オガミ婆は私の嫁   作:記憶破損

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出会い

 

 1942年…戦時体制に移行しつつある日本。そんな激動の時代に私は生きている。いや、正確には産まれ直したか…まあどうでもいい事です。

 

 私はこの世界の()に関する知識を持って産まれた、力もあった、金も権力も両親にも恵まれていた。日々の生活に不自由ない人生を謳歌する日々、それを人々はこういう『恵まれている』と…‥

 

 

 呪力とは、呪いとは、呪霊とは…人の負の感情が密接に関わっている。なら、今の私の感情からは何が生まれるのだろう。私は何故この世界に生まれたのか答えてくれる呪霊でも産まれないだろうか?私はそれを歓迎したい。

 

 

『万歳!万歳!万歳ぃぃ!』

 

 気分転換に道を歩くと聞こえてくるは張り裂けそうな応援歌・・・別に歌ではないですが、人の心を動かすなら歌も応援も変わらないでしょう

 

 日本の今後を知っている身としては、実に空の励ましのように感じてしまう。白いタスキをかけて戦争に駆り出される者達に応援を送る女達…国防婦人会でしたか?国が士気向上を図る為にテコ入れした、所謂プロパガンダ組織の一部。と言っても、戦争が本格的になると万歳三唱させるより、鉛玉を作らせるのを優先させてやらなくなる一時の見世物、ある意味今しか聞けないレコードです。

 

 

 

 何をしても、何を見ても、何を感じても…‥私の中は空のまま…私は産まれ、私は死んでいた

 

 

「…匂い立つなぁ

 

 思い出します。そんなありふれた日常に色が付いた日の事を。手探りで作られたであろう帳として成り立っている結界を見つけた時、私は何かを感じてその中に向かいました…その時の事は何年経っても忘れられませんよ、その中に満たされた濃密な彼女の匂いによって・・・少々下品なんですが…‥いえ、何でもありません。

 

 

 

 

 通りを歩く足を止め、暗闇続く裏通り。その道行くは幼子が…血まみれなりて嘲笑う。己が業をさらけ出し、冷たき骸は内に死す。幼子笑うは鬼の顔、上から語りて何を見る。

 

 

 

 黒く美しい髪、眠っているような柔らかな目元、常に微笑んでいるかのような口元。大和撫子と呼んでもなお表現できない程の12歳程の少女、服も上物のようだが背丈と合っていないように見える事から盗品の可能性が考えられた…そんな少女が常人では避けきれない程の速度で私の急所を刺そうとしてくる。

 

 ‥‥素敵だ…‥血濡れた釘のような物で刺し殺したのだろう。だが返り血を浴びていないのは汚いと思ったからかな?わかるよ…そこに意味は無いのだろう?ただ、弱者をいたぶって結果的に殺しただけ…ただそれだけなのだろう…‥ああ、なんて…

 

 私が産まれた意味を知ったのは、彼女に出会った時だった。空の器に注がれるように彼女への思いが注がれていく感覚に酔いしれた。

 

「逃げもせず来るなんて!」

 

 彼女の行動全てが私の眼を焼いていく。今も私に近づいて目玉を刺し貫こうとして来る。だが駄目だ、刺されてもいいがまだ彼女の事を知りたい!この眼に焼き付けたい!もっと!ああ!私に、この私に対して彼女が!弱者を蹂躙する事を生きがいと魂で理解しているような彼女がぁぁ!私の心にィィ焼きつけなければ!

 

「素敵だ…ああぁ血に濡れた姿も美しいが、私に愛をくれる君も素敵だ。是非お名前を教えてくれないかね?」

 

 彼女の愛をさばきながら、私の告白を伝える。するとどうだろう、彼女は動きが鈍り、私から距離を置いた。そして…‥全力で逃げられた…ああ、今日はここまでですか。

 

「いけずな人だ…だがそれも愛の形。この出会いこそ私達の愛の道」

 

 …逃がしませんよ…

 

「おっと…彼女の愛が作った作品はどうしましょうか?」

 

 血塗られた冷たい顔に恐怖と絶望の顔。逃げられない恐怖、これから死ぬであろう恐怖、人としての尊厳を無くす恐怖---そして、助からないという絶望。うんうん!年相応に心の形を作品にしているようですね!同い年ぐらいの子をのようですが同学年を狙ったのでしょうか?やはりすぐ手に入るモノだったから?いいですね!自らの欲望を最優先にする姿はとても美しい!

