特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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殻を破れ

 ____!!!!!!

 

 地獄を彷徨う餓鬼が如き叫び。青紫色の歯茎を剥き出しにし、血のように染まっていた瞳を青に変えたどんどろは、それでもなお全身を灼かれるような苦痛に悶えた。

 彼の収まった巨大な釜の蓋に貼られた四枚の札、そこに描かれた“封”の字がより一層輝きを増し、超常的な正のエネルギーが、どんどろの漆黒の肉体に深々と噛みついたのである。

 

 同時に、どんどろから発されていた、常に後ろから見られているような悍ましき気配が弱まっていく。

 

 『オオ……オ……』

 

 青い目の隙間に、幾つもの血の滴が湛えられ、溢れて光をも引き込む肉体を伝う。

 

 ____その時、青き瞳が、徐に下方のある地点へ向いた。

 

 「……」

 

 そこに立っていたのは、芋虫のような呪霊に抱かれる、天からの寵愛を受けし破壊者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____ガコンッ……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓋が落ち、釜は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙。

 

 「……」

 

 薨星宮の参道を満たしていたバケモノの咆哮は収まり、残ったのは蓋を固く閉ざした巨大釜。もはや馴染み深かった呪力の一切を、夏油は感じることができなかった。

 彼が感じられるものといえば、足元に安置された少女の気配、

 そして、こちらに向かう足音。

 

 「……」

 

 唖然としたまま、彼は術式を発動。魚類に両生類、鳥類を腐らせたような外見の呪霊を、ぶら下げた掌から出現させる。

 

 (私の為に、()()

 

 『____!!!』

 

 瞬間、夏油を取り巻いていた呪霊が離散、溢れ出る呪力で()()()()()()肉体を酷使、

 

 「……はっ」

 

 短刀――天逆鉾を大層に掲げた彼――伏黒甚爾へ殺到する。

 

 しかし、攻撃にさらされながらも、彼の軽薄な笑みは潰えない。

 

 正面から突撃を敢行した2体の呪霊へ天逆鉾を横薙ぎにし、その隙をついた上空後方からの突撃を身体を捻って跳んで避け、足をついた瞬間を狙った呪霊を踏み潰し。

 

 (烏合の割に不自然な程の圧、大方、何かの縛りか)

 

 一息つく間も与えず四方から迫る気配に、面倒そうに顔を上げた甚爾は、ふと、そこに術者の姿がないことに気づく。

 

 (後ろか)

 

 ____夏油が位置していたのは、丁度天逆鉾の間合いより外れた、ギリギリの近距離。

 

 (その短刀以外の()()()()()……!!)

 

 目を血走らせて見開き、それ以外の表情を削ぎ落とした夏油が手を翳した先、そこにあったのは、甚爾の肉体に巻き付く武器庫呪霊であった。

 ____それは、呪霊としての格は間違いなく二級以下の雑魚。ならば、()()()で呪霊操術の使役対象とすることができる。

 

 『……?』

 

 彼の予測通り、黒く渦を撒き始めた掌に吸い込まれるように、武器庫呪霊の長細い身体が歪み、甚爾から引き剥がされる。

 

 (その上で神風(バードストライク)を主体に____)

 

 低級呪霊のストックならまだある。()()をこれだけ容易くいなされたのだから、次は攻撃の密度を上げて布陣も____

 

 ____この時、夏油はとある()()()を持って、思考を硬直させてしまっていた。

 

 それは、

 

 ____バチッ……!!!

 

 「なっ……!?」

 

 使役が、()()()()()()()という()()

 掌に走った雷撃のような痺れる痛み。思わず声を漏らした夏油の視界に映ったのは、あいもかわらず甚爾にすがった呪霊の姿。

 

 発生する一瞬の間、わずか一秒にも満たない夏油の狼狽は、汚い涎を撒き散らして進撃する呪霊三匹を斬り払い、武器庫呪霊の口から飛び出た刀の柄を掴むには十分な時間であった。

 

 ____キンッ……!!!!!

 

 「……!!!」

 

 目にも止まらぬ早技。呪力強化を施した術師のそれを容易く上回る斬撃が、残光となって空間に軌跡を残す。

 その瞬間、夏油は胸に十字に走る、じわりと広がる温かさに気づいた。

 

 斬られた。

 

 そう実感した彼の頬に、白い暴風が如き脚が振り抜かれた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「同じ特級でも、オマエはどんどろの影響が大きいみたいだな」

 

 弱すぎ。

 

 甚爾の率直な罵倒に、背中を地面につけ、ピクリとも動かない夏油からの反応は無い。

 

 鼻血が散り、腫れた頬に引っ張られ、唇が醜く歪んだ夏油の顔面に足を押し付けた甚爾は、コキコキと首を鳴らした後、抑えきれない嘲笑を湛える。

 

 「呪霊操術使いだから殺さねえんだ、……ま、せいぜい泣いて親孝行するこったな」

 

 夏油を見下し、少し離れたところで横たわる少女に目を向けた彼は、やけに回る口をそのままに、

 

 「んで持って、俺みたいな呪術も使えん猿相手に負けたってことを一生背負っていけ。()()さんよ」

 

 かつ、かつ、と、遠ざかっていく足音が、朦朧とした夏油の意識に揺さぶりをかける。

 何もかもを認められない。術師としてのプライド? 天内を殺した男を殺せない自分を? 親友を殺した男を____

 

 (……まて)

 

 指さえ動かせず、遠のく意識。

 その中、夏油は呪詛めいた執念、殺意を心内で燃やすことしかできなかった。

 

 それも、長くは続かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____ズガァァッ……!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油傑が意識を消失したのと時を同じくして、薨星宮の天蓋が()()する。

 崩れゆく瓦礫から溢れる一筋の光。そこから降下してくるは、乾いた血液がこびりつく白髪を揺らし、一層輝きを増した、宝石のような水色の瞳を携えた一人の青年。

 

 「よォ、さっきぶり」

 「……マジか」

 

 帰り支度と洒落込んでいた甚爾の怠けた顔が、たちどころに引き締まり、驚愕に塗り変わる。

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

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