病葉アマヒコはキヴォトス人。   作:ザントマン

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 それを見つけたのは、偶然だった。

 

 大和撫子を目指して修行に打ち込むミモリであっても、息抜きとして動画サイトを開くこともあれば、書店に足を運び、少女漫画を買いに出かける日もある。

 

 奥ゆかしい振る舞いや、言動から勘違いされがちだが、彼女の大和撫子に関する知識の殆どは少女漫画からの受け売りである。加えて、インターネットで得た料理や掃除の知識は、レシピ本、ハウツー本よりも多い。

 

 やんごとなき生まれというわけでもなければ、何処ぞの御曹司に見初められて、花嫁修業に打ち込んでいるなどの背景は一切ない。

 

 初等部で起こった出来事から奮起するきっかけ――あの少女漫画はミモリにとってバイブルであるし、辛いときに何も云わずにただ傍に居てくれただけでなく、その少女漫画に引き合わせてくれたツバキに抱いた感謝の気持ちを、生涯忘れることはないだろう。

 

 つまるところ、ミモリは現代っ子だった。

 

 その日も、洗濯物を畳む際のお供に動画を再生していた現代っ子(ミモリ)は、彼女にしては珍しく、途中で寝入ってしまっていた。

 

 実はここ数日、ミモリは他所の部活を訪れては、部室の掃除といった雑用を一手に引き受けていたのだ。

 経緯は単純で、百鬼夜行自治区での一般的な部活設立に必須となる、他の部活からの保証書を得るために交渉したところ、期間限定の雑用係が欲しいとのことだった。

 

 桜花祭を終えれば、浮ついた雰囲気は徐々に落ち着きを取り戻す。

 張り切っていた部活ほど、地味な片付けは億劫なもの。

 とりあえず、部室に物品を押し込んだだけ、という輩も少なくない。細かな掃除に手を回す余裕も気力もない。

 

 ミモリの存在は、渡りに船であったと云えるだろう。

 

 実績作りの手伝いに付き合わせている手前、アマヒコを頼ることは心苦しかった。

 シズコは知り合って間もないこともあったが、彼女には百夜堂がある。

 ツバキの個性をミモリは愛しく思うが、他の人間がそうであると限らないことを、過去の経験から知っている。

 

 適材適所だとツバキを説き伏せ、ミモリは一人で作業をこなしていた。修行の一環だと思えば、苦ではなかった。

 

 けれども、確実に疲労は溜まっていたようで、ミモリが目を覚ましたとき、時刻は深夜に差し掛かっていた。

 

 手にしていた洗濯物が、しわくちゃになっている。

 感触から察したミモリが思わずため息を吐いていると、暗くなった室内で、木々が風で揺らめく音を耳にした。

 見渡すと、直ぐにそれは見つかった。

 携帯端末が転がっている。液晶から漏れた光が床を照らしていた。

 拾い上げると、動画が再生されていた。

 ランダム再生の設定にしていたから、先ほどの音はこの動画からだろう。

 画面には、森と川のぼんやりとした輪郭を捉えた映像が映っていた。

 動画のタイトルを見てみる。

 

『神秘的な蛍の舞』

 

 動画の中で、点々とした光が現れては消えて、また現れる。川のせせらぎと、虫の鳴き声をバックミュージックに蛍が舞う。数は少なく、動画もまた、短かった。再生数も少ない。タイトルの割には、と思う者が大半だろう。

 

 しかし、ミモリの中で湧き上がるものもあった。

 

「蛍……見たことない」

 

 ミモリは生で蛍を見たことがない。

 というよりも、蛍を見たいなんて欲求を抱いたことがなかった。

 知識として蛍という存在は知っていても、いまのいままで、この動画を目にするまで、思い出すことすらなかった。

 

 ミモリの中で、蛍を見てみたいという欲求が急速に膨れ上がった。

 