 

「ああ!私はなんて罪深い!私の知識が、力が、彼女が誰なのかを理解してしまう!でも、私は貴方の口から教えてほしい!」

 

 ふぅ…‥少し興奮が収まりました。改めて考えると未来での彼女らしくない突発的な犯行のように見えますね。金銭目的なら身代金…今の彼女は既に能力を使えるのでしょうか?それを差し引いてもお粗末な犯行ですが。まあ、それも素敵ですがね。

 

「作品はその環境にも左右されるもの、私の独断で貴方を動かすことを謝罪致します」

 

 潰された眼を見つつ、私の能力を使用した。私から伸びた()が覆い隠すように作品を包み中に収納する。残った物は地面や壁に飛び散った血痕のみ…それも影を伸ばして上書きしていく…

 

 

 

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 --

 

 

 

 この世に生まれて意識を持った時、この世界は狂っていた

 

 道行く人は見えていない。私しか見えていない化物がいた。お父さんに伝えた…軟弱者って叩かれた。お母さんに伝えた…そんな子に育てた覚えはないって叩かれた。まあ、所詮過去の出来事。

 

 誰も信じてくれない日々に嫌気がさしていた。化物は怖かったが、こちらが気づいていないフリを続けて、近づかなければ襲われなかった。だから必死で目をそらし、瞼を閉じるようにしながら過ごしていた。

 

オガミ(・・・)!何だその振り方は!そんな振り方では何も切ることもできん、大和魂を―ーー…』

 

 戦争が始まった。国民学校で習わされる長刀の授業、私はこの無駄な授業が嫌いだった。だって、長刀の振り方なんて必要がない…あの化物を倒すには私自身の力が必要だったのだから。

 

 誰も助けてくれない日々に私は神様にお祈りをしてみた。叶うはずのない無意味な行為になるはずだった…あの時までは。

 

 …!な…に、この…

 

 青白い炎のようなものが私の体から溢れ出ていた。私には力があった…‥その力を身にまとい、化物に対抗できるようになった。でも倒すまでが大変だから基本的に手を出さないのが得策。そんな事より大事なのは・・・

 

 

 

 

 

 

 最初に入れてしまったのは偶然近くで自殺していた人だった。この力を上手く操れないか練習していた時、自分の背丈が伸び、聞いたことも見たこともない記憶を見た。気づいた時には自殺をした元人の姿になっていた。

 

 その時からだった気がする…自分の在り方を知ったのは…

 

 その人の人生を見た、その人の関係を見た、その人の喜びを見た、絶望を見た、悲しみを見た―ーー…その人の全てを眺めていた。全てを見終わった時、私の体は徐々に元に戻っていった。でも、一つだけ戻らなかった物がある。昔の弱者だった自分自身…その在り方…

 

「・・・人はなんて弱いのかしら」

 

 自分を否定する者達。その身は脆く、醜く、楽しい存在と映るようになった。それからは世界が汚くて、汚れていて、私自身も汚れているのだと改めて自覚した…‥瞼はもう閉じていなかった。

 

 

 

 

 

『いや!やめて!痛い痛い痛いよぉ!!?グぎゃ…‥』

 

 最初は大変だった。私の力で成人した男になって、同じ学年の子を襲ってみた。大人から見ると子供はなんて軽いんだろうと、命の軽さと合わせて感じながら殴り殺してみた…自分の手がとっても痛くて泣きたくなった。そんな時に金切り声で泣き叫ぶからつい首に蹴りを入れてしまって、終わった。

 

 今でも憲兵の人が犯人を捜しているけど、その人はもう死んでいる。見つからない犯人を捜すなんて馬鹿みたい…そんな事より手が痛い。鈍痛、筋肉痛、私にこんな酷いことをするなんて、もっと加減すればよかったと少し反省した。

