終業のチャイムと共に、1日が終わる。
そこから生徒達は水を得た魚の様に生き生きとし始める。
「オイオイオイ! 今日という今日は逃さんぞ若木ィ!」
そんな中さっさと帰ろうとする徹に、肩を組む人物が1人。
振り返ると、案の定だった。
「なんだよ岡島。暑苦しいから離れろ。あと耳元であんま叫ぶな……」
こいつは
特に言動。
何を隠そう、コイツは初対面で開口一番「お前の好きなタイプは!?」って言ってきたバカだ。
……まぁ中村の第一声よりマシだが。
せめてもの救いは、こんな奴だからこそ気兼ねなく喋れるってところだ。
そんな事を考えてる間も、岡島は喋り続ける。
「そしたらお前、さっさと帰っちまうだろーが! それに、ネタは上がってんだぞ!」
(何言ってんだコイツ?)
「何言ってんだコイツ?」
「思った事そのまま出てるんだよお前……! そんな事より! 惚けても無駄だからな! お前、
思わず固まる徹。
クラス中の視線が刺さる。
くそ、すぐに退散せねば……!
「へぇ〜〜〜〜。面白そうな事話してるねぇ、薫く〜ん」
ホラ見ろ厄介な奴が釣れた。
そうやって近づいて来るのはカルマだ。
この数日間で思い知った。コイツは嫌がらせの為に、自らのリスクさえも許容する、生まれながらの人格破綻者だ。
「ホラホラ。さっさと吐いて楽になりなよ〜。みんなも待ってるよ?」
(だるぅ……)
言葉の通り、クラス全員ニンマリ笑ってやがる。
そんな中、そろりと動く人影を捉え……天啓!
「……別に大したもんじゃ無い。ただの知り合いだ。話して欲しけりゃ、駅前の期間限定苺パフェでも用意するんだな。それと……どこ行くつもりだ中村」
自身の声にびくぅ! と背中を弾ませる中村。その手は教室の扉に掛けられており、もう帰る準備万端のようだ。
「まさか、昨日の今日で喋るとは思いもしていなかったよ。お前の口の軽さを見誤っていたな。……おいこっち向け」
「はいぃ!」
中村の見た事がない弱々しい態度に、クラスはぎょっとするも、徹は止まらない。
「俺は折角手打ちにしてやったというのに、その好意を無碍にするとは……余程戦争をしたいらしいな」
「い、いやぁ〜、薫クン? 私も、喋るつもりは全くなかったんだよ? ホントホント! ただ、話している時に、ついうっかり……」
「そうかそうか。うっかりなら仕方ないな。なら俺がうっかりしても仕方ないよなぁ?」
そう言って俺は撮っておいた写真を、──あと一押しでSNSの『3ーE』グループ内に送信できるようにしつつ──中村に見せる。
どうやら気に入ってくれたようだ。
思い切り目を見開きながら驚いてくれている。
羞恥に顔を赤らめる可愛らしい自身の姿に。
「な、なんで!!?」
「手癖は悪い方でね。欲しいなら後で送ってあげよう。……さて、この後どうすればいいと思う? ちなみに俺はこれから晩飯の用意をする為に、駅近の商店街に行く予定なんだが……美味しい肉屋があってね? そこのコロッケが絶品なんだよ。中村も食べたいと思わないか?」
その言葉と圧力に、中村は顔をサーッと青ざめさせていく。
「は、ハイ……食べたいです……」
「良かった良かった! なら行こうか! 早くしないと売り切れてしまう! ……いやぁ奢ってくれる心優しい友人がいてくれて嬉しいよ!」
そう捲し立てた徹は、中村を引っ張ってクラスからさっさと出ていった。
それを呆然と見送るクラスメイト。
しばらくしてから、渚がポツリと呟いた。
「……あ、逃げた」
◆◇◆
男は幸運だった。
家は裕福とは言えずとも、何不自由なく育った。
術師の素養はそこそこ、術式にも恵まれた。
生来の気質的に、ちまちまと呪霊を狩るよりも人を傷つける方が向いていた。幸運な事に持ち前の術式もそちら向きであり、特に拷問は大の得意と言える。
『痛みを増幅する』
これは戦闘においても、大きなアドバンテージとなった。なにせ、後ろから少し傷付けるだけで相手は怯み、手足の腱を切れば悲鳴を上げる前に気絶する。後は好きに弄べる。
