思ってたより早く仕上がったので。
本日2話目です。
ブニョンッ、ブニョンッ、ブニョンッ、ブニョンッ、ブニョンッ、ブニョンッ、ブニョンッ、ブニョンッ……
一定の感覚で響く、まず日常で聞かない音。
「……何してんのアレ?」
「さぁ……壁パンじゃない?」
そこには、黒板の横の壁を自前の触手で殴り続ける担任の奇怪な姿があった。
「さっきからうるっさいよ殺せんせー!! 小テスト中なんだから!!」
「こ、これは失礼!」
遂に耐えられなくなった岡野ひなたから鋭い抗議が飛び、
ああなったのには理由がある。それはそれは、しょうもない理由が。
遡る事、約半刻前……そう、丁度あの体育が終わった直後だ。
ある一人の生徒が“戻って”来たのだ。
◆◇◆
グラウンドから教室に皆が戻り始めている中、逆に向かってくる姿が1つ。
「!
「あはは、生活リズム戻らなくてさ」
そう言って近づいて来たのは、今回の一因である、
ここまでは何も問題はなかった。ここまでは。
「下の名前で気安く呼んでよ。とりあえずよろしく先生!!」
「こちらこそ。楽しい一年にして行きましょう」
そう言って赤羽が手を伸ばす。
殺せんせーが握手に応じたその時。
ドロォ
せんせーの触手は、文字通り“握り潰された”。
そして、殺る気満々に表情を一変させた赤羽が、左手の袖口に隠していた対先生ナイフを突き込む。
ぎょっとした殺せんせーは、それを大きく跳んで躱した。
クラス全員が驚愕した。
『初めて、あの
「……へー。本トに速いし、本トに効くんだ、このナイフ」
そう言う彼は、掌に
「けどさぁ、こんな単純な“手”に引っかかるとか……しかもそんなとこまで飛び退くなんてビビり過ぎじゃね?」
「!」
そして、殺せんせーに近づいて言い放った。……実に憎たらしい表情で。
「殺せないから『殺せんせー』って聞いてたけど……あッれェ? せんせーひょっとしてチョロいひと?」
渾身の煽りを受けたせんせーは……真っ赤な顔で青筋(?)をヒクつかせていた。
◆◇◆
それからは先はこの通り、生徒に煽り散らされ手玉に取られている教師の姿があった。なんなら今も、イタリアで買ってきたジェラートをくすねられ、それを餌に床に転がっていた対先生BB弾を
それを側から見ていた徹は内心感心する。
(……やるなあいつ。さっき見た感じ喧嘩慣れしていて、頭の回転が速い。発想も柔軟だ。何より
例え侮辱されようが、授業の邪魔をされようが、あの教師には絶対に越えられないラインがある。
それは、人を傷付ける事だ。
その瞬間奴の立場は変わる。生徒を導く教師から、ただの化け物に。
「じゃね『先生』〜。明日も遊ぼうね!」
粗方満足したのか、テストを終わらせて早々に教室を出て行く赤羽。
「……」
すっかり押し黙ってしまった殺せんせー。
だが、徹は見逃さなかった。……奴が笑みを深めていたのを。
◆◇◆
次の日も、赤羽カルマは朝早くから行動していた。
昨日渚から聞いた情報をもとに、次なる嫌がらせを用意する為だ。
その手にある大きめの袋からは、ぎっしりと詰められた氷と
まだ学校が始まるまで大分時間もあるが、少し早めに行って準備でもしようと登校路に足を向けた。
そんな中、見覚えのある顔が向こうからやって来るのに気付く。
「……あれ。確か君、同じクラスにいたよね? 転入生の……ゴメン名前なんだっけ?」
「……若木薫。薫でいいよ。よろしく赤羽」
「カルマでいいよー。結構気に入ってるんだこの名前。……こんな時間にランニングしてんの? すっごい熱心なんだ」
彼の服装を見ると、いかにもなスポーツウェアだ。結構汗を流しているところを見ると、相当走ったのだろう。……それにしても、凄く鍛えられてる。喧嘩も強そうだ。
「まあ、日課だからね。そんな大層なものじゃない。……それに何してるはこっちのセリフだよ。……なにそれ? 動いてない?」
「ああ、これ? 朝イチで買ってきたんだ〜。次はこれで試してみようと思ってさぁ」
カルマの返答に軽く引く薫。
「うわ、そこまでするか。……そんなに殺りたいの?」
「そりゃもちろん。今度こそ、自分の手で殺したいからね」
頭にチラつく、絶望の光景。
そんな内心を知る由もなく、薫は言った。
「……そう。まあ楽しんでやれるなら良いんじゃない? 少なくとも、アレは普通の教師とは違う。何を気にしてるか知らないけど、そこは安心していいと思うよ」
「……!」
「じゃあ、一回帰って支度しなきゃならないから、また後で。暗殺、楽しみにしてる」
そう言って離れて行く彼の背を見送りながら、
変なヤツ……とカルマは呟いた。
◆◇◆
そして迎えたHR。
いつも奴が来るという時間になったのを確認し、教卓に近づくカルマ。そして皆がなんだなんだと目を向ける中、用意した
ピクリとも動かなくなったのを確認して、自席に戻る。
しばらくしてドアが開き、奴が入って来た。
「おはようございます」
そう言った殺せんせーは、クラスの奇妙な雰囲気を疑問に思いつつ、皆の視線の先……教卓の上を見る。そこですかさず、焚き付けるカルマ。
