Fate/Extra Contract 欠けた月は堕落の泥に抱かれて 作:欠けた月の契約者
私が不意の眠気に抗えずに夢の世界をさ迷っていると頬へ小さな衝撃がきた。ビンタとかそういうのではなく何か小動物の肉球で叩かれているような気持ちよさで…。
「フォッ!フォウ!」ペシッペシッ
「ん…うぅ…ん?」
「…ください、先輩。起きて下さい、先輩。フォウさんも先輩へ悪戯するのは止めてください」
目を開けると目の前には片目を隠すような髪型をした眼鏡の少女が立っていた。上にパーカーを羽織っているけどその下には私と同じカルデアの制服を着ている。そして横には小さなフワフワとした動物が座っている。
「えっと…貴女は?」
「はい、私はマシュ・キリエライトと申します。こちらはカルデアを自由に歩き回るフォウさんです、先輩」
「フォウ!フォーウ!」
「えっと、マシュさんでいいのかな?」
「マシュと呼んで貰っていいですよ、先輩」
何故この子は私を先輩と呼ぶのだろう、フォウさんは何の動物なのか等の疑問が湧いてくるがまず聞きたいのは。
「えっと…じゃあ、マシュは何でここに?」
「何故ですか?『先生』に今日最後のマスターが到着する為、時間が空いていたら出迎えて欲しいと言われたので先程、先輩が入館したのを確認して此方へ来ました」
「………あっ!ごめんね、私、案内の人を待っていたら眠っちゃったんだ…。案内人ってマシュの事なんだね」
「眠気ですか…恐らくそれは【霊子ダイブ】の影響ですね。入館時にシミュレーション等をしたと思うのですが慣れていないと脳に負担がかかるものですので」
「あぁ…あれね。確かに不思議な感覚もあったんだよね。こう…自分の身体だけど自分じゃないみたいな…」
「今後の業務で慣れると思うので問題は無いと思います。皆さん最初は未知の感覚に戸惑っていらっしゃいましたし。何なら先輩の適正を事前に見させて頂きましたがカルデアの中でも適正はトップクラスですので慣れの問題だと思います」
「そっか良かったぁ…」
私が特別その機械に対して不適合であるとかそういうのではないと知って少し安心した。
「もし今後、それでも体調面での不調が現れるようでしたら私や医療スタッフに言ってくれれば検査を行いますので安心してください」
「ありがとう、マシュ!」
「………いえ、先輩の役に立てたなら嬉しいです。では、そろそろ移動を開始しましょう。所長を交えたブリーフィングが開始するまであまり余裕はありませんので」
「えっ!そうなの!?流石に初日に遅刻とかマズいよね…。少し急ぎながら行こうかマシュ」
「了解しました」
私は彼女の後ろを気持ち急ぎ目に行こうとして、ふと思った。
「あっ、マシュちょっと待って」
「何でしょうか?」
「はい」
私が手を差し出すと彼女は不思議そうにその手と私の顔を交互に見る。
「言ってなかったよね?『これからよろしく』って。こういうの大切だからさ。よろしくね、マシュ!」
「………ふふふ…先輩は本当に人間らしいですね。はい、よろしくお願いします。先輩」
彼女は微笑んで私の手を取ってくれた。何故彼女が私を先輩と呼ぶのかは分からないが私には後輩が出来たのだった。
まるで迷路のような複雑な通路をマシュの案内の元で歩いていき、ようやく私は目的の管制室に辿り着いた。
「私一人だったら絶対にカルデア内で迷ってたよ…ありがとうマシュ…」
「いえいえ、私はカルデア内の構造にも詳しいのでお役に立てたのでしたら」
「で、この先に所長さんがいるんだよね?どんな人なのかな…」
「所長は責任感の強い女性です。少し言葉に棘がある時がありますが私はとても尊敬してます」
「マシュがそういうなら良い人なんだろうね」
「はい、何といってもこのカルデアの所長ですので」
「…よし!失礼します!」
私は少し息を整えると管制室の扉を開く。そこでは沢山の人が忙しなく働き、議論している様子が目に飛び込んできた。
「おい、この資料に記載されている特異点で観測されている定礎値は先週に更新されたはずだ。再度確認して修正を頼む」
「Aチームマスターの健康状態問題ありません。カドック・ゼムルプスの睡眠が当館に着任した時よりも安定していないというデータはありますが。魔術回路の運用においても問題は見られず、本人への確認でも任務実行の際の問題にはなりえないとの回答」
「シバの観測問題ありません。特異点依然として消失せず」
部屋の奥には地球儀を巨大にしたようなものがあり、部屋のあちこちでカルデアの職員服を着た大人たちが忙しなく働いている。
そんな中、私の目を惹いたのは部屋の中央で腕を組んで巨大な地球儀をずっと見詰めている銀髪の女性だった。
「特異点修復まで一週間を切っているというのに問題は山積みね…。幸いなのはマスターたちの準備は間に合ったこと。いえ、そういえば最後のマスターが今日…」
「あの…すみません…」
