特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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 オリジナルのものが出てきます

 どんどろないなった


虹龍を捕まえに行こう 2

 呪術高専を出て二時間程経ち、夏油は村落の地面に足をつけた。出迎えを受けた彼らは、すぐに里長と顔を合わせるのだった。

 彼曰く、昨今の急激な野山の開拓が呪霊を刺激したのは分かっているが、この村の振興を計るにはやむを得ないとのことである。そういった事情は詮なきこととしていた夏油は早々に話を切り上げ、補助監督に付き添われて、虹龍が出没するという鍾乳洞へ足を運んだ。

 切り拓かれて明るい鍾乳洞周辺には、破壊された重機、おそらく林道整備のためだろう木の板などが散乱していた。

 

 ____そして。

 

 『…… 貴様、呪術師カ』

 

 まともな会話が成立するほどの知能を持つ呪霊に出会ったのは、夏油の経験上初めてであった。

 光源用の小さな呪霊をそばに従えた夏油が見たのは、白い髭を豊かに蓄え、光に照らされ虹色に煌めく鱗で全身を覆う、東洋に伝わる“龍”の形をとった呪霊

 

 (大きいな、……それに、この感覚)

 

 肌へ刺さるような殺気に呪力。どんどろと一戦交えた際に感じた、粘ついた水の中に無理やり沈められたような息苦しさには劣るが、これまでにあいまみえた呪霊の中でもトップクラスの格上。

 推定、特級呪霊――虹龍(コウリュウ)が、丸めていた長く太い体躯を伸ばし、顔だけを夏油へ向けて上げる。

 

 『愚カナ…… 小童一人デコノワシヲ……? 奴ラ、ドコマデモワシヲ侮辱スルツモリカ……』

 

 怯えてすくむ、発光する呪霊に照らされる、白い鍾乳石と赤い鍾乳石とで形成された、針が連なるような構造の洞穴に振動が走る。

 甲高い老人のような声に怨嗟を込め、両眼を不規則にぎょろつかせ、虹色の古龍がその巨躯を空中へ浮かべる。

 

 (さて)

 

 夏油は肩に背負っていた、紫の長細い袋から、一振りの大太刀を取り出す。

 それこそ、彼が出立前に総監部を脅して貸し与えられた()()

 それも、呪術高専地下、忌庫内に保管されている()()()()が一振り。

 

 “特級呪具 蛍丸(ホタルマル)

 

 薄く白光しているように見える長い刀身が振り抜かれ、鍛え上げられた切先を地面へ向けた夏油は、猛り唸る虹龍を前にして口元を緩める。

 

 かくして、邂逅から約1分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『決メタゾ……!!!! 小童ヲ殺シ、村落ノ者共モ一人残ラズ喰ライ尽クシテクレルワ……!!! ()()続ク恐怖ヲ思イダサセテヤル……!!!』

 

 虹龍は咆哮し、腹の底から湧き上がる邪悪な呪力を解放。

 その奔流を受け、垂れ下がった一房の前髪を靡かせる夏油もまた、蛍丸の美しき刀身を振り上げ、構えをとった。

 

 「閉じこもりの老害が吠えるなよ」

 

 心底舐めきった夏油の一言は、悠久の時を経て堪忍袋の尾が短くなった虹龍には覿面であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『____言ッタナ小童ァァァァ!!!!!』

 

 旅客機ほどある虹龍が、弾かれたように飛び出し、構えたまま動かない夏油へ迫る____

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「……離れててもらっても良いんですよ?」

 「いいえ、私よりも年下の子供が戦っているのです。せめて見守らせて頂きたい」

 

 はあ、と呟き、補助監督の男は目の前に直る。彼の隣にいる、痩せぎすでスーツをビシッと決めた村落の長にとって、目の前に広がるのはただの森林だろうに。とは口に出さず。

 

 (無遠慮な開発に負い目でも感じてるのかな)

 

 あるいは、呪霊が潜んでいるという鍾乳洞の崩落を危ぶんで気が気でないのかも。

 そんな失礼なことを隣の男が考えているとは梅雨知らず、村落の長は、食い入るように目の前の虚空を見つめていた。

 帳が下ろされ、真っ暗となっている目の前を。

 

 ____帳内部、鍾乳洞の真上に広がる森林にて。

 

 ____ズズンッ……!!!

 

 瞬間、渇いた木々が砕け、下から盛り上がる土砂と共に吹き飛んだ。

 

 降り注ぐ土砂や朽ちた木々をよそに、空中を駆け上がるように昇るは、虹色の鱗を白日の元に晒した邪龍。――虹龍

 その口元に押されているのは、薄く小さな刀身の刃をでかろうじて身を守る、黒い制服に身を包んだ青年――夏油傑であった。

 

