病葉アマヒコはキヴォトス人。 作:ザントマン
頭の上に輪っかが浮かんでいる。
輪っかは僕が意識を保っている間は常に浮かび続けているが、寝ている間は何処かへと消えていく。
それに加えて、僕の体毛は髪をはじめ、産毛に至るまで薄っすらと発光している有様だった。
街を歩けば何処からか硝煙の匂いがして、喧嘩をしていた小学生が銃を持ち出す。幼稚園児が走りながら手榴弾でキャッチボールをしている。服を身に纏った喋る犬や猫、はたまたアンドロイドらしきものが当たり前のように店先に立っている。
そんなカオスな光景が日常として繰り広げられているのだから、僕の特徴なんて些末なことだろう。
体毛が光るのはともかくとして、輪っか――ヘイローなんてものは珍しくない。
はじめは天使にでも生まれ変わったのかと思ったけれど、どうも違うらしい。
此処――キヴォトスという世界では、生徒は一様にヘイローと呼ばれる輪っかを頭の上に浮かべている。
生徒に限定しているのは、学生にあたる年齢の子にヘイローは存在し、ヘイローを持たないものは学生ではないからだ。……とはいえ、何事にも例外はある。例えばD.U.の中心に建っているサンクトゥムタワーの周りを飛んでいる飛行船とか、ね。あの飛行船の材料とか、なんだろうなあって邪推しちゃうわけですよこっちは。触らぬ神に祟りなしってことで、あまり突っ込まないけどさあ。所々闇が深そうな感じするしね、この世界。
ついこの間なんて全身真っ黒なスーツ着た人――黒服と名乗っていた――が訪ねて来た。
なんでも崇高がどうこう、とか。名刺だけ貰ってお帰りいただいたけど、もしかして僕の体毛が光っているのとかなんか関係あんのかなあ。何故か、僕の髪の毛って切れないしなあ。まとめるの大変なのよね。産毛なんかも薄いからなんとかなっているけど、毛もじゃもじゃだったら全身発光する面白人間になっていたよねこれ。生活に困ったときの最終手段として黒服さんは頼ろうかな。報酬も出るって云っていたし、血抜き取られるぐらいならまあ、許容範囲かなって。
人口の約半数が子供を占めているキヴォトスでは、義務教育として定められている中等部以降も生活の保障がある程度約束されている。それこそ、贅沢をしなければ働かずとも生活を送ることができる程度には。
また、教育のレベルも高水準だ。初等部から一般教養も含めて専門的な知識を学ぶことも可能だし、選択授業によっては資格を取得できるものもある。高等部からは進学した学校が治めている居住区に移り住んで暮らしてもいいし、中等部からエスカレーター式にそのまま高等部に進むケースもある。
あと一年と少し経てば中等部を卒業する僕も、勿論高等部に進学する予定だ。
手元にあるパンフレットを幾つか眺めていく。
ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、百鬼夜行連合学院――。
色鮮やかな風景が切り取られた数々の中から一際目を惹いたのは、百鬼夜行連合学院のパンフレットだった。
大きい、という言葉では足りないほどに重厚な、桃色の花弁を散らせる樹木。軒を連ねる家の屋根には瓦が敷き詰められており、石畳の上を和装姿の生徒たちが歩いている。古い建物ばかりかと思いきや、新しいビルが建設された地区もあり、懐かしさと目新しさが混在した、雑多な雰囲気。そんな印象に拍車を掛けるのが季節ごとに開かれる催しの写真だった。注釈によれば古くから続くものもあれば、ここ数年で開かれた新規のものもある。そもそもの学院の成り立ちが複数の部活や委員会が連合を組んで始まったことから、地域独自の文化やルールへの理解を示すために始めた催しが発端で、定期的に開かれているそうだ。
他の学校のパンフレットに再び視線を移す。
秩序立っているのは、ミレニアムやトリニティだろうか。設立されて新しいミレニアムと、歴史と伝統のあるトリニティ。
前者はともかくとして、後者は個人的に得意じゃなそうなので除外。どうにも、綺麗過ぎるというか整い過ぎていて作り物めいた印象を受ける。生徒を呼び込むためのものなのだから、当然のことではあるのだけれど、入学したら酷く疲れそうだ。これは偏見なのだけれど、お姉さまとか後輩に呼ばせてそうな先輩居そう。百合百合しいというか。あーでも、この文化は百合とは違うんだっけか。シスターに興味は大いにあるけれど、うん、此処はやめておこうかな。
ミレニアムに関しては、無機質なつくりではあるが最も誠実な学園だなって印象を受けた。良くも悪くも取り繕わないし、華美な装飾も好まないように思える。それでいて、少年心をくすぐるような要素がちらほら見受けられるし、都市もとても住み易そうだ。ふむ、候補に入れておこう。
ゲヘナは……論外かな。自由に過ごせそうだけれど、治安が悪いみたいだし。というか、簡単に調べてみた感じ、どうにも内部分裂しているっぽいというか、治める万魔殿と風紀委員会が対立しているそうだし。為政者が好き勝手やっていると下々の人間が苦労するってのは世の常ってね。ただ、退屈はしなさそうだよねゲヘナ。
進学先の第一候補は百鬼夜行連合学院、次点でミレニアムかな。
入学する前のオープンスクールは……ミレニアムはしっかりとスケジュールを出しているな。申請は出しておこう。百鬼夜行の方は近々イベントが開かれるそうだから、そのときにお邪魔しようかな。
さて、学力的には問題はないだろうけれど、勉強は手を抜かないようにしよう。第二候補とはいえ、ミレニアムは気を抜いて入学できるほど甘くはなさそうだ。
僕の名前は
輝かしい未来のために、僕は今日も机に向かって教科書を広げるのだった。