病葉アマヒコはキヴォトス人。   作:ザントマン

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5-5 修正版

 

 キヴォトスにおける戦闘は、おおよそ二種類に分けられる。

 

 生徒相手か、それ以外だ。

 

 前者は面倒というか、不毛というか。できることなら、話し合いで解決したい所存である。

 まずもって硬い、とにかく硬い。

 キヴォトスの住民は個人差があれど、頑丈だ。犬や猫、その他諸々含んだ獣人、オートマタ、ロボットと現存する住民はみな等しく頑丈だが、生徒は輪を掛けて硬い。

 銃をはじめとした弾丸は勿論のこと、手榴弾が被弾しても痛い、あるいは気絶程度で済むのが、この世界における生徒――ヘイローを持った存在である。

 機関銃や迫撃砲を玩具のように振り回せるのは、高い身体能力を有するだけではなく、誤爆した際に耐え得る肉体であることが大きい。

 生徒は頑丈だが、身体の構造は人そのものだ。骨の可動域は決まっているし、関節は逆方向には曲がらない。手首の骨を掴んでしまえば、幾ら動かしたところで外れない。

 と、同時に僕は疑問に思うことがあった。

 

 何故、銃弾が当たって痛い程度で済むのだろう。

 

 だって、そうだろう。

 顔に触れ、肌を押してみても、そこには柔らかい肉の感触があるだけだ。

 どう考えても、音速で飛来する弾丸を弾くような強度があるとは思えない。

 弾丸を弾くのだから、当然、刃物だって通らない筈である。

 しかし、実際は包丁で指を切ったりするし、裁縫で針が指に刺さることもある。

 やろうと思えば、リストカットだって行える。

 考えれば、考えるほどにわからない。ミレニアムの論文を幾つか読んでみても、有力な回答は得られなかった。

 銃弾が肌に直撃した際の衝撃は、何処に受け流されているのか。直撃した瞬間だけ一時的に肌が硬化しているのか。

 

 運動をするときもそうだ。

 

 例として、音の壁に迫ろうかという速度で動く生徒が、ミレニアムに居る。

 

 普段は柔らかい肉の塊である人体でそんな速度を出せば、当たり前だが肉体は傷つく。下手をすると、方向転換の際に筋肉は断裂し、身体がちぎれ飛ぶ。

 元から耐久性に秀でている者も居るだろう。だが、耐久力が高いだけでは硬くなり過ぎて、しなやかさが失われてしまい、動きは阻害される。

 その状態で無理に速度を出そうとすると、硬い肉体は衝撃を受け流せず、内臓や脳に損傷を受ける。

 

 それらをどうやって解消しているのか。

 

 僕が辿り着いた結論は、こうだ。

 

 なんか良い感じに神秘的な力が働いて、欲しい結果が導かれている。

 特に、ヘイローを持った――神秘を身体に宿した生徒という生き物は。

 

 乱暴で、思考停止だと罵られても仕方のない答えだと思う。

 少なくとも、僕は他に納得できる理由が思いつかなかった。

 無論、個人差はあるだろう。運動神経の優劣も。

 

 銃弾や爆弾を食らっても平気な理由。

 ――神秘的な力が働いているから。

 

 音を置き去りにする速度で動いても肉体に負荷がない理由。

 ――神秘的な力が働いているから。

 

 僕の髪の毛が光っていて、切れない理由。

 ――神秘的な力が働いているから。

 

 物理法則だとか、キヴォトスに生まれる前の常識は、此処では通用しない。

 あるがまま、目にしたままが事実だ。神秘万歳と云ったところか。

 

 長々と語ってしまったが、まとめると。

 

 生徒という人の形をしながらも、耐久性も身体能力もその枠から外れている存在を相手取るのは手間なので、敵対は控えましょうというお話だ。

 

 

 

 グリップで顎先を殴りつけ、脳を揺らしたところを足払い、崩れ落ちた相手にヘッドショット。頭部を石畳と銃弾でドリブル(サンドイッチ)

 天狗の面がずれて、化粧が施された目元が露わになった。

 白目を剥いて気絶した生徒を一瞥し、アマヒコは動く。

 

 魑魅一座の面々――残り九人の内、二人がシズコに銃口を向けている。

 

 惚けていた彼女たちではあるが、いつの間にか接近していたシズコの持つショットガンという脅威を前に、自身を取り戻した。

 

