俺の能力、「解説系動画」だった   作:鳩胸な鴨

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この主人公、口悪いな。


お前はそんなことが気になるのか?

結論から言おう。警察が来るまで、俺が面倒を見ることになった。

心をコンビニ経営に売り飛ばしたクソハゲ店長からは、「余計な仕事増やすな」と、道徳倫理が側溝にポイされたお小言をもらった。

何が余計な仕事じゃバカデブ。

テメェが台風の中、学生使ってせっせこ稼いでるチンケな売り上げよりも、はるかに価値ある命がかかってんだぞハゲ。

植毛手術費用も賄えん程度の売り上げに執着すんな。いくらか知らんけど。

 

『そんなことが気になるのか?

仕方ない。私が植毛手術について解説してやろう』

 

すんな。今世も前世も天パが目立つくらいには生えてるわ。

どうでもいいことに反応する能力に辟易しながら、俺は向かい側に座り、コンポタを啜る彼女にちらちらと視線を向ける。

ハンパなく気まずい。

前世も今世も童貞且つ男子校通いの俺には、ハードルが高すぎる。

なんと話を切り出せばいいのか、さっぱりわからん。

しかも、こう言う時に限って解説さんは仕事をしない。

植毛についてじゃなくて、闇の深い女の子に声をかける方法を解説してくれよ。

彼女を目を見ろ。完全に懐疑を含んだ目だぞ、アレ。

俺が悶々と悩んでいると、コンポタを机に置いた彼女が切り出した。

 

「……何が目的なんですか?」

「はい?」

「…私をここに入れて、店長さんに怒られるの、わかっていたんですよね?

その時のあなたは…、なんというか、『面倒臭い』って顔してました。

それなのに、私に優しくする理由がわかりません」

 

解説さん、なんて答えるのが正解?

変に理由がないとか答えたら、余計に悪化しそうなんだけども。

 

『アサヒにしては賢い選択だな。

これは設定資料集147ページの記載からの抜粋だが、彼女は他人からの親切に無縁な人生を送って来たせいで、無償の愛というものが信じられない…、もとい理解できないんだ。

だから、何か「親切の理由」を答えるといいぞ』

「……ちょっと、仕事サボりたくて。

台風なのに、タバコやら酒やらを買いにくる頭の弱い客のせいで忙しいし。

それで、明らか訳ありそうな貴女をここに呼んだ…って、わけです」

「…口悪いですね、あなた」

「あ、あはは…」

 

めちゃくちゃ苦しい言い訳だったけど、信じてくれたみたいだ。

さっきより表情が柔らかくなったような気がする。

どこまで踏み込んでいいかはわからないが、なんとかしてこの場で彼女を踏みとどまらせる必要がある。

ちくしょう。今世も前世も、カウンセラーの資格なんて持ってないんだぞ。

爆発寸前の爆弾抱えた初対面の女を慰めるとか、出来るわけがない。

 

『出来ないじゃない。やるしかないんだ。

やらなきゃ死ぬぞ。ゲイザーに頭から「ガブッ!ゴリっ、ゴリッ!グチャァアッ!」…っていかれるぞ』

 

俺の死に様を解説すんな!どうカウンセリングすりゃいいかだけ解説しろ!

眼前に現れたグロ画像を前に、俺は強張りかけた表情筋を必死に押さえ込む。

これ、食われてんの俺か。俺だな!この制服俺のだわ!せめてモザイクかけろ!

そんなことを思っていると、彼女の声が響いた。

 

「…私になにか聞いたりしないんですね。

スマホもいじらず、ぼーっとしてるばかりで」

「あっ…?あ、ああ…、はい」

「そうですか…」

 

選択を間違えてはいないか。

解説さんに問うても、『いや、私は解説するだけで、生きてる人の心はわからんし』と返された。

絶妙に不便。流石クソ能力。

 

「…ここに来たの、お腹が空いたからとかじゃないんです」

「いや、辛かったら話さなくても…」

「私を利用してサボってる悪い店員さんに、ちょっと愚痴を吐きたくなったんです」

 

これは、成功だったりするのだろうか。

いや、まだ身の上を話してくれる段階なのだ。油断するな。

そんなことを思いつつ、俺はできるだけ平静を装った。

 

「……私、お母さんに言われて、お酒を盗みに来たんです。

店員さんがすごく見てくるから、誤魔化すために駄菓子を買っちゃいましたけど」

 

要するに、万引きしに来たと。

わざわざ自分で言う必要があるのだろうか。

俺が疑問に思っていると、解説さんの声が響いた。

 

『お前を試しているんだろ。

弱みを握った途端に本性出して好き勝手しないか、確認を取ってるだけだと思うぞ』

 

そんな薄い本みたいなことはしない。

男子校通いのチェリーボーイなめんな。そんな発想、あっても実行せんわ。

 

「えーっと…。考えてただけで未遂でもなさそうだし、店長には言わないでおきます」

「条件はなんですか?」

「えぇ…?」

 

条件とか言ってきた。疑り深いな、この子。

俺はしばし考えたのち、軽く腰を上げた。

 

「じゃ、今から肉まんとあったかい茶買ってくるんで、それ食ってください。

女の子が食べるシーンが好きなので」

「…………は?」

 

何故に素直に親切を受け止められないのだろうか。どんな地獄で育ってんだ、この子。

そんなことを思いつつ、俺は休憩室を後にした。

 

『では、アサヒの疑問に答えるべく、萩原 つかさの家庭環境について解説していくぞ。

彼女の家庭環境は悲惨も悲惨、母子家庭、ネグレクト、DV、酒、タバコ、薬、新興宗教、この世の地獄のオンパレードだ。

しかも、見窄らしい見た目が祟って、小中といじめられ、現在は日雇いのバイトすらできず、母親のストレスの捌け口になってるな』

 

ごめん、思った5倍くらい地獄だったわ。

…え?こんな環境で育った女の子のメンタルをケアしなきゃ死ぬんですか、俺?

 

『100パー死ぬぞ。主人公が来るの、つかさがナイトの核になってからだぞ』

 

絶望的な状況の解説ありがとう。

ほんっと役に立つのか立たねぇのかわかんねぇなお前。

そんなことを思いつつ、俺は破裂寸前のニキビみたいに顔を赤黒くしたクソハゲに、小銭を広げ、肉まんを頼んだ。




萩原 つかさ…明らかに理由のない親切を前に困惑。アサヒのことが気になり出した。

鹿室 アサヒ…役に立つのか立たないのかよくわからん能力と、明らかにハズレな店長にストレスマックス。
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