彼が行ってしまいしばらく経つ…緑が生い茂る庭を眺めながら、今日という日を待ちわびる。
草木の香りが風に乗り、己を包むと溶けてゆく。空を見上げて白き雲、思いは登れど降りてこず。落ち葉の上で動く影、燥ぐ子供と人一人、笑顔が見えるその内に、思いを隠して過ごす日々。
「…!で、できた!この僕ができないはずがないんだ!」
青白い呪力を全身から吐き出し続けながら笑顔で顔を上げる
「うん、よくできたね。でも…早く止めないと気絶しちゃうよ?」
その言葉を聞いた少年は全身を小刻みに揺らしながら止めようとしたのだろう。呪力の放出量が減っていくと並列して徐々に顔に汗が出始め、顔色が悪くなっていく。
「ど、どう止めるの」
「頑張ってね」
「そ、そんな!お母さん!?ちゃんと助けてよ!!」
「森、うるさい」
「オガミ姉も聞こえてるでしょ!」
都会から離れ、新たな家族…と過ごしている今日この頃。変な日常を過ごしながらも私達は生きている。
「こら、彼女は安静にしない駄目って言ったでしょ」
…まだ膨れていないお腹をさする。あのオカアサンが言うには、私の中に命が産まれようとしているらしい…呪術とは極めれば人体、魂に関しても干渉できるらしい、尺であるが早期に教えてくれた事には感謝している。
「…早く帰ってきなさい…パパ」
日本は米国による爆撃に備え、学童疎開、集団にならないよう都市部の女・子供を田舎へ避難させるように発令した。家族との突然の別れに涙を流す者達、時代という悲劇が彼女達を襲う。
『疎開っ子!』
悲しいかな…今世の別れに暮れる時間も与えられず、訪れた者達を歓迎するのは村人たちによる村八分。勿論、全てで起こった訳ではない、しかし大半の都会から来た者は村に馴染むのは困難であった。
草木が生い茂る森、虫、野草の食事…都会で生きてきた者達では体験した事のない事柄の連続、普段の日常に馴染めず【異物】とされるのも必然、ましてやまだ幼い子供たちにとって変化とは大人が思うより重大な事柄なのだ。だが時代の波はそんな思いも流すほど強い物だった。
そんな波を受ける中、女・子供は生きていく。村の者と壁を感じた者達は干されるだけ…だからこそ彼女達は人として当たり前な行動に移っていく。
「失礼いたします…あの、野菜の育て方を」
「…けッ」
「こら!
「…あら、いらっしゃい。伊具君も元気?」
「げ、伊具…」
「よう、負け犬、やっと使えるようになったみたいだな」
「こらこら喧嘩しない、ドロップいる?」
来るのがわかっていたのだろう。懐からドロップ缶(飴缶)を見せつける。そうすると、芋虫を潰したように顔を歪めながらも、しおらしくなるのだからニヤつくのだ。
「いつもすいません…その、お菓子なんて」
「いいえ、こんな時です。お互い様ですよ、貴方もどうです?知り合いから貰った物がまだあるので…」
「…頂きます…ありがとう…」
涙目になりながらも観念深く飴玉を舐める女を楽観的な気持ちで眺めながら表面上は柔らかい笑顔で迎えるのだった
自分たちを受け入れてくれる存在にすり寄る。集団疎開した者達で集まり過ごす。互いに状況がわかり、理解できるからこそ集まるのだ。自分たちを受け入れてくれる、過ごせる状態に近づく為、情報交換はよく行われていた。
「あー!飴舐めてる!」
だからこそ…蛆のように湧いて来る猿を見ていると疲れてしまう。使える人材を選別する過程の必要経費なのだが、こんな事をあと何年もやると考えると気が滅入る。
少し我が家の方に顔を向けると…ニヤニヤ顔で口を動かす娘がいた。
『頑張れ、優しいオアアサン』
(この腐れ娘が…今日はニンジンマシマシ丼にしてやる)
早く帰って来てくれ…お母さん君の嫁にいじめられてる
この時代…女性は15歳・男性17歳で結婚できるため、青井は現在15歳・オガミ15歳、正確には結婚できていない。どうでもいい余談である。
…ここは素晴らしい…まるで