 アマヒコの得物は回転式拳銃(リボルバー)だ。古い、されど優美な曲線を描く一品であり、装填数は六発。弾の発射に毎回撃鉄を起こす必要がある上に、弾倉が空になれば、再装填に自動式拳銃とは比べ物にならないほど時間が掛かるため、骨董品扱いされている。

 

 つまるところ、六発撃ち切ってしまえば、しばらくアマヒコは銃を使えないのだ。

 だから簡単には撃たないし、撃つときも、確実に命中させられる状況に限定している。

 

 百鬼夜行の問題児として知られる魑魅一座ではあるが――いや、であるからこそ――場数は踏んでいるようで、狙うべき優先順位を見極めた二人は、シズコへ狙いを定め、銃爪(ひきがね)に指を掛けていた。

 

 間に合わないと判断したアマヒコは、短く息を吸い、即座に音を出した。

 

「――あぁんっ」

 

 状況にそぐわない、艶を帯びた声。

 魑魅一座の二人は、耳朶を震わせるようなそれに、腰の辺りから力が抜けそうになった。

 シズコは動揺しなかった。ひとえに、付き合いの長さ。彼が突拍子もない言動をすることに慣れているか否か。

 それでもなお、なんて声出しているのよ、と文句を云いたげな表情であった。

 生まれた一秒もない空白だが、それを見逃すシズコではない。

 発砲。その場から離脱。銃声。シズコが居た場所を弾丸が通り過ぎていく。

 一人はそのまま、シズコと撃ち合いを始めた。

 ショットガンを持つ者同士、睨み合ったまま走る。弾を再装填。すかさず発砲。

 ドジっ子と称されているシズコだが、単純な身体能力ではアマヒコを上回る。

 周りの人や建物に被害をなるべく出したくないシズコと、そんなものに頓着をしない魑魅一座の彼女。

 一見して後者が有利に思えるが、実際に押しているのはシズコだった。

 左右に揺さぶるようにして、弾を撃ち込む。狙うのは足元。機動力を削ぐ。

 

「ぐあっ!」

 

 怪我はしなくとも、衝撃は受ける。

 苦悶の声を上げる生徒に、シズコは容赦なく追い討ちを食らわせる。胴体に向けて更に一発。

 躱し切れずに――そもそも銃弾は躱すようなものではない――肩に命中して仰け反った彼女に、シズコは肉薄する。

 拳は、握り込まれていた。

 踏み込み、脚から腰、肩から腕にかけて、全身を使って放たれるその拳は――。

 

「食らえ! 看板娘パーンチ!」

「看板娘要素何処にもなっ、ぶべらっ!」

「これからキヴォトス中で云われるようになるのよ! 百夜堂の看板娘は、河和シズコだってね」

 

 お面が、宙を舞った。

 地面に転がる生徒が起き上がることはなかった。

 

「次っ!」

 

 雄々しく吼えるシズコに、行列を作っていた客から拍手が送られた。

 

 舌打ち混じりにショットガンを構え直した生徒に接近し、横合いから銃身を拳銃のグリップで思いっきり殴りつけた。

 速度の乗った一撃に、ショットガンが手から弾き出される。

 

「こなくそぉ!」

 

 後退しつつ、予備の拳銃を抜いた生徒はそのまま銃爪を引いた。

 弾丸が次々とアマヒコに襲い掛かる。横っ飛びで回避。地面に手をついて、身を翻した。

 地面に身体を押しつけんばかりに前傾。加速する。

 

「猿かお前は!」

 

 石畳を滑るように走り、叫びながら銃口を向ける生徒の腕を掴んで射線を変更した。

 銃声が響くと同時、射線上に居た別の生徒に当たる。

 

「きゃあっ」

「ごめん!」

「なにやってんのさ!」

 

 弛緩したやり取りに、周囲の時間が動き出す。

 味方を巻き込まないためか、拳銃に持ち替えた彼女たちは、今度はアマヒコを狙い始める。

 先ほどまでの恐怖を振りまくような哄笑も、(あで)やかさも鳴りを潜め、ただただ不気味に沈黙を保っている姿に、不安が掻き立てられる。

 喜怒哀楽を、お面のようにして次々と取り替えている姿は、己の正体を隠すためにお面を着けた自分たちとはまるで違っていて。

 全てを押し流す感情の奔流を、大波の如き感情(なかみ)を、こちらへと叩きつけて吞み込もうとして来るのだ。

 それに溺れる前に、早く、この輝き(アマヒコ)を消さなくてはならない。

 

 アマヒコが、跳んだ。

 

