特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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特級呪霊 どんどろ

 平釜(ひらがま)平原には、バケモノが潜んでいる。

 それは、平釜平原と呼ばれる山中の平原の周辺に広がる集落で、誰もが一度は耳にする伝承で、大抵は聞き分けのない子供を諭す文句、作り話として使われる。

 それは、歳を経るごとにどうでも良いことと変わり、そして、それを聞かされた大人が自分の子供に、と世代を超えて伝わっていく。そんな、どこの地方にも一つはあるような民間伝承である。

 

 「で? その平釜平原周辺で呪霊が活性化してるから、俺たちで鎮静化させてこいってか」

 

 その日は、木枯らしの中に暖かな日差しが差し、春の終わりが顔を覗かせていた。

 

 ____西日本某所。死んだような木々が生い茂る深い山林の、落ち葉で埋め尽くされた山道に、一台の黒塗りの車が停まった。

 その後部のドアが開き、両側から現れたのは二人の青年。

 片や、黒髪をだんご状に纏め、左目付近に一房前髪垂れ下げた、福耳の美青年。片や、薄く輝いているように見える白髪に、透き通った水色の瞳をサングラスで保護した、それまた目に入れて痛くない優美な男。

 共通しているのは、双方ともに黒地の制服の上着を身につけていることである。

 退屈そうに伸びたり肩を回したり、と態度の悪い白髪青年をよそに、黒髪の青年は、5メートルはあるモルタルの壁面を()()()で飛び越え、欠伸をかいた白髪の青年を見下ろした。

 

 「確かに呪霊の気はあるが…… 悟!」

 「わーってるよ。なんだか()()()した呪力がこの辺りに充満してる。()()かどうかはわかんねーが、この呪力が呪霊をおだててんのは間違いねーだろ」

 

 悟、と呼ばれた青年もまた、自分の身長の三倍弱を飛び越え、黒髪の青年の隣に並ぶ。

 彼らの視線の先、乾燥した草木の生い茂る先にある場所こそ、まさしく平釜平原であった。

 

 「どうする? 傑」

 「呪力の元を絶てば万事解決だ。今日中に終わらせよう」

 「決まりだなっ」

 

 二人の青年は、まるで遊びに来たかのように笑い合い、枯れ葉を踏んで奥へと足を進めていく。

 

 その少し後ろ、黒塗りの車の側で、運転手の黒スーツの男が、胸の前に手を出し、人差し指と中指を立てる。

 そして____

 

 「“闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え”」

 

 瞬間、彼の前方へ、目の前の空間を隔てるかのように黒い障壁が空より舞い降りた。

 ほうとため息をついた彼は、黒い障壁――(トバリ)の奥に行った二人の青年を想起した。

 呪いを払い、清める呪術師。その中でも、()()を恣にしている二人の後ろ姿を。

 

 「ご健闘を…… いや、いらないか」

 

 それから1日後、ボロ雑巾のようになって帳から這い出てきた二人を迎えることとなるとは、この時の彼は思いもしなかったのである。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「ここが平釜平原か……」

 

 山中を進んでいると、唐突に開けた平野へ出る。さあっと海の漣のように枯れ葉色の草原がゆらめき、どことなく不穏な気配の濃くなったそこへ、二人の青年――五条悟(ごじょうさとる)夏油傑(げとうすぐる)は無遠慮に入り込んだ。

 瞬間、彼らに向けられるは異常な()()

 

 「おーおー、気が立ってる」

 「一体何が呪霊を駆り立てているのか……」

 「ま、なんでもいーだろ」

 

 よっと、と、白髪を揺らして前に出たのは五条悟。彼の持つ水色の目、あらゆる呪いを見透す至高の目――六眼(リクガン)は、彼らに迫る呪霊の群れを正確に捉えていた。

 好戦的に口元に弧を描いた彼は、後ろにいる友人に振り返る。

 

 「一先ずここにいる奴ら全員殺って、ゆっくり原因に当たりゃ良い」

 

 彼の物騒な提案に、その右隣に立った男、夏油傑もまた、五条悟と同じく笑った。

 

 「……それもそうだね」

 「右翼は任せる。競争でもするか?」

 「負けた方はアイス奢りで行こう。ハーゲンのでっかいの」

 

 そんな、まるで部活動で遊んでいる悪ガキのような雰囲気の彼らに、

 

 『ぎゅろろろららろろ……!!!』

 

 総勢56体、大小様々な異形が襲い掛かり____

 

 「はい終わり」

 

 『くげゃっ』

 

 ()()()()()が、五条悟の足に踏み潰され、血痕も残さず消滅した。

 最強相手に、有象無象ではものの数ではない。

 