日本から遠く離れたペリリュー島、サンゴ礁での海で囲まれた美しい島国。日本では見ない草木を堪能し、ヤシの実を割り頰張る珍しい鳥を見る者いるだろう。
「何をやってる、役立たずども!戦いは既に始まっているのだぞ!」
汗を腕で脱ぎ払い、ピッケルの音が木霊する。多くの日本兵が島に上陸し、米国の襲来に備え洞窟堀に精を出す者達がいた。
「青井を見ろ!隣の田中より20倍は掘り進んでいる!だが米国はその掘り進んだ道より100倍の速度で向かってくるだろう、田中!いったいどれだけになるかお前のスカスカな脳味噌で計算してみろ!」
「え、えと、2000倍です曹長!」
「答えていないで手を動かせ!貴様は炊事係の手伝いに行け、役立たずにも使いようはある!速く動け!」
「は、はいぃぃ!」
ここは本当に素晴らしい。日々の生活は懐かしく過ぎ去り、罵倒に空襲、時には仲間達の喘ぐ姿…戦いの中に生きるとはこんなにも一体となる場だったのかと関心してしまう。
「ッ空襲警報!作業中止!洞穴へ向かえ!」
一日に多くて数回、少なくて三日に数回、不規則的に空襲が島を襲う。自然に出来た穴、自分たちで掘った穴、仲間達で押し合いながら爆撃に備える。
『いて!踏むなよ』
『そんな事言ってられるか!』
揺れる大地を感じ、人の波に酔いしれながら揺れが収まるのをひたすら待つ…風呂にも入れず不衛生極まる者達が集まる故、慣れていない物には嘔吐を催す会場になるだろう。その匂いは獣すら近づくのを躊躇するほどの悪臭を放っている者も少なからずいた。
空の音が引いた頃、一人、また一人と外を見渡す。準備していた物資が爆撃により焼失、大きな爆心地には逃げ切れなかった者達のモノが散乱していた。モノを拾い集め泣き崩れる者もいれば、すぐさま行動し、状況を確認する者もいる。
「誰か田中の安否を確認してこい!」
爆撃一つでこの有様に改めて米国の物量という名の暴力を肌で感じる。我々は体制を立て直すだろう、だがその頃には第二、第三の砲撃、爆撃を受けるのは必須、負けが確定した鼬ごっこだとわかりきっている。
夜間は集団で洞窟で過ごす…ジメジメした南国の夜と違う嫌な汗が全身を覆う。
…呪力を出してみる。呪術は使えるが、天元の力が無いせいか呪力操作がおぼつかない。影から物を取り出す程度なら問題ない為、生き残るだけなら問題ないだろう。いざとなれば・・・・・
周りを見ても寝ている者は少ない。各自でグループを作り時間を潰しているようだ。残念な事はこんな状況でも呪力を感じない為、ここにいる班はハズレだったぐらいだろうか。
ペリリュー島の戦いは約、2ヶ月ほどとされている。実際は日本が負けたことを信じず戦い続け、終戦時まで続いたらしい。日本兵の死者は約1万人に対し、米国は負傷者・死傷者合わせ2万近く、四方より囲まれ物資も無い中で倍以上の出血を強いる大勝利とも言える。敵が出血を恐れ、直接本土に攻撃してしまうほどに・・・・・
「青井君は凄いね…はは、こんな時でも笑っていられるの」
「田中君は生きていましたか、よかったですね」
「…目の前で料理をしてた人が…気づいたらいなかったんだ…僕…」
思い出したのだろう、知り合いが目の前で消えていく様を…彼はゆっくり瞼に涙を貯めていく。
「辛かったでしょうね…ですが、ここでは人の死を受け入れないと」
下手な優しさがここでは毒となる。全く度し難いですね戦場は。生きることに意味を見出さなければ何も残らない骸となる…この場で皆が思うに天皇様でしょうか…私は…オガミですがね。生きる目標を作らせるのが彼に渡せるモノでしょう。
「生きる意味か・・・・・僕は家が魚屋だったんだ。死ぬ前に父さんと魚を釣ったのを思い出すんだ」
「なら、その思い出を次代に繋げるのを目標になさってはどうでしょう」
「はは、その前に嫁さん探さないとじゃん」
「私はいますが?」
え・・・・・突然の裏切りが田中を襲った
