どうも、能力が「解説系動画」とかいうゴミみたいなアカシックレコード持ちのパンピーです。
厳しい世界に秒で死ぬモブとして転生しました。余命があと数日しかないです。
対策なんて何にもしてません。ってか、出来ません。
詰みです。現状整理終了。お疲れ様でした。
『まだ詰みじゃないぞ。生きようとする限り、チャンスはいくらでもあるもんだ』
「1432円になります。…ちょうどですね。お預かりしまーす。
…こちらレシートでーす。ありがとうございましたー」
そんな毒にも薬にもならん言葉よりも解説をしてくれ。解説する能力だろ、お前。
そんなことを思いつつ、俺は今日も今日とてバイトに励む。
誰だ、コンビニは災害時でもやってにゃならんとか定めたやつ。
今日、台風直撃してるんだぞ。
店長も店長だ。こんな日に来いって、正気じゃねぇよ。店の利益が人の命より重いとか本気で思ってる声音してたもん。
こんな時に来る客も客だ。いくら車あるからって来んな。台風来るってわかってたろ。事前に買い溜めとけや。
『そんな文句ばかりのダメダメコンビニバイトのアサヒのために、現在、訪れている客について解説していくぞ』
「らっしゃっせー」
需要のない解説すんな。
バイト中ってことには目を瞑るから、まずは俺が助かる確率について解説しろクソボケ。
そんなことを思いつつ、俺は並ぶ客を捌いていく。
台風の日にわざわざタバコとか酒とか買いに来んな。あらかじめ買っとけタコ。
並ぶ客のカゴのラインナップにため息が出そうになるが、なんとか堪える。
「ありがとうございましたー」
かれこれ7組ほどの客を捌き終えると、俺はレジから外れようと、身を翻す。
と。そのタイミングに合わせてか、一つ10円かそこらの駄菓子が、いくつか置かれた。
「らっしゃーせ…」
「………」
タイミングが悪い。
そんな文句を浮かべながら視線を向け、俺は息を呑んだ。
駄菓子を置いたのは、死んだ顔の少女。
今世の俺よりも年下だろうか。
ハイライトのない、桜色の瞳。
あまり手入れのされてない茶髪。
荒れていて痒そうな、がさがさの肌。
ずぶ濡れになった服からは、アザまみれの体が覗く。
どう考えても事案である。
…ヘイ、解説さん!この子について解説!!
『そんなSi○iみたいに言うんじゃない。
…まあ、仕方ない。無知なお前のために解説してやろう。
その子の名前は萩原 つかさ。
作中最初の「ナイト」の核になる少女だ』
「へぁっ!?」
「ひっ…!?」
「あ、すみません…。ちょっと、びっくりして…」
俺の声に驚き、縮こまってしまった彼女を宥め、俺は駄菓子を手にとる。
…ナイトの核ってなに?初耳なんだけど。
バーコードリーダーが不調のフリをして引き延ばしながら、俺は解説さんに問いかける。
と。解説さんは『細かい解説を忘れていたな』と前置きして答えた。
『実は「ナイト」という異世界は、能力を持つ少年少女が、その能力に全てを委ねた時に発生する現象なんだ。
これが判明するのは、第3巻の268ページ。
主人公の親友、赤松 エミがナイトの核に成り果ててしまった時だな』
地獄かな?…いや、地獄だったわ。
対処法とかはないのだろうか。そこんところも解説してくれ。
『あるにはある。殺してしまうか、能力に完全に食い尽くされて死ぬのを待つか、説得して助け出すかだが…。
ナイトの核になった人間を助け出せる可能性は、限りなくゼロに近い。
作中では、12巻で核になった主人公…アイリを、その幼馴染が世界一恥ずかしい告白をして助け出した一例しか存在していないぞ』
「あー、す、すみません。ちょっと、機械の調子が悪いみたいで…」
「………」
思考力が持ってかれそうになるが、有益な情報を手に入れた。
俺は少女に言い訳しながら、浮上してきた「能力持ってるのが条件なら、俺も例外じゃないんじゃね?」という疑問を、解説さんにぶつける。
『お前は大丈夫だな。能力自体が拒否したら、ナイトになることはない。
私の場合、お前の心中するなんて死んでもゴメンだからやらない』
俺だって嫌だわ。
…ってか、どのみち心中することにはなるだろ。俺の能力なんだぞ、お前。
「……あの、大丈夫、ですか?」
「………あっ!?ああ、ごめんなさい…。
その、かなり調子が悪いみたいで…」
…しまった。また意識が「解説される側」に持っていかれてた。
おのれ、解説系動画め。
人をところ構わずアホキャラにして、カンフル剤にするんじゃない。
…意識を解説系動画から、この子に戻そう。
兎にも角にも、生き残るチャンスが舞い込んできたのだ。
この機会を逃すわけにはいかない。
俺は先ほどまでの不調が嘘だと思われないよう、なるべく時間をかけて駄菓子をリーダーに通した。
「お待たせして申し訳ございません。
合計、92円になります」
「あの、これで…」
「お預かりします」
こと、と置かれたのは、100円玉。
ずっと握りしめていたのだろう。軽く握ると、人肌程度の温もりを感じる。
俺は機械の中に100円玉を放り込むと、そこからお釣りとして出てきた8円を手に取り、彼女に渡す。
「8円のお返しです。
…ところで、ここまでは歩いていらしたのですか?」
「…は、はい……」
「そうですか…。よく無事で…。
…この中を歩いて帰るのは危険ですし、従業員が使っている休憩スペースに案内いたします。どうぞ」
「あ、あぇ…?え、えとっ…。はい……」
イートインのスペースはダメだ。
窓に面してるから、この子に危害を加えているであろう存在にバレかねん。
俺は従業員が使う休憩スペースへと案内し、彼女を座らせた。
「あ、あの…、いいんですか…?」
「大丈夫ですよ。……その、アザが…」
「えぁ、あぁっ…!?