「あ、ごっめーん! 殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ。捨てとくから持ってきてよ」
「……わかりました」
タコを持って近づく殺せんせー。
カルマ自身、すぐ殺せるとは思っていない。まずは心からだ。心を殺す。
そう考えていた矢先、殺せんせーの触手の先がドリルになり、高速で回転を始めた。
これには流石のカルマも意表を突かれる。
そして超スピードで消えて戻って来た頃には、手にミサイルが加わっていた。
クラス中に緊張が走る。
「見せてあげましょうカルマ君。……先生は暗殺者を、決して無事では返さない」
そして、ドリュドリュドリュドリュ! と音を立てて、ドリルが何かを突き立てた……次の瞬間には、カルマの口に熱々の「たこ焼き」が放り込まれていた。
「あッつ!!」と反射で吹き出すカルマ。
そんな彼を見下ろしながら、殺せんせーは言う。
「その顔色では、朝食も食べていないでしょう。マッハでたこ焼きを作りました。……これを食べれば、健康優良児に近づけますね」
殺せんせーの声色が変わった。本気になったのだ。
「私はね、カルマ君。手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を……」
それを感じ取ったカルマの表情から、嘲りの色が消える。
「今日1日、本気で殺しに来るがいい。その度に、先生は君を手入れする……放課後までに君の心と身体をピカピカに磨いてあげましょう」
絶対強者は自信満々に宣戦布告した。
◆◇◆
そこからカルマは手を変え品を変え、不意を突いて殺そうとするも、一部の隙も無くなった殺せんせー相手には一切が通じない。
動きの“起こり”を感じ取った瞬間抑え込まれる。
そうして、今日の授業は全て終了した。
(くそ、どうすればアレを殺せる? どうすれば……)
通学路の道、そこを眼下に見下ろせる崖の上で、カルマは一人考える。
だが、殺れるイメージが浮かばない。
そんな時、後ろから声がする。
渚だ。E組 ここに来る前から関わりがあったのに、いつの間にか疎遠になってた、唯一の友達。
どうやら1人でなく、クラスで力を合わせて殺らないかという提案だ。
それは嫌だ。殺るなら、自分自身の手で殺りたい。
もう
(正しい事をする限り、先生はいつもお前の味方だ!)
──声が聞こえる。
「さて、カルマ君。今日は沢山手入れされましたねぇ。まだまだ殺しに来ても良いですよ? もっとピカピカに磨いてあげます」
舐め切った表情で、こっちに笑い掛ける先生。
……そうだ、あるじゃん。簡単な方法が。
「確認したいんだけど、殺せんせーって先生なんだよね?」
「? はい」
「先生ってさ、命をかけて生徒を守ってくれるひと?」
「もちろん。先生ですから」
迷い無く応える殺せんせー。
安心した。
「そっか。良かった。なら、殺せるよ」
そう言って銃を構えつつ、
体を包む浮遊感。
──声が聞こえる。
(どう考えてもお前が悪い! なんでE組なんぞの肩を持って、未来ある者を傷付けた!? 俺の責任になるんだぞ!!)
死人の声が、聞こえる。
人は二回死ぬ。
一つは、そいつ自身が死ぬ時。
もう一つは、心の中のそいつが死ぬ時。
生きていようが、人は死ぬ。
そいつの全てに絶望すれば、俺にとって死んだのと同じだ。
俺の中では、「先生」はとっくの昔に死んでいる。
(助けに来れば、救出する間に撃たれて死ぬ。見殺しにすれば、先生としてのアンタは死ぬ!)
殺せんせー!! あんたは俺の手で殺してやるよ!!
(さぁ! どっちの「死」を選ぶ!?)
そう考えていた、次の瞬間。
音が横を過ぎ去ったかと思えば、自分の体は何かに支えられていた。
「カルマ君。自らを使った計算ずくの暗殺、お見事です」
背後から声が聞こえる。
「音速で助ければ、君の肉体は耐えられない。かといってゆっくり助ければ、その間に撃たれる。……そこで先生、ちょっとネバネバしてみました」
(何でもアリかよこの触手!!)
言葉通り、体が微塵も動かせない。
「これでは撃てませんねぇ、ヌルフフフフフフ」
「ぐ……」
くそ腹立つ……! 動けない事をいいことに、凄く近くから煽ってきやがる……!
そんな事を考えていると。
「ああ、ちなみに……見捨てるという選択肢は、先生には無い。いつでも信じて飛び降りて下さい」
「 」
…………ははっ。
思わず笑ってしまった。
こりゃダメだ。死なないし、殺せない。
少なくとも……先生としては。
その後、敗北を認めた自分に、お返しかというくらい煽られた。
殺意が沸くのに変わりはないけど……楽しいなら……まぁいいか。
お読み頂き感謝します。
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大変励みになります。
ちなみにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、オリ主君は初対面や仕事では猫かぶってます。素はさしすと喋る感じ。怒ると結構口が悪い。