特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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 たたかい。


鬼時間 with 五条悟 3

 海風のそよぐ住宅地は、内陸へ向かうにつれ坂を登るように形成されていて、出口と思われる金色のふすまが出現した場所は領域の内陸側の端っこであった。

 行く先々を彷徨う紫色の一つ目の化け物を殴り殺しつつ、少年のスピードに合わせて坂を登って行った五条は、ついに、昭和の趣を感じる駄菓子屋の自販機の隣に立つ金色のふすまを瞳にうつした。

 しかし、呪力の全てを見透す彼の眼は、別の物、厄介なモノを近くに映してもいた。

 

 否、目に見えるだけでは無い。燃えるような殺意に、腹の底に響き、気分を悪くさせるような地響き。そして、腹を空かせた鬼の鳴き声。

 

 「……っ!」

 

 住宅に忍びこみ、様子を窺っていた五条は、傍で少年が息を呑む声を聞いた。

 無理もなかった。何故なら____

 

 ふすまのある細道の奥から現れたのは、赤色の巨躯。

 

 『……!!』

 

 水色の隈取りがなされた金色の目で周辺ににらみを利かせ、尖った耳で僅かな物音も逃さず。

 頭頂部には一本の短い角が生え、紫の唇の半開き口からは、獲物の生き血を求めているかのように湾曲した牙が4本。

 脚の短い筋骨隆々な赤い肉体には、褐色のがさつな腰布が巻かれ、そして、身の丈ほどある巨大な鉄塊、角ばった棒に無数の棘があしらわれた金棒を肩に担ぐバケモノが、紫の一つ目を引き連れ、ふすまの目前を今まさに通ろうとしていたのである。

 

 が、このままやり過ごし、隙をついてふすまを潜れば、おそらく全てが終わる。そう確信している五条であったが、しかし、彼には別に()()があった。

 

 (どちらにせよ()()()()()()()し……)

 

 「っし」

 

 地を這う地響きに揺らされる少年を一瞥した五条は、徐に手首を回し、口を開いた。

 

 「ガキ、俺が()になる。アイツぶっ飛ばすから隙を見て脱出しろ」

 「鬼倒すの!? お____」

 「頼むからここからいなくなれバカガキィ!! 邪魔臭えんだよチョロチョロチョロチョロと!!!! もうあとは知らねえからなホント!!」

 

 この期に及んでよけいなことを口にしようとしていたんだろう子供に小声で凄んだ五条は、サングラスをとってズボンのポケットにしまい、肩を回して首を回し。

 

 「じゃ、ほんとしらねーからな。頼むから現実へ帰れ」

 

 瞬間、五条は()()()。まるで、そこに初めから何も無かったように。

 唯一、数秒前の彼の存在を証明していたのは、地面に渦巻く小さな砂埃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____そして、瞬きもしない内であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アカァァァァァ!!?!?』

 

 空気を揺らす轟音と共に、赤き巨体が悲鳴を伴って()()()()()()()()()

 

 「ぁあ……」

 

 それは、未だ建物の影にいる少年の目にもはっきり映る、現実においてはあり得ない奇怪な光景。それを引き起こしたのは、先ほどまで自分を守ってくれた白髪の男。

 ロケットパンチを持つ、小さく指の丸い両手に、わずかに力がこもる。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 術式順転“蒼”。無限の収束という特性を持つ、五条の無下限呪術の中で最も基本的な術式。それを呪力で強化した拳を炸裂させた瞬間に行使することにより、一瞬の引き付けと打撃の重さが相乗し、破壊力を底上げする。

 さらに、彼の呪力は六眼という最高峰の呪力の制御機構により極限まで最適化され、攻撃に際して発生する呪力操作のタイムラグが短縮。その威力は、赤い化け物――赤鬼の図体を空中へ持ち上げるほどであった。

 そこへ、無下限呪術の応用で空を駆ける、黒い制服をはためかせる五条の猛追がかかる。

 

 「どんなもんかな……っと!!」

 