 足元を狙って炸裂する弾丸を先読みして回避したアマヒコだったが、空中ではいかなる回避行動も意味をなさない。

 空を飛べぬ人の身では、ただ、地面へと落ちるのみ。

 

「いまだ! 撃てぇ!」

 

 四方八方から迫り来る弾丸の雨を避ける術は、ない。

 

 アマヒコは――宙で身を捻ると、身体を独楽のように回転させた。

 

 燐光を零し続ける髪の毛が、遠心力によって傘のように広がった。

 

 弾丸の雨が、全て弾かれた。

 

「はあああああああ!?」

 

 叫んだのは数名だったが、驚愕したのはそれを目にした魑魅一座の総意だった。

 思わず、アマヒコを凝視してしまう。

 よくよく目を凝らして、見てしまった。

 

 視線を全身に受けたアマヒコは、笑う。

 

 いまがただ、楽しくて仕方がないのだと。童のように笑った。

 

 光が散る黒髪を揺らしながら、音を立てずに着地。

 速くはない。目で追えないスピードではない。

 手に持った銃で、地面に落とした重火器で、狙うことは容易だろう。

 なのに、見入っている。

 魅入っている。

 

 いま、銃口を向けられているこのときでさえ。

 

「――BANG」

 

「アマヒコさん! ツバキちゃん、行きましょう!」

「助っ人、登場〜」

 

 倒れている生徒の懐から、無味乾燥な電子音が鳴った。

 

 

 

 水羽さんや春日さんが合流するまでの間、僕は無我夢中で動いていたようで。

 どうにも、その間の記憶というか、意識が曖昧だ。

 お酒を飲んだときの酩酊感に近い。

 そんな状態でも、敵味方の区別はしっかりとつけていたらしく、修行部――未だ、正式な部活ではない――の二人が到着してからは、消化試合だった。

 先読みというレベルではない射撃の腕を見せる水羽さんと、タンクの役割に徹する春日さんのおかげで、河和さんが思う存分動けたというのが大きい。

 

「あんた見てると、ハラハラするんだけど」

 

 囮と撹乱を担当していた僕に対しての、河和さんからの感想がそれだった。

 僕らは、更衣室であらためて身だしなみを整えていた。

 

「お互い衣装も汚れ一つない状態で、無事開店時間に間に合ったんですし、御の字でしょう」

「そうだけど……」

「危なっかしいって自覚はありますけど」

「あるならやめなさいよ」

「でも、まあ――いや、これはいいか」

「ちょっと。途中で云いかけてやめるの、質が悪いんだけど?」

「よく云われます。開店まで三十秒です」

「わかってる! んっ、んん! ……よーし、シズコ頑張っちゃうぞ〜! 行きましょう、アリエ!」

「ええ、お嬢様。私も、頑張っちゃいますよ」

 

 また、この名前を使うことになるとは思わなんだ。

 咳払いをして、声色と表情を接客モードに切り替えた河和さんに倣って、僕もアリエという名を用いて、店員の仮面を被った。

 

 去年、花粉症を患っていたオートマタのおじさんに再会して、世間話に花を咲かせ。

 他所から来た男子生徒をあしらう河和さんを眺めていたら、裏で彼女に脛を蹴られ。

 そんなこんなで午前中の営業を終えた僕は、

 

「――さて、アマヒコさん。なにか申し開きはございますか?」

 

 更衣室で待ち構えていた大和撫子に、詰められていた。

 

 当たり前のように春日さんもおり、テーブルに突っ伏して寝ている。

 瞬きをしたあとに、遅れて入って来た河和さんに視線を送る。

 どうして水羽さんがいらっしゃるんです?

 あんたの客でしょ。それにお世話になったんだから、お礼しないとでしょ。

 アイコンタクトが終わった。

 

「申し開き、というのは」

「身に覚えがない、と。わかりました。では、これを見ても同じことが云えますか。……ツバキちゃん、ちょっとお借りしますね」

 

 春日さんの携帯端末と、自身のそれを取り出した水羽さんは、操作を始めた。

 テーブルの上に並べられた端末の液晶には、それぞれモモトークのアプリ画面が開かれている。

 僕が今朝、二人に送ったときのメッセージが表示されていた。

 モモトークには、音声読み取り機能がある。

 急ぎだったということもあり、口頭で入力した内容だ。

 

『水羽さん。本当、暇で暇でやることがない状況だったら、百夜堂に来て貰えますか? これから不良生徒相手に大立ち回りするんですけど。あ、でも、本当に暇だったら来てください』

