特級呪霊 どんどろ   作:にわとり肉

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 本編に関わるネタ枠です


炊飯ジャーからこんにちは

 虹龍の調伏から一ヶ月、夏油傑を取り巻く環境は大きく変わった。

 まず、呪術高専帰還後、夏油は呪術総監部に即刻連行された。

 

 「夏油……! 貴様がどんどろを使わんように特級呪具を貸し与えたと言うのに……!!」

 「じゃー縛りでも結べば良かったんでは」

 「そのつもりだよ、貴様に言われずともな!」

 

 老人達の罵詈雑言を死んだ目で流した夏油は、上層部で生き延びている老人達と縛りを結ぶこととなった。内容として、

 

 “今までの夏油傑の所業を許し、一切を不問にする代わりに、いついかなる状況に陥ったとしてもどんどろの召喚を禁じ、また、許可を得ずに東京都立呪術高等専門学校の敷地を覆う結界の外へ出ることを禁ずる”

 

 である。これが成立してしまうのだから、どんどろの規格外さが窺い知れるというものである。

 しかし、実のところ、この縛りには大きな()がある。総監部の思惑としては、ともかくどんどろを手中に納め、制御下におくことであるのは明白だが____

 

 (そもそも()()()()()()()()()よ、どんどろは)

 

 夏油は敢えてそれを指摘せず、障子の奥に隠れる老人達へ別れを告げた。

 

 変化はそれだけでは無い。いつも通りの生活に戻った彼であったが、そう遅くないうちにあることに気づく。

 

 「悟、今日も今日とて、かい?」

 「おうよ。お前も今日も今日とてニート生活か?」

 「学生の本分は勉強だろ、むしろ健全だよ」

 

 このようなやり取りを友人とするほど、夏油へ回される任務の数は激減していた。たまにくる任務も、幅の広い一級術師の中でも、下位から中位程のものがこなせる()()()危険度のものばかりであった。

 特別に危険なものは、以前は夏油と五条、一級上位の者たちで分け合っていたのが、夏油という戦力が実質動けないため、必然的に彼らの負担は増しに増した。

 特に、夏油の友人――五条悟については、目に見えて任務を与えられる量が増えていた。

 

 「……」

 

 呪術高専の正門、結界の際まで見送り、外へ出ていく友人の背中を見送ることが多くなり、夏油は憂鬱なため息を吐くことが多くなった。

 ただ、彼が努めて()()()()()()()()()()()()()()も、間違いなく存在しているのであるが……

 

 もう一人の友人、同級生の中では紅一点の反転術式使い――家入硝子も、反転術式のアウトプットという貴重過ぎる特質から、怪我の多い呪術師には特に重用されていて大忙しで、夏油が一人でいる時間はさらに増した。

 学業に問題はないし、バイトだとかも、上層部から外出の許可が一向におりないので出来ない。運が良ければ一週間に一度、任務で外出ができるか、そんな具合。

 そこで、暇人夏油は、自分をこんな状況に追いやった存在、どんどろについて、高専内の資料や歴史など色々と調べてみたり、4月の風に乗り、新たに入学してきた()()()2()()の相手をして、狭すぎる交友関係を広げてみたり、なんとかして時間を潰して日々を過ごしていたのだった。

 

 そして、虹龍の調伏から一ヶ月。その日に事件が起こった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「……ん」

 

 几帳面に整理された自室のベッドの上で、寝巻き姿の夏油は、寝巻きのシャツが捲れて丸出しだった自分の腹の音を聞いた。壁の時計は、12時16分を差して時を刻んでいた。

 何か腹に入れるか。思い立ったが吉日と、夏油はさっと立ち上がって台所へ向かった。

 

 「……うわ」

 

 冷蔵庫を開けると、夏油は一瞬にして顔を顰める。それは冷気によるものではなく、中に広がる貧しい内容からである。

 切れかけの牛乳に消費期限の切れたベーコン、ギリギリ消費期限ではない卵。

 ろくに買い物にも行けない上に、自炊をめんどくさがって食堂で済ませることも少なくなく、消費期限が切れていたり腐っていたり…… と、冷蔵庫の中身は殆ど空。世の一人暮らしをする高校生の冷蔵庫の中身を知るわけではないが、少しもやっとするのは無理なかった。

 冷蔵庫を閉じた夏油は、ふと、台所の片隅に置いてある炊飯器を見た。

 少し肌が粟だった。何故なら、ここ最近炊飯器の釜を洗った記憶がないからである。

 つまり。

 

 「……」

 

 恐る恐るフタを開くと、そこにはカチカチに固まった米が。

 ものすごく渋い表情を浮かべ、鼻を近づけた彼は、そこから放たれる匂いを嗅いだ。何せ、直近で久しぶりの任務があり、それを炊いたのがいつなのか、自信を持ってこの日であると言えなかったからである。

 

 すんすんと匂いを嗅ぎ、数秒目を閉じて天を仰いだ夏油は、ゆっくりと切れ長な目を開いた。

 

 「大丈夫だった……」

 

 鼻の粘膜を突き刺すような刺激臭ではなく、穏やかな甘い香り。どこかカビている場所がないかも確認し、

 夏油の腹は決まった。

 

 ____が。

 

 『……』

 

 夏油は、頭の中で地を這うような不満な唸り声を聞いた。当然、彼の頭にそんな声を届けられるのはたった一体。

 

 「……これ、今日中に始末しておきたいんだよ」

 『どろぉっ』

 

 捨てろ。とでも言わんばかりに、虚空をぶち破って出てきた漆黒の泥が、夏油の両腕を掴む。当たり前のように伸びてきたそれを見て、彼の眉間に皺がよるのは必然であった。

 

 夏油の数奇な運命に楔を打ち込んだ存在――どんどろは、どうやら夏油と味覚を共有しているらしいのである。好物は奇跡的に一致しているが、それ以外が噛み合っているということはないため、こうして“何を食べるか”で軋轢が発生するのは、虹龍調伏後一ヶ月の間に何度も発生していた。

 

 しかし、夏油も全く譲るつもりはない。食べ物を粗末にするという選択肢は、()()()()()彼に無いのである。

 

 「夜は食堂で蕎麦食べるから……」

 『どんどろ!』

 「おわっ」

 

 いくら宥めど、夏油の腕に絡み付いたヘドロは、幼児が駄々をこねるように締め上げたり振り回したりで聞く耳を持たず。

 不思議なことに、不満を暴走させ大暴れ、なんてことは今の今まで一度もない。しかし、面倒なことには変わりない。

 

 「だぁあ、ダメなものはダメなんだ、よ……!!」

 『どんどろろ……!!』

 

 呪霊操術の圧縮効果を利用し、虚空に開いた穴へどんどろを押し戻そうとするも、ムキになったどんどろのパワーに押されていく。

 しかし、どんどろも不愉快に思ったのだろう。

 

 『どろっ!!!』

 

 べちゃ、と、台所に重たい水音が響いた。

 

 「……」

 

 夏油は表情を忘れてしまっていた。

 何故ならば____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『どんどろ〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自慢げな顔で、炊飯器の中から赤いつぶらな瞳でこちらを見つめてくる者がいたからである。

懐玉・玉折編が終わったあとの話 ※得票数が多い順に全部書きます

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  • がっしゃぁーん!!
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