「何かしら?今、私忙しいのだけど見て分からな……い?……貴女みたいな職員居たかしら?」
「所長、此方は藤丸立香さんです。本日到着予定のNo.48のマスターです」
「本日、到着しました藤丸立香です!宜しくお願いします!」
「ああ、成程ね。所長である私に挨拶しに来たってところかしら?良い心掛けね、日本人のそういった礼節を弁えてるところ好きよ」
若干、物言いが高圧的であると感じたがキリっとした大人の女性という印象でその在り方も優雅に思えた。
「私はオルガマリー・アニムスフィア。アニムスフィア家の当主でこのカルデアの所長よ」
私の上司に当たる方だし、マシュから事前に教えて貰った話では魔術世界での貴族でもあるらしいので失礼があってはいけないとここは低姿勢…低姿勢…。
「マシュ、ハクノから連絡が来ていたと思うのだけど。これから特異点修復の前日まで、貴女には藤丸の教育係の補佐をして貰うわ」
「はい、既に教材の方は用意しました。先輩にはこの組織の事や魔術世界の常識を教えればいいと聞きました」
「(……先輩?)ええ、そうよ。彼女の経歴を聞いて驚いたわ。私もまさか魔術の魔の字も知らなそうな一般人を特に説明もなく送り込んでくるとは思わなかったもの…はぁ…」
「あの…私が何か迷惑を…?」
「…いえ、貴女は巻き込まれた側でしょう?幾らレイシフト適正者が見つからない状況で過去に類を見ない適正値を出したといっても、これじゃ拉致みたいなものじゃない…こんなの表沙汰になったらカルデアの汚点よ…」
「えっと…所長さん。私もよく知らずにここへ連れられて来てしまいましたけど。私にしか出来ないことと聞いて来ています。自分の意志で此処に居ますから安心してください!」
私がそう所長に伝えると溜息を吐いて先程の高圧的な雰囲気が和らいでいく。そして、私の頭に彼女の掌が置かれると子供をあやす様に撫でられた。
「ありがとう、藤丸。少し気が晴れたわ。マシュ、彼女を自室へ連れて行ってあげて。今日は疲れているでしょうし、ゆっくりと休みなさい」
「了解しました。では、先輩の部屋までこのマシュ・キリエライトが案内します!」
「うん、よろしくね」
私とマシュは所長へ頭を下げると管制室を後にして私に割り当てられた部屋を目指した。
5分程歩いて行くと【No.48 藤丸立香】というネームプレートのある部屋が見つけた。
「部屋に入るには先輩の職員カードが必要ですので紛失しないように気を付けて下さい」
「りょーかい!失礼しまーす……え?」
ピッとカードリーダーに当てて一体どんな部屋なのかとワクワクしながら扉を開く。するとそこには私の部屋であるのに机で本を読みながら大福と緑茶という和風スタイルで寛いでいる男性が居た。
「はいってまーす………ってえええっ!!」
「マシュ…変質者って警備部とかに連絡すればいいのかな?」
「はい、番号は…」
「待って!待って!せめて、マシュはボクの事知ってるんだから通報するのは止めてよ!」
私とマシュが変質者を通報しようと施設内の連絡機を弄ると止められた。どうやら変質者はマシュの知り合いらしい。
「ドクター、幾ら何でも女性の部屋に我が物顔で居座っているのは擁護出来ません」
「呱々サボり部屋には丁度良かったんだ。だって、この部屋ずっと空き部屋じゃ…ない…か?え?女性の部屋?」
「はい、ここは本日から先輩の部屋です」
「どーも」
私が白衣の男性に向かって挨拶すると彼はあちゃーと額に手を当てて項垂れた。どうやら彼の
「はぁ…そっか…君が最後のマスターだったんだね?ボクはロマニ・アーキマン。カルデアの医療班のリーダーをしているんだ。皆からDr.ロマンなんて呼ばれている」
「宜しくお願い致します、Dr.ロマン」
「うん、よろしくね。藤丸さん」
初見の印象は不審人物だったが話してみると彼の人柄の良さが分かるようだった。少なくとも女性の部屋に忍び込んで変なことをしようとするタイプの人間ではなさそう。
「それよりもドクター!またサボっていましたね?【先生】から頼まれていた先輩の教育は明日からですよ!」
「げぇぇ!!そうか藤丸さんが来たってことはそういうことだよねぇ…」
「教材等は私が準備しましたのでドクターは明日までに内容を一度は読み込んで把握してください」
マシュが端末を弄るとDr.ロマンの端末へ送信した。彼の端末には『ダウンロード完了まで残り2時間23分』と表示されている。
「ちょっとマシュ!この容量の大きさは何!?」
「先生の話では先輩は本当に何も知らない様です。ですので、基礎の基礎から教えれるだけ教えます!頑張りましょうね、先輩!!」
ふんす!と両手を握って胸の前に置いているマシュは可愛らしいが私は一体どれだけの量の知識を詰め込まれるのだろうと戦慄する。
「お、お手柔らかにお願いします…」
教育は明日からということで私たちはその後、Dr.ロマンが密かに持ち込んでいた茶菓子でお茶会をした。こうして私のカルデア赴任一日目は終了を迎えたのだった。