お、お願いです…っ!警察を呼ばないでください…!
また、お母さんに怒られちゃう……!」
予想通り、やんごとない事情のある子だったらしい。
まあ、見るからにガリガリだもんな。
そんなことを思いつつ、俺は自分の間食用に買っていたカップのコンポタの封を開け、お湯を注ぐ。
「はい、どうぞ」
「え…?」
「まずは落ち着きましょう。
その、コンビニバイトなんで、話を聞くとかも出来ませんし、こんなもんしか出せませんけど…」
これぞ秘技、「お腹ぺこぺこなところにあったかいスープを渡して好感度めちゃくそアップ大作戦」である。
ラノベの主人公が食事もままならん立場の子にこぞって使う手段で、成功率も高め。
これが失敗したら、もう知らん。
俺の運命は終わったものと思うことにする。
…ところで解説さん。今んとこ、お手つきはない?
『大丈夫だ。ついでに警察も呼んでおくことをおすすめするぞ。
この子がナイトの核になった決め手は、男と酒と薬に溺れた母親に殺されかけて、「逃げたい」と強く願い、能力がそれに答えてしまったからだ。
問題の塊である母親が捕まれば、彼女を取り巻く環境は少しはマシになるだろうな。
ちなみに、本来なら台風の中放り出されてコンビニに着いたけど、汚いからって追い返されてるぞ』
マジかよ。そんな現代社会の闇全部乗せみたいな環境で生きてきたの、この子?
それで周囲の人ごと心中をかますわけだろ?
救いようがなさすぎる。
能力が1ミリも関わってこない闇って言うのが、余計に悲惨だ。
何はともあれ、まずは解説さんの言うとおり、警察を呼んでおこう。
台風の中、子供を外に放り出すような親だ。
その時点でレッドカード。一発アウト判定だろう。
今まではこの世界の民度の低さに救われて、なんとか煙に巻いてたのかもしれないが、俺と解説さんに目をつけられたのが運の尽きだったな。
名前も顔も知らんクソババアよ。俺が生き残るため、塀の向こうに行ってくれ。
そんなことを思いつつ、俺は「ちょっと待っててくださいね」と言い、その場を去る。
『まぁ、こんなことしても彼女の鬱屈とした内面は治らんし、焼石に水なんだけどな。
好感度を稼いでも、取り返しがつかんくらい病んでるぞ』
どんな人生送って来たんだよ、この子。
少年少女に厳しい世界観だからって、なにもこんな生々しい意味で厳しくしなくてもいいだろ。
そんなことを思いつつ、俺は店の利益しか頭にないクソジジイ…もとい店長に向けて声を張り上げた。
「店長ー!ちょっといっすかー!?」
『ここから店長が取るであろうクソみてぇな判断について解説するぞ』
そんなもん解説すんな。
店長…よく言えば利益第一、悪く言えば人命軽視な、よくいる嫌なコンビニの店長。事なかれ主義な上、あからさまに面倒なモンはとっとと追い払うというクソっぷり。アサヒの心中でよくこき下ろされてる。バイトたちに密かに「クソハゲ」やら「バカデブ」やら、蔑称で呼ばれてることを気にしている。
萩原 つかさ…原作一巻冒頭で悲惨な最期が確定してた子。地獄漬けの日々を送っていたので、懐柔するのは至難の業。アサヒの心遣いに「なんの理由もなく、親切にされるわけがない」と警戒してる。
鹿室 アサヒ…バイト中でも解説さんに振り回されてる。舞い込んできた生き残りチャンスを掴もうと必死。
解説さん…たまに感度が退魔忍みたく敏感になるクソセンサー持ち。