特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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 そろそろ終わる


鬼時間 with 五条悟 4

 ____!!!!

 

 職業柄、五条は痛みに慣れている。無下限呪術による防御があろうとも、ごく稀に肉が抉れるような怪我を負うことはあるし、調子に乗って高い場所から飛び降り足首を砕いたこともあった。

 しかし、灼熱の炎に身を焼かれるという経験は、赤鬼の術式____“れんごくの術”をその身に受けたこの瞬間が初めてであった。

 咄嗟の呪力による身体強化。それを容易く上回る、皮膚が捲れ上がるような激痛が、五条の端正な表情を歪ませる。

 

 「ゔ……っ……ぐぬ」

 

 が、彼に血となって流れる術師としての本能が、なされるがままの今を許さなかった。

 

 「術式順転“蒼”っ……!!!」

 

 刹那、五条の身を包み、骨まで焼き焦がさんと燃え盛っていた炎が、残光を引いて五条から名残惜しそうに離れ、四散。

 五条の周囲の空間に散った無数の“蒼”の塊。その収束力が炎を剥ぎとり、押し潰して鎮火する。

 

 「っげほっげほ…… いっっってえな……!!!」

 

 それでなお、周囲の空気が揺らめいて見えることに戦慄しながら、せめてと閉じていた六眼を開いた。

 

 「……あ?」

 

 そして、明らかにおかしな事象を、自分の身体に発見した。

 あれだけの苦痛。全身に傷跡が残るような火傷が残っていてもおかしくはない。だというのに____

 

 彼の身体は、まるで家から出たばかりのように、埃一つなく制服の端に焦げ付き一つない姿。それが呪力によるまやかしでないことは、六眼を持つ五条には決定的な事実として伝えられる。

 なら、先ほどの炎が嘘なのか____

 

 『アカァァッ!!!』

 

 その時、五条の六眼が紅蓮に染まった呪力を見た。

 ちり、と頬の端に熱さを覚えた。

 

 ____ゴウッ!!!

 

 「____ッッッ〜あっっっづっぁぁあああ!!!!」

 

 そして、視界は再び炎に包まれる。耳の中に炎の音が入り込み、制服が悶えるようになびき、開いていた六眼に容赦なく熱波が迫る。

 ____しかし、()()()()。意識に包丁でひたすら切り付けられているような苦痛が続くだけで、

 

 (身体に、傷は()()! 制服にも……!!)

 

 再び霧散する炎。歪んだ空気の中心で悪寒と冷や汗を掻き、荒んだ息をそのままに、豊かな白髪も健在な五条は、呪力そのものの土煙のはれた下界を見下ろした。

 その、網目状に地割れが走り、痛ましく崩壊した住宅街にいるのは、天を貫く短い角を携えた凶悪な面の赤鬼。

 その体表にある()()、そこに集う呪力の奔流を、五条の青き目が見逃すはずもなかった。

 

 「……っハハ!!!」

 

 五条は、その端正な顔立ちに凶悪で純粋な笑みを浮かべた。

 

 『アァカ!!!』

 

 地上にて金棒片手に待ち構えていた赤鬼がその姿を目に捉え、侮辱に猛り咆哮する。そして、体内にある力の流れを収束し、ゆっくり降下を始めた五条の小さな姿へ狙いを定め、

 

 荒れ狂った油の如き呪力が、赤鬼から放たれる。

 

 それは、正確に五条がいた空間へ迸り、

 

 「おせぇよ!!!」

 

 刹那、五条の嘲りが赤鬼の鼓膜を揺さぶる。

 

 ____カッ!!!

 

 空中に咲く火焔の華。しかし、そこに脱力して落下していた少年の姿はなかった。

 

 『……!!』

 

 ここで、赤鬼の憤怒に塗れた厳しき顔面が揺らぐ。何故ならば____

 

 灰色の空に咲く一輪の業火を背に、高速でこちらに迫る白髪の青年を見たからである。

 

 ____術式順転“蒼”により周辺の空気を()()させ、それを呪力によって極限まで強化された脚力で蹴飛ばす。

 そんな単純な仕掛けで落下のスピードを上げ、赤鬼の呪力を抜き去り、同時に十分な加速によって()()()()()()すら底上げする。

 

 心の底から楽しそうに笑う五条の拳。

 

 冷静に振り上げられた金棒の鋒。

 

 ____!!!!!

 

 両者の衝突は、ひび割れた住宅の瓦礫を浮き上がらせ、風圧が砂塵を巻き上げた。

 拳を引き、空中を一回転して母なる大地に降り立った五条は、じんわりと熱を持った手を振りながら、瓦礫を踏み壊して進撃を開始した赤鬼を前にし、再び全身に力を漲らせる。

 

 (……こいつの圧倒的な攻撃性能のからくり、それはやはり()()!)

 

 『アッカン!!!』

 

 橙の残光と共に金棒がうなりを上げ、アスファルトを巻き上げて地面を陥没させる。

 

 (()()()()()()()()()()()()()()()……!!! 肉体的にはもちろん精神的にも……!! そして、俺のように引き込まれた者は鬼を()()()!! こっちにゃ傷一つつかねえのにあっちに傷がつくのが証明だろ……!!)