 「私は28体」

 「俺も28体」

 「……」

 「出し合おうぜ、金」

 「そうしようか」

 

 次々に消滅していく異形の死骸の中心で笑い合う二人は、まさしく最強。日本に3人しかいない特級呪術師のうち二人であった。

 

 「……」

 

 笑うことをやめた二人は、ふと、同じ方向を見た。

 まだ事は終わっていない。

 

 「あっちだな」

 「あぁ」

 

 呪霊程度なら、この程度なら本当にすぐ終わる。帰ったら風呂に入って硝子も連れてアイスを買いに行こう。

 二人の足は軽やかで、終わった後のことをすでに考えていた。勝った方後のことを考えていた。

 

 「悟はここの伝承知ってるのかい?」

 「詳しくは知らねー。ここで何かしらの争いがあったってことぐらいだな」

 

 しかし、

 

 「こう色がはっきりしてると道に迷わずに済むな」

 「あぁ、私でもはっきり感じられる……」

 

 平釜平原の奥、石畳が連なるそこへ行く毎に、二人のにこやかな表情は、会話は、ゆっくり固くなって、止まっていく。

 五条悟の目に映る異質な呪力が高まっていく。

 夏油傑が肌で感じる不快感が増す。

 

 二人の最強が初めて覚えた、肌が粟立つような気持ち悪い感覚。

 

 「呪霊が襲ってこないな」

 「さっきので恐れ慄いたかぁ?」

 

 夏油傑の鋭い視線が六眼を貫く。その表情に、さしもの五条悟も表面上取り繕っていたものを振り払う。

 

 「……いやー、呪霊が一匹もいなくなったな」

 「根元が近いってことだ」

 

 石畳を歩く足音が、にわかに高まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 数十分二人は歩いた。蜘蛛の巣一つない、枯れた木々の隙間を縫って、苔むした石畳を飛び越えて、二人は歩いた。

 進めば進むほど、彼らを阻む木々は細り、弱々しくなっていった。異質な呪力は益々強まった。

 

 「……」

 

 そして、辿り着いた。

 

 「……なんだ、これは」

 

 土を被り、剥き出しの部分が苔むした巨大な釜。森林の奥深くに似合わない巨大な釜が、最強の二人を出迎える。

 負けるわけがない。そう考えている二人の頬に冷や汗が伝う。

 巨大な釜の木製の蓋には、3枚の札が貼られていた。赤の文字で一つ、“封”と書かれた札が。両側2枚は剥がれて風に揺れ、1枚は、剥がれかけのまま、剥がれた部分は、同じように揺らめいていた。

 五条悟はサングラスを下にずらし、薄く光っている水色の瞳で釜を睨む。

 

 「コイツが根源なんだろうが…… 呪具? 呪霊か?」

 「どちらでも良いだろう。……3枚の札、あれは強力な封印術が込められてる。それが解けかかってるからこの呪力が漏れているんだな……」

 

 さあっと枯れた木々がざわめく。同時に、嫌な匂い、音、肌触り。感覚機能全てを不快にするものが拡散する。

 二人は顔を見合わした。

 

 「ぶっ壊す?」

 

 構えをとった五条悟の物騒な発言。彼らしい発言に、友人である夏油傑は疲れたように溜め息を吐いた。

 

 「それも良いが、仮に、仮にこの()()()()が我々で止めきれないものなら大惨事だ。まぁ、万に一つも無いだろうが……」

 

 夏油傑がさし示したのは、ぴらぴらそよぐ封印の札。

 

 「一先ずアレを貼り直してみよう。それで止まれば高専に連絡、ダメなら改めてぶっ壊そう」

 「……わーったよ」

 

 顔を巨大な釜に戻した二人は、渋い表情を浮かべながら、夏油傑は右に、五条悟は左に行く。

 そして、釜の外縁を伝い、封印の札の下に立った。

 

 「そっとな、傑」

 「お前が言うか?」

 

 二人の手が、同時に封印の札の先を掴む。

 瞬間、五条悟、夏油傑の指先に迸る痺れるような呪力。(マイナス)が転じて(プラス)に反転した、強烈なエネルギー。

 

 (っ、超強力な反転術式で封印を組んであるのか…… 普通の呪霊なら近寄ることすら憚られるだろうな)

 

 なら、こんな代物で封印されているものとは?

