黒猫と傷付いた白猫   作:ron3studio

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第六話 未だ晴れぬ悪夢

 

ざくり、ざくりと土を踏み締めていく。

運ぶ為に背負った駄獣はかなり重く、自分の体重と合わさって柔らかい地面を抉っていく。

 

「ふぅ……このデカさなら、結構な量になるな。チビ共全員に行き渡りそうだ」

 

自分の家がある村に向けて歩みを進めていく。

一歩を踏み出す度に、ぶら下げている弓が体に当たるのももう慣れた。

血抜きをしたと言えども、獣臭に混ざる血の匂いにはまだ……慣れるのには時間がかかりそうだけど。

 

「はぁ……なんでうちの村はあんな山中にあるんだよ、お陰で帰りが面倒じゃんかよ……」

 

とは言え帰りの道は覚えてるし、何より山中にあるお陰で荒くれ者の目に付かないのは安心できる。この大地には荒くれ者なんざ探せばすぐに見つけれるくらいには多くいるから。

 

「後もう少し……うん?」

 

煙の匂いがかすかにした。別に村でも肉を焼いたりはするから、煙の匂い自体は別にどうだって良い。

疑問は、村から距離がまだあるここから煙の匂いがするのか。

 

「……まさか、火事か?」

 

ありえない話では無い。建物は全て木製で、火の扱いには注意していても、起きる時には起きてしまうだろう。

 

「仕方ない。これは置いていくか」

 

他の獣に喰われるかもしれないけど……そんな些事より優先するべきは村だろう。

 

「急ごう」

 

嫌な胸騒ぎがする。自分の予想よりも、大きいことが起きてるような。

 

 

———

 

 

「……いや、まさか……そんな筈は……」

 

近付けば近付く程、匂いは強くなっていく。

木の焼ける匂いに紛れる、血の匂い。

考えたくなかった。まさかそんな事がある筈が無いって。

 

走った、自分の中に浮き出た最悪の予想を否定したくて。

ただ、ちょっとしたトラブルなだけだと。そう思いたくて。

 

「……嘘だ……」

 

燃え盛る炎。焼け落ちる家屋。その側に転がる人の死体。

夢じゃなかった、妄想なんかじゃなかった。現実だった。

浮かれていた、これまで無かったからと、これからも村が襲われる事なんて無いだろうと。

 

「誰か……!誰か生きてないのか……!」

 

せめて生きてる人を見つけようと、声を張り上げながら探す。

けれど、一人、また一人と見知った人の亡骸を視界に入れていく。

村の殆どを探して、まだ行ってないのは自分の家とあともう一つだけ。

 

「母さん……父さん……」

 

ダメだった。村の中でも一層大きい自分の家は、轟々と火を滾らせていた。その入り口の前には、自分の生みの親が二人倒れ込んでいる。血溜まりを作って、ピクリとも動かない。

 

「まだ……アイツを見てない……!」

 

ここで折れるな、生きてる人が一人でも居る事を願って探せ。歩け。

 

 

———

 

 

「あ、ぁぁ……」

 

荒らされた家、人の死体。そこに倒れている見慣れた女性の姿。

 

「◯◯……?」

 

視界が揺れる。思考が止まる。死ぬな、死ぬな。生きてくれ。頼む、頼む。

 

 

———

 

 

「っ!はっ……はぁっ、夢……」

 

最悪な目覚めだ……まだ、この夢を見る。もう、アイツの顔も、声も覚えてないのにまだ、引きずっている。

 

「くそ……もう寝る気分じゃねぇ。シャワーでも浴びるか」

 

時間を確認すれば、まだ朝の5時か。それなら、シャワーを浴びたら……少し気分転換に甲板にでも出るか。

 

ベッドから起き上がって、脱衣所に移動して服を脱ぐ。そうしてから風呂場に入ってシャワーを流し始める。

 

「……」

 

ざぁぁぁと上から降ってくる水が頭から伝って身体全体を濡らしていく。伸びた髪を一房掴んでみれば、ストレスのせいか元の色も分からないくらいに白くなった髪色。左手の甲には源石が突き出ている。

 

「はぁ……コイツとも、もう長い付き合いだ」

 