 

 それをステップで避け、五条は口角の上がった口を開く。

 

 「術式順転“蒼”ッ……!!!」

 

 瞬間、金棒を地面から引き抜こうとした赤鬼の動きが()()()()

 

 『ッアアアカァァァア!!?』

 

 無限の収束、それが発生したのは赤鬼の腹。いつものように出力を絞ったものではなく、それは五条の加減なしの本気。

 

 「“位相 黄昏 智慧の瞳”」

 

 クレーターの中心に発生した引力に引かれて、周辺の鉄筋やコンクリートが引き剥がされ、青光りする呪力の塊へ吹っ飛ばされていく中、一層勢いを増した重力の球を、五条は一点に留める。

 

 (このまま押し潰す……!!)

 

 『アッカァァァァ!!!』

 

 クレーターの直径が広がり、風の流れが生まれ、中心点に向かって砂煙が吹き上がる。

 その中心点で、赤鬼は立ちあがろうとし、しかし、普段の百倍はあろうかという重たさの膝が地面を穿つ。さらに、引き寄せられた瓦礫の群れが、赤鬼の身体に襲いかかる。

 

 しかし、相手を殺すことのできない赤鬼の肉体は、五条の予想を上回ってあまりにも強靭であった。

 

 『アァァァアカァァン!!!!』

 

 超重力に引きちぎられることも、潰れることのない肉体が、腹の底から湧き上がる怒りの咆哮に身を任せて隆起し、凶暴な呪力の勢いが上がる。

 大地に縛られていた上体が、ゆっくりと()()()()()()()()

 

 (マジでバケモノすぎるだろコイツ!!!!)

 

 驚愕も束の間であった。

 

 六眼は、自身の周りに赤鬼の呪力を感じた。

 詠唱込み、出力最大の術式の維持のため動けない五条へまとわりつくようにしたそれは、速やかに臨界し、爆ぜた。

 

 「あっっっっ……!!!!!!ぢいぃ……!!!!!」

 

 そして、烈火となって、五条の身体を三度目の煉獄が襲った。

 決して死なないとわかっていようと苦痛は苦痛。それも、怒り猛り狂う赤鬼の呪力は、かつてないほど膨れ上がり、太陽をその場に顕現させたかのように錯覚される熱量が五条の心を焼き焦がす。

 

 (〜……!!!っ、……意識を、飛ばすな!!!)

 

 殺せずとも、気を抜けば意識を失うと五条は確信していた。であるなら、()()()()()()()ことこそ鬼の目的であると予想するのは簡単であった。

 しかし、現状の彼の最大出力をぶつけている今こそ、赤鬼を撃滅する絶好の機会。

 笑みを崩さずに、五条は吠えた。

 

 「()()()()するか? クソ鬼が……!!!」

 『アァァァアカァァァアン!!!!!』

 

 炎に巻かれた両手を赤鬼へ伸ばした五条は、身体を構成する呪力を掻き集め、“蒼”の球体へ流し込んだ。

 赤鬼は、五条を消し炭にしようと天へ立ち昇る炎を睨み、渾身の呪力を送り込んだ。

 

 結果、両者を襲う事象の威力は、現実世界ならば天変地異と呼べるほどに向上した。

 

 領域内の全てが、五条と赤鬼が対峙する場所へ根こそぎ引き寄せられていく。

 そして、引き寄せられた全てが熱波に溶かされ赤熱化し、赤鬼の肉体へ降り注ぐ。

 それほどの熱量を持つ炎そのものに、五条の肉体が晒され、風前の灯火の意識を掻き消そうと、より熱く噴き上がる。

 

 「ぎぃぃぃッッッ!!!!!!ッッッ!!」

 

 決して目を閉じず、苦痛から目を逸らさず、自分の限界へ挑む五条は、ふと、走馬灯のように、呪術高専の風景を視界に映した。

 

 ____ひゅーとやってひょいだよ。ひゅーひょい。わかんない? センスねー……

 

 (……)

 

 最高を更新し続ける苦痛で沸いた思考が咄嗟に引き出した腹立たしい過去。しかし、五条は苛立つことはなく、新しいことに挑戦する前のワクワクを感じていた。

 そして、そんな感覚を呼び起こすほどの、数少ない強者への惜しみない感謝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「“位相 波羅蜜 光の柱”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「術式()()“赫”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30秒を越す攻防、それはあっけなく終わりを迎えた。

 無限の収束が突如として解かれたのである。

 蒼き力の奔流が解け、赤鬼の肉体を縛っていた忌々しき重力が消失したのである。

 

 がらがらと音を立て、空を待っていた瓦礫や砂埃が落下を開始する。

 

 五条悟がいよいよ気絶した?