いつしか仕事は、趣味と実益を兼ねるようになった。
男は人生の絶頂を謳歌していた。
昨夜も最初は憤りを感じていた。
手持ちの金が尽きたせいで、行きつけの店に入れなくなったからだ。……せっかく良さそうな獲物を見つけたのに。
だがその直ぐ後、己の運勢が最高であると確信した。
呪詛師御用達の裏サイトを見ていた時だった。
『被呪者一人の殺害依頼、懸賞金10億』
途方もない金額だ。
これだけ有れば、遊んで暮らせる。
これからは、より趣味に没頭できる。
そして彼は、意気揚々とこの街にやって来た。
ターゲットの情報は既に割れている。
とある山の上の校舎で教師をやっているようだ。
ああ、やはり俺はツイてる。
教師なら、生徒の悲鳴を聞かせてやれば直ぐに大人しくなりそうだ。
そして、ちょうど山のある方向から降りて来た、学生の男女が目の前を通り過ぎた。しかも商店街に行くそうだ。
最高だ。あそこは一目見ただけでは目に付かない所が多い。路地の近くを通ったらやろう。
だからまだ待たないと……ああ、楽しみだなぁ。コイツらはどんな風に鳴くのかなぁ。まずは手脚を落として、その後目の前でそれを刻もうか……ああ、持って帰るのが楽しみだ。
そんな事を考えていると、女がコンビニに入るようだ。
残ったのは男1人。
すぐ側には細い路地がある。
ああ、やっぱり俺は運がいい!
引き摺り込んで、まずは1人……!
そう思いナイフを取り出した瞬間、体が宙を舞った。
衝撃。
どうやら投げ飛ばされたらしい。
敵を見据えると、そいつは今狙っていた学生だった。
よく見ると、呪力が感じられる。
「お前術師だな?」
「気付くのおせぇよ。先走ったバカか、余程の実力者のどちらかだと思ってたんだが……お前は明らかに前者だわな」
男の問い掛けに、学生は強気に言葉を返す。
「クソ生意気なガキだな……人を見掛けで判断するなって親に教わってねぇのか?」
「ならンな見掛けしてんじゃねーよ。全身黒と金のブランドもんとか、今時DQNでもやらんわ。それにお前、目がニタニタして気色悪いんだよ。見た目どうこう以前の問題だっての」
ハァ……と深いため息を吐くガキ。
怒りが湧く。……大丈夫。今日の俺は特段ツいてる。
とっととバラしてメッセージを仕立てよう。
そう男は自身に自制を掛け笑みを深める。
「随分嬉しそうだな? そんなに人殺すのが楽しいかよ」
「そりゃそうだ。何事も楽しくやらなきゃつまんねぇだろ? それに、天職だと思ってんのよ。自分が好きな事を思いのままに出来る人生なんだ。全く、神様なんてものが本当にいるなら、感謝したいぐらいだ」
男は胸の前で手を組み、それっぽく祈ってみせる。
「あーそうゆう類いね。なら、そうだな……ゲームをしようか」
「? 何を言ってる? ゲームだと?」
「そう。お前言っただろ? ただ仕事するのはつまんねぇって。俺もそれに倣おうと思ってな。……ルールは簡単。今から5秒数える間に、俺に絶対服従を誓うなら、命だけは勘弁してやるよ。もちろんこれは縛りだ」
目の前のガキはこちらを嘲りながらそう言った。
(……コイツ、舐めてやがるなぁ)
気に食わない。自分が負けると微塵も考えていない
「ああ? ゲームになんねぇだろうが。お前が獲物で、遊ぶのはオレだろ?」
そう言うと、
「ブハッ! ……良いぞ! ジョークのセンスは無いが、真顔で言ってるのはポイント高い!」
クツクツと、目の前で笑い出す変なガキ。
これから死ぬのに呑気な奴だ。
男はそう思いながら、冷めた目を向ける。
「お互い死にたくなかったら5秒以内に降伏をする。降伏した相手には絶対服従。これで良いな?」
「乗った」
(このガキが降参する前に喉を潰す。泣きながら頼んでも降伏出来ないようにしてから、ゆっくり殺してやろう。その顔を恐怖で歪ませてやる)
男は既に、本来の目的を見失っていた。
そして獲物が口を開く。
「……なら始めるか。いくぞ?
