特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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おわり。

 無下限術式による無限を正面から打ち破り、自らの喉笛を突き、深々と抉った天逆鉾。あまりの激痛に急速に混濁していく意識、溢れ出した血液が喉奥と気管に流れ込み、むせ返って口から吐き出される生命の源。

 明らかな致命傷。

 その瞬間、五条は()()()ことを察し、反撃を諦めた。

 

 代わりに、有り余る呪力の全てを最低限の生命維持に、そして()()()()の行使に回す。

 

 一時の敗北は認め、しかし、彼は勝利へ手を伸ばすことをやめはしなかった。

 親友に(伏黒甚爾)の相手を任せろと言った手前もあるし、3日に渡り不眠不休で護衛した、もはや他人とは思えない少女をむざむざ殺させるようなことにはしたくないという気持ちもあった。

 しかし、それ以上に、()()()()()()が、彼の生への渇望を強くしていた。

 どんどろ、鬼、そしてあの男。五条が痛みを感じ、敗北を喫した者は、彼らを含め数えるほどしかいない。

 どんどろはさておき、鬼との戦いの最中の自分自身の成長、壁を乗り越えたという達成感(祓いきれてはいないが)。この戦いにおいても、五条はそれを感じていた。

 

 最強に程近いが故に、滅多に感じることのない()()。それをいち早く得たいがために、死ぬ一歩手前で堰き止められた彼の肉体は、過去の奇跡を踏襲し、そして学習した。

 炊飯器のプラスチック片、穴ぼこの空いた釜が転がる赤い地面に立った彼の表情は____

 

 「____反転術式か……!!」

 「正ッ解!!」

 

 刺し貫いて砕いたはずの額、そこに残る確かな傷痕を捉えた甚爾の顔が忌々しそうに歪む。その変化を五条が見逃すはずもなく、良識のかけらもない原始的な表情が加速する。

 

 「オマエに喉ぶち抜かれた時、反撃は諦めて、反転術式に全神経を注いだ…… 呪力は(マイナス)の力、肉体の強化はできても再生は出来ない。だから負の力同士を掛け合わせて正の力を生む、それが反転術式。

 ……言うは易し、俺も今まで出来たことねーよ____」

 

 わざわざ結界に()()()()、天蓋に穿たれた穴から漏れ出る一筋の光の中より登場し、狂ったように笑い、上擦った声で理屈をべらべらと語る五条。

 まるで勝ち誇っているかのように語る彼の身振り手振りが、何故だか、甚爾は不愉快に感じて仕方がなかった。

 

 「____オマエの敗因は俺を首チョンパしなかったことと、頭をブッ刺すのにあの呪具(天逆鉾)を使わなかったこと」

 

 何故、あれを雑音として切り捨てることができないのか。

 ずりゅ、とすぐ近くで粘着質な音が鳴る。

 武器庫呪霊の口から、刀の柄が飛び出た音。

 

 「……敗因?」

 

 それを掴み、ゆっくりと引き抜き現れるは、天に逆らう白銀の輝き。

 

 「____勝負は、()()()()だろ」

 「……そうかぁ? そうだな____」

 

 ____そうかもなァァアッッッ!!!!!

 

 血の匂いが黴臭さを覆い隠す薨星宮の参道に響き渡る五条の咆哮。それが、()()()()()()のゴングとなった。

 

 瞬間、柄が砕け散るギリギリで握りしめられ、直立不動であった甚爾の身体が弾丸のように撃ち出される。

 

 「シィッ……!!」

 

 空気を置き去りにして突き進む彼の目の前には、倒れ込みそうになりながら、しかし、まるで世界をその手にしたかのように振る舞う、破れた制服を羽織る五条。

 たった一足。10mはあった距離を、目を閉じるより速く詰めた暴君の剛腕がうなりを上げる。

 

 ____とった。

 

 そう思ってしまうほど、一瞬の間に見られた五条の表情は()()()()()()()

 実際、これが初戦であれば、“蒼”による反撃を考えなければ避けきれずに食らっていたかもしれない一撃。

 反転術式で回復したとはいえ、あの深傷ならば消耗を____

 