 間髪を入れず、空中を滑るように飛ぶ五条の、情け容赦ない拳が、落下を開始した赤鬼へ迫る____

 狙うは、彼の無防備な後頭部。

 

 『……ゔゔ!!』

 

 しかし、五条の拳は、赤鬼の後頭部へ当たることはなかった。

 

 『アァアカン!!!』

 「……!!」

 

 刹那、まるで鐘を打ったかのような音がびりびりと五条の拳に伝わった。

 彼が打っていたのは巨大な鉄塊、赤鬼の手に収まった巨大な棍棒であった。

 五条の生存本能が、この空間に入ってから初めて危険信号を発した。

 

 『アァカ!!!』

 

 空中においても機敏に身体をかえした赤鬼の双視が残光を引き、すでに体勢を整え拳を構える五条を睨む。

 五条と同じく、赤鬼もまた棍棒を力強く握りしめていた。

 

 「っ!」

 

 五条が顔面に風圧を感じた時、その棍棒は振り上げられていた。

 五条の青空のような瞳に、鼠色の世界に煌めく黒光りした棍棒が映る。

 

 『アァァァァァアカァァァァァアンッッ!!!!』

 

 本能を奥底から呼び覚まし、震え上がらせるような咆哮と共に、悪夢の金棒が五条の頭上へ振り下ろされ____

 

 「っとお!」

 

 しかし、こんな大ぶりな呪力を纏った攻撃に当たるほど五条は甘くなかった。凶悪な一振りを紙一重に、彼のしなやかな肉のついた長身は翻って、金棒を完璧に交わして見せたのである。

 そして、十分に引き絞られた右脚も用意済み。

 

 「ソラァッ!!!!」

 

 ____バギィッ……!!!

 

 赤鬼の体躯の落ちゆく速度が、五条の突き手のスピードと重さで跳ね上がる。

 彼が背にする地面が迫り____

 

 『アカアッ……!!』

 

 ____ドッ……!!!!

 

 大地に網目状に走る地割れ。そして、土埃が爆発的に巻き上がり、上空にとどまる五条の視覚上の情報を塗りつぶす。

 

 (……! ()()()()

 

 ここで、五条に誤算が生じる。

 

 この世界は、現実の肉体から隔絶された()()()()により構成された世界。故に、呪力をサーモーグラフィーのように見透す六眼の視界は、常に全ての呪力に色をつけて捉えていた。

 故に、物理的情報と呪力とが入り混じった現実と比べ、いかに精緻な識別能力があれど、索敵において若干の()()が生じる。

 呪力で構成されし土の霞という天然のジャミングチャフ。それが、大地に落ちた赤鬼の膨大な呪力量を()()隠す。

 たかが一瞬、されど一瞬。達人同士の死合いでは瞬きの間の時間すら、不意をつくには十分すぎる時間である。

 

 「……!」

 

 瞬間、五条はハッと目を見開いた。

 

 ____赤鬼の燃え上がる呪力が、五条の周りを取り囲んでいた。

 

 彼は見誤っていた。これ程の領域、相当な縛りを与えられているのは必至。()()は縛りで消されていると無意識のうちに信じていた。

 

 ____領域展開の利点は、術式の威力向上等が数えられるが、その中でも最も重要なものはこれである、と、多くの術師はそう言う。

 それは____

 

 

 

 

 

 

 

 

 術式の()()()()である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなに強力な術式を行使しようとも当たらなければどうにもならない。その点で五条の無下限呪術は、文字通り理不尽と言える。

 無下限呪術の効果により自身の体表に展開された無限。それが、自分が危険と判断した事象全てが近寄るスピードを無限に遅くさせる。

 すなわち、五条が危険と判断すれば術式も何も関係なく、全てが彼に届かずに終わるのである。

 

 しかし、領域内に入り込んだ途端、彼の完全無欠の防壁には巨大な穴が穿たれる。

 

 何故なら、領域の必中効果は無限を超えて適用されるからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、五条の身体は灼熱の炎に沈んだ。

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

  • ぐ〜るぐる
  • がっしゃぁーん!!
  • イカがなものかと!!
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