 

 ____否。

 

 赤鬼は、肉体が剥がれそうな()()()()()()()を感じていた。

 

 『アッ____』

 

 赤鬼は、その呪力を叩き潰すために、裂傷や打撲痕、火傷と半死半生な肉体を躍動、咄嗟に前へ飛び出し、金棒を両手に握りしめた。

 クレーターの中心から飛び上がり、空中から落下のエネルギーを乗せて確実に叩き潰す。

 その考えで飛び上がった赤鬼の視界に、

 

 血より鮮やかな紅の閃光が煌めき、()()した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 術式反転“赫”。

 

 術式順転が無限の収束する力ならば、その反転は無限の()()()。マイナスとマイナスを掛け合わせて発現させる正の呪力を用いて虚数空間を増大させ、指向性を持つ衝撃波として撃ち出す、無下限呪術の一つの術式。

 まして、呪霊にとっては激毒の(プラス)の呪力そのものである“赫”の直撃。半円にえぐられた岩肌の収束点。そこで、

 

 『ぁ……カァァ……!!!』

 

 なお、赤鬼は息を続けていた。

 しかし、咄嗟に防御を、と構えた金棒は砕き飛ばされ、右腕と左の手首から先が消し飛んだ赤鬼は、全身の打撲、裂傷、火傷のダメージの累積も相まって、人差し指で突けば力尽きそうな風体。

 

 「はぁ、……はぁ、はぁ……」

 

 しかし、五条もまた、鉄を瞬時に溶解させるような熱量を受け続け、冷や汗が止まらず、激痛がフラッシュバックしては思わず熱せられた地面に手をつくほどの精神的ダメージを負っていた。

 肩で息をしながら、彼はふと、“赫”を放った右手を見た。

 

 (アイツの炎に巻かれるという極限環境、そこに戦闘のテンションが合わさったが故の()()か……)

 

 マイナスとマイナスを掛け合わせ、プラスを生み出す。簡単に見えて正解のわからない、呪力操作の一種の極み。

 試しにやってみようとしても、湧き上がってくるのは普通の呪力。それは、先ほど“赫”を放った今も変わりない。

 五条の口から疲れ切ったため息がまろび出る。

 

 「まぁいい」

 

 ともかく、五条は全てを終わらせるために、射線上でうつ伏せに倒れ、もがいている赤鬼へのとどめを刺しに立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五条悟の侵入により、この領域には様々な歪みが発生している。五条が経験した、領域内の対抗手段の使用禁止の他にも。

 

 本来、この領域に存在できる鬼は()()()()。一人につき一体の鬼。それが縛りとなっていた。

 しかし、一人の少年の呪力を引き込もうとした時に割り込んできた五条の呪力。それが共に領域に引き込まれ、領域内は鬼一体に人間二人という、縛りを破った状態に変化していた。

 その縛りの均衡を正す為、領域、ひいては鬼が取れるようになった選択。それは____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ァァァアァアオオオオンッッッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数合わせ、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アオン!!!』

 

 大気を震わす轟音。そして、巻き上がる砂塵の中に煌めく金色の眼。

 目を丸くした五条の頬に、一筋の汗が伝う。

 

 幻覚か? 焼き焦がされた後遺症で目がおかしくなったのか?

 

 そうであってくれ、そんな考えが一瞬だけ五条の脳を駆け巡った。

 

 しかし、

 

 「うおっ……!! ……」

 

 強烈な風圧に振り払われた砂塵の中から現れた存在を目に捉え、五条は現実を受け入れるしか術がなくなった。

 

 浅黒い青の体躯は、赤鬼のように筋骨隆々。違いと言えば、巻いている腰布が深緑色で、担ぐ金棒の色が明るめの色味に。最たる違いは、2本の金角に赤色の勇ましき髷、

 そして、単純に赤鬼の1().()5()()ほどの呪力出力。

 

 『アァアアアオオオオオオオオン!!!!!!』

 

 天を仰ぎ、その実力を誇示せんが為に、天地を揺るがす咆哮をした青い巨人____青鬼を前に、五条は冷や汗を流しながら笑みを浮かべた。

 その笑みは、明らかに空元気。何故ならば、肉体の損傷はなくとも、一般的な術師を軽く上回る呪力量を誇る五条の呪力は、赤鬼との戦いで大きく減少していたからである。

 

 (クソッタレが)

 

 肩に担がれた金棒の鋒が、冷徹にも天井へ振り上げられた。

 避けようにも、五条の脚は精神的ダメージに音を上げ、震えを隠さずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ロケットパーンチ!!!」

 

 その時、聞こえるはずのない、幼さが滲み出た高い声が周囲に小さく響いた。

 

 そして、

 

 『アオン!!??!?』

 

 青鬼の顔面が、唐突に爆炎に包まれた。

 

 五条の六眼は、()()がすっ飛んできた方向、瓦礫の山に向き、

 瞬間、五条の顔面は、驚愕と恐ろしさとが入り混じったように歪められるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へっへーん!」

 

 してやったり、と小さな手を握りしめ、瓦礫に身を潜めるのは、脱出したはずの少年であった。




 ちょっと鬼達強すぎやしませんかね、日ノ神さん。

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

  • ぐ〜るぐる
  • がっしゃぁーん!!
  • イカがなものかと!!
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