 しかし、まるで紙が暴風に吹き飛ばされるように、五条はバク転の要領で後方へ跳び、空中へ逃げる。

 

 ()()()()、と、すぐさま体勢を整えた甚爾は、

 

 「……っ!」

 

 天に足を伸ばした五条が、不気味に()()()()()姿を見た。

 

 ____瞬間、甚爾の瞳に、拳銃の砲身のように伸ばされた五条の人差し指と中指の先端が、真紅の閃光を湛えたように映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「術式()()――“赫”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、無限の収束力を反転させた無限の()()

 目を見開いて固まった表情とは裏腹に、天からの寵愛を受けた肉体と本能は、瞬時に天逆鉾を前方に突き出した。

 

 ____グンッッッ!!!!

 

 「ぬぁっ____」

 

 それが五条の指から指向された途端、甚爾は奇妙な浮遊感と共にくの字となって吹き飛ばされた。

 それ――“赫”の直撃を天逆鉾で受け止め、即座に術式の解体が始まるも、無限の発散によって加速し続けた今となっては時すでに遅し。

 

 「____!!!」

 

 薨星宮の天蓋から破片が舞い落ちる程の振動を立て、煉瓦造りの壁面にいく筋もの亀裂を走らせるほどの威力で激突、その中心から砂埃が噴き上がる。

 

 “蒼”の収束力を利用して吹き飛ばす方策とは比べ物にならない“赫”、しかし、天与の暴君は砂塵が消し飛ぶほどの勢いで壁から飛び降り、目の前の空中を、天地を逆さにして歩く五条を睨んだ。

 

 「……はっ、バケモノが」

 

 その舐めた態度、嘲っているような、自己陶酔に溺れているような笑顔に悪態をつき、自身の額から流れる温かい感覚にジクジクと沁みる痛みに気づいた甚爾の顔面にも、好戦的な笑みが返り咲く。

 

 (骨はイってねえな…… 今の衝撃波が、無下限呪術、術式反転「赫」か)

 

 ビリビリと痺れるような上体に鞭を打つように、手を組んで背中の後ろに伸ばし、その一瞬の間に流れる、()()()()()()()()

 

 その意を汲み、阿吽の呼吸で武器庫呪霊が吐き出したのは、片方どちらかの先端が隠れてさえいれば()()()()()()()()性質を持つ鎖、――万里ノ鎖(ばんりのくさり)

 読んで字の如くのそれを手に取り、先のフック状になった場所へ天逆鉾を引っかける。

 

 ____バウッ……!!!

 

 そして、ある程度の長さでぶら下げた天逆鉾を、手を支点としてゆっくりと回し、大岩を簡単に砕く腕力により、あっという間に残像を引くほどの速度となって、巻き上がった破片の嵐が彼の黒髪を靡かせた。

 

 ____全て、問題なし。

 

 天蓋に覆われている都合上コントロールに難ありなものの、万里ノ鎖によりリーチを確保、“蒼”ならば足で躱せるし、天逆鉾による打ち消しが簡単に効く。“赫”についても、タイミングさえ噛み合えば完璧な打ち消しが可能、本体の無下限突破は容易。持ち帰る死骸が壊れさえしなければどうとでもなる。

 

 ____術式に恵まれただけの生意気なガキの顔面をかち割る。

 

 「____殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____ビリッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ____かつて、()()の阿弥陀ノ御札を持って、対角線を結べば五芒星を描けるようにして、巨大釜に封印された怪物は、人間の正のエネルギーとは()()()()()エネルギーにより構築された反転術式で絶えず消滅の危機に瀕しながらも、時間をかけて二枚の札に自らの呪力を流し込んで完全無効化し、自己再生とのつり合いが取れるギリギリ、三枚の札との共存を計り、封印を実質的に無効化した。

 そこに至るまでの苦痛、それは、怪物――どんどろのトラウマと化していた。

 

 『____グォオオオオオオオオアアアアア!!!!!』

 

 苦痛に足掻き悶えるような咆哮。

 

 その時、薨星宮を覆っていた天元の結界に()()()()()()()

 

 天逆鉾が描いていた軌道が乱れ、ひび割れた煉瓦にその刃を深く突き立てる。

 鎖を回すのをやめた甚爾の感覚機能が、情報の拾い過ぎでまるで焼き切れたように機能不全を訴え始めたのである。

 

 (いくらなんでも、早すぎんだろ……!!!)

