その日も、潮田渚はいつもと変わらない日常を送っていた。
学校に行って、席に座る。
(今日も自習か……)
本校舎の教師は、少し前から来なくなった。家庭の事情というものらしい。僕らに誠心誠意向き合ってくれる人だっただけに、少し寂しさを感じる。
(雪村先生、元気にしてるかな……)
──脳裡に浮かぶのは、俯いた女性の顔。
優しく接してくれた彼女が少しだけ見せた表情。心なしか罪悪感を感じてしまう。
……不安が顔を覗かせる。
目標も未来も、自分の意思すらなく、ただ母親に決められたレールの上に沿って歩いていくだけの毎日。
変わりたいと願っても、どうすれば良いのかわからない。
そんな思いを、心の底に押し留める日々。
(朝から嫌な気分になっちゃった……)
無意識にため息が溢れた。
気分を変えようと周りを見渡すと、先程よりもクラスメイトの姿がちらほらと増えている。
その内の一人がこちらの視線に気付き、声を上げる。
「よー渚! 朝からなんかしけたツラしてんなー! ホラ、元気出せよ!」
「おはよ、杉野。僕は大丈夫だよ。……心配してくれてありがと」
ならいいんだけどさ、と
「そういえば聞いたか? さっき神崎さんと話してたんだけどさ。なんでも、来る途中に見慣れない生徒を見かけたらしいぜ。教師と一緒にこっち向かってたそうだから、もしかすると転入生じゃないかって噂だ……!」
……思いもしてなかった話題だ。
「へぇ、どんな人なんだろ……。個人的には、話しやすい人だったら嬉しいかなぁ……」
「どうだろなぁ。ここに来るってことは、ほら……とんでもないヤツかも知れないぜ……! 見るからにこう、オラオラッ! ……って感じかもな!」
まだ見ぬ出会いに思いを馳せていると、
「なになに? 面白そうな話しをしてるねぇ〜、おふたりとも」
「あ、中村さん」
長めの金髪を揺らし、近づいて来る
彼女も、杉野同様気安く接してくれるクラスメイトだ。……性別でイジってくるのはやめてほしいけど。
「中村はさ、どんなやつだと思う?」
「んーそうだねぇ……やっぱり無難に黒髪で身長高めの、後は少し刺々しい感じで……渚を押し倒しそうな男子とか?」
「そんな人いないよ! あと僕は男だってば!」
「ハイハイ、そういうことにしといたげる」
案の定おちょくってきた彼女に抗議の声ををあげるも、するりと流される。
そんなやり取りをしていると、
「……ハァ、なんで俺がこんな面倒な事を……。理事長も人使いが荒い……。
ほら、着いたぞ! ここがお前らの教室だ!まったく、落ちこぼれの分際で手間を掛けさせやがって……! 俺はもう戻るから、大人しく自習でもしていろ!」
教室の外、正確には教室の入口の方がなんだか騒々しい。
息つく間もなく教室の扉が開いたかと思えば、教師と思しき男が声を荒げ、足早にその場を去っていった。
そして入口に取り残された“二人の男女”は、目を丸くして見送っていたが、やがて顔を見合わせたのち、教室に足を踏み入れる。
そしてその二人が、こちらに顔を向けて──
──刹那、衝撃が走る。
転入生の、男子の容姿は、
「──初めまして」
「転入生の、若木薫です。……よろしく」
どこか
(──ホントに来ちゃった!!?)
波乱の幕開けだった。
ここまでお読み頂き感謝します。
3〜4月の間、回想描写か口頭説明しかなくて、妄想で補完せざるを得なかった……
それと拙作にBL・GL要素は有りません。なるべく原作の流れは崩したくない派なので……