『春日さん。助けてください。百夜堂の前で暴れてる生徒が居て、抑えるの僕ともう一人だと厳しいかも知れないので、是非力をお借りしたいんです。今度、ご飯奢るので。お願いします』

 

「これが……?」

「えっ、この内容に不満を覚えている私がおかしいんですか?」

「…………」

「不思議そうな顔しないでください! なんで私に対しては二回も『暇だったら』って、念押しをしているんですか!」

「今日は桜花祭じゃないですか。水羽さんにも予定があるでしょうし、僕なりに気を遣ったつもりなんですが……」

「まったく嬉しくない気遣いです。しかもグループ作っているのに、個別で……内容も……。いいですか? 次からは同じようなことがあったら、ツバキちゃんと同じようにしてください」

「いやあ、でも、水羽さんに悪い……」

「アマヒコさん?」

「あ、はい。次からは水羽さんの都合なんて考えずに、遠慮なく呼びます」

「そこまでは云っていませんが……本当に助けが欲しいときは、是非そうしてください」

 

 よろしい、と水羽さんは満足げに頷いた。

 

「むしろ、特別扱いされてんじゃないのそれ……」

 

 背後でぼそっと河和さんが呟く。うるさいよ、そこ。

 河和さんは、水羽さんの前に立った。

 

「あらためて今日はありがとうございました!」

 

 勢いよく頭を下げる。

 

「個人的な理由ですっごく気合入れていたので、出鼻を挫いて来るあの人たちが許せなくて。せっかく遠くから来てくれているお客さんもいるのに……なんて考えたら居ても立っても居られなくて。アマヒコさんにお願いして、呼びつけてしまって、本当にごめんなさい!」

 

 勝手に僕が呼んだのだけれど、そういうことになったらしい。

 僕も一緒になって頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

 

 感謝と謝罪を前に水羽さんは、笑って首を振った。

 

「とんでもないです。困ったときは助け合いましょう。同じ百鬼夜行の生徒ですから」

「そう云って貰えると助かります。お名前を伺ってもいいですか? 私は河和シズコです」

「水羽ミモリと申します。こちらで寝ているのは……ツバキちゃん、自己紹介できますか?」

 

 そういえば初対面だったかこの子たち、といまさらながら思う。

 肩を揺らす水羽さんの声に春日さんが身じろぎをして、ゆっくり顔を上げた。

 くあ、と欠伸をしつつ目を閉じたまま、小さく呟く。

 

「春日ツバキ……よろし、く……」

「よろしくお願いします!」

「ごめんなさい。ツバキちゃんはその、寝ることが大好きで」

「……個性的で良いと思いますよ?」

 

 言葉を選んだな、河和さん。

 個性という意味では、確かに水羽さんを除いて濃い面子が揃っているかも知れない。

 ああ、云わずもがな、僕もその内の一人だ。類友、類友。

 そのまま自然とお互いの容姿を褒め合ったり、魑魅一座との戦いでの様子を語ったり、三人寄れば姦しいとは、正にこのことである。春日さんは寝ているが。

 

「お茶淹れてきますね」

 

 手持ち無沙汰になった僕は、一言告げて厨房へ向かうことにした。

 マニュアル通りにお茶を淹れていると、店の扉が開く音がした。

 午後の再開時刻にはまだ早く、客の忘れ物もなかった筈だ。

 厨房から顔を出すと、猫の獣人が居た。

 無地ではあるものの上等な着物に身を包み、癖なのか、顎を撫でている。

 百鬼夜行商店街の会長、ニャン天丸氏だった。写真で見たことがある。

 

「いらっしゃいませ、会長。どうされたのでしょうか」

「すまないね。休憩中に顔出して。君は、店員かい?」

「アリエと申します。シズコさんに御用でしょうか」

「ああ。なんでも、魑魅一座が店先で暴れていたそうじゃないか。様子が気になってね。呼んで貰えるかい」

「承知しました。お茶出しましょうか? 丁度淹れていたもので」

「ああ、いや。長居するつもりはないよ。お構いなく」

 

 河和さんにニャン天丸氏が来ていると伝えると、直ぐに飛んで来た。

 二人はそれなりに親交があるらしく、中等部の頃から話題だった河和さんが百夜堂で働けるのは、彼女自身の才覚と、彼の口添えがあったからだそうだ。

 

 老舗である百夜堂は、喫茶店であることは共通しているものの、歴代店主である生徒の手によってコンセプトは異なる。

 一見さんお断りの格式高い店としてやっていた時代もあれば、河和さんのようにドジっ子サービスで売り出すこともある。

 時代に合わせて新メニューの開発はするが、お年寄りに親しまれている茶葉や和菓子のセットは、いまもなお、変わらず百夜堂のメニューに名を連ねている。

 