 そんな疑問と好奇心が五条悟に湧き上がるが、彼も多少は分別のつく青年である。

 

 「よっと」

 

 手に持った布の端を、釜の表面につける。

 手を離すと、一人でに札は表面にくっつき、封の文字が鈍く発光する。

 

 「まず二つ、か」

 

 残りは、と彼が見たのは剥がれかけの封印の札。

 縁を器用に歩いて行った五条悟は、最後の札の前に立った。

 

 「っし…… ん」

 

 しかし、ここで誤算が発生した。

 埃っぽい布の前にいたからか。鼻がむずむずしていたのである。

 彼の眉目秀麗な表情が歪む。

 

 「は、はぁっ」

 

 人間、何事も我慢をしようとするものである。してしまえば楽なものを、彼は鼻の穴を広げて、口を大きく開き、無駄な足掻きをする。

 しかし、無駄なものは無駄。

 

 「ぶええあっくしょぁああッッッ!!!!!!」

 

 盛大なくしゃみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……蓋揺れてるけど」

 「……テヘペロっ!」

 

 夏油が五条を本気で殴りたくなった出来事のうち、最も印象に残っているのは、後にも先にもこの場面だと、彼自身が語っている____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……?」

 

 帳の外で待っている男は、ケータイをいじっていた指を止めた。

 僅かに地面が揺れた気がしたからである。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 時間にして、12時間が経過。

 すっかりあたりは暗くなり、誰もいない寂れた林道にあるのは、黒い車のライトの灯りだけであった。

 呪霊でも飛び出してきそうな雰囲気ではあるが、帳の奥へ消えた二人を待つ男の表情に恐怖は無い。ケータイに熱中しているだけかもしれないが。

 

 しかし____

 

 「……!」

 

 瞬間、黒スーツの男の表情が変わる。

 目の前に下ろされた帳の表面に、僅かに波紋が立つ。その波紋は帳中に拡がって、波紋の発生点が薄くなり、

 そして、二人の男が、倒れ込むように吐き出される。

 

 「……えっ!?」

 

 それを見て、男が驚くのは無理なかった。1日もかけずに任務を終えて外へ出てくるのは驚きの対象ではなかった。

 

 「……死ぬかと思ったの、初めてだわ……!!!」

 「あぁ……!! 全身が割れそうだ……」

 

 何故、最強の二人が傷だらけで血まみれになって、二人して地に伏しているのか。ここまで呪力を乱しているのか。

 

 「な、何があったので!? 喧嘩!?」

 「何って、見てわかんない? ……終わらせてきたんだよ、任務」

 

 半死半生の夏油傑に下敷きにされた、それまた半死半生の五条悟は、うんざりした声色で言った。 

 

 「おいお前、後でハーゲンのでっかいやつ10個買えよ……!! ()()()()()()聞きやがって……」

 「うぇっ!?」

 

 鼻血と吐血で顔が濡れた少年にいいようにされている大人をよそに、夏油傑は一人、憂鬱そうに溜め息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『どんどろ〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中に響く能天気な声。今後これに付き合わなければならないのか。

 そう思うと、憂鬱にならざるを得なかった。




 “どんどろ”

 ・概要

 西日本某所にあるとされる“平釜平野”にまつわる伝説に語られる呪霊。
 伝説によると、戦国時代の世に呪霊の二大勢力がこの平釜平野で大戦争を繰り広げ、その際発生した大量の呪霊の死骸、魂が寄り集まって、黒い泥のような怪物が誕生したという。そして、生まれた途端に大暴れ。その悪行は全国にまで広がり、日本全土を恐怖に陥れた。
 最終的に、相反し合う運命にあった呪霊と人間が手を結ぶ事態にまで発展、総力を決して封印を施したことで事態は収束した。
 これら一連の事案は、呪霊、人間双方で語られてはいけない黒歴史として扱われ、極力お伽話にも残らないように努められてきたが、平釜平野周辺の地域では口伝により伝わっている。

 封印が解けかかっていたところを五条悟、夏油傑両名と遭遇。激戦の末、平釜平原を完全に吹き飛ばし、夏油傑の呪霊操術で調伏された

 と、思われる。

 ・能力

 呪力による攻撃を完全にシャットアウトできる(目の色で判別可能。青色の時に呪力による攻撃を無効化する)

 呪力特性を雷に変換し、雷で攻撃できる。

 目から呪力を縮退させ発生させた超高エネルギーを圧縮した光線を撃てる

 呪力をそのまま吐き出せる。当たったり吸い込んだりして体内に取り込むと、呪力操作に深刻な阻害が発生し、呪力を練れないどころか既存の呪力、術式すら扱えなくなる

 領域展開は使えない。

 呪力量だけなら両面宿儺すら上回るバケモノ。









 続く?

 あやとりさまとか呪術スケールにしたらマジでやばそう

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

  • ぐ〜るぐる
  • がっしゃぁーん!!
  • イカがなものかと!!
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