美しい大地の島は砂煙が巻き起こり、辺りは灰燼と化していた。爆音が響く塹壕内で上を覗けば弾丸が踊り狂い、頭を出せば赤い果実になるだろう。
『GO GO GO!』
かと言ってこのままにしていれば、上陸してきた米国の火炎放射で焼かれるか戦車の砲撃で吹き飛ぶか、どっちみち蹂躙されるだろう。
敵と交戦するに当たって兵の配置は決まっている。優秀な者ほど前に行き第一陣、第二陣など一定の感覚で塹壕に兵を置き迎撃する、ただし上空からの支援等はないものとする、また岩山に入れた対空砲は敵のミサイルで吹き飛んでいるとする。
「ここら辺が潮時ですか…意外と早かったですね」
「青井上等兵!敵はどうだ」
「戦車が来てます。もう限界かと」
「・・・よし!皆
抗戦を始め2週間…第一陣と支援により当初は大勝利を収めたのも束の間、敵の艦隊が列をなして津波のように押し寄せて来た。頼みの支援砲撃は潰され、敵戦車を筆頭に敵戦艦からの砲撃で陣地は総崩れとなっている。それでもゲリラ戦に移行し、塹壕・洞窟を経由して敵に出血を強いている。
(なまじ上等兵だったのが災いしてしまいましたね…第二陣だったならもう少しいられたのですが)
「そ、それでは死んで」
「己の死を恐れるなっ!恐れるならば国が亡ぶことこそ恐れよ!!国の家族の平和は今ここにいる我々の戦いにかかっている!!今の自分がやれることをやるのだ!!」
ゆくぞォォ!万歳ィィィ!
1944年…11月
…お手紙です…おめでとうございます!…
やつれた配達員を労いながら手紙を受け取る。彼の記憶通りなら一月も経たずB-29という爆撃機が来るらしい。東京を中心に、軍事基地周辺を吹き飛ばす予定らしいから拾えるものは早めに拾う必要があるのが面倒だ。
「青井からの!」
「うん?まあ、彼の勇士が書かれているよ。ハハ、抜剣して米国人をバッサっバッサと切り伏せて最後には爆弾で戦車を巻き添えにしたって、ウケる…マジでやってそう」
手紙をもぎ取り、顔を青ざめていくクソ娘を眺めている。
「あんまり思うとお腹の子に毒だよ?」
般若のような顔で睨む娘のお腹は大きくなり、妊娠していると実感できるぐらいにはなってきた。
「縛りについて教えただろう?私が今も縛られているという事は彼は生きている」
「…だから何よ、生きてても苦しんでいるかも」
「それは彼が悪」
「うっさい馬鹿!」
あーーうざい。金切り声を浴びながら内心でこの小娘をぶん殴りたい衝動にかられるが…殴ったら縛りに反して何が起こるかわからない為、溜め込むしかない。
(まあ、彼は彼女に知識を教えてない様子だしね・・・終戦まで後、1年ほどか…なが…)
「なーに…彼はすぐ戻って来るよ」
「そんなの知ってるわよ!」
…2ヶ月ほど経ったら迎えに行こうか…
暗く書かないように彼らを投入したら侵食された。かと言って詳しく書いていると、あれ?俺は呪術廻戦を書いていたはずと作者にエラーが起きる。中途半端だが切った方が無難と考え戦争編は終わりとする。
この作品の年表
1942年
青井・オガミ出会う【出会い】
青春する【日常】
1943年
森少年との出会い。あいつら交尾したんだ!【愛情】
1944年
妊娠・戦場【家族】←今ここ。
作者内でのオガミ婆(婆じゃないけど)設定
人を殺すことに躊躇しないシリアルキラー。でも原因は幼少期から降霊術による知識吸収及び周りとの温度差。(戦争一色状態、ひもじい生活を強いるなど抑制された状態など)
・正規のオガミ婆はジョニーズ(ジャニーズ)ファン?若いメンズ好きの一面がある。→自分の理想な男子を映そうとする気持ちがある?と作者は考えた。
・【孫】を集め、自分の手足にしている→自分の能力的な側面もあるが、男子に限定しているのはやはり心の奥底に思う気持ちがあるのだろうと感じた。
総合して→オガミ婆は王子様を待っている夢女子。
そして作者の近くに、こんな夢婆と駆け落ちできそうなキャラが頭に過った→この作品。終わり。