二級術師――
「
山林の日差しが窓から差し込むレトロチックな教室に、青年の透き通った疑問が響く。
声の主、五条に、隣の席についていた夏油傑。二人にその任務を言い渡した、頭を丸めている上に強面で大柄な男――夜蛾正道は首を縦に振る。
無論、護衛対象はただの少女では無い。呪術界の基底にあって、高専各校、日本各地の主要結界、多くの補助監督が扱う結界術の強度の底上げを行い、
彼女は
ただ老いるだけならばいざ知らず、一定以上の老化を終えると、彼女の術式は、彼女自身を創り変えようと作用する。結果、天元は
そうなった段階で、天元に意思と呼べるものは消失、天元の庇護は掻き消え、最悪の場合、天元そのものが
だからこそ、500年に一度、適合する人間と
故に、彼女と
彼女の護衛を、五条悟、夏油傑両名が遂行せよ。と、いうのである。
立場上
「そんな重要任務に私を?」
それは夏油の自惚れや恐怖からではない。
なにせ____
『どんどろ〜』
500年前、あわや日本を滅ぼしかけた
「刺客からの護衛というなら、私よりも冥さんが適任では? カラスでの索敵に視覚共有による即時性、
それに比べ、私となると間違いなくあいつがついてきますけど」
「なんだあ傑ぅ? そんなに理由捲し立てて、本当は足がすくんで動かないだけじゃ無いんですかぁ〜?」
「……」
「そもそもが天元様の御指名だ。それに、俺を含めた他の術師は、お前らが空けた穴を埋めるために動くことができない。……受けてくれるな?」
一抹のきな臭さを覚えつつ、しかし、任務を頼まれるとあるならば、断るという選択肢を夏油は持ち合わせていなかった。
「当然ですよ」
「おや? 怖がってたんじゃなかったのかな!?」
「もーほんとうるさい」
◇◇◇
『天元様は理子様であり、理子様は天元様なのですよ!』
誰が言った言葉だったか。
でも、物心ついた時から、そんなことを言われ続けている気がする。小さい頃なんてほとんど覚えてないけど、この言葉はいやに耳に残っている。
お父さんとお母さんは事故で死んだっていうのに、そんなことよりも、この言葉の方がよく覚えている。別に嫌ってわけじゃなかった。
けど、呪いみたいだな、とは思っていた。
天元様がどれだけ呪術界に良い影響を及ぼしている存在なのか。そんな天元様と同化できる資質を持つ自分は、どれだけ他人のためになる
あらゆる危険から遠ざけられ、大事に大事に育てられていたと思う。お付きの人が常にいたし、私がしたいと思ったことはなんでもできたし、私が嫌だと思ったことはなんでも取り除かれたし。特別が普通で、本当の普通というものに触れる機会が、とても少なかった。
私は普通に憧れた。よく知らないことだったから。なろうとは思わない。だって私は星漿体だから。せめて、知りたかった。
『妾の名は天内理子!!! 者共よ、今日から____』
『だっはは!!! なんだよその喋り方!!!』
小学校に入って、私はまず喋り方が浮世離れしていることに気づいた。大勢に笑われ、私は生まれて初めて恥をかいた。
それからというもの、私は恥の連続だった。勉学の面は問題ない。一般常識と普通の人の感性を知らないが故の恥。
『お前今日配膳当番だろー!』
『おい帰るなー!! 掃除しろー!!』
『先生呼びに行かなきゃ授業になんないよー!!』
いつもやってくれる人がいたことを、全部自分でやらなきゃいけなくなって、知っているのに一度も触れたことがないことだからできない。そんなことの連続。
嫌な気持ちになることは、あった。でも、それ以上に、とても楽しいと思った。
決して諦めなかった。自分でやるものだと言い聞かせて、給食の配膳に帰りの掃除、日直の仕事、めんどくさいと思うこと、全部やった。あと、外出の時の口調を改めた。
はじめは、お嬢様然な私を怖がったりして、話しかけてこなかったり嫌なことをしてきたり。そんな中の学校生活だった。でも、いつしか私に仲良くしようと話しかけてくれる人が沢山できた。
家の人とは違う、私に対して気に入らないことはなんだって言い、言い合え、同じ視座で楽しいことをできて、共有できる存在。
友達。
初めてそう呼べる人と出会って、その時から感じる
私は、それから目を背けていたんだと思う。
勤めて気にしないようにして、私は小学校での生活を楽しんだ。そして、そのまま中学校――
私の世界は、さらに広がった。
みんなで讃美歌を歌って、愉快な先生に笑って、難しくなってきた勉強に四苦八苦して、課題を忘れて怒られて、黒井に内緒で友達とコンビニに買い食いしに行って、遠足に行って、体育祭、文化祭……。
あっという間。小学校よりも早く過ぎ去る日々。
中学二年生になって、職場体験でスーパーの店員を体験させてもらった。社会の主役である大人。その一端に触れた。
普通の人は、こうして仕事をして、結婚して、子供を産んで愛情を注いで、そして死ぬ。それが社会の当たり前で、これからも続いていく循環。
私は、
違和感。それは日に日に大きくなっていった。
そして、中学三年生になった。周りの人たちはみんな、進路だなんだとうるさい人もいれば、高等部にエスカレーター、と余裕ぶってる人もいた。
三者面談が始まって、先生と親、生徒とが将来について本格的に話し始めた。
私もまた、三者面談があった。黒井と一緒に受けた。
来るはずのない空っぽな未来の話をした。
天元様との同化が目前に迫って、私の存在が
ヘンテコな制服の男が、ホテルで待っていた私の部屋に乗り込んできた。
『恨むなら、天元を恨みなっ____』
天元様との同化を待たずして死ぬ。生まれた時から紐付けられていた宿命すら果たせずに、大切な人が住んでいる大事なこの国を守れずに、死ぬ。
それは嫌だ。何もかも無駄になってるみたいで、絶対やだ。
でも、視界が真っ暗になって、奇妙な浮遊感の中で何もわからなくなって。
『どんどろ!』
目が覚めたら、喋る炊飯器が目の前にいた。
そういう天使かと思った。
もしかしたらこの先週一投稿ぐらいになってまうかもしれない……
懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます
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ぐ〜るぐる
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がっしゃぁーん!!
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イカがなものかと!!