 

 人を殺してみた。非日常に足を進めて見たら、何も感じなかった。同じ人を殺したのに私の心は動かなかったのだ。

 

『どう…して…』

 

 時には知り合い、家族、友人・知人に化けて殺してみた。同じだ、どんな殺し方でも変わらない。そんな事を気分転換に繰り返していた。そしてわかった、私は人の終わりが好きなだけなんだって。気づいてみると簡単な事だった、丁度気づかせてくれた人にはお礼として勉強した外国のやり方を試してみた。でも私には合わない、絶叫するのはいいが、感情が痛みだけで終わってしまうのは何か違う。それに道具を用意するのも大変だ。

 

 今日は誰にしようかな‥‥そんな日課になりつつあった行動、普段通り登校していた学校で知り合った生徒…その子を偶然目で捉えたのが切っ掛けだった。

 

『ねえオガミちゃん、こんなところに何があるの?』

 

 能力は使わず、学校帰りに誘ってみた。力を何回も使っているうちに外から中を見られなくする結界も、身体能力を上げる事もできるようになっていた。

 

 最初は髪を引っ張って地面に叩きつけた。今日は少しずつ変化するところを見たかったから、鉄くずで作った釘擬きで刺してみた。浅い傷を作っていく度に彼女の可愛らしかった顔が歪んでいく…私はその姿を見て口元が歪んだ。

 

 

 

 

 …素敵だ… 

 

 

 

 ―ーー冷や水をかけられたのは初めてだった。

 

 不気味な気配を漂わせる存在だった。同い年のように見える子供が突然現れたのだ。

 

 …顔は良い、むしろ将来はかっこいい男になるとわかる整った顔だった。声も相手を落ち着かせる音程で、まるで音楽を奏でるような静けさを醸し出す。ハッキリ言って囲んでもいい美少年だった。

 

「逃げもせず来るなんて!」

 

 しかし駄目だ。今回は素顔で犯行をしている、見逃す訳にはいかない。私は体を強化し、釘で刺し殺そうと近づいた。

 

「素敵だ…ああぁ血に濡れた姿も美しいが、私に愛をくれる君も素敵だ。是非お名前を教えてくれないかね?」

 

 ゾクゾクと鳥肌が立つような声をすれ違いざまに聞かされた…私はその時、表現できないような胸の高鳴りを感じたのだ

 

 あいつは強かった。私の攻撃を笑いながら、しかも私に傷を負わせないように掌でずらすようにして受け流す。私はその時、忘れていた感情…未知の恐怖を思い出していた。そもそも私が作った結界内に侵入できている時点で考えるべきだったのだ。弱者を蹂躙し続けて、正常な思考になるのが遅くなっていたのだ。

 

 私は逃げ出した…どこか会ったばかりの同年代だろう美少年に惹かれているのを自覚しながらその場を後にした。

 

 

 

 

 衣服を貰った物を置いている隠し場所で着替え帰宅する…着替えている中で私は感じた感情が何なのかを改めて考えていた。人を殺している女に甘い言葉を囁く男、異常な存在なのは明らか…でも少し思うのだ…‥私という女をわかってくれる存在なのではないかと…

 

 そんな憂鬱な気持ちを抱きながら、普通の女の子の日常に戻っていく…‥

 

 

 

 

『よし!転校生を紹介するぞ!』

 

 

 その日は特にセミの音がうるさい日だった。いつも暑苦しい教師が黒板に誰かの名前を書いていく。

 

 

 …青井 弐(あおい ふた)

 

 

 私はその時何を考えていたのだろう

 

 

『初めまして皆さん。今日から転校してきました青井です』

 

 

 顔立ちの良く、背丈も良い。その口から聞く者を痺れさせるような甘い声が教室に響いた

 

 

 …よろしくお願いします…

 

 

 

 皆が虜になっている時…その瞳は私を見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 メロンパン「キッショ」

・豆知識
「キッショ」キモイなどの言葉は平成になってから流行った言葉。
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