ありえんくらい難産でした。
殺せんせーが来てから1週間が経つ頃。
登下校がすっかり習慣化した徹は、
(……憂鬱だ。非常に居心地が悪い)
とてつもなくげんなりしていた。
その原因は明らかである。
──烏間さんに監視されてるからだ。
あの猛禽類みたいな目で、校舎にいる時に後ろからジッと見られてみろ、神経擦り減るわ。
◆◇◆
烏間さんは、過去所属していた軍の中でも精鋭中の精鋭、それも特技に戦闘技術全般を挙げる、れっきとした化け物だ。……初めて見た時、ぎょっとしたよ。なんせあの人、見た感じ
……なんだよあの
この前もサシですれ違った時、
「良い鍛え方をしているな。そのまま精進するといい」って言われたよチクショー。見透かされてる感がハンパじゃない。
(実際見透かされてるんだろうな……そもそもこの時期に転入して来た奴は、
◆◇◆
「──さて、今日から体育を受け持たせてもらう、烏間だ。改めてよろしく頼む。……早速だが本日学んでもらうのは、君達が扱う武器……それの正しい使い方だ」
そう言って新しい体育教師は、対せんせー用の特殊ナイフを取り出してみせた。
「勿論、君達はこう言った武器の類について、心得が無い事は承知している……なので、先ずはナイフの振り方からしっかりと覚えて貰う。よく見ておけ」
そう言って彼は、ナイフを振り始める。初めは遅く、徐々にスピードを上げ、今度は落とす。これを繰り返す。前方八方向を刃が正確に、どのルートをなぞるのが良いのか教えてくれる。そして、それがしっかりと出来ればどう見えるかまで、丁寧に、確実に。
「……よし、こんなものか。今見せたナイフの軌道を頭に叩き込め。これを基本として、俺の合図と共に振ってみるんだ。……安心しろ。最初は覚えるのも兼ねてゆっくりにだ。ここでしっかりとモノにしてから、徐々にスピードを上げていこう」
(おお、あのタコと比べるのも烏滸がましい程、しっかりとした内容だ。……それに俺自身、呪具を含めて武器をまともに使った経験がないだけに、これは……)
術師をやると決めた時、まずは徒手空拳をハイレベルで修めた上でと考えていた。だが、そろそろ手札を増やす事を考えていたのも事実。ここまで本格的なナイフ術を学べる機会はそうそう無いと、徹は判断した。
(……これを機に本腰入れてみるか)
そこそこで済ませるつもりだった意識を切り替え、授業に身を入れる徹。
それから十数分後……
いっちにーさんしーごーろくしちはち、という掛け声と共に、グラウンドでナイフを振るう学生という、平和とはかけ離れた光景が出来上がっていた。
途中、
少し休憩を挟んでいると、前原から疑問の声が上がった。
「そもそも、こんな訓練意味あんスか? しかも、ターゲットが見てる前でやってさ?」
どうやら、一連の授業に疑問を抱いたようだ。
それに対しての先生の回答はこうだ。
「なら俺にナイフを当ててみろ」と。
そして始まった体験学習。
動きの良い磯貝と前原の二人がかりで、せんせー用のナイフを振るう。
結果は想像通り。
かすればいいだけの圧倒的有利な条件下でも、当たる素振りすら感じられない。
迫るナイフを捌き、躱す。
ある程度攻撃を捌き終えると、二人がナイフを振り被った手を下ろし切る前に、手首を抑え地面へと
(うっわ……)
最後の投げ、あれは一見力業のように見えるがそうでは無い。
手首を掴んだ瞬間、腰を切って相手の力をそのまま利用して投げていた。見た目以上に繊細な技だ。多分二人は掴まれたと感じた瞬間には、視界が回ってたように感じたんじゃないか?
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう。……見ろ」
烏間先生がそう言って指で示した方を見ると、ヤツは……大阪城作ってる! 無駄にリアルだ!
「勉強も暗殺も同じ事だ。基礎は身に付ける程役に立つ」
なおも続けて、今度は……ん? なんだ? こっち見てるな。
「……そうだな。若木君、来い」
(えぇ……? ここで?)
次に白羽が立ったのは、徹だった。
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次回、戦闘描写初チャレンジになります。
初めての相手が烏間先生になるとは思わなんだ…
続きは近日中に。