 

 それは甚爾だけではなく、新たな力を得て子供のようにはしゃいでいた五条にも伝わっていた。

 力を抜いて水中を漂うようにしていたところ、生存本能が赤ランプを灯してブザーを鳴らし、緩み切っていた表情に喝を入れる。

 

 全く感じられなかった、近寄ることすら憚られる呪力。それが、硬く蓋を閉ざした巨大釜から漏れ出し、周辺を満たして濃度を濃くしている。

 

 ____びり、びりりり……

 

 二人の耳をつく、布が破れていくような音に、二人の目に映る、釜の蓋に起こっている異常。

 

 新しく貼られた四枚目の札が、蓋に貼られた面の根本に一文字の切れ目が入り、それは全体の半分を超えて、なおも侵食して破かれていっていたのである。

 さらに、まるで渦を巻いているかのように、赤紫色の呪力が釜の中心に引き寄せられていくようにして、それに伴って高まる威圧感。

 

 どんどろのしていることは至極単純な発想。四枚目の新しい札に、彼の持つ呪力量のほとんど、身体を構成する分すらを叩きつけてやることであった。

 そんなことをすれば、三枚の札に込められた反転術式が呪霊としての肉体を蝕む。そこは、彼自身の圧倒的な再生能力と、瞳が青い時に起こる呪力攻撃の無効化を用いてカバーする。

 しかし、苦痛は過去と同等、あるいは()()()()に膨れ上がり、どんどろのトラウマをほじくり返すこととなる。

 

 ____ばつっ!!!

 

 そして、一枚の封印札が、封の字に輝いていた赤光を失い、虚しく参道の硬い地面に重なった。

 同時に、紫色の閃光が飛び散り、小刻みに震えていた釜が止まった。

 

 六眼が映していた荒れ狂った呪力が、急速に凪ぎ、()()()()()()()()

 天与呪縛で強化された感覚が、突如として周りの雑音を、匂いを、空気を感じ始める。

 

 これで消滅してしまった。

 そんな楽観視をする者はここには居なかった。

 

 浮ついていた思考回路が現実に帰ってきた五条は、背筋の疼きようを信じて、床に臥す二人の元へ行った。

 

 五条のガキを潰すという、彼としては珍しすぎる熱さをかなぐり捨てた甚爾は、五条が侵入してきた穴に向かって()()()()()()()()いった。

 

 ____ガタンっ。

 

 釜の蓋の片側が浮き上がり、ぐわんと交互に揺れる。また、そのまた次に、と、まるで沸騰を始めたかのように。

 その度に、釜の中から濁流の如し血液が吹きこぼれ、薨星宮の古い木造建築を汚し、押し流して倒壊させていく。

 

 ____ボシュアァッ!!!

 

 ____そして、突如として、赤黒い蒸気が蓋を押し上げ、釜の縁に血液の滝を形成し、薨星宮へどうどうと流れ落ちる。

 赤い津波の中に輝く青い瞳。それは、五条や夏油の知るそれとは違い、深海に潜んでいるかのように深い青に染まっていた。

 

 「……」

 

 むせ返りそうな血の匂いを無視して、それから宙に浮きつつ、甚爾と同じく逃走を図っていた五条は、とにかく脇に抱えた二人を無限で包むことに注力していた。

 六眼の感知機能を()()する呪力量から、少しでも遠ざかるために。

 

 

 

 

 

 

 

 『シブァァァア……!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ____極ノ番 “まっくろどんどろん”

 

 

 

 

 

 

 

 怒りに満ちた災害(どんどろ)の怨嗟のあと、薨星宮から都立呪術高専の三分の一が、垂直に()()()()




 天元の結界+天元の頑張りが無ければこれで済まなかったのは言うまでもないし、札を破壊するために割と消耗してる中でのまっくろどんどろん。

 ちなみに天元は死んでない。

 次の投稿で懐玉・玉折編は終わらせる予定

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

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  • がっしゃぁーん!!
  • イカがなものかと!!
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