特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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人身御供(天内理子)

 二級術師――庵歌姫(いおり うたひめ)、一級術師――冥冥(めいめい)の助太刀に向かい、さっさと終わらせて帰ってきた白髪のグラサン青年――五条と、未成年喫煙者――家入。彼らと戯れていた前髪ニート――夏油は、突如として告げられた()()に目を丸くした。

 

 「少女(ガキンチョ)の護衛と抹消ォ??」

 

 山林の日差しが窓から差し込むレトロチックな教室に、青年の透き通った疑問が響く。

 声の主、五条に、隣の席についていた夏油傑。二人にその任務を言い渡した、頭を丸めている上に強面で大柄な男――夜蛾正道は首を縦に振る。

 

 無論、護衛対象はただの少女では無い。呪術界の基底にあって、高専各校、日本各地の主要結界、多くの補助監督が扱う結界術の強度の底上げを行い、()()がいなければ全ての呪術師の任務遂行に多大な悪影響を与えるとされる存在――天元(てんげん)

 彼女は()()()()()を持ち、時代を超えて存在することができるが、それはあくまでも不滅であるだけで、()()では無い。

 ただ老いるだけならばいざ知らず、一定以上の老化を終えると、彼女の術式は、彼女自身を創り変えようと作用する。結果、天元は()()()()()()()へ進化してしまう。

 

 そうなった段階で、天元に意思と呼べるものは消失、天元の庇護は掻き消え、最悪の場合、天元そのものが()()()()()()()()()

 

 だからこそ、500年に一度、適合する人間と()()し、肉体情報を書き換える。そうなれば、肉体は一新され、術式効果は()()()()()()()

 

 故に、彼女と()()できる存在、“星漿体(せいしょうたい)”――天内理子(あまない りこ)

 

 彼女の護衛を、五条悟、夏油傑両名が遂行せよ。と、いうのである。

 

 立場上()()()()()()()暇なので、どんどろについての記述や呪術界の歴史、呪霊操術について知るために、さまざまな書物に目を通していた夏油にとって、それぐらいは常識であったが、しかし、彼にはどうしても理解できない事柄が一つだけあった。

 

 「そんな重要任務に私を?」

 

 それは夏油の自惚れや恐怖からではない。

 なにせ____

 

 『どんどろ〜』

 

 500年前、あわや日本を滅ぼしかけた制御不能の黒いどろのようなバケモノ(どんどろ)に気に入られている彼を、日本の行く末を左右するような任務に就かせるのは、誰がどう見ても愚行だったからである。

 

 「刺客からの護衛というなら、私よりも冥さんが適任では? カラスでの索敵に視覚共有による即時性、神風(バードストライク)と冥さん本体で戦闘能力もカバーできる。

 それに比べ、私となると間違いなくあいつがついてきますけど」

 「なんだあ傑ぅ? そんなに理由捲し立てて、本当は足がすくんで動かないだけじゃ無いんですかぁ〜?」

 「……」

 

 ()()()()()()()()で、いつにも増して煽り口調がキツい五条を睨みつける夏油に、教壇の前で腕を組み、威厳をアピールする夜蛾が口を開く。

 

 「そもそもが天元様の御指名だ。それに、俺を含めた他の術師は、お前らが空けた穴を埋めるために動くことができない。……受けてくれるな?」

 

 一抹のきな臭さを覚えつつ、しかし、任務を頼まれるとあるならば、断るという選択肢を夏油は持ち合わせていなかった。

 

 「当然ですよ」

 「おや? 怖がってたんじゃなかったのかな!?」

 「もーほんとうるさい」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 『天元様は理子様であり、理子様は天元様なのですよ!』

 

 誰が言った言葉だったか。

 でも、物心ついた時から、そんなことを言われ続けている気がする。小さい頃なんてほとんど覚えてないけど、この言葉はいやに耳に残っている。

 お父さんとお母さんは事故で死んだっていうのに、そんなことよりも、この言葉の方がよく覚えている。別に嫌ってわけじゃなかった。

 けど、呪いみたいだな、とは思っていた。

 

 天元様がどれだけ呪術界に良い影響を及ぼしている存在なのか。そんな天元様と同化できる資質を持つ自分は、どれだけ他人のためになる()()()()なのか。そんなことを、耳が腐って落ちそうなほど聞かされ続けた。