感染したのは、数年前にウルサス軍とやり合った時か……。源石爆弾、トラバサミ、地雷、なんでもござれだったな……。

生まれが辺境の村出身だった俺でも、これがどんな物なのかは知っている。そしてこれがある人間がどんな扱いをされるのかも。まあ、傭兵という職業柄そこら辺を気にする必要は無かったが。

 

「不治の病……ね。はは、愚かな人間には丁度いい罰じゃないか」

 

少なくとも、これが今まで自分が何をしてきたのかの証左だ。

 

 

———

 

 

「やぁ、起きるのが早いね」

 

「ん……お前は、ドクター、だったか」

 

「そうそう、私がドクターさ」

 

シャワーを浴びた後、甲板に出てきて景色を眺めながら煙草を吸っていたら昨日の不審者、もとい雇用主のドクターが声を掛けてきた。全身を隠す格好は本人の趣味なのか……?

 

「お前の方はだいぶお早いご出社か?」

 

「いや?休憩さ」

 

「……まて、休憩だと?お前、まさか今の今まだ仕事していたのか?」

 

「そうだね。急ぎのやつが終わったし、気分転換をしてから仮眠でも取ろうかとね」

 

なんだか、コイツの背中にはブラック企業の気配がするな。よく生きてるな。

 

「君、煙草吸うのかい?」

 

「まあ……偶にな」

 

「身体に悪いから辞めておいた方が良いと思うなぁ」

 

「はっ、それは寿命で死ねる身体で吸ってる奴に言うんだな。こんな身体に時限爆弾が付いてるような奴が吸った所で変わらんさ」

 

手すりに凭れ掛かりながら、そう吐き捨てる。ドクターの「そうだったね……」がやけに悲しそうで、そんな事を気にするのかと思ってしまう。

お互いに話すことが無いせいだろう、静寂が訪れる。大地を踏み締める駆動音がやけに煩い。

 

「そういえば、気になっていたんだけどなんで君の名前ってレイヴンなんだい?」

 

レイヴン。俺の本当の名前じゃないが、もうこれが本当の名前のようになってきている。親から貰った名前は……なんだったか。

 

「急だな」

 

「いや何、レイヴンは黒い渡り羽獣をヴィクトリア語で示した物じゃゃないか。だが君はフェリーンで、ヴィクトリア出身という訳でも無く、それに髪色も白じゃないか」

 

「……あぁ、そうだな」

 

「それが気になってね。良ければ聞かせてもらっても?」

 

「そうだな……まず、この名前は本名じゃない」

 

「それはまあ、理解できる」

 

「この通り名を付けたのは、何処かの知らん奴らだ。ウルサス軍とやり合った後も、各地をあっちこっち動き回って依頼をこなしてたらいつの間にか付けられてた。俺としても、丁度良いから使わせてもらってる訳だ」

 

「ふむ……なるほど、君の傭兵としての活動がまるで凶兆を知らせる黒い渡り羽獣のようだったから付けられたのかな?」

 

コイツの頭は相当良いのか、少し言えばすぐに自分で理論を組み立てていた。

 

「まあ……そうだろうな、依頼の大半は特定の人物を殺せだったからな、そんな通り名が付けられてもまあおかしくは無いだろう」

 

「良いものを聞かせて貰った。さてと、私はここら辺で失礼するよ。長居してると仮眠の時間が無くなってしまうからね」

 

「そうか」

 

「それじゃあ、また何処かで」

 

「あぁ」

 

聞きたい事を聞いて満足したのか、スタスタと足早にドクターは甲板から艦内へと続く扉へと歩いていった。

根元までチリチリと燃えて煙を出す煙草の火を消して携帯灰皿に入れてから、俺も艦内に戻った。

 

 

さて、ここでの初仕事はいつになるんだろうな。

 

 




へい、お待たせしやした。六話目です。
彼の名前の由来の説明がされましたね。
あのテラの世界で暴れまくれる人間なんてそうそう長生き出来ないでしょうけども、彼は生きてます。まだ死んでないよ。

彼、ストレスにやられて髪の毛真っ白になっちゃってます。可哀想に(思ってない)
いつになったらブレイズと絡ませる事が出来るんでしょうね。分かりません。
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