 深夜テンション、と云われてしまえばそれまでだろう。ほんの少し間を置けば、別の動画を開いて、蛍が作り出すもっと幻想的な光景を観て、いっときの満足を得ていた筈だ。

 やがて日々の出来事に埋没して、蛍を見たがった記憶は彼方へと追いやられていたことだろう。

 だが、このときのミモリは勢いで行動した。

 温厚なミモリであっても、ストレスは溜まる。

 それを発散する機会を逃してはならない。そう、本能が命令を下した。

 検索エンジンで「蛍 見られる場所」と打ち込むと、目ぼしい場所を探し始めたのだった。

 

 ある程度、検索を終え、候補を幾つか絞り込むも、中々良い場所が見つからない。

 蛍を見るだけなら、有名どころは幾つもある。

 それこそ、百鬼夜行自治区の畜産区域へ行けば、きっと見られる。

 誘うなら、ツバキやアマヒコ、シズコの三人だ。

 三人が、良い。

 シズコともっと仲良くなりたいし、ツバキとの思い出は幾つあったって良い。

 アマヒコ……彼とも――。

 

 単語を変えながら、検索を続ける。

 

 それを見つけたのは、偶然だった。

 

 一枚の写真が目に飛び込んで来た。

 

 SNSに投稿されたそれは、空の色から夕方頃に撮られたものだと思われた。

 全体は暗く染まっており、背景に民家が二つほど建っていることと、木がはっきりと二本確認できるが、正確な本数はわからない。民家と田園を挟んで撮影者は立っている。

 

 写真の中心には、光の軌跡を描いている蛍の姿があった。

 

 ミモリは、此処だと直観した。

 

 写真と共に載せられた地名は、先の候補一覧にはないものだった。

 

 

 

 ヘタとガクを取った茄子の皮を、ピーラーで縦縞に剥く。ひと口大にカットしたのち、フライパンに入れて油を回す。このとき、皮目が下を向くようにしておく。強火で焼き色をつけたら、裏返して中火に。箸で転がして全面に油をコーティングしたら、あとは極力触らないようにする。茄子が油を吸い切っても、注ぎ足してはならない。

 

 茄子に火を通している間に、たれを作る。すりおろし生姜、砂糖、酒、みりん、醤油を混ぜ合わせる。その内、茄子から甘い香りと、余分な油や水分が出始める。これを知らないと油を足してしまい、仕上がりがべちゃつく原因になる。たれを加え、フライパン全体を揺すりながら全体に絡めていく。

 

 容器に移してごまを振れば、茄子の照り焼きの完成だ。粗熱が取れるまで、蓋は閉じない。しばらく放置だ。

 

 続いて、おにぎりを握っていく。大きさの目安はやはりひと口サイズ。まずは、小鉢にラップを敷く。そこに刻んだ梅干しと酢を混ぜた白米をよそったら、ラップの端を持ち上げて捻るだけ。あっという間に一つできた。色合いが寂しい気がしたので、冷蔵庫を開けて目ぼしいものがないかと探していると、わけぎがあった。風味も生まれるし、丁度良い。小口切りにしてトッピングすることにした。わけぎ、ご飯の順に入れて形を整えながら、真ん丸のおにぎりを量産していく。

 

 握るというよりは、捻ったあとに手のひらで転がしているだけなので、おひねり、もしくは、おころがしだろうか……だなんて、無益なことを考える余裕すらある。

 

 おひねり――お金代わりの差し入れとして考えれば、あながち間違いではないのだろうか。

 

 おころがし――ころがし。容器にご飯を入れて転がす、つまり遠心力で作るおにぎりもあるのだから、これもまた間違いではないかも知れない。

 

 くすり、と笑みが零れた。

 

 ふと、彼が雑談の中で口にした鮎のころがし釣りを思い出したからだった。

 

 ミレニアムの偏った研究論文を読み漁る彼なら、こんな他愛のない話に対しても、違った感想を抱くのだろうか。

 あるいは、まとめておむすびと呼びましょうとやんわり両断するだろうか。

 

 お弁当の準備を終える頃には、待ち合わせの一時間前となっていた。

 

 昨晩に荷物は準備してある。修学旅行のしおりといった簡単にまとめられた冊子をめくって、スケジュールの確認や、持ち物欄にチェックをつけることが好きだったから、そんな時間も楽しかった。