 ニャン天丸氏と河和さんの会話は短かった。二、三分ほどで彼は出て行った。

 

「なんか云ってました?」

「別に。ただ、売り上げに影響はないかって」

「なんでこの店の売り上げを?」

「私が会長にお金借りてるから。これだけのサービスを提供するための資金調達、この時期に無理なのはあんたもわかるでしょ」

 

 考えてみれば、当然のことである。

 入学して未だ、一ヶ月やそこらしか経っていないのだ。

 

「貸してくれたんですね」

「まあ、私の才能を見抜いたんでしょ」

「実際のところ、問題なさそうですか。返済期限とか」

「問題ないわね。いまはマイナスだけど、夏以降はプラスにする予定だし、そこはある程度余裕を持たせてる」

 

 表情に翳りは見られないし、見栄を張っている様子もない。

 なら、気になるのは、会長の方か。

 

「売り上げの話だけですか? 会長としたの」

「いやに気にするわね。軽い世間話くらいはしたけど……あー、でも」

 

 河和さんは一言、付け加えた。

 

「『困ったことがあれば、直ぐに連絡してくれ。今回のようなことがあったら、必ず』ですって。ぶっきらぼうだけど、良い人よね」

 

 ああ、なるほど。

 

「……わざわざ、念押しかあ」

「念押し? 良いじゃない、減るもんじゃないし。ただ、これ以上お世話になるのもね」

「いやあ、うんと迷惑掛けたらいいんじゃないですか? 僕たち、子供ですし」

 

 向こうはそれを望んでいるし、むしろ迷惑掛けられることが目的だろうから。

 確定したわけではないし、裏取らなきゃいけないけれど。

 杜撰というか、なんというか。もう少し、やる気を見せて欲しい。

 初対面を装うなら、僕を見て、らしい反応をするとかさ。

 

 河和さんと一緒に更衣室に戻り、お茶を並べる。

 午後の再開時刻までこのまま楽しくお話をするのかと思いきや、祭りの食べ物を食べたいと河和さんが云い出した。

 水羽さんや、起きた春日さんも同意のようで、買いに行こうと腰を浮かせる。

 

 二人には迷惑料代わりに、河和さんは午後の英気を養って貰うために、僕が適当に買って来ることにした。

 百夜堂の宣伝も兼ねて歩いて来ますよ、と河和さん自作のプラカードを掲げれば、申し訳なさそうにしていた水羽さんは、引き下がった。

 

 女子会をしましょう、と河和さんが提案し、テーブルの上のお茶菓子を食べている春日さんは、水羽さんの腕を引っ張っている。

 

 僕はそんな光景に、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれながら、お姫様たちへの献上品を探しに行くのだった。

 

 

 

 すっかり打ち解けた三人の話題は、途切れることがなかった。

 入学直後から、百夜堂に掛かり切りで忙しかったシズコ。

 過去の経験から、当たり障りのない交友関係を築いて来たミモリやツバキ。

 不思議と、お互いに自然体で接することができた。

 年頃の少女らしい化粧や、美味しいスイーツの話題。

 百鬼夜行連合学院の生徒となってから、いまに至るまで。

 ときにお菓子をつまみながら、笑いながら。

 そんな普通の、学生らしい時間を過ごしていく。

 話題はまた、今朝の魑魅一座との話に戻って来る。

 お礼に何かしたいとシズコは云った。

 ミモリは首をやはり縦には振らなかったが――不意に思いついたのか、人差し指を立てた。

 

「では、交換条件、いえ、一つお願いがあります」

「交換条件……ですか」

 

 警戒を僅かに滲ませたシズコに、ミモリは微笑んだ。

 

「私の知らない、アマヒコさんのお話を訊かせてください」

「……なるほど。承知しました! 私もお二人の前での彼のお話を訊いても良いですか?」

「はい。勿論です」

 

 気難しいが、近づいてみると中々に愉快なあの男を語るには、時間が足りない。

 そうして、少女たちは嬉々としてモモトークを交換し始めた。

 

 一部始終を眺めていたツバキは思った。

 

 ミモリの物言いが、ますますアマヒコに似て来たな、と――。

 





オリ主「神秘的な力が働いてるからだ」

ツルギ「治った」

オリ主「うーむ」



2023/12/09 追記

見返したら、日本語がやばかったので修正しました。
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