 あらゆる危険から遠ざけられ、大事に大事に育てられていたと思う。お付きの人が常にいたし、私がしたいと思ったことはなんでもできたし、私が嫌だと思ったことはなんでも取り除かれたし。特別が普通で、本当の普通というものに触れる機会が、とても少なかった。

 私は普通に憧れた。よく知らないことだったから。なろうとは思わない。だって私は星漿体だから。せめて、知りたかった。

 

 『妾の名は天内理子!!! 者共よ、今日から____』

 『だっはは!!! なんだよその喋り方!!!』

 

 小学校に入って、私はまず喋り方が浮世離れしていることに気づいた。大勢に笑われ、私は生まれて初めて恥をかいた。

 それからというもの、私は恥の連続だった。勉学の面は問題ない。一般常識と普通の人の感性を知らないが故の恥。

 

 『お前今日配膳当番だろー!』

 『おい帰るなー!! 掃除しろー!!』

 『先生呼びに行かなきゃ授業になんないよー!!』

 

 いつもやってくれる人がいたことを、全部自分でやらなきゃいけなくなって、知っているのに一度も触れたことがないことだからできない。そんなことの連続。

 嫌な気持ちになることは、あった。でも、それ以上に、とても楽しいと思った。

 決して諦めなかった。自分でやるものだと言い聞かせて、給食の配膳に帰りの掃除、日直の仕事、めんどくさいと思うこと、全部やった。あと、外出の時の口調を改めた。

 はじめは、お嬢様然な私を怖がったりして、話しかけてこなかったり嫌なことをしてきたり。そんな中の学校生活だった。でも、いつしか私に仲良くしようと話しかけてくれる人が沢山できた。

 家の人とは違う、私に対して気に入らないことはなんだって言い、言い合え、同じ視座で楽しいことをできて、共有できる存在。

 

 友達。

 

 初めてそう呼べる人と出会って、その時から感じる()()()

 私は、それから目を背けていたんだと思う。

 勤めて気にしないようにして、私は小学校での生活を楽しんだ。そして、そのまま中学校――廉直(れんじょく)女学院の中等部に進学した。

 

 私の世界は、さらに広がった。

 

 みんなで讃美歌を歌って、愉快な先生に笑って、難しくなってきた勉強に四苦八苦して、課題を忘れて怒られて、黒井に内緒で友達とコンビニに買い食いしに行って、遠足に行って、体育祭、文化祭……。

 

 あっという間。小学校よりも早く過ぎ去る日々。

 

 中学二年生になって、職場体験でスーパーの店員を体験させてもらった。社会の主役である大人。その一端に触れた。

 普通の人は、こうして仕事をして、結婚して、子供を産んで愛情を注いで、そして死ぬ。それが社会の当たり前で、これからも続いていく循環。

 

 私は、星漿体(とくべつ)。中学三年生になったら、私は……。

 

 違和感。それは日に日に大きくなっていった。

 

 そして、中学三年生になった。周りの人たちはみんな、進路だなんだとうるさい人もいれば、高等部にエスカレーター、と余裕ぶってる人もいた。

 三者面談が始まって、先生と親、生徒とが将来について本格的に話し始めた。

 私もまた、三者面談があった。黒井と一緒に受けた。

 来るはずのない空っぽな未来の話をした。

 

 天元様との同化が目前に迫って、私の存在が()に漏れたらしい。私はホテルで襲撃にあった。

 ヘンテコな制服の男が、ホテルで待っていた私の部屋に乗り込んできた。

 

 『恨むなら、天元を恨みなっ____』

 

 天元様との同化を待たずして死ぬ。生まれた時から紐付けられていた宿命すら果たせずに、大切な人が住んでいる大事なこの国を守れずに、死ぬ。

 

 それは嫌だ。何もかも無駄になってるみたいで、絶対やだ。

 

 でも、視界が真っ暗になって、奇妙な浮遊感の中で何もわからなくなって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『どんどろ!』

 

 目が覚めたら、喋る炊飯器が目の前にいた。

 そういう天使かと思った。




 もしかしたらこの先週一投稿ぐらいになってまうかもしれない……

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

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