 

 着替えて、化粧、身嗜みのチェックとその他諸々込みで間に合うか、ぎりぎりといったところ。料理は手抜きができたとしても、こればかりは気を抜くわけにはいかない。

 されど、時間は有限だ。集合してから乗り込む電車の時間には余裕を持たせてあるとはいえ、走って汗ばんだ身体で人に会うことは避けたかった。

 此処からはスピードと、何処まで妥協を許せるかの勝負になる。最悪、駅のトイレで……とも考えたが、それこそ妥協ラインを低空飛行だ。

 

 いつだって、誰にだって、女は綺麗に見られたい生き物なのだ。

 

 エプロンを脱いで、冷蔵庫の横に掛ける。料理をしない日はあっても、目にしない日はない桜色のエプロン。背は伸びた。いまはもう、裾を引き摺ることはない。しかし、このエプロンが似合う大和撫子に自分は近づけているのか。

 

 それはわからないけれど、なんとなく思った。

 

 今日はきっと、良い日になる。

 

 

 

 蛍の観賞に適した時期は、蛍の種類にもよるが、五月下旬から七月にかけてがピークだ。

 まだまだ本格的な夏の到来は先とはいえ、暦の上では夏至である。

 日の出から、日の入りまでがもっとも長い日――。

 ミモリは、キャリーケースを引きながら、川沿いの道を歩いていた。

 眼下を流れているのは、小熊猫川。

 流れの緩いその川は、レッサーパンダを象っているわけでもなく、至って普通の川だった。

 土手にある魚釣り禁止と書かれている立て看板には、幾つか弾痕が空いている。河原には煙を吹いているスクーターが一台あった。搭乗者の姿は見受けられない。

 川の真ん中で、大きな水柱が立ち上がった。

 誰かが川に落ちたようだ。派手な格好の生徒が浮かんでいる。

 物干し竿の移動販売車が、川向かいに見えた。どれでも二本で千円と吹聴しているが、切ったあとに法外な値段を請求するといったトラブルは絶えない。

 ミモリは南へ向かっている。住宅街、商店街、駅……とそれなりに距離がある。

 道路を挟んだ分かれ道の辺りで、キャリーケースに座りながら、眠っている幼馴染の姿があった。

 

「ツバキちゃーん!」

 

 弾んだ声色で呼び掛けられたツバキは、薄くまぶたを開けると欠伸を一つ。

 そうして、首を傾げた。

 

「おはよ、ミモリ。テンション高いね?」

「昨日の夜から楽しみで仕方なくて」

 

 ミモリが笑顔で告げると、ツバキは唇をそっと綻ばせた。

 

「そっか。ミモリが楽しそうなら、私はなんでもいいかな。でも、いまからそのテンションで大丈夫?」

「ふふ、列車で仮眠も取れますから。ツバキちゃんだって、蛍見たことないですよね? 今日は見られると良いんですが……シズコちゃん、残念でしたね」

「ん〜……しょうがないよ」

 

「私のことは気にせず、楽しんで来なさい」とは彼女の言だ。

 夏に向けて、百夜堂の新メニュー開発に専念したいとのことで、シズコは参加を見送る形になった。

 お土産や写真を沢山持ち帰ろうと決意を強めるミモリと、変わらず眠りこけるツバキは、駅へ続く通りに入っていく。

 

 後方で派手な爆発音が鳴り響いたり、そう距離が離れていないのにもかかわらず、物干し竿の販売アナウンスが聞こえなくなったり、川で派手な水飛沫が上がっていたが、ツバキは当然として、ミモリまでもが意に介さなかった。

 

 此処はキヴォトス。銃弾が当たり前のように飛び交う、学園都市である。

 しかしながら、周囲への気配りを欠かさないミモリが、一瞥すらしない事態――。

 

「ふんふんふふーん」

 

 なんてことはない。

 ツバキが指摘した通り、ミモリは純粋に浮かれていただけのことだった。

 

 

 