 『死ネェェッ……!!!』

 「っ……!」

 

 その時、大地を下にしていた夏油の視界が大きくぶれる。

 そして、浮遊感。

 

 「……」

 

 空中に投げ出されたと把握するのに時間は要らなかった。夏油は眉ひとつ動かさず、空中に片手をやり、そこへ黒々とした球を出現させる。

 球は即座に変形____

 

 「よっと」

 

 マンタのような風貌の呪霊と化したそれは、空中を泳いで夏油の足元へ移動、彼の長身を受け止める。

 

 『オオオ……!!!』

 

 一息つくまもなく、体勢を安定させた夏油へ迫るは、虹龍の短い腕の先についた凶爪である。

 ヒュッと風を切り迫る死の影に、しかし、夏油の腕は迅速に反応。

 蛍丸の鈍い残光と、煌々たる鉤爪か重なる。

 

 ____ガギィィィ……ッッッ!!!

 

 金属と金属が擦れ合う不快音が辺りを染める。

 

 「うおっ……!!! とと……!」

 

 飛び散る火花に慄いたのではなく、夏油が声を漏らした要因は足場(マンタの呪霊)の悪さであった。そして、

 

 (()()()、コイツ……!! )

 『人ノ小細工デ、ワシニ傷ナドツカ、ヌゥ……!!』

 

 拮抗していた鍔迫り合いに変化が生じる。虹龍の膂力は、夏油の呪力で強化した腕力を優に上回っていた。

 それに、虹龍の腕は一本だけではない。

 

 『ぎゅっ……!??』

 

 気づいた時には、マンタの呪霊の土手っ腹には大穴が空き、小さな叫びが断末魔の叫びと知ることになったのであった。

 

 「……」

 

 夏油の視界いっぱいに映っていた虹龍の顔面が急激に浮き上がる。

 否、マンタの呪霊であった肉の塊と共に、夏油は再びの落下を開始した。

 しかし、やはり夏油は汗ひとつ見せず、焦らなかった。

 

 ____地面まで、残り10秒。

 

 夏油の両手に現れたのは、大きめのリュックサック大の、人間のような手足に大量の目玉がついた鯉のような魚の呪霊。

 

 ____地面まで、残り7秒。

 

 念の為、呪力による身体強化を下半身を重点に施し、夏油の足元へ呪霊が移動していく。

 

 ____地面まで残り3秒。

 

 ____2。

 

 ____1。

 

 そんな短い時の後、乱伐された森林地帯の真ん中に、無様な血の花が咲き誇る____

 

 ことはなく。

 

 「うお…… 揺れる揺れる」

 

 この魚の呪霊はどこでも泳ぐことができる呪霊である。それはたとえ。

 土の水飛沫を立て、川のない山地には似合わない水音を響かせた魚の呪霊の背の上で身体を静止させた夏油は上空を見上げ____

 

 『シブトイ……!! ガ、得物ハ潰レタナ……!!』

 

 嘲笑うかのように、()()()()()()()()()()()()の爪が振り下ろされる。

 

 (速……!!!!)

 

 

 バキィッ……!!

 

 

 くるくると空中を回転して太陽の光を受け、地面に突き刺さるものがあった。

 それは、白光する刀の鋒。

 たった数度の打ち合い。それが、特級呪具たる蛍丸の刀身に与えたダメージは計り知れなかった。

 

 「……」

 

 先端がへし折れ、刃はほとんどこぼれて潰れてしまった呪具を一瞥し、夏油は目の前で豊かな髭を指で弄り、こちらを舐めるように見つめる巨大な眼球を見つめ返す。

 それは、虹龍にとって、ネズミが猫へ牙を剥けるような無謀にしか見えなかった。

 

 『生意気ヲ言ッテソノ程度カ……? ヤハリ人間ハ____』

 

 疑いなく勝利したと思っていた。

 ()()()()()()夏油なぞ、ただの強がりとしか思っていなかった。

 

 「やはりやはりって…… やっぱり世間を知ろうとしないジジィと同じだな」

 

 頭に血が昇る前に、その変化は蛍丸に起こっていた。

 青色の蛍のような呪力が刀身を包んだと思えば、その呪力を吸収していくようにして、()()()()()()()()()()()()のである。

 

 「さあ、遠慮なく続けていこう」

 

 特級呪具 蛍丸

 術式効果:刀身に触れた対象の呪力を吸収し、刀身を形成、更新する。




 次回予告

 『シブァァァア……!!!!!』

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

  • ぐ〜るぐる
  • がっしゃぁーん!!
  • イカがなものかと!!
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