シンジはヒカリの亡骸を強く抱くと、そのまま廃工場から飛んでいった。
「ウルトラマンが逃げたぞ!!!」
「繰り返す現場は死体の山だ!犯人はウルトラマン!繰り返す、犯人はウルトラマン!」
自衛隊員たちは無線を通じて叫んだ。
シンジは無視をした。
そして、ウルトラマン形態のまま日本を越えて太平洋に突き進んだ。
シンジはヒカリの死体を遠く離れたニュージーランドの地に隠した。
何の罪もない少女とその家族は死んだ。
自分を愛してくれたたった一人の少女。
ミサトさんと同じ、あるいはそれ以上の愛情を寄せてくれた純粋な少女。
家族思いの少女は、玩具のように弄ばれ拷問を受け殺された。
クソのように殺された。
それだけではない。
シンジの友人だった青葉と妻のマヤも死んだ。
まるでゴミのように、死んだ。
殺した男は楽しんでいた。
人を怪物に変えることを、拷問にかけて殺す事を。
この世界の邪悪な狂気を持った怪獣以上の怪物ジャック・ネーピアはシンジが殺した。
ザザーン…
海の音が響く。
潮の臭いがする。
「ごめんよ、ヒカリちゃん。」
シンジは涙も枯れていた。
きっと、ヒカリは自分にあわなければ、死ぬこともなかった。
そのはずなのに・・・・。
青葉さんも、マヤさんも・・・・。
「ごめんよ、青葉さんマヤさん・・・」
シンジはミサトのペンダントを握った。
もしも、仮にミサトが生きていたら今の自分をなんというだろう。
肯定はしないだろう。
「ごめんよ、ミサトさん。」
ミサトさんの代わりに復讐をする気だったけど、それももうできそうにないや。
本当はミサトさんができなかったことを僕がやりたかったんだ。
だってそれが、あなたへの愛への証明なんだから。
その時、彼は気がついた。
涙が出ている。
ようやく出てきた。
やっぱり、感情が残っていた。
「・・・・ごめんよ、みんな。」
彼らは亡き友人たちへの謝罪を追悼代わりに言った。
誰もそれは聞いていない。
ここはニュージーランドの孤島。
大きな十字架が、悲しくそびえたっている。
「・・・・・・」
彼は自分のやった事の重さを理解していた。
人を殺した。
恐らく敵は、シンジの正体もわかっている。
「僕にはもう何も残ってない。何もやることがない。」
ということは、もう叔父の家にも帰れない。
学校にもいけない。
これ以上僕は誰と会う気もない。
ウルトラマンとして戦うことももうないだろう。
「・・・・・いや、まだある。」
彼にはやり残したことがある。
全ての黒幕レックス・ルーサーを殺すことだ。
シンジは掌を握って握りこぶしを作った。
邪悪な全ての黒幕レックス・ルーサーを殺すしかない。
ジャックを雇っていたのはあいつなのだから。
シンジは海に目を向けた。
ルーサーがまっているアメリカへ向かった。
彼に残された男の戦いは始まった。
復讐の戦いが、幕を開けた。
ヒカリたちを殺した男は皆さんご存知、あのアメコミ史上最大の悪役が元ネタです