けたけたと透き通った笑い声が、男二人の感情を揺さぶった。
「クズ共がボロ雑巾になって帰ってくるとはねー」
エアコンの駆動音に包まれる、三つの机と席しかない古めかしい教室。その席に着く家入硝子の容赦のない質問に、かたや机に、かたやきちんと席についている二人の最強は顔を顰める。
「散々さいきょーさいきょー喚いてたツケが来たねぇ」
「うっせえなあ……」
実際負けたのは事実のため、普段は軽薄で全てを舐め腐ったような態度をしている五条悟であっても、しおらしい対応しかできないでいた。家入硝子が気味悪がったのはいうまでもなかった。
「……平釜平原をすっぽり消した大穴、アレが俺の無下限呪術じゃないって言ったら信じる?」
机の上で胡座をかき、顰めっ面でそう言い、不愉快そうに白髪の頭をガシガシ掻きむしる五条悟を見て、家入硝子は、へぇ、と声を漏らした。
隣の夏油はというと、何やら教養の高そうな小説を読み耽っている。
「そんなにならよく調伏できたもんだね、夏油」
滅多にない家入硝子の打算なしの賞賛。しかし、それを聞いた夏油傑の表情は思わしくなかった。
「調伏では
「どーいうこと?」
「私にもわからないよ。悟の“蒼”を十何発食らっても私の呪霊の攻撃をいくら受けても大したダメージを受けたような素振りも見せない奴なんだから、本来なら調伏できるはずがないんだ」
呪霊操術が無条件で呪霊を取り込める範囲は、等級換算で術師の階級の二つ下から。夏油傑でいうと、二級呪霊から下である。しかし、先日最強コンビ二人が遭遇した呪霊の実力は、どう考えても特級、なんなら特級より上の階級を用意した方がいいレベルの強さである。
しかし____
____どんどろぉ〜。
散々暴れ回って、まるで満足でもしたかのように、呪霊は釜の蓋を閉じた。そこで、夏油傑はダメ元の策…… 否、ヤケクソに走った。
後ろにはへばった友人が肩で息をしているし、呪霊は軒並み消耗したし、彼がそれを成功させるしか無かった。
(力づくで、コイツを調伏する……!!!)
体内にある呪力全てを振り絞り、彼の右手が振り上げられる。その切先が向いているのは、見上げるほど巨大な釜。
本来ならば格下か、弱った相手に行使する術式。それを、目の前の釜へ向けた。
「……!!!っ」
その瞬間____
『どんどろぉ』
ヘドロが意思を持ったような怪物の赤い眼が、夏油傑をじっとり見つめていた。
人間のような歯並びの巨大な口が、まるで笑ったかのように歪んだ。
「……なんだ!?」
異変はすぐに起こった。
巨大な釜が、拗れ、千切れ、夏油傑の掌におさまっていく。その光景を、彼は何度も、何十回も何百回も見ていた。
そして、いくばくもしないうちに、釜のバケモノは、掌大の大きさの黒い球体に圧縮された。
「……っ」
吸い込まれるように、彼はその球体を口へ運び、
「っはっ……おぐっ」
口へ詰め、飲み込んだ。
「……ゔ」
調伏できた。その安心感からか。吐瀉物を掃除した雑巾を丸呑みするよう、と形容できる、呪霊躁術の調伏の儀。それを
そして、顔がむいた先にある、見渡す限りの
「____それさ、夏油大丈夫な訳? そいつに乗っ取られたりとか」
「おや、硝子が私の心配かい?」
「バカ言うなよ、私の心配。……で?」
暇つぶしに読んでいた本を閉じ、机に置いた夏油傑は、一房だけ垂れた前髪を指で流し、肩をすくめた。
「んー、さて。今は大丈夫じゃない?」
『どんどろ〜』
頭に響く能天気な声は、止みそうもない。
懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます
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ぐ〜るぐる
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がっしゃぁーん!!
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イカがなものかと!!