ベアトリーチェ(ゲマトリア)、キヴォトスにて   作:ふぁっしょん

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 ベアトリーチェは考えていた。
 救いとはなにか、ということを。

 救いを与えるために事を為している最中も、その思索は止まることがなかった。
 考え……

 そしてあるとき、同僚の黒服に、ある存在を教えられた。
 ゲマトリアと同じく、不可解で……
 しかし、我々とは違う存在を。
 シャーレの先生のことを。


ベアトリーチェ(ゲマトリア)、アビドスにて

 アビドス対策委員会と、先生が、カイザーPMCの拠点から離れようとしたそのとき。

 声が聞こえた。

 

「実に、興味深い」

 

 その言葉を聞いた時、最も素早い反応を見せたのは、小鳥遊ホシノだった。

 彼女は驚愕の表情のまま、先生の背後に向けて発砲する。

 そこに、それはいた。

 

「先生……あなたは、実に、興味深い。

 ですから、団欒を乱してしまい申し訳ありません、アビドスの皆さん。

 ここで質問させていただきたいのです。

 ここでこそ、質問の価値があるのです」

 

 それは女のように見えた。しかし、女というにはあまりにもおかしかった。

 その肌は赤く、頭は咲いた花のように開き、そして、その断面には無数の瞳が覗いていた。

 それは語る。

 

「私はベアトリーチェ。崇高を探求するもの。

 わかりやすくするならば、あなたと、そこの暁のホルスが知る、黒服の同僚です。

 変な大人のひとり、とでもいうべきでしょうか」

 

「先生、下がって!」

 ホシノは盾を展開して突っ込む。銃撃を浴びせながら、少しでもそれを後退させようとした。

 しかし、ベアトリーチェは動かなかった。

 盾がぶつかったその時ですら。

 

「暁の……いえ、小鳥遊ホシノさん。あなたは少し勘違いしています。

 私はいま、あなたがたを害する気はありません。

 質問するために、ここに現れたのです」

 

 ホシノは驚愕した。

(こいつ、どうなってる、少しも動かせない……!)

 ベアトリーチェの体に盾を叩きつけても、残るのは手に残るしびれだけだ。

 それの開いた頭は、微動だにせず、ただじっと先生を見ている。

 

 

“質問って、なに?”

 

 その言葉を聞いて、ようやくベアトリーチェは身動きした。

 姿勢を正し、先生に改めて向き合う。

「ありがとうございます、先生。

 私は浅学非才の身ではありますが、あなたの……認知、あるいは常識とでもいいましょうか。

 それが、まことに興味深いものだと思いました。ですから、これからのために少しでも理解したいのです。それが私のためであり、私のもつ生徒のためだと思いましたので。

 ……端的にいいましょう。

 なぜ、あなたは生徒に任せたのですか?」

 

“これは彼女たちの物語だから”

 

「……ふむ。

 難しいですね……

 私は、あくまで途中からこのことを知った身ですから、深く理解しているわけではありません。

 それでも、思うのです。先生がすべてを決めてはいけなかったのでしょうか」

 

“……どうして、そう思ったの?”

 

「私はこれまで、いくつもの、当事者には解決できない問題を見てきました。

 そしてそれに介入し、ある程度導くことに成功した、と思っています。

 しかし……先生とアビドスの皆さんをみて、ふと思ったのです。

 私は彼女たちに救いを与えましたが、彼女たちは自らを救うすべを持たない、と」

 

“……”

 

「先生、お聞きしたいのです。

 私は彼女たちを救うべきなのでしょうか。

 それとも、彼女たちが自らを救うべきなのでしょうか。

 そして、それはなぜ?

 なぜ彼女たちは、他者に身を任せてはいけないのですか。

 なぜ私は、その足掻きをみて、憐れみを覚えるべきではないのでしょうか」

 

“これは、あくまで私の意見だけど……”

 

「はい、お願いします」

 

“与えることは、与えられるだけでは、わからないことだと思う。

 どんな生徒も可能性を持っているんだ。それはどこまでも伸ばすことができるし、どこにでもいくことができる。

 だからこそ、その未来を塞いでしまうことは、少なくとも大人がしちゃいけない。

 彼女たちがどうなるか。それは、彼女たちが選ぶものだから”

 

「……ふむ。

 なるほど、ある程度、理解できました。

 難しいことばです。私には……少し、理解できない部分があります。

 ですが、この事実を見る限り、間違いのない部分もまた、あるのでしょう」

 

“参考になった?”

 

「なりました。どうやら、私の方針にはさらなる知見と理解が必要なようです。

 先生、勝手で申し訳ありませんが、いずれまた相まみえることでしょう。

 私は、やるべきことができましたので、ここで失礼させていただきます。

 あらためて、ありがとうございました。先生と、アビドスの皆さん。

 では、いずれ、また」

 

 ベアトリーチェの体がほつれ、細く赤い線のようにほどけてゆく。

 そして、空気に溶けて、消えた。

 

 それが、先生とベアトリーチェの、はじめての出会いだった。




ふと思いついたものを出力することにしました。
とりあえずふたつ投げます。
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