──1 」
直後、
「2」
“アレ”が歩き始める。
なんだコイツは!! こんなの、俺よりも……!
「3」
一歩、また一歩。
駄目だ勝てない!! 殺される!! 今すぐ逃げ、いや縛りだ! 降伏を……
「4」
……!!
か、体が動かない! 声も出せない!!
「5……さて、5秒数え終わった訳だが……良いんだな? 降伏しなくて」
目の前に立つ死はそう言った。
ま、待って! 待ってくれ! 話を──
「ッッ!!? っかはッ!!」
直後、男は自身の胸に衝撃が走った。
視界に映るのは、突き込まれた掌底。
な、なん……で──
消えゆく意識の中、最期に男は己の不運を呪った。
◆◇◆
「……好き勝手やった挙句、“自分は不幸だ”みたいな顔しやがって。死に際まで不快な奴だ」
崩れ落ちた男に目を顰めながら、徹は呟く。
そして、現場から離れつつ、電話を掛ける。
宛先はなじみの補助監督だ。
「あ、真田さん? お疲れ様です。……ええ、片したんで、回収の手配お願い頂けます? それと、冥さん近くに……ああ冥さん、ありがとうございました。すみませんね、こんな仕事お願いしちゃって……あ、金銭面の交渉については、夜蛾宛にお願いしまーす」
そう言って電話を切る。
危ない危ない。
あの人、付け込む隙を少しでも与えたら、報酬上乗せさせようとしてくるからな……
現在、高専側の動きは大きく分けて3つ。
①学校内の潜入、②街全体の索敵と監視、③各種手配と後始末だ。
①は言わずもがな
②には1人でこなせる冥冥を街の中心に配置
③には補助監督5名に街の四方と中心部を分担
今後も、追加の人員が来るまではこの体制で動く事になる。
(──それにしても面倒だ。今回の奴はド三流だったから良かった。全員この程度なら楽なんだが……そうもいかないだろうな)
思案を重ねつつコンビニの前まで戻ると、中村が店内から出て来るのが見える。
「お、お待たせ〜。ごめんねー? トイレ長くて」
「いやいや全然待ってないよ? てっきり裏口から逃げようと考えたけど、無理そうで泣く泣く戻ってきたのかと」
「ま、まっさかぁ! そんな訳無いじゃん! ……ほ、ほら行こっか!」
「……中村って誤魔化すの下手だよな」
「うっさい!」
そんなやり取りを続けながら、2人は商店街へと歩いていった。
◆◇◆
……
……
……ああ、しくじってしまった
まさか私の支配から脱するとは……
このような事態、微塵も想定していなかった
次は気を付けないといけないな……
ひとまず、身体を修復しなければ……
……幸い、ここなら見つかる心配も無い
即席の縛りだったが、上手くいった
……日頃の行いというやつかな?
……しかし、手が出せないというのはもどかしいな
……ふむ
あまり手を借りたくはなかったんだが……
……ふふ……彼女には笑われてしまいそうだ
……
お読み頂き感謝します。
評価、感想、お気に入りして頂いた方、誠にありがとうございます。
大変励みになります。
これにて2章、4月編終了です。
ここからオリジナル展開も増えて…いくといいなぁ。
ちょっとしたお願いなんですが、感想欄にてご質問頂く際には、展開の予想はお控え頂けると幸いです。
今後の展開を的中されてしまう事があれば、ショックで立ち直れなさそうなので…
ここどういう意味?とかはバンバンください。