 ミモリがツバキを伴って駅前に着くと、軽い人だかりができていた。

 人々が遠巻きに視線を送る先には、見知った人物が居る。

 艶めいた美貌、すらりと伸びた姿勢。それだけでも目を惹くには充分過ぎるほど。極めつけは、手入れが隅々まで行き届いた長く伸びた黒髪から、鱗粉のように絶え間なく光を零し続けていることだ。

 ミモリたちに気づいたアマヒコは、涼しげに微笑んだ。

 

「おはようございます」

「おはようございます、アマヒコさん」

「おはよ〜」

「今日はよろしくお願いします。蛍見るのは僕も初めてなので、楽しみですね」

「見られるかはどうか、運次第なのは大変申し訳ないですが……」

「そればっかりは、仕方ないでしょうね」

「熱い……」

「全員揃いましたし、一旦、駅入ります?」

「そうしましょう」

 

 駅の構内に入った三人は、電車が訪れるまでの間、雑談で時間を潰すことにした。

 会話の口火を切ったのは、アマヒコからだった。

 

「ところで今回、何処に行くんです? 云われていた通り、一泊分の荷物は準備してますが。春日さんは知ってます?」

「ううん。ミモリに全部任せてるから」

「さいですか。蛍って綺麗な川があるところに出るんですよね。百鬼夜行なら幾らでもありそうですけど、いまがシーズンだから混んでますかね」

「いえ、実は偶々見つけたところで、有名な蛍の群生地というわけではないんです」

「そうなんだ」

「はい。話題になっているスポットは、蛍の養殖放流を行っていることが殆どなので、きっと綺麗な光景が見られるんでしょうけれど……今回は、人が多いところは控えたくて」

「うん。私も静かな方が好きかな」

「良いですね、ゆったり過ごせそうじゃないですか」

 

 おそるおそる口にするミモリに、ツバキとアマヒコは揃って頷く。

 

「良かった……。蛍を見に行くにあたって、簡単な注意事項を説明しても大丈夫ですか?」

 

 ツバキとアマヒコは再び揃って頷いた。

 

 ミモリは、指を三本立てた。

 一本目の指を折る。

 

「まず、当たり前ですが、蛍は昆虫です。虫除けスプレーの使用は禁止です」

「それはそう」

「当然ですね」

 

 二本目の指を折る。

 

「次に、大きな声や、物音を立てるのも禁止です。蛍がびっくりしてしまいます」

「それはそう」

「当然ですね」

 

 最後に、残った指を折る。

 

「そして、蛍は強い光を嫌います。ライトで照らしたり、カメラのフラッシュは禁止で……す……」

 

 ミモリの、言葉尻が消えていく。

 

「それはそう。……あれ?」

 

 ツバキが、アマヒコを見た。

 

「当然ですね。……ところで、身体的ハンディキャップを背負っている者はどうしたらいいでしょうか」

 

 アマヒコは、自身を指した。

 

 げに恐ろしきは、慣れである。

 かつて、燐光を散らす髪に目を白黒させていたことは、とうに記憶から消えていた。

 それだけ、アマヒコの存在が馴染んだと云えば聞こえは良いが、今回の小旅行を提案したのはミモリである。

 

 料理に使う砂糖と塩を間違えてしまったときのような、ばつの悪さがあった。

 ミモリには気負ったときに、初歩的な見落としをすることが度々あった。

 本人は短所と恥じてはいたが、周りは彼女の親しみ易い一面として受け取っていた。

 

 萎縮するミモリに、アマヒコは微苦笑を浮かべる。

 

「……なんて。大丈夫ですよ。髪をまとめるヘアクリップは持って来ていますから。帽子もありますし。それよりも――」

 

 アマヒコがツバキ、次いでミモリを見た。

 

「よくお似合いですね。二人とも」

 

 ツバキは白のノースリーブトップスに、ブルーデニムのオーバーオールを組み合わせたコーディネートだ。

 差し色として、赤のカーディガンを羽織っている。

 すっきりまとまっていて、スタイルの良さが際立った格好だ。

 幼馴染の贔屓目を抜きにしても、レベルが高いと思う。本人は着飾ることにあまり興味がないから、普段はそうした点は目立たないけれど、こうして褒められていると、我が事のように嬉しい。

 

 ミモリは繊細な花柄のレースが施された、透け感のあるオレンジの――実際は杏色に近い――プルオーバーシャツに、ネイビーのワイドパンツを合わせた格好だ。

 いつものようにスカートを履いて来るつもりだったが、直前でパンツに変えた。

 理由らしい理由は特になかったが、不評ではないようだ。

 そっと、胸を撫で下ろす。

 

 不意に、ツバキがアマヒコに短く耳打ちをした。

 アマヒコは微苦笑をしつつ、あらためてミモリの姿を認めると、口を開いた。

 

「上品なトップスに対してスカートで甘やかにせず、ワイドパンツでまとめてあるので、水羽さんの清楚さが増しているというか……勿論、ロングスカートなんかも、似合うんですけど、だからこそ、新鮮というか。うん、歳上の綺麗なお姉さんに見えます。正直……めちゃくちゃ僕好みです、その恰好」

 

 ミモリは、親指を立てているツバキに向き直った。

 

「ツバキちゃん!」

「私もびっくりしてるよ。満点〜」

「わーい、やったぞー。割と普段から褒めてると思うんですけど」

「……殿方からお出かけの服装を褒められるというのは、勝手が違うんです」

「格好だけじゃなくて、ミモリ込みで褒めているところがポイント高い。手慣れている。……多分過去に女を泣かせている」

「満点なのに、この云われよう」

「もしかして、昔の女にも同じこと云ってた?」

「昔の女て。云ってないです」

「アマヒコさん……嘘ですよね……?」

「云ってないですよ、水羽さん!」

「前から思ってたけど、照れずに褒めるの可愛げないよ?」

「そんなこと云われてもなあ。僕も手入れに時間掛けてる分、褒められたら嬉しいものなんですよ。髪の毛とか」

女の子目線(わたしたちがわ)なんですね……」

「面倒な気持ちがないわけではないんですが、いざやってみると楽しいですし。似合います?」

「とても、似合ってます」

「お二人に恥をかかせずに済みそうで、安心しました」

 

 アマヒコは、黒のノースリーブをカーキのウエストリボンパンツ――リボンは外している――にインしただけの格好だったが、それだけで完成されていた。

 

 ミモリたちが入ったときは、人がまばらだった構内も、段々と混雑して来た。

 人を避けて場所を移しながらも、会話が途切れることは不思議となかった。

 雑談の最中、ツバキがずっと起きていたことが大きかったのだろうとミモリは思う。

 

「あの修行飯って、喜んで食べてたって云ってなかった?」

「僕の主食そんな呼ばれ方してるのか……。あれもまあ、色々試した結果なんですけどね」

「あのご飯見てると、男の子? って感じする。変に細かいところあるのに、ずぼらなところは、とことんずぼらだよね」

「や、結局好きなものばかり食べてると腸が荒れて、肌も荒れるんですよ。肌の水分量だって、女性と比べると圧倒的に少ないですし」

「整腸剤や、ビタミン剤なんかは試してみました?」

「錠剤もなー、体質に合わないと腸に悪いので」

「色々気にし過ぎなんじゃないかな。寝よう? 過敏性腸症候群になっちゃう。自律神経の乱れは、腸の乱れ、だよ」

「春日さんって睡眠に関連した知識、僕より抑えてますよね」

「睡眠を舐めたら――死ぬよ」

「これが……修行部……!」

 

 楽しそうな二人に、自然と唇が弧を描いた。

 

 この時間もまた、小さくない幸福をもたらしてくれるが、まだ、始まってすらいないのだ。

 電光掲示板とアナウンスが、電車の到着を知らせる。

 この次に停車するのが、ミモリたちが乗る車両だ。

 

「そろそろですよ。ツバキちゃん、アマヒコさん」

 

 改札を抜ける。

 

 ミモリたちの旅行が、幕を開けた。

 





今年最後の投稿になります。